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スタチンの肝細胞癌予後改善作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンと肝細胞癌.jpg
2019年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
高コレステロール血症の治療薬と、
肝臓の癌のリスクとの関連についての論文です。

B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの慢性肝炎は、
肝硬変のリスクになると共に、
肝細胞癌のリスクになります。

一旦線維化を伴う状態になると、
その後にウイルスを除去することに成功しても、
肝細胞癌のリスク自体は長期間持続します。

現状その時点での有効な予防法は確立していません。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血液のLDLコレステロール値を低下させる薬ですが、
それに加えて抗炎症作用や一部の癌の増殖抑制作用などが報告されていて、
慢性ウイルス肝炎による肝細胞癌においても、
その発症予防や予後の改善に、
一定の有効性が認められたとする報告があります。

ただ、この作用が全てのスタチンに共通するものなのか、
それとも一部のスタチンのみに認められるものなのか、
そうした点については明確なことが分かっていません。

スタチンには大きく分けると、
水溶性と脂溶性の2種類があります。
今使用されているものの中では、
水溶性スタチンがプラバスタチンとロスバスタチンで、
脂溶性スタチンがアトルバスタチン、シンバスタチン、
フルバスタチン、ロバスタチンです。

今回の研究は国民総背番号制を敷いているスウェーデンにおいて、
63279名のB型もしくはC型肝炎ウイルスによる、
慢性ウイルス性肝炎の患者さんトータル63279名を対象に、
そのうちスタチンを使用開始した8334名を、
年齢などの条件をマッチングさせた8334名と対比させて、
スタチンの使用とその後の肝細胞癌の発症リスクと予後との関連を検証しています。

スタチンはスウェーデンでは、
シンバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンが、
もっぱら使用されているため、
この4種類が対象となっています。
このうちシンバスタチンとアトルバスタチンが脂溶性です。

算出された10年の肝細胞癌リスクは、
脂溶性スタチンの使用者が8.1%に対して、
非使用者が3.3%で、
脂溶性スタチンの使用はその後の肝細胞癌発症リスクを、
44%(95%CI: 0.41から0.79)有意に低下させていました。
その一方で水溶性スタチンの使用と肝細胞癌リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。
肝臓関連の死亡リスクについても、
脂溶性スタチンの使用はそのリスクを、
24%(95%CI: 0.50から0.92)有意に低下させていました。

このように今回の疫学データにおいては、
脂溶性スタチンにおいてのみ、
スタチンの使用は慢性ウイルス性肝炎の患者さんにおける、
肝細胞癌のリスクを減少させていました。

そのメカニズムは現時点では明確ではありませんが、
脂溶性スタチンの方が肝細胞への組織移行は、
水溶性スタチンより良く、
それが関連している可能性などが想定されています。

今後そのメカニズムを含め、
肝細胞癌予防におけるスタチンの有効性が、
検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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