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オフィス300「私の恋人」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
私の恋人.jpg
渡辺えり子(旧芸名)さんが、
上田岳弘さんの同題の長編小説を叩き台にしたお芝居を作り、
本人と能年玲奈(旧芸名)さん、小日向文世さんという3人が、
30役以上を演じるという舞台に仕上げて、
明日まで下北沢の本多劇場で上演しています。

3人芝居の体裁ですが、
歌と踊りを含めた女性のアンサンブルが4名と、
キーボードの生演奏が付いています。

芸名変更にお二人とも反対なので、
旧芸名で以下も記載をさせて頂きます。

劇団解散後も精力的に活動をしている渡辺さんですが、
最近の作品はあまり共感が出来ず、
少し遠ざかっていたのが実際です。

今回の舞台も作品としてはあまり上出来とは言えないのですが、
能年玲奈さんをメインとした興行としては、
大成功と言って良く、
彼女の魅力は十全に引き出されていて、
観客の満足度は高かったと思います。
こういうところに、
商売人としての渡辺さんの才覚を見る思いがします。
カーテンコールの様子などを拝見すると、
少し前より何か肩の力が少し抜けた感じで、
「愛すべきおばさん」になっていたのも好ましく感じました。
離婚が良かったのかしら?
失礼なので詮索はしないでおきます。

今回の作品は上田さんの原作があるのですが、
それをそのまま使った場面は、
正直あまり面白くありません。

原始人とナチに殺害されるユダヤ人と現代日本の若者が、
1つの人格の生まれ変わりで、
常に想像上の「私の恋人」を探している、というお話しで、
このシノプシスだけだと、とてもとても面白そうなのですが、
実際に読んでみると、
何かまどろっこしくて頭でっかちの文系ワールドで、
正直読んで時間の無駄だった、
と落胆した小説でした。

これね、「私の恋人」らしき人は白人女性なので、
これを能年玲奈さんがやるのかしら、
ちょっと無理がある気がするな、
と思っていたのですが、
実際の舞台では「私の恋人」を探している青年を能年さんが演じ、
白人女性はアンサンブルのダンサーが、
白い衣装で象徴的に演じる、
という趣向になっていました。

ただ、これは原作のメインキャラが、
きちんと登場しないということなので、
ちょっと無理がありますよね。
それが活かされていたとは思えませんし、
原作を読んでいない方には、
理解は困難であったように思いました。

総じて原作を朗読したりする場面は詰まらなくて、
原作にはない東北の時計屋の一家のお話しがあって、
その部分がかつての渡辺さんの戯曲そのもので、
そちらに関してはとても面白く観劇しました。

2人の兄弟がいて、
兄は夢想家で生活破綻者者の引きこもり。
弟は社会に適応して都会に出て行くのですが、
実は兄の妄想の中に弟は住んでいて、
というような昔懐かしい渡辺さんの世界です。
時計屋の祖父はシベリア抑留でも生き残ったのですが、
8年前の震災で死んでしまって、
その思い出の品が時計屋に保管されているという趣向です。
いいですよね。
昔の作品だと、
大抵実は弟は死んでいて、
兄が引きこもりで死んだ弟を夢想していただけだった、
というようなお話になるのですが、
今回の作品ではそうした仕掛けは明確にはなく、
何かを匂わせる程度で終わっています。

ラストが素晴らしかったですね。

能年玲奈さんが舞台上で衣装を脱いで、
自分がデザインした白いワンピース姿になり、
そこに虹色のコートと帽子をまとって、
時計屋の主人の元を訪れるのです。
「待っていたよ。君は未来の僕だね」
みたいなことを小日向さんが言って、
そのやり取りの後に抒情的な歌になります。

こういうのはノスタルジーの至福ですね。
渡辺さんの作品世界の最高の部分。

それが垣間見れただけでも今回は大満足でした。

ただ、作品は今回レビュー的で散漫でしょ。
場面毎にドタバタと色々な人物を演じるので、
感情の持続が観客の側に生まれないんですよね。
だから、感動も瞬発的で大きくは盛り上がらないのです。
これは小日向さんは研究者と時計屋の主人の2役、
能年玲奈さんは時計屋の弟の1役にして、
他のキャストがにぎにぎしく多くの役を演じ分ける、
という感じにした方が良かったと思います。

ただ、今回は能年さんメインのレビューショーにしたかったんですよね。
それで成功しているので、
仕方がないのかな、という気はします。
作品としては次回に期待。

能年さんは魅力がありますね。
それを引き出した渡辺さんも凄いと感じました。
普通ここまでしないですよ。
歌も歌うし、衣装もあらゆるタイプのものが用意されています。
ただ、役者さんとしては舞台で生きるタイプじゃないですね。
役柄の切り替えも出来ないし、
本来はもっと小劇場的才覚のある人が、
この役はやるべきだったとは思います。
でもね、前述のラストの未来からの訪問の場面など、
存在感が凄いんですよ。
これは小劇場役者には、
とても出せないスターの風格だと思いました。

そんな訳で観ることが出来て幸せな舞台ではありました。

渡辺えり子さんの世界、良かったな、
「風の降る森」とか最高ですよね。
観終わった瞬間にもう一度見たい、と思ったですもん。
ああいうのがまた是非観たいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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