赤堀雅秋「美しく青く」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
最近劇作に円熟味を増し、
多方面で活躍している赤堀雅秋さんの新作が、
向井理さんや田中麗奈さんなどの人気者を配したキャストで、
今上演されています。
赤堀さんの劇作は最近は岩松了さんに近い感じで、
淡々とした日常の積み重ねの中に、
潜在下の感情のうねりが見え隠れしつつ、
時に暴力的な衝突などを交えて、
ある種の感情の葛藤とその帰結を、
繊細に描出しているものが多くなっています。
ただ、岩松さんの意地悪さと比較すると、
遥かにお客さんには親切で、
ぼんやり見ていても何とか内容を捕捉出来るようになっています。
同時期に岩松さんの「二番目の夏」という作品を観ましたが、
平明な語り口でありながら、
容易に全貌は明らかにならず、
「意味ありげに役者が下手を見るのは何なの?」
と思っていると、そのまま説明なく終わってしまいました。
相変わらずとても意地悪です。
それと比べるとこの作品は遥かに分かりやすく作られていますが、
それでも主人公達の行動の裏にあるものは、
明確に説明されないままに物語は進んでゆき、
注意していないと物語の本筋が、
スルリと逃げてゆくような捉えきれなさがあります。
以下少しネタバレを含む感想です。
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。
赤堀さんとしては水準作かな、というように思いますが、
役者さんも良かったですし、
岩松了さんスタイルのお芝居に、
抵抗のない方にはお勧めです。
震災から8年後の東北の海沿いの町が舞台で、
津波予防の巨大な防波堤の工事は、
一部の住民の反対もあって進まず、
管理の行き届いていない山林では、
野生の猿が増加して農作物を荒らすなど、
その被害が問題となっています。
主人公は向井理さん演じる、
村の青年団のリーダー格で、
震災に関わるある出来事をきっかけに、
母親は認知症となり、田中麗奈さん演じる妻とは、
セックスレスの状態となっています。
鬱屈した思いを猿退治の活動に向けているのですが、
猿より人間が悪いと嘯く平田満さん演じる老人や、
村を離れたいと思う友達などとの軋轢があり。
物事は思うようには進んでゆきません。
親友であった大東駿介さんとの決別などを経て、
主人公は自分の心の底にあるものを見つめ直し、
ラストは夫婦関係が修復して、
おそらく新しい命の誕生が示唆されるところで終わります。
主人公達の発する言葉以外のところにドラマがあり、
それが言葉ではなく唐突な暴力などの行動としてしか、
観客には明示されない、という点は、
岩松了さんや平田オリザさんの作品で、
お馴染みの趣向です。
ただ、今回の作品は岩松さんや平田さんの作品に比べると、
起承転結がもう少し明確で、
役者の個人的な見せ場も、
しっかり用意されているところが、
観客に対しても役者に対しても親切です。
過去の事件なども比較的はっきり台詞で説明されるので、
観ているストレスは少ないですし、
ラストもハッピーエンドに近いホッコリした感じなので、
後味も悪くないのです。
設定はかなり現代を射程にしたもので、
工事途中の防波堤が、
道半ばの復興を感じさせるとともに、
その大きさで舞台を引き締めるという、
舞台面を意識した構成が巧みです。
登場する「猿」は、
勿論単なる猿ではなく裏の意味合いがある訳ですが、
それを「野生の猿」にした辺りに、
センスの良さが光っていると思います。
キャストは主役の向井理さんが、
役柄に合った屈折した感じが良く、
ことなかれの役所の職員を演じた大倉孝二さんは、
最近では出色の演技であり存在感であったと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
最近劇作に円熟味を増し、
多方面で活躍している赤堀雅秋さんの新作が、
向井理さんや田中麗奈さんなどの人気者を配したキャストで、
今上演されています。
赤堀さんの劇作は最近は岩松了さんに近い感じで、
淡々とした日常の積み重ねの中に、
潜在下の感情のうねりが見え隠れしつつ、
時に暴力的な衝突などを交えて、
ある種の感情の葛藤とその帰結を、
繊細に描出しているものが多くなっています。
ただ、岩松さんの意地悪さと比較すると、
遥かにお客さんには親切で、
ぼんやり見ていても何とか内容を捕捉出来るようになっています。
同時期に岩松さんの「二番目の夏」という作品を観ましたが、
平明な語り口でありながら、
容易に全貌は明らかにならず、
「意味ありげに役者が下手を見るのは何なの?」
と思っていると、そのまま説明なく終わってしまいました。
相変わらずとても意地悪です。
それと比べるとこの作品は遥かに分かりやすく作られていますが、
それでも主人公達の行動の裏にあるものは、
明確に説明されないままに物語は進んでゆき、
注意していないと物語の本筋が、
スルリと逃げてゆくような捉えきれなさがあります。
以下少しネタバレを含む感想です。
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。
赤堀さんとしては水準作かな、というように思いますが、
役者さんも良かったですし、
岩松了さんスタイルのお芝居に、
抵抗のない方にはお勧めです。
震災から8年後の東北の海沿いの町が舞台で、
津波予防の巨大な防波堤の工事は、
一部の住民の反対もあって進まず、
管理の行き届いていない山林では、
野生の猿が増加して農作物を荒らすなど、
その被害が問題となっています。
主人公は向井理さん演じる、
村の青年団のリーダー格で、
震災に関わるある出来事をきっかけに、
母親は認知症となり、田中麗奈さん演じる妻とは、
セックスレスの状態となっています。
鬱屈した思いを猿退治の活動に向けているのですが、
猿より人間が悪いと嘯く平田満さん演じる老人や、
村を離れたいと思う友達などとの軋轢があり。
物事は思うようには進んでゆきません。
親友であった大東駿介さんとの決別などを経て、
主人公は自分の心の底にあるものを見つめ直し、
ラストは夫婦関係が修復して、
おそらく新しい命の誕生が示唆されるところで終わります。
主人公達の発する言葉以外のところにドラマがあり、
それが言葉ではなく唐突な暴力などの行動としてしか、
観客には明示されない、という点は、
岩松了さんや平田オリザさんの作品で、
お馴染みの趣向です。
ただ、今回の作品は岩松さんや平田さんの作品に比べると、
起承転結がもう少し明確で、
役者の個人的な見せ場も、
しっかり用意されているところが、
観客に対しても役者に対しても親切です。
過去の事件なども比較的はっきり台詞で説明されるので、
観ているストレスは少ないですし、
ラストもハッピーエンドに近いホッコリした感じなので、
後味も悪くないのです。
設定はかなり現代を射程にしたもので、
工事途中の防波堤が、
道半ばの復興を感じさせるとともに、
その大きさで舞台を引き締めるという、
舞台面を意識した構成が巧みです。
登場する「猿」は、
勿論単なる猿ではなく裏の意味合いがある訳ですが、
それを「野生の猿」にした辺りに、
センスの良さが光っていると思います。
キャストは主役の向井理さんが、
役柄に合った屈折した感じが良く、
ことなかれの役所の職員を演じた大倉孝二さんは、
最近では出色の演技であり存在感であったと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2019-07-28 08:38
nice!(7)
コメント(0)
コメント 0