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唐組×東京乾電池コラボ公演「嗤うカナブン」 [演劇]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カナブン.jpg
唐組と東京乾電池の初めてのコラボ公演が、
今下北沢のスズナリで上演されています。

唐組からは久保井研さん、稲荷卓央さん、辻孝彦さんが、
乾電池からは谷川昭一郎さん、戸辺俊介さん、伊東潤さんが参加して、
男6人だけの芝居です。
川村毅さんが新作を書き下ろし、
柄本明さんが演出に当たるという、
小劇場のエッセンスが濃厚に詰め込まれた、
非常に凄みのある企画です。

こうしたイベントは、
意外に企画倒れに終わることも多いのですが、
今回は川村さんの劇作がなかなか素晴らしく、
とても完成度の高い、
川村さんとしては意外なほど分かりやすい作品に仕上がっていて、
柄本さんの手作り感のある、
いい加減なようで極めて緻密で懐の深い、
ほっこりとした演出がまた冴えていて、
キャストも味のある小劇場芝居の達人が揃っているので、
本当に素晴らしい舞台に仕上がっていました。

上演時間が80分弱という短さで、
それでいて充分な見応えがありますし、
集中力を切らさずに観終えるという感じがまた良いのです。

今年これまでに観た芝居の中では、
間違いなくベストの1本で、
年末の今年のベスト5に入れることも、
ほぼ決定した感じの傑作でした。

これはもう小劇場好きの方には、
絶対のお薦め品ですが、
1点だけ心配なのは普段お芝居をあまり観ない人の感想で、
おそらく乗り切れない方もいるのだろうな、
というようには思います。

客席は関係者が多いという感じで、
普通のお客さんは少ないという印象を受けましたが、
この芝居を関係者に独占させておくのは、
とても詰まらないと思います。

公演は2月14日までありますので、
迷われている方は是非劇場に足をお運び下さい。

これだけの小劇場演劇の傑作は、
そうざらにはありません。

以下ネタバレを含む感想です。
鑑賞予定の方は必ず鑑賞後にお読み下さい。

これは昔のピーター・ローレやハンフリー・ボガードが活躍した、
かつてのハードボイルド映画のパロディなのですが、
場所はパリで下北沢でもあるという、
国籍不明の雰囲気となっています。
80分という上演時間も、
昔のその手の映画の尺と同じになっているのです。
これだけでも粋ですね。

かつてジャズ・カルテットをしていた4人の男が、
ひょんなきっかけで銀行強盗に転職し、
盗んだ金を山分けして別れ、
15年の歳月が流れます。

落ちぶれながらも生活を続けていた4人ですが、
「カナブン」を名乗る謎の人物から、
過去をあばくような脅迫のメールが届いたことから、
4人の疑心暗鬼が始まります。

カナブンは誰なのか。
得体の知れない八百屋の男でしょうか?
自分を殺して欲しいと便利屋に依頼した、
新人の悪党候補なのでしょうか?
それとも4人の中にカナブンが紛れているのでしょうか?
新人を引き入れた5人は、
もう一度強盗を画策しますが、
それは罠で、残酷で滑稽な、
ハードボイルド活劇の幕が開くのです。

物語は二転三転して、
ラストはややシュールな世界に着地するのですが、
以前の荒くれで勢い重視の世界とは異なり、
今回川村毅さんが紡ぐ物語は、
きちんとハードボイルドの定石を押さえていて、
完成度の高いプロの仕事となっています。
人生の先輩に失礼ですが、
「こういうのもちゃんと出来るんじゃん!」
という感じです。
竹内銃一郎さんの「Z」や、
その元ネタである鈴木清順映画に近い感覚で、
タランティーノの「レザボア・ドックス」辺りも入っています。

それを飄々としたいつものタッチで、
鮮やかに肉付けした柄本さんの演出が素晴らしく、
映画看板のようなヘタウマの書き割りが、
地図にもなっていて、
ちんまりしたライトで、
その時の場所が照らされる、
という趣向も楽しいですし、
オープニングには「マルタの鷹」を彷彿とさせるような、
モノクロ映画風のタイトルバックがあるのも洒落ています。
それに続いて4人のジャズマンが、
後ろ姿でエアバンドで演奏するというシルエットにも、
とても素敵でニンマリしてしまうのです。
ちんまりし過ぎて失敗することも多いのですが、
今回の柄本演出は完璧でした。

そしてその柄本さんの掌に載った感じで、
円熟した6人の小劇場役者が熱演を繰り広げます。
稲荷さんの久しぶりの舞台姿も素敵ですし、
久保井さんも本領発揮の感じがあり、
対する乾電池勢も極めて堅実でかつ味があります。

今回だけでは惜しい舞台で、
是非また再演を希望したいと思います。
柄本さんやベンガルが登場しても、
違和感がない台本なので、
そうした重鎮版も、
また観てみたいという気がします。

こういうものに出逢うと、
芝居を見続けていて良かったと、
つくづく思う気分になるのです。
でもそんな機会は滅多になく、
「詰まらなかった、時間の無駄だった」
と肩を落として帰ることが殆どと言って良いのです。

皆さんも是非…

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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