抗凝固剤の種類と脳出血の予後の違いについて [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のJAMA誌に掲載された、
抗凝固剤の種類と脳出血の予後との関連についての論文です。
心房細動という年齢と共に増加する不整脈があり、
特に慢性に見られる場合には心臓内に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まることにより、
脳塞栓症という脳梗塞を発症します。
これを予防するために、
抗凝固剤と呼ばれる薬が使用されています。
この目的で古くから使用されているのがワルファリンです。
ワルファリンは非常に優れた薬ですが、
納豆が食べられないなど食事に制限が必要で、
定期的に血液検査を行って、
量の調節を行う必要があります。
こうしたワルファリンの欠点を克服する薬として、
2011年以降に日本でも使用が開始されているのが、
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
非ビタミンK阻害抗凝固剤や直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる一連の薬剤です。
直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。
上記論文では非ビタミンK阻害抗凝固剤という表現が使われているので、
以下はその言葉を使います。
この非ビタミンK阻害抗凝固剤の有効性は、
コントロールされたワルファリンとほぼ同等と考えられています。
ワルファリンと比較した場合の主な利点は、
消化管出血などの出血系の有害事象が少ないことと、
量の調節が基本的には不要である点です。
ただ、こうしたタイプの薬が広く使用されるようになると、
矢張り問題となるのは出血系の有害事象です。
日本においては特に問題となるのは脳内出血ですが、
欧米においては脳内出血の頻度は少ないため、
もっぱら消化管出血が注目されることが多く、
脳内出血のリスクについては、
あまり論文にも記載がないのが実際です。
ワルファリンと非ビタミンK阻害抗凝固剤の、
どちらが脳内出血の予後により悪影響を与えるのか、
そうした点についてはこれまであまり確かなことが分かっていなかったのです。
今回のデータはアメリカの複数施設によるものですが、
トータルで141311名という非常に多くの脳内出血の事例を対象として、
ワルファリンと非ビタミンK阻害抗凝固剤の使用と、
脳内出血の予後との関係を検証しています。
その結果、
抗凝固剤の使用歴のない場合と比較して、
脳内出血で入院した場合の死亡リスクは、
ワルファリンを使用してる場合には1.62倍(95%CI: 1.53から1.71)、
非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用している場合には、
1.21倍(95%CI: 1.11から1.32)それぞれ有意に増加していました。
そして、非ビタミンK阻害抗凝固剤よりワルファリン使用時には、
脳内出血での入院時の死亡リスクは有意に高くなっていました。
つまり、
脳内出血のリスクが高いと想定される患者さんには、
ワルファリンより非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用した方が、
出血後の生命予後はより良い可能性が高い、
という結果となっています。
ただ、今回のデータではワルファリン使用者と比較すると、
非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用している患者さんの数は少なく、
使用している薬もリバーロキサバンとアピキサバンが8割以上を占めるなど、
かなりデータには偏りがあるので、
このデータのみをもって、
どの薬が最も脳内出血の予後に関してはリスクが少ない、
とも言い切れないのですが、
こうした多数例のデータが初めて発表された意義は大きく、
今後の検証にも期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018年のJAMA誌に掲載された、
抗凝固剤の種類と脳出血の予後との関連についての論文です。
心房細動という年齢と共に増加する不整脈があり、
特に慢性に見られる場合には心臓内に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まることにより、
脳塞栓症という脳梗塞を発症します。
これを予防するために、
抗凝固剤と呼ばれる薬が使用されています。
この目的で古くから使用されているのがワルファリンです。
ワルファリンは非常に優れた薬ですが、
納豆が食べられないなど食事に制限が必要で、
定期的に血液検査を行って、
量の調節を行う必要があります。
こうしたワルファリンの欠点を克服する薬として、
2011年以降に日本でも使用が開始されているのが、
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
非ビタミンK阻害抗凝固剤や直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる一連の薬剤です。
直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。
上記論文では非ビタミンK阻害抗凝固剤という表現が使われているので、
以下はその言葉を使います。
この非ビタミンK阻害抗凝固剤の有効性は、
コントロールされたワルファリンとほぼ同等と考えられています。
ワルファリンと比較した場合の主な利点は、
消化管出血などの出血系の有害事象が少ないことと、
量の調節が基本的には不要である点です。
ただ、こうしたタイプの薬が広く使用されるようになると、
矢張り問題となるのは出血系の有害事象です。
日本においては特に問題となるのは脳内出血ですが、
欧米においては脳内出血の頻度は少ないため、
もっぱら消化管出血が注目されることが多く、
脳内出血のリスクについては、
あまり論文にも記載がないのが実際です。
ワルファリンと非ビタミンK阻害抗凝固剤の、
どちらが脳内出血の予後により悪影響を与えるのか、
そうした点についてはこれまであまり確かなことが分かっていなかったのです。
今回のデータはアメリカの複数施設によるものですが、
トータルで141311名という非常に多くの脳内出血の事例を対象として、
ワルファリンと非ビタミンK阻害抗凝固剤の使用と、
脳内出血の予後との関係を検証しています。
その結果、
抗凝固剤の使用歴のない場合と比較して、
脳内出血で入院した場合の死亡リスクは、
ワルファリンを使用してる場合には1.62倍(95%CI: 1.53から1.71)、
非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用している場合には、
1.21倍(95%CI: 1.11から1.32)それぞれ有意に増加していました。
そして、非ビタミンK阻害抗凝固剤よりワルファリン使用時には、
脳内出血での入院時の死亡リスクは有意に高くなっていました。
つまり、
脳内出血のリスクが高いと想定される患者さんには、
ワルファリンより非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用した方が、
出血後の生命予後はより良い可能性が高い、
という結果となっています。
ただ、今回のデータではワルファリン使用者と比較すると、
非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用している患者さんの数は少なく、
使用している薬もリバーロキサバンとアピキサバンが8割以上を占めるなど、
かなりデータには偏りがあるので、
このデータのみをもって、
どの薬が最も脳内出血の予後に関してはリスクが少ない、
とも言い切れないのですが、
こうした多数例のデータが初めて発表された意義は大きく、
今後の検証にも期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2018-01-31 08:19
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コメント(1)
日本は欧米に比べて脳出血が多いと聞きます。欧米ではやはり、件数も少ないので研究が少ないんでしょうね。
by ピストン (2018-11-15 10:55)