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抗凝固剤の脳卒中予防のメタ解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワルファリンとDOACの比較メタ解析.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心房細動の患者さんに対する抗凝固剤の効果を比較した論文です。

心房細動という非常に頻度の高い不整脈があり、
左心房という部分に血栓が発生しやすくなるため、
脳塞栓というタイプの脳卒中を起こす原因となります。

そのために抗凝固剤という血栓を出来にくくする薬が、
脳卒中の予防のために使用されます。

この目的で広く使用されて来た薬剤がワルファリンです。

ワルファリンの脳卒中予防の有効性は確立されていますが、
ビタミンKの関連する経路を妨害するという性質から、
納豆などビタミンKを多く含む食品の制限が必要で、
他の薬剤との相互作用も非常に多いため、
その効果が不安定になりやすいという欠点があります。

その調節はPT-INRという血液検査の数値を、
概ね2.0から3.0を目標として量の調整がされますが、
微調整は意外に難しく、
数値が低ければ効果が充分発揮されない一方で、
数値が高ければ有害事象としての出血のリスクが増加します。

最近相次いで発売された、
直接作用型抗凝固剤(呼び名は他にもあり)は、
ワルファリンとは別の機序で同等の効果を得られる薬剤で、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、エドキサバン(商品名リクシアナ)が、
現在日本でも使用可能です。

ワルファリンと比較すると薬物相互作用が少なく、
ビタミンKにも影響されないので
食事や併用薬の制限が殆どありません。
また効果が安定しているので使用量の調節も、
殆ど必要ありません。
臨床試験の段階では、
出血系の有害事象もワルファリンより少ないと報告されました。

このように発売時はいいことづくめと思われた新薬ですが、
実際に使用が拡大してみると、
出血系の有害事象は決してワルファリンより少ないとは言えず、
報告によってはむしろ多いというものもありました。
効果は安定していると思われましたが、
腎機能が低下するとその影響を受け、
有害事象が重篤化する傾向も認められました。
有効性についても、
コントロールが良好のワルファリンより優れているということはなく、
薬の値段としては新薬が格段に高いということを考えると、
医療経済的にもどちらを選ぶのが適切かは、
難しい選択になります。

そこで個別の薬剤のデータではなく、
総合的な見地から、
その有効性や安全性、また経済性の観点から、
どの薬が最も優れているのかを比較検証することが、
今後の治療指針のためには重要と考えられます。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析して、
ネットワークメタ解析という手法を用いて、
薬剤相互の比較を推定したものです。

23の介入試験の94656名のデータをまとめて解析した結果として、
ワルファリンとの比較において、
アピキサバン(5mg1日2回)は21%(95%CI; 0.66から0.94)、
ダビガトラン(150mg1日2回)は35%(95%CI; 0.52から0.81)、
それぞれ有意に脳卒中もしくは全身の血栓症のリスクを低下させていました。
エドキサバン(60㎎1日1回)とリバーロキサバン(20㎎1日1回)は、
低下させる傾向を示したものの有意ではありませんでした。

ダビガトラン(150mg1日2回)との比較において、
エドキサバン(60mg1日1回)は1.33倍(95%CI; 1.02から1.75)、
リバーロキサバン(20㎎1日1回)は1.35倍(95%CI; 1.03から1.78)、
それぞれ有意に脳卒中や血栓症発症リスクが高い、
という逆の結果になっていました。

総死亡のリスクについては、
ワルファリンより4種全ての直接作用型抗凝固剤が、
有意に低下させていました。

出血系の合併症のリスクは、
ワルファリンと比較して、
アピキサバン(5mg1日2回)は29%(95%CI; 0.61から0.81)、
ダビガトラン(110㎎1日2回)は20%(95%CI; 0.69から0.93)、
エドキサバン(30㎎1日1回)は54%(95%CI; 0.40から0.54)、
エドキサバン(60㎎1日1回)は22%(95%CI; 0.69から0.90)、
それぞれ有意に低下していました。

アピキサバン(5㎎1日2回)と比較して、
ダビガトラン(150㎎1日2回)は1.33倍(95%CI; 1.09から1.62)、
リバーロキサバン(20㎎1日2回)は1.45倍(95%CI; 1.19から1.78)、
出血系合併症が有意に増加していました。
また、エドキサバン(60㎎1日1回)と比較して、
リバーロキサバン(20㎎1日2回)は1.31倍(95%CI; 1.07から1.59)、
出血系合併症が有意に増加していました。

このようにトータルに見ると、
ワルファリンと比較して特に生命予後や出血系合併症のリスクについては、
直接作用型抗凝固剤の方が優れている可能性が高い、
とは言えそうです。
その脳卒中予防効果については、
エドキサバンとリバーロキサバンはやや落ちると見られ、
出血系の合併症が通常用量においてもワルファリンより低いのは、
アピキサバンとエドキサバンと言って良いようです。

これはあくまで間接的な比較なので、
今後より直接的な直接作用型抗凝固剤相互の比較を行い、
その有効性と安全性が検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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ひでほ

非常に参考になりました。On-X弁いれていてワーファリンのんでるため、非代償性肝硬変の再生治験にエントリーできず難儀しております。
by ひでほ (2017-12-07 18:10) 

fujiki

ひでほさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
by fujiki (2017-12-08 05:37) 

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