安定冠動脈疾患に対するリバーロキサバンとアスピリン併用の効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌に掲載された、
安定冠動脈疾患の治療における、
抗凝固剤とアスピリンとの併用の効果についての論文です。
安定冠動脈疾患というのは、
急性の心筋梗塞やその前段階の不安定狭心症など、
急性冠症候群と呼ばれる急性期の状態を除いた、
継続的な治療が必要な全ての冠動脈疾患のことで、
通常重症の心不全なども除外されています。
こうした急性期を過ぎた冠動脈疾患において、
アスピリンのような抗血小板剤の使用が、
その後の急性冠症候群の予防に有効であることは、
多くの臨床データにおいて実証された事実です。
ただ、単独の抗血小板剤の使用だけでは、
その後の心血管イベントのリスクの低下は2割程度ですから、
症状の進行や再発の予防には、
不充分であることもまた事実です。
そこで複数の抗血小板剤や抗血小板剤の併用が、
治療の選択肢として試みられています。
ただ、薬を増やしたり強力に抗凝固を行なえば、
有害事象としての出血の増加が問題となります。
抗凝固剤のワルファリンとアスピリンの併用は、
アスピリン単独と比較して心筋梗塞のリスクを減らし、
死亡リスクも低下すると報告されていますが、
その一方で脳内出血を含む重篤な出血系合併症を増やします。
最近ワルファリンに代わって使用されることの多い、
直接作用型抗凝固剤とアスピリンの併用は、
重篤な出血系合併症がワルファリンより少ないと期待されましたが、
Ⅹa阻害剤のアピキサバンと抗血小板剤との併用は、
心血管イベントの減少の上乗せ効果はなく、
重篤な出血系合併症を増加させるという結果に終わりました。
今回の研究はアスピリンと用量を変えたリバーロキサバンという、
Ⅹa阻害剤との併用の効果をアスピリン単独と比較検証したものです。
対象は世界33か国の602の専門施設で治療を受けている、
トータル27395名の安定冠動脈疾患の患者さんで、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで3つの群に分けると、
第1群は1日100ミリグラムのアスピリン単独、
第2群はアスピリンとリバーロキサバン2.5ミリの1日2回使用、
第3群はリバーロキサバン5ミリの1日2回使用を行ない、
平均1.95年の観察期間中の、
心筋梗塞や脳卒中、
心血管疾患による死亡のリスクとの関連を検証しています。
その結果、
アスピリンの単独と比較して、
アスピリンとリバーロキサバン少量との併用は、
心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡を併せたリスクを、
26%(95%CI; 0.65から0.86)有意に低下させていました。
一方でリバーロキサバン単独治療は、
アスピリン単独と比較して、
有意に予後を改善しませんでした。
アスピリン単独と比較して、
リバーロキサバンとアスピリンとの併用は、
出血系合併症を1.66倍(95%CI; 1.37から2.03)、
有意に増加させていました。
出血は主に消化管出血でした。
そして、リバーロキサバンとアスピリンの併用は、
アスピリン単独と比較して、
総死亡のリスクも23%(95%CI; 0.65から0.90)
有意に低下させていました。
このようにリバーロキサバン少量とアスピリンとの併用は、
アスピリン単独と比較して、
安定冠動脈疾患の予後を改善し、
生命予後も改善していました。
しかし、出血系の合併症が増加することも事実で、
より長期の観察期間で検証すると、
また別の結果が出るという可能性もあります。
欧米と比較して日本では脳出血の発症は多いですから、
この結果をそのまま日本の臨床に適応することも、
まだ時期尚早ではないかと思います。
リバーロキサバンは心房細動などへの通常用量の使用では、
他の同種の薬剤と比較しての有効性が低く、
出血系の合併症のリスクも高いなど、
最近あまり良いデータがないのですが、
今回は低用量をアスピリンと併用しているというのがポイントです。
ただ、他の同種の薬剤でも同じような検証をして比較しないと、
それがリバーロキサバンの特性であるのかどうかは、
何とも言えません。
アスピリンと他の抗凝固剤の安定冠動脈疾患への併用は、
多くの臨床試験はありながらまだ結論は出ておらず、
今後もより厳密な検証の積み重ねを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌に掲載された、
安定冠動脈疾患の治療における、
抗凝固剤とアスピリンとの併用の効果についての論文です。
安定冠動脈疾患というのは、
急性の心筋梗塞やその前段階の不安定狭心症など、
急性冠症候群と呼ばれる急性期の状態を除いた、
継続的な治療が必要な全ての冠動脈疾患のことで、
通常重症の心不全なども除外されています。
こうした急性期を過ぎた冠動脈疾患において、
アスピリンのような抗血小板剤の使用が、
その後の急性冠症候群の予防に有効であることは、
多くの臨床データにおいて実証された事実です。
ただ、単独の抗血小板剤の使用だけでは、
その後の心血管イベントのリスクの低下は2割程度ですから、
症状の進行や再発の予防には、
不充分であることもまた事実です。
そこで複数の抗血小板剤や抗血小板剤の併用が、
治療の選択肢として試みられています。
ただ、薬を増やしたり強力に抗凝固を行なえば、
有害事象としての出血の増加が問題となります。
抗凝固剤のワルファリンとアスピリンの併用は、
アスピリン単独と比較して心筋梗塞のリスクを減らし、
死亡リスクも低下すると報告されていますが、
その一方で脳内出血を含む重篤な出血系合併症を増やします。
最近ワルファリンに代わって使用されることの多い、
直接作用型抗凝固剤とアスピリンの併用は、
重篤な出血系合併症がワルファリンより少ないと期待されましたが、
Ⅹa阻害剤のアピキサバンと抗血小板剤との併用は、
心血管イベントの減少の上乗せ効果はなく、
重篤な出血系合併症を増加させるという結果に終わりました。
今回の研究はアスピリンと用量を変えたリバーロキサバンという、
Ⅹa阻害剤との併用の効果をアスピリン単独と比較検証したものです。
対象は世界33か国の602の専門施設で治療を受けている、
トータル27395名の安定冠動脈疾患の患者さんで、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで3つの群に分けると、
第1群は1日100ミリグラムのアスピリン単独、
第2群はアスピリンとリバーロキサバン2.5ミリの1日2回使用、
第3群はリバーロキサバン5ミリの1日2回使用を行ない、
平均1.95年の観察期間中の、
心筋梗塞や脳卒中、
心血管疾患による死亡のリスクとの関連を検証しています。
その結果、
アスピリンの単独と比較して、
アスピリンとリバーロキサバン少量との併用は、
心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡を併せたリスクを、
26%(95%CI; 0.65から0.86)有意に低下させていました。
一方でリバーロキサバン単独治療は、
アスピリン単独と比較して、
有意に予後を改善しませんでした。
アスピリン単独と比較して、
リバーロキサバンとアスピリンとの併用は、
出血系合併症を1.66倍(95%CI; 1.37から2.03)、
有意に増加させていました。
出血は主に消化管出血でした。
そして、リバーロキサバンとアスピリンの併用は、
アスピリン単独と比較して、
総死亡のリスクも23%(95%CI; 0.65から0.90)
有意に低下させていました。
このようにリバーロキサバン少量とアスピリンとの併用は、
アスピリン単独と比較して、
安定冠動脈疾患の予後を改善し、
生命予後も改善していました。
しかし、出血系の合併症が増加することも事実で、
より長期の観察期間で検証すると、
また別の結果が出るという可能性もあります。
欧米と比較して日本では脳出血の発症は多いですから、
この結果をそのまま日本の臨床に適応することも、
まだ時期尚早ではないかと思います。
リバーロキサバンは心房細動などへの通常用量の使用では、
他の同種の薬剤と比較しての有効性が低く、
出血系の合併症のリスクも高いなど、
最近あまり良いデータがないのですが、
今回は低用量をアスピリンと併用しているというのがポイントです。
ただ、他の同種の薬剤でも同じような検証をして比較しないと、
それがリバーロキサバンの特性であるのかどうかは、
何とも言えません。
アスピリンと他の抗凝固剤の安定冠動脈疾患への併用は、
多くの臨床試験はありながらまだ結論は出ておらず、
今後もより厳密な検証の積み重ねを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2017-12-08 05:36
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