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メトロニダゾール(フラジール)関連脳症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトロニダゾール関連脳症.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌の、
症例の画像提示の記事ですが、
これから日本でも増える可能性のある病態のため、
今日は取り上げることにしました。

メトロニダゾール(商品名フラジールなど)は、
寄生虫症や難治性の腸炎などの、
限られた用途で使用されてきた抗菌剤ですが、
最近日本ではピロリ菌の二次除菌に使用されるようになり、
一気にその使用量が増加しました。

この薬は比較的安全に使用出来る抗菌剤ですが、
特に高用量を比較的長期間使用した場合に、
稀に発症する副作用が、
メトロニダゾール関連脳症です。

上記記事に記載されている事例をご紹介します。

患者さんは原因の特定出来ない肝硬変症を持つ58歳の男性で、
ディフィシル菌という細菌による難治性の腸炎に対して、
1日1500ミリグラムのメトロニダゾールを、
長期間継続的に使用していました。

ある時から歩行時のふらつきとろれつの回らない、
という症状が出現し、
転倒とそれに伴う意識の混乱のために救急搬送となりました。

入院時の頭部MRI画像が、
最初にお示ししたものです。

向かって左側のAが入院時のものですが、
矢印の先の小脳の歯状核という部分に、
フレアという条件の画像で、
両側性に白く映る病変が認められます。

これが脳症の所見で、
この場所の神経細胞障害と浮腫を示していると思われます。

小脳という場所は平衡感覚や運動機能を司っているので、
そこの障害によって、
ふらつきや歩行障害が起こるのです。

次に右側の画像をご覧下さい。
同じ患者さんのメトロニダゾール中止後1ヶ月での、
同じ条件のMRI画像です。

完全に回復しているのがお分かりになるかと思います。

このように、多くのメトロニダゾール脳症は、
すぐにその使用を中止すれば、
比較的速やかに回復するのです。

メトロニダゾールの使用で、
何故脳症が起こるのでしょうか?

これはまだ完全には解明されてはいないようです。

ただ、この薬は血液脳関門を通過して脳へ移行し、
脳に一定の毒性を持つことが、
動物実験などでは証明されています。

これまでの報告では、
メトロニダゾール脳症は累積の使用量が、
20グラムを超えるケースでその殆どが発症しています。

これは通常は多いのですが、
たとえばピロリ菌の除菌の場合、
健康保険で認められている用量は、
1日750ミリグラムで1週間ですから、
累積の使用量は5250ミリグラムです。

ただ、メトロニダゾールを1日1500ミリグラム使用して、
2週間の治療を行なうという方法も、
自費診療としては行われていて、
仮にそうした治療での累積使用量は、
21000ミリグラム(21グラム)になりますから、
この20グラムという量は、
決して桁外れに多い、という訳ではないのです。

また、肝障害がある患者さんでは、
薬剤が蓄積するため、
より少ない用量でも発症する可能性があります。

メトロニダゾール関連脳症は、
その薬剤の使用により改善するので、
その意味では予後の良い病気と考えられますが、
上記記事にある事例の患者さんは、
結果的にはカテーテルからの感染で亡くなっていて、
そうした意味では、
この脳症は患者さんの予後には、
少なからず影響を与える病気でもあるのです。

この病気は日本でのこの薬剤の使用の増加に伴い、
増加する可能性があります。

医師の1人としては、
この薬の適応により注意を払いたいと思いますし、
特に肝障害の患者さんに対する処方には、
より慎重でありたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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