エリン「特別料理」とミステリー短編の世界 [ミステリー]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
石田医師は休診のため、
午前午後とも石原が診療を担当します。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
スタンリイ・エリンはアメリカのミステリー作家で、
もう故人ですが、
特に1950年代に発表した珠玉のような短編が、
今でもミステリー短編の1つのお手本として、
その輝きを放っています。
この「特別料理」はエリンの最初の短編集で、
タイトルロールである処女作の「特別料理」から
これも世評の高い、
マジックを扱った「決断の時」までの、
10編の短編が収録されています。
これは矢張り圧巻の短編集で、
僕は昔「特別料理」と「パーティーの夜」など数篇を読んで、
あまり感心しなかったので、
しっかり全部読んでいなかったのですが、
比較的最近通読して、
あまりに面白いのでびっくりしました。
エリンは「奇妙な味」の短編と言われています。
これはオーソドックスなミステリーではなく、
「よくこんな風変わりで変な話を思いついたな」
と感心するような傾向のものを指していて、
エリンと同じく短編の名手とされたロアルド・ダールは、
確かにエロチックだったりグロテスクであったりと、
「奇想」の名に恥じないものなのですが、
エリンの場合はちょっと違います。
基本的にはミステリーの骨法を大事に守っていて、
勿論本格ミステリーではないのですが、
予想外の展開を極めて緻密に練り上げていて、
ミステリーならではの愉楽に誘うのです。
この作品集はほぼ全てが傑作といって過言ではありません。
セレブに密かに愛されるレストランの特別料理の謎を、
直接的な描写を徹底して抑制することにより描いた「特別料理」や、
有名俳優が自堕落なパーティー繰り広げる描写のうちに、
異様な世界への扉が開く「パーティーの夜」などは、
世評の通りの逸品なのですが、
僕が特に好きなのは、
異様な犯罪計画とその皮肉極まりない顛末を描いて、
一分の隙もない「アプルピー氏の乱れなき世界」や、
当時流行の心理スリラーを、
徹底した心理描写のみで工芸品のように磨き上げた「好敵手」
の辺りです。
こういうレベルのものが1つでも書ければ、
本当に素晴らしいですね。
エリンの短編集は3冊あり、
一応全部読んでみました。
2冊目がこちら。
こちらは1冊目と比べると、
その出来にはちょっとばらつきがあります。
1冊目にはない、社会批評的な作品が幾つかあり、
それが今読むとややピンと来ないことも、
その1つの原因かも知れません。
この中では「不当な疑惑」は、
所謂「一事不再理」を扱った短編ですが、
限定された長さの中に知的な興奮が溢れ、
ラストの突き放した味わいの鮮やかさはさすがエリン、
という逸品です。
そして、最後の短編集がこちら。
これはもうかなり玉石混交です。
ただ、表題にもなった「最後の一壜」は、
初期作に勝るとも劣らない傑作です。
短編ミステリーに関しては、
ほぼ間違いなく1950年代が黄金時代で、
「奇妙な味」の全てのパターンが出尽くしているので、
その後今に至るまでの作品は、
ある種の蛇足のように思えてしまうのです。
「特別料理」は是非…
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
石田医師は休診のため、
午前午後とも石原が診療を担当します。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
スタンリイ・エリンはアメリカのミステリー作家で、
もう故人ですが、
特に1950年代に発表した珠玉のような短編が、
今でもミステリー短編の1つのお手本として、
その輝きを放っています。
この「特別料理」はエリンの最初の短編集で、
タイトルロールである処女作の「特別料理」から
これも世評の高い、
マジックを扱った「決断の時」までの、
10編の短編が収録されています。
これは矢張り圧巻の短編集で、
僕は昔「特別料理」と「パーティーの夜」など数篇を読んで、
あまり感心しなかったので、
しっかり全部読んでいなかったのですが、
比較的最近通読して、
あまりに面白いのでびっくりしました。
エリンは「奇妙な味」の短編と言われています。
これはオーソドックスなミステリーではなく、
「よくこんな風変わりで変な話を思いついたな」
と感心するような傾向のものを指していて、
エリンと同じく短編の名手とされたロアルド・ダールは、
確かにエロチックだったりグロテスクであったりと、
「奇想」の名に恥じないものなのですが、
エリンの場合はちょっと違います。
基本的にはミステリーの骨法を大事に守っていて、
勿論本格ミステリーではないのですが、
予想外の展開を極めて緻密に練り上げていて、
ミステリーならではの愉楽に誘うのです。
この作品集はほぼ全てが傑作といって過言ではありません。
セレブに密かに愛されるレストランの特別料理の謎を、
直接的な描写を徹底して抑制することにより描いた「特別料理」や、
有名俳優が自堕落なパーティー繰り広げる描写のうちに、
異様な世界への扉が開く「パーティーの夜」などは、
世評の通りの逸品なのですが、
僕が特に好きなのは、
異様な犯罪計画とその皮肉極まりない顛末を描いて、
一分の隙もない「アプルピー氏の乱れなき世界」や、
当時流行の心理スリラーを、
徹底した心理描写のみで工芸品のように磨き上げた「好敵手」
の辺りです。
こういうレベルのものが1つでも書ければ、
本当に素晴らしいですね。
エリンの短編集は3冊あり、
一応全部読んでみました。
2冊目がこちら。
こちらは1冊目と比べると、
その出来にはちょっとばらつきがあります。
1冊目にはない、社会批評的な作品が幾つかあり、
それが今読むとややピンと来ないことも、
その1つの原因かも知れません。
この中では「不当な疑惑」は、
所謂「一事不再理」を扱った短編ですが、
限定された長さの中に知的な興奮が溢れ、
ラストの突き放した味わいの鮮やかさはさすがエリン、
という逸品です。
そして、最後の短編集がこちら。
これはもうかなり玉石混交です。
ただ、表題にもなった「最後の一壜」は、
初期作に勝るとも劣らない傑作です。
短編ミステリーに関しては、
ほぼ間違いなく1950年代が黄金時代で、
「奇妙な味」の全てのパターンが出尽くしているので、
その後今に至るまでの作品は、
ある種の蛇足のように思えてしまうのです。
「特別料理」は是非…
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2016-01-23 07:55
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