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乳がんスクリーニング(アメリカの新ガイドライン) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は、
今年1月のAnnals of Internal Medicien誌にウエブ掲載された、
アメリカ予防医学専門委員会(USPSTF)による、
乳がん検診のガイドラインの最新改訂版について、
これまでの経過を含めて概説したいと思います。

現時点で乳がんによる死亡リスクの低下が、
実証されている検診は、
マンモグラフィ検診のみです。

これは乳房を押し潰すようにして撮るレントゲン検査ですが、
1回最低でも0.1ミリシーベルト程度の、
放射線の被ばくを伴います。

高齢者のように乳腺が減少して、
繊維に置き換わっているような乳房では効果的なのですが、
若年者で乳房が発達していると、
乳腺組織の乱れとがんとの鑑別は困難になり、
診断能は低下するのが一番の問題点です。

多くの大規模な臨床試験などの解析によると、
マンモグラフィによる乳がん検診が最も有効なのは、
60歳代の対象者に施行した場合で、
この年齢層の検診では、
乳がんの死亡リスクを3割以上低下させています。

その次に有用性が高いのは、
50歳代と40歳代で、
いずれも15%程度、
乳がんによる死亡リスクを低下させています。

75歳以上では、
検診の効果は確認されていません。

そうなると、
40歳から74歳まででマンモグラフィの検診が有効、
ということになるのですが、
40歳代の検診をどう評価するかについては、
議論があります。

アメリカにおいては、
乳がんの発症率は40歳代より50歳代の方が多く、
その検査の偽陽性、
すなわち、
異常所見がマンモグラフィで検出されたけれど、
実際にはがんではなかった、
という事例の多さが問題となります。

40歳代ではより乳腺の密度が高いので、
検査の正確性は50歳代より劣っているのです。

このため、2009年に改訂された、
アメリカ予防医学専門委員会による、
乳がんスクリーニングのガイドラインでは、
50から74歳で2年に一度のマンモグラフィ検診を推奨し、
40代については、
個別の判断とすることを提唱しています。
(遺伝性の家族歴など、
がんのリスクの高い方は除外した場合の話です。
標準リスク、というような言い方がされています)
この判断は40代のマンモグラフィ検診を、
やや否定するようなニュアンスがあり、
そのため世界的に大きな議論となりました。

アメリカにおいても、
たとえばアメリカがん協会(ACS)は、
基本的に年1回のマンモグラフィ検診を、
40代でも推奨していて、
行政の機関である予防医学専門委員会とは温度差があります。
ただ、昨年には40代前半については、
スクリーニングの効果には疑問のあることを認めています。

日本においては、
40歳代の乳がんの比率はアメリカより多いので、
必ずしも同じ基準を適応することは妥当ではない、
という意見があります。

しかし、
それでは日本において、
どのような検診に有用性が高いのか、
という点についての、
欧米レベルの精度の高いデータは、
存在していないと思います。

今回のアメリカ予防医学専門委員会のガイドラインの改訂は、
基本的には2009年を踏襲するものになっています。

40代でのマンモグラフィ検診は、
個別判断に委ねる性質のもので、
集団としは推奨しない、というものです。
ただ、両親、子供、兄弟に乳がんの患者さんがいる場合には、
よりリスクが高いと考えて、
積極的に行なっても良いのではないか、
という補足が付いています。

トータルに考えて、
乳がん検診をマンモグラフィのみで行う、
という方針に限界のあることは間違いがないのです。

ただ、それでは他のどのような検査を、
どの年齢層において、
どのように組み合わせることが最適であるか、
というような点については、
まだ結論が出ていないのが現状です。

それで積極的な推奨はせずに個別判断に任せる、
というのがアメリカ予防医学専門委員会の方針で、
いやいや、それでは多くのがんが、
早期発見される機会が失われることになるので、
不充分であっても現状はマンモグラフィ検診を継続するべきだ、
というのがアメリカがん協会などの立場です。

日本においては、
マンモグラフィ検診を基本としながら、
超音波検査やMRI,
マンモグラフィの改良型で、
簡易CTのようなDBTなど、
より感度の高い検査を組み合わせることが、
主に検討されています。
しかし、現状国際的には、
こうした検査をスクリーニングに用いた場合の、
検診の有効性は確認されてはいないのです。
40代でマンモグラフィに超音波を併用した臨床試験が、
日本で行われていますが、
まだ乳がんによる死亡の減少を、
評価する段階には至っていません。

現状最も慎重で、
科学的にその効果が確認され、
受診者にとってデメリットよりメリットが間違いなく高い、
という方法しか推奨しないのが、
このアメリカ予防医学専門委員会のガイドラインです。
検査の間隔も、
1年でも2年でもそれほどの違いはない、
というデータを元に2年に一度にしているのです。

乳がんのスクリーニングには、
特に50歳未満の年齢層においては、
現状で満足のいく方法はない、
ということをまず押さえた上で、
各種のガイドラインなどを読み解いて、
どの検査をどのようなタイミングでするべきか、
個々の責任で判断をするしかないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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