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妊娠糖尿病から糖尿病への移行に与える授乳の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
授乳による糖尿病予防作用.jpg
昨年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
妊娠糖尿病と診断された女性が、
出産後に糖尿病になるリスクと、
それに与える授乳の影響についての論文です。

妊娠糖尿病というのは、
それまで糖尿病を指摘されていない女性が、
妊娠時に血糖の上昇を指摘されるものです。
改訂された今の日本の基準では、
空腹時血糖が92mg/dL以上で基準を満たしますので、
一般の病気としての糖尿病とは、
定義も基準も異なります。
アメリカの統計では全妊娠の7から9%で妊娠糖尿病である、
とされていて、
それでいてこうした基準を設けているのは、
妊娠中の血糖の管理が、
母体と胎児の健康のために、
重要な役割を果たすという知見があるからです。

妊娠糖尿病の女性でもう1つの問題は、
出産後に糖尿病を発症するリスクが、
妊娠糖尿病でない場合の7倍に増加する、
という知見にあります。
(これもアメリカの統計です)

要するに妊娠糖尿病と診断された女性は、
その後に糖尿病を発症し易いのです。

それではこうした女性が糖尿病を予防するには、
どうすれば良いのでしょうか?

以前から報告があるのは、
出産後の授乳により、
糖代謝と脂質代謝に良い影響があり、
それが糖尿病の予防になっているのではないか、
という仮説です。

そのため、教科書などには、
妊娠糖尿病を発症した女性では、
出産後により長く授乳した方が、
その後の糖尿病の予防になる、
というような記載があります。

しかし、実際にはその根拠となるデータは、
それほど沢山存在している訳ではなく、
純粋に授乳のみの効果を評価出来るような、
精度の高いデータは皆無でした。

そのため今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
ブドウ糖負荷試験によって、
妊娠糖尿病と診断された1035名の女性の、
出産後の経過を2年間観察し、
1年ごとにブドウ糖負荷試験を行なって、
その間の糖尿病の発症頻度と、
授乳の回数や期間との関連性を検証しています。

その結果…

2年間の観察を完了した959名中で、
その間に113名(11.8%)が新たに糖尿病を発症しました。
授乳を行わない人工乳のみと比較して、
母乳の頻度が多いければ多いほど、
糖尿病の発症リスクは低下していて、
完全な母乳ではそのリスクは有意に54%低下していました。

更に授乳が行われた期間が長いほど、
矢張り糖尿病の発症リスクが低いという相関も認められ、
0から2ヶ月の授乳期間と比較して、
10ヶ月を超える授乳期間では、
糖尿病の発症リスクは有意に57%低下していました。

このように、これまでにない多数例の検証により、
妊娠糖尿病を発症した女性において、
授乳の回数が多く、授乳期間が長いほど、
出産後2年間の糖尿病の発症は予防される、
ということが確認されました。

それでは、何故授乳により糖尿病は予防されるのでしょうか?

これはクリアには分かっていないのですが、
主に乳汁分泌ホルモンである、
プロラクチンの作用によるのではないかと推測されています。

プロラクチンは妊娠中において、
膵臓のβ細胞を刺激して増殖させる作用のあることが確認されています。
この作用が授乳中も持続することは、
人間では証明されていませんが、
動物実験においては授乳期にもβ細胞が増殖することが確認されています。
更にプロラクチンには脂肪の分解を促進する働きもあり、
これにより内蔵脂肪は減少し、
インスリン抵抗性も改善します。

このように、
妊娠中にはインスリン抵抗性が惹起される一方、
出産後の授乳期には、
プロラクチンによりインスリン抵抗性が解除され、
妊娠中に溜め込まれた脂肪も、
分解される方向に回復が図られているのです。
人間の身体の神秘の1つと言って良いかも知れません。

妊娠糖尿病と診断された時には、
授乳期間を長めに取った方が良いのですが、
授乳をしないケースでも、
食事や運動、体重管理などの徹底により、
糖尿病の発症は予防出来るというデータもあり、
要は妊娠糖尿病を指摘された場合には、
その後の糖尿病のリスクが増加することを想定して、
ケースバイケースで対策を講じる必要がある、
ということではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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