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糖尿病のスクリーニングは有効なのか?(2015年アメリカの知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血糖スクリーニングの効果.jpg
昨年10月のAnnals of Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
アメリカにおける糖尿病スクリーニングの効果の提言です。
こうした予防医療のアメリカの元締めである、
アメリカ予防医療専門委員会(USPSTF)によるものです。

日本では原則全ての国民が健康保険に加入していて、
健康保険組合はメタボの検診をする義務を有していますから、
原則として全ての国民が、
毎年1回は血圧測定や血液のコレステロール、
血糖値などの検査を受けています。

勿論案内が来ても検診を受けない人はいますから、
全てということはないのですが、
通常あまり健康に対する意識をもっていなくても、
ある程度「自動的」に、
こうした検査が受けられるのが日本のシステムです。

しかし、
それでは何も症状のない人が、
血圧や血糖、コレステロールの測定を、
本当に毎年受けることにメリットがあるのか、
と言う点については、
意外にはっきりとしたことが分かっていません。

糖尿病を検診で発見することには、
どのようなメリットがあるでしょうか?

不特定多数の人に糖尿病のスクリーニングを行なった場合と、
行なわなかった場合とを比較して、
その後の長期の経過に違いがあるかを検証した、
大規模な疫学データは、
ヨーロッパにおける2つの研究が存在しているのみです。

その最初のものは、
2012年のLancet誌に掲載された、
19226名の対象者を、
血糖スクリーニングをした場合としない場合とに振り分け、
10年間の経過観察を行なった研究です。
結果として、総死亡のリスクや、癌や心血管疾患による死亡リスク、
糖尿病による死亡リスクについてみると、
いずれもスクリーニングによる改善は認められませんでした。
2番目のものは、
2011年のDiabetlogia誌に掲載されたもので、
イギリスの単独施設において、
4936名の対象者をスクリーニング施行群と未施行群とに振り分け、
やはり10年間の経過観察を行なっています。
この研究は全ての対象者が同じ条件にはなっていないので、
そのデータの精度は最初の研究より落ちるのですが、
総死亡のリスクがスクリーニングを行なうことにより、
21%低下した、と言う結果になっています。
ただ、ギリギリで有意差は付いていません。

このように、
これまでに糖尿病のスクリーニングが、
症状のない対象者の寿命を延長する、
というようなデータは、
今のところ存在していません。

観察期間は10年では不十分であるというのは、
容易に想定されるところですが、
20年を超えるような研究は、
現時点ではないので、
その有効性はどちらとも言えないのです。

スクリーニングを行なうことにより、
明確に治療開始レベルの糖尿病が発見されれば、
その治療により、
一定の効果が将来的には期待出来ます。
この点については多くのデータが存在しています。
しかし、厳密に言うと、
糖尿病を早期に発見して治療した場合の効果というのは、
あくまで症状のある糖尿病が、
発見された場合の話なので、
検診で発見された糖尿病に、
そのまま当て嵌まるという保証はありません。

そして、現在までに、
スクリーニングで発見された無症状の糖尿病を、
薬剤で治療した場合にその予後が改善した、
ということを明確に示したデータはないのです。

ただ、これはちょっとひねくれた考えかも知れません。
通常医療機関で診断された糖尿病において、
早期の治療が有効であるなら、
スクリーニングにおいて発見された糖尿病についても、
その後の対応は同じなのですから、
ほぼ同じ結果が得られると考えるのが、
妥当だと思われるからです。

それでは、
スクリーニングのみで発見されることの多い、
境界型糖尿病と以前呼ばれたような、
糖尿病の基準にはまだ至らない、
耐糖能異常についてはどうでしょうか?

これまでに、
境界型の糖尿病に対して、
生活習慣の改善についての指導を行なうことの効果を見た、
一定の精度を持つ臨床研究は10種類ほど存在していて、
それらをまとめて解析すると、
そうした指導的な介入により、
その後の糖尿病への進行は47%有意に抑制された、
という結果が得られています。
つまり、境界型糖尿病の患者さんに対して、
食事や運動などの指導を行ないそれを実行することは、
その患者さんの予後の改善に間違いなく有効です。

その一方で、
境界型糖尿病の患者さんに、
メトホルミンなどの薬剤を早期に使用することにより、
糖尿病への進行が抑制されたとする報告も、
複数認められます。
ただ、当然ながら薬に伴う有害事象も少なからず存在するので、
その妥当性についての結論はまだ出ていません。

アメリカ予防医療専門委員会は、
2008年の提言において、
40歳から70歳の年齢で血圧が135/80を超えているケースに限定して、
血糖スクリーニングを行なう、
という方針を表明しました。
血圧と血糖の両者の異常があれば、
心血管疾患のリスクは著明に高まるからです。

それが、その後の知見を経て、
今回(2015年)の提言においては、
肥満のある成人では、
血圧が正常であっても、
血糖スクリーニングの対象として考える、
というように方針を変えています。

スクリーニングとしてはHbA1cの測定が血糖より推奨され、
測定の間隔は異常がなければ3年に一度が妥当だ、
という方針になっています。

血糖スクリーングは弊害は少なく、
特に糖尿病には至らない耐糖能異常のレベルで、
発見して生活指導を行なうことは、
その後の糖尿病の進行を半減させるという意味で、
大きな意味を持つものです。
ただ、糖尿病の患者さんに限って考えると、
本当にスクリーニングがその予後を改善するのかはまだ明確ではなく、
制限なく毎年血糖測定を行なうという日本のスクリーニング方針は、
過剰検査の可能性が高いので、
対象を絞るなど一考が必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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