甲状腺ホルモン治療による甲状腺機能亢進症のリスクについて [医療のトピック]
こんにちは。
石原藤樹です。
10月1日の北品川藤クリニック開院に向け、
準備の真っ最中です。
今日は機材の搬入のある予定です。
明日から2日間は内覧会です。
お近くの方は是非お立ち寄り下さい。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のThyroid誌に掲載された、
高齢者への甲状腺ホルモン治療による、
医原性甲状腺機能亢進症のリスクについての論文です。
甲状腺機能低下症の治療には、
主に甲状腺ホルモンのT4製剤が使用されます。
商品名はチラーヂンSです。
T4製剤は安全性の高い薬ですが、
過剰に使用されると、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑制されます。
更に多い量を使用すると、
T4の血液中の濃度はやや上昇します。
通常T3が上昇することは殆どありません。
TSHが抑制されている、ということは、
身体が甲状腺ホルモンを過剰と認識している、
ということになり、
潜在性の甲状腺機能亢進症になっている、
という言い方が可能です。
この潜在性の甲状腺機能亢進症は、
若干ながら心房細動という不整脈のリスクや、
骨粗鬆症のリスクを増加させる、
という疫学データがあり、
特に高齢者においてはそのリスクの増加が問題となります。
高齢者ではTSHが10を超えない程度の、
軽度の甲状腺機能低下症は、
むしろ生命予後を改善する、という報告もあり、
その点を考慮すると、
甲状腺ホルモン剤の漫然とした使用は、
高齢者において健康上のリスクになっている、
という可能性があるのです。
今回の研究はアメリカにおいて、
加齢の影響を調査した大規模な疫学研究のデータを活用して、
1450名の住民の甲状腺機能と、
ホルモン剤の使用の影響を検証しています。
TSHの基準値は全て統一はされていないのですが、
概ね0.4から0.5mIU/L以下を、
潜在性甲状腺機能亢進症と判断しています。
その結果…
TSHの抑制、すなわち潜在性甲状腺機能亢進症は、
甲状腺ホルモンを使用している患者さんの9.6%に認められ、
その一方で未使用の住民では、
TSHの抑制は0.8%に認められたのみでした。
甲状腺ホルモンを使用中の患者では、
年間1000人当たり、17.7人の比率で、
新規の潜在性甲状腺機能亢進症が発症している、
ということになります。
甲状腺ホルモン製剤の開始は、
80歳以上の女性で多く、
年間100人当たり3人という比率になっていました。
つまり、高齢者においては、
甲状腺ホルモン製剤が使用される頻度が高く、
結果として潜在性甲状腺機能亢進症の頻度も高くなっています。
これは心房細動や骨粗鬆症のリスク増加に結び付く可能性があり、
臨床医は特に75歳以上の高齢者に対しては、
TSHが0.5を切るような補充を慎み、
その使用には慎重であるべきだと考えられます。
僕は個人的には、
T4製剤で若干TSHが低下しても、
その全身に与える悪影響は、
軽微なものに留まる、
という考えを持っていますが、
少なくとも80歳以上の高齢者においては、
TSHがやや高めの方が生命予後の良いことは間違いがなく、
高齢の患者さんではTSHが10を超える場合に限り、
ホルモンの補充を検討する方針としています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
石原藤樹です。
10月1日の北品川藤クリニック開院に向け、
準備の真っ最中です。
今日は機材の搬入のある予定です。
明日から2日間は内覧会です。
お近くの方は是非お立ち寄り下さい。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のThyroid誌に掲載された、
高齢者への甲状腺ホルモン治療による、
医原性甲状腺機能亢進症のリスクについての論文です。
甲状腺機能低下症の治療には、
主に甲状腺ホルモンのT4製剤が使用されます。
商品名はチラーヂンSです。
T4製剤は安全性の高い薬ですが、
過剰に使用されると、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑制されます。
更に多い量を使用すると、
T4の血液中の濃度はやや上昇します。
通常T3が上昇することは殆どありません。
TSHが抑制されている、ということは、
身体が甲状腺ホルモンを過剰と認識している、
ということになり、
潜在性の甲状腺機能亢進症になっている、
という言い方が可能です。
この潜在性の甲状腺機能亢進症は、
若干ながら心房細動という不整脈のリスクや、
骨粗鬆症のリスクを増加させる、
という疫学データがあり、
特に高齢者においてはそのリスクの増加が問題となります。
高齢者ではTSHが10を超えない程度の、
軽度の甲状腺機能低下症は、
むしろ生命予後を改善する、という報告もあり、
その点を考慮すると、
甲状腺ホルモン剤の漫然とした使用は、
高齢者において健康上のリスクになっている、
という可能性があるのです。
今回の研究はアメリカにおいて、
加齢の影響を調査した大規模な疫学研究のデータを活用して、
1450名の住民の甲状腺機能と、
ホルモン剤の使用の影響を検証しています。
TSHの基準値は全て統一はされていないのですが、
概ね0.4から0.5mIU/L以下を、
潜在性甲状腺機能亢進症と判断しています。
その結果…
TSHの抑制、すなわち潜在性甲状腺機能亢進症は、
甲状腺ホルモンを使用している患者さんの9.6%に認められ、
その一方で未使用の住民では、
TSHの抑制は0.8%に認められたのみでした。
甲状腺ホルモンを使用中の患者では、
年間1000人当たり、17.7人の比率で、
新規の潜在性甲状腺機能亢進症が発症している、
ということになります。
甲状腺ホルモン製剤の開始は、
80歳以上の女性で多く、
年間100人当たり3人という比率になっていました。
つまり、高齢者においては、
甲状腺ホルモン製剤が使用される頻度が高く、
結果として潜在性甲状腺機能亢進症の頻度も高くなっています。
これは心房細動や骨粗鬆症のリスク増加に結び付く可能性があり、
臨床医は特に75歳以上の高齢者に対しては、
TSHが0.5を切るような補充を慎み、
その使用には慎重であるべきだと考えられます。
僕は個人的には、
T4製剤で若干TSHが低下しても、
その全身に与える悪影響は、
軽微なものに留まる、
という考えを持っていますが、
少なくとも80歳以上の高齢者においては、
TSHがやや高めの方が生命予後の良いことは間違いがなく、
高齢の患者さんではTSHが10を超える場合に限り、
ホルモンの補充を検討する方針としています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-09-25 06:50
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初めまして。中国地方在住の者です。
甲状腺機能低下症に関する質問なのですが、甲状腺機能低下症の方が風邪をひくと、甲状腺機能低下症の症状が悪化したりすることがあるのでしょうか。
というのも、主人が低下症で、チラーヂン50を処方されて以降、きちんと薬を服用しているにもかかわらず、この連休明けに突然人が変わったように低下症の時のように逆戻りしたので、甲状腺専門医のクリニックを受診したところ、微熱があったそうです。また血液検査の結果、好中球数が高かったので、もし、今後も今回のようなことがあったらいけないので、予防の意味でも風邪をひかないように対策を講じなくてはいけません。
甲状腺機能低下症の方で気を付けなければならない病気は何かありますか?(甲状腺機能低下症の方がかかると甲状腺機能低下症の症状が一時的に悪化することがある病気があれば教えてください。)
お忙しいところ申し訳ありませんが、宜しくお願いします。
by 主人はカープファン、私はヤクルトファン (2015-09-26 15:31)
主人はカープファン…さんへ
通常は副腎不全とは違うので、
甲状腺ホルモンの必要量が、
風邪でそれほど大きく変わるとは考え難いと思います。
ただ、ホルモン剤の吸収は、
お風邪の時には悪くなる可能性はあり、
体調不良があれば、
一時的にホルモン剤の量を増やすのも、
1つの考えではあると思います。
たとえば、その時だけ75マイクロに増量する、
というような対応で、
良いように思います。
by fujiki (2015-09-26 18:08)
お世話になります。
先生にメールで何度か医療相談に乗って頂いたのですが、6号通り診療所の所長さんが代わっていてどうしたら石原先生に相談出来ますか?
by 心配ママ (2015-09-26 23:03)
心配ママさんへ
北品川藤クリニックのメールアドレスを、
10月1日には公開しますので、
そちらにメールを頂ければ、
これまで通りで対応させて頂きます。
もう数日お待ち下さい。
by fujiki (2015-09-27 06:50)