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SGLT2阻害剤による心血管疾患予後改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

10月1日の北品川藤クリニックの開院に向け、
もう1週間となりました。
今日は機材の搬入などが沢山あり、
1日バタバタした状態が続きそうです。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SGLT2阻害剤の心血管疾患予後改善効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
尿へのブドウ糖の排泄を促す薬に、
心血管疾患の予防効果と生命予後改善効果が認められた、
という報告です。

SGLT2阻害剤は、
尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制する薬剤で、
このことにより、
ブドウ糖が尿に大量に排泄され、
血糖値が低下します。

これまでにないメカニズムの新薬として、
日本でも何種類も発売されています。

しかし、
先日記事にしたように、
この薬は膵臓のα細胞に働いて、
グルカゴンの分泌を刺激する作用があり、
それが糖尿病の成因から言って、
病態の改善に逆行するのではないか、
という危惧があります。

そうした点からも、
問題となるのはこの薬の長期成績です。

長期の使用により、
糖尿病の合併症として一番生命予後に影響する、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患に、
どのような影響を与え、
生命予後を改善するかどうかが、
糖尿病治療薬の善し悪しを決める、
最も大きなポイントなのです。

この点について多くの臨床試験が行われていますが、
肯定的な結果が得られたのは、
今回のEMPA-REG OUTCOMEと題された大規模臨床試験が初めてで、
そのために今回の結果は、
非常に注目されているのです。

使用されているSGLT2阻害剤は、
エンパグリフロジン(Empagliflozin)、
日本では6番目に発売されたSGLT2阻害剤で、
ジャディアンスという商品名で使用されています。

世界42カ国で登録された、
7020名の心血管疾患を持っている2型糖尿病の患者さんを対象として、
通常の糖尿病治療(メトホルミンなど)を行なった上で、
患者さんにも主治医にも分からないように、
3つのグループに分けます。
偽薬と、エンパグリフロジン1日10ミリグラム、
そして1日25ミリグラムの3つのグループです。

この用量は日本でも使用されているものと同じです。

平均3.1年の経過観察において、
心血管疾患による死亡と、
急性心筋梗塞と脳卒中の発症とを合わせた事例は、
エンパグリフロジン使用群では、
4687例中10.5%に当たる490例であったのに対して、
偽薬群では2333例中12.1%に当たる282例で、
エンパグリフロジンの使用により、
心血管疾患の発症は、
トータルで14%有意に低下しました。

心筋梗塞や脳卒中の発症については、
両群で有意差はありませんでしたが、
心血管疾患による死亡に関しては、
有意に相対リスクを38%低下させていました。
また、総死亡のリスクについても、
有意に32%低下させていました。

今回の結果はかなり画期的なもので、
3年という短期間で、
これだけ生命予後に差が付いたというデータは、
あまり例がありません。

ただ、今回の結果のみで、
SGLT2阻害剤が糖尿病の患者さんの生命予後を改善する、
と断定的に考えるのはまだ早いという気がします。

どのような患者さんに、
本当にこの薬が有益と言えるのか、
今後のより詳細な検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

kotoko

10ミリグラム、25ミリグラムそれぞれの群では有意差なく、合算群でも95%CI0.74-0.99では微妙な結果ですね
by kotoko (2015-09-25 14:29) 

名無し

CVdeathでは10mg、25mgでも有意差ついてるのと、NNTが39というのには驚きました。
by 名無し (2015-10-02 16:31) 

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