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鴻上尚史「ベター・ハーフ」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

それでは今日2本目の演劇の記事です。

今度はこちら。
ベター・ハーフ.jpg
ニッポン放送との提携という形で、
鴻上尚史の新作公演が、
今下北沢の本多劇場で上演中です。

出演は風間俊介、真野恵里菜、中村中、片桐仁の4人で
(基本敬称略とさせて頂きます)、
少人数での濃密な人間ドラマ、という点では、
かつてのセミクラシックとなった、
3人芝居の「トランス」にちょっと似ています。

ただ、その受ける印象はかなり違います。

「トランス」には恋愛ドラマと共に、
人間同士の共同幻想みたいなものがテーマとしてあり、
精神疾患が作品の核になっていました。
これは小劇場演劇の劇作の、
1つの典型的なパターンであるとも言えます。

一方で今回の作品は、
4人の男女の恋愛模様のみが経時的に描かれ、
それ以外のものは完全に排除されています。
トランスジェンダーの問題が挟み込まれていますが、
恋愛をするキャラクターの、
1つの個性として描かれているだけで、
それが物語の本質を揺るがせる、
というような感じはありません。

これまでにも恋愛の悲喜劇は、
鴻上さんの戯曲では挟み込まれる定番のアイテムで、
筧利夫さんが演じる「鬼畜」のキャラクターなどは、
常に観客の爆笑を約束する鉄板ネタでした。

ただ、それ自身がストーリーの核となり、
テーマとなる、ということはなかったと思います。

それが今回の作品では、
「鬼畜」を体現する片桐仁のキャラは、
そのままストーリーの縦糸となっていて、
基本的にそれ以外のストーリーは存在していません。
同じような縦糸が他の3人のキャストにもそれぞれあり、
それがそのまま撚り合ったものが、
この作品ということになります。

それがある意味、
純粋で新鮮な感じを与えているのです。

ここで終わっては詰まらないとは思いますが、
鴻上さんとしては新たな試みであったように思いますし、
今回に関しては、
キャスト4人の堂に入った演技の助けも得て、
一定の成功を治めていたように思います。

個人的には、
オープニングから前半の30分くらいは、
圧倒的に面白くて、
これは鴻上尚史大復活ではないかしら、
と思ったのですが、
同じような展開が1時間を過ぎても延々と続くので、
まさかこのまま「艶笑喜劇」として終わってしまうのかしら、
とちょっとずつ不安になり、
結局最後までそのまま終了したので、
やや肩透かしにあったような気分になりました。

これで本当に良かったのでしょうか?

以下ネタバレを含む感想です。

広告や宣伝の仕事に入れ込む仕事人間の風間俊介は、
上司の片桐仁から、
自分の代わりにデートをしてくれと頼まれます。
ネットのみで知り合った女性に、
自分ではなく風間の写真を、
自分として送ってしまった、と言うのです。
しかし、デートで知り合った真野恵里菜は、
実はそちらも身代わりで、
実際に片桐仁とネットで付き合っていたのは、
トランスジェンダーのピアニスト、
中村中だったことが分かります。
真野恵里菜は芸能界を目指しながら、
デリヘルでバイトをしていることを隠していて、
この4人の恋愛模様が、
万華鏡のようにクルクルとその役割を変えながら、
いつ終わるともなく展開されます。

オープニングはカットインする小気味よい音楽と共に、
スタイリッシュなダンスから始まり、
それから雪崩込むように、
片桐仁と風間俊介の会話に入ります。

「朝日のような…」以来定番の、
いつもの鴻上戯曲の導入パターンですが、
今回は装置や演出がとても上手く機能していて、
一気に作品に引き込まれます。

ジグソーパズルを使ったシンプルなセットが面白いですし、
そこに映像が投射される効果も洒落ていて、
オープニングのダンスでは、
映像で登場人物の影を映しているのですが、
それが綺麗にシンクロするのもさすがです。

鴻上さんと言うと、
良くも悪くも極めて素人的で高校演劇のような、
アマチュア的演出が特徴だったのですが、
今回は一貫してプロの演出だったと思います。

特に4人がキャンプへ行く場面で、
一瞬だけ星空と、
そこに浮かぶジグソーパズルの月を見せたことや、
風間俊介と中村中が別れ、
その後で同じ部屋に真野恵里菜が入って来るという2つの場面を、
同じ空間で同時に演じる趣向などは、
かつての鴻上さんからは想像の出来ないような、
完成度の高い演出が光っていました。

役者は4人とも好演で、
テンポも良く、作品の世界を十全に表現していました。

観客の観たいものは全て見せる、
というあざといくらいのサービス精神で、
中村中は生歌を何度も披露し、
真野恵里菜は何度もコスプレ姿を披露します。

甘い緑茶をPRする、
という話など、
それらしい情報をちりばめた世界もさすがです。

ただ、物語は本当に陳腐な恋愛模様を、
面白おかしくひたすら並べただけのものなので、
それが今回の趣旨であることは分かるのですが、
鴻上さんの芝居を観続けている者としては、
何か物足りないものを感じることも事実です。

ラストは中村中の歌で締め括られますが、
もし歌がなければ、
終われなかった芝居であったように思います。

感動的な歌があるので、
何となく、ああこれで終わりなのね、と思ってしまうのですが、
良く考えれば物語の最初と何も変化はしておらず、
そのまままた同じ話が始まっても、
そう違和感はないようにすら思います。

それも1つの今回の趣旨であったのかも知れませんが、
僕には矢張りこれだけでは、
せっかく水準の高い舞台が実現したのですから、
非常にもったいないように感じました。

少なくとも後半は、
もっと別の次元に、
観客を誘って欲しかったと思います。

それこそが演劇ではないでしょうか?

そうした不満は残るのですが、
最近の鴻上さんの作品の中では、
「朝日のような…」の再演を除けば、
最も楽しめた作品であったことは間違いがなく、
鴻上ファンは観ておいて損はないと思います。

そこそこお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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