SSブログ

高コレステロール血症と糖尿病の発症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高コレステロール血症と糖尿病リスク.jpg
先月のJAMA誌に掲載された、
家族性高コレステロール血症と2型糖尿病の発症についての、
非常に興味深い疫学データの文献です。

血液中のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行し易く、
それが心筋梗塞などのリスクになることは、
明確に実証された知見です。

その影響は、
特にコレステロールを組織に運び入れたりするメカニズムが、
先天的に障害されている、
所謂家族性高コレステロール血症の患者さんで顕著です。

糖尿病も動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中の発症のリスクになることは、
これも明確に実証された事実です。

さて、高コレステロール血症においては、
スタチンと呼ばれるコレステロールの降下剤を使用します。

これはコレステロールの肝臓での合成を抑えることが、
主な作用の薬ですが、
それ以外に抗炎症作用もあり、
そうした作用を併せ持つことによって、
心血管疾患、特に心筋梗塞の予防になることが、
これも明確に実証されています。

ところが…

スタチンの治療を行なうと、
2型糖尿病の発症のリスクが、
トータルで9%程度増加することが、
複数の疫学データにより確認されています。

この糖尿病の発症の増加は、
スタチンの主作用である、
コレステロール合成酵素の活性が、
生まれつき低下している患者さんでも、
同様に確認されることから、
コレステロール合成酵素の抑制自体が、
その原因であると考えられています。

高コレステロール血症は心筋梗塞のリスクを増加させますが、
そのリスクを下げる目的でスタチンを使用すると、
同じく心筋梗塞のリスクを増加させる要因である、
糖尿病の発症リスクを増加させるのですから、
トータルではスタチンの有用性は確認はされていますが、
処方する医師としては、
非常にジレンマを感じるところです。

それでは、
何故スタチンを使用すると、
糖尿病が発症し易くなるのでしょうか?

これは明確には分かっていません。

1つの推論としては、
膵臓のインスリン分泌細胞に、
過剰なコレステロールが流れ込むことにより、
インスリン分泌細胞が障害されるのでは、
というメカニズムが想定されています。

スタチンを使用すると、
コレステロールの合成が強く抑制されます。

すると、
身体は代償的に多くのコレステロールを細胞に取り込もうとして、
コレステロール(LDLコレステロール)の受容体の数が増加します。

要するにそれだけ多くのコレステロールが、
細胞内に移行することになり、
それがインスリン分泌細胞においては、
一種の細胞毒として機能するのでは、
という推論なのです。

細胞の培養実験のレベルでは、
細胞に取り込まれるコレステロールの量を増やすことにより、
インスリンの分泌細胞の細胞死が誘導されることが確認されています。

これが事実であるとすると、
先天的にコレステロールの受容体が少なく、
コレステロールの細胞内へ取り込みが低下している、
家族性高コレステロール血症の患者さんでは、
2型糖尿病は発症し難いのではないか、
という推論が同時に可能です。

今回のデータはその点を確認したもので、
オランダにおける大規模な先天性疾患のスクリーニングデータを活用して、
遺伝子診断のなされた家族性高コレステロール血症の患者さんと、
発症はしていないその家族のデータとを比較して、
2型糖尿病の発症リスクと、
コレステロールの細胞内取り込みとの関連を検証しています。

その結果…

家族性高コレステロール血症の患者さん25137名中、
2型糖尿病を合併していたのは1.75%に当たる440名で、
対照となる発病していない家族38183名中では、
糖尿病の合併は2.93%に当たる1119名でした。

つまり、
家族性高コレステロール血症であることにより、
2型糖尿病を合併するリスクは、
38%有意に低下していました。

糖尿病のリスクとなる因子を補正した場合、
家族性高コレステロール血症の2型糖尿病合併リスクは1.44%で、
これは高コレステロール血症のない場合と比較して、
51%そのリスクを有意に低下させたことになります。

更にはより血液のコレステロール値が高いほど、
2型糖尿病の合併は少ない、
という相関も認められました。

原因となる遺伝子の変異毎に見てみると、
細胞内へのコレステロールの取り込みに関連する、
LDL受容体が欠損しているタイプにおいて、
2型糖尿病合併リスクは1.12%と、
最もそのリスク低下が大きいという結果になっていました。

これは敢くまである時点での、
2型糖尿病の合併の頻度を見たものなので、
本当にコレステロールの細胞内への取り込みの増加が、
2型糖尿病発症の原因であるとは言えません。

敢くまでそれを示唆する可能性のあるデータ、
というレベルに留まるものです。

ただ、近年になり高コレステロール血症と2型糖尿病、
そしてスタチン治療との関係が、
かなり整理されて来たことは事実で、
今後データが更に蓄積されれば、
「事実」となる可能性は高いように思います。

現状ではトータルには、
若干の糖尿病のリスクが存在していても、
スタチン治療の心血管疾患の予防としての、
必要性は揺るがないのですが、
今後よりメカニズムの解明が進むことにより、
患者さんの病態や糖尿病の発症リスクによって、
スタチンの適応は変わるようになるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(33)  コメント(5)  トラックバック(0) 

nice! 33

コメント 5

モカ

石原先生、こんにちは。
今回も興味深く拝見しました。

以前ピタバスタチン(商品名リバロ)は糖尿病への影響が少ないと書かれていたのですが、やはりだめなのでしょうか。
夫が高コレステロール血症状態だったのですが、リバロで劇的に改善しました。
血糖値は食事でだいぶうまくコントロール出来ています。
by モカ (2015-04-06 09:52) 

dumbo

fujikiさま、こんにちは。
なぜ[ LDLを多く「含む」食事、HDLを「増やす」食事 ]といって、
[ HDLを多く「含む」食事 ]と、いわないかといったことが疑問で、
調べたことを思い出しました。
いつも興味深いご報告ありがとうございます。
by dumbo (2015-04-06 11:10) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
確かにリバロは糖尿病リスクを上げない、
とするデータはあるのですが、
日本のみのもので、
海外では殆ど使用されていない薬ですし、
コレステロール合成酵素を抑えること自体が、
糖尿病の発症に結び付く、という理解で行くと、
スタチン全てにそうしたリスクがあると、
考える方が自然だと思います。
ただ、ダメということではなく、
動脈硬化の予防効果と比較すれば、
糖尿病のリスクの増加は軽微なものなので、
トータルにはスタチンの有用性は揺るがないと思います。
by fujiki (2015-04-07 06:36) 

fujiki

dumboさんへ
コメントありがとうございます。
LDLとLDLコレステロールが多いとか少ない、
という言い方はかなり紛らわしいですね。
by fujiki (2015-04-07 06:37) 

モカ

石原先生、ご返事ありがとうございます。
なるほど、日本のデータしかないのですね。
これからも主治医と相談しながらリバロを使いたいと思います。
ありがとうございました。
by モカ (2015-04-07 12:00) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0