SSブログ

大気汚染の改善と小児の肺機能の発達との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大気汚染と小児の肺機能.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
大気汚染の改善が小児の肺機能に与える影響についての論文です。

大気汚染や光化学スモッグという概念は、
アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで始まりました。
人口の急激な増加と車の排気ガスなどの影響で、
大気汚染が進行したのです。
その状況は既に1940年代から認められています。

日本では1970年から光化学スモッグの存在が問題となり、
1973年が光化学スモッグ警報のピークになります。

僕はその頃東京に住んでいる小学生でしたが、
当時は授業中などに盛んに光化学スモッグ警報が発令され、
体育は中止されて教室待機となり、
教室の窓も厳重に閉め切られ、
早くに学校が終わったりもしました。
僕は学校は大嫌いで、
殆ど苛められた嫌な思い出くらいしかありませんから、
授業をなくしたりしてくれる「光化学スモッグ」に、
そう悪い印象は持ちませんでしたが、
確かにあの頃の東京の空は、
ギラギラとした光を放って澱んでいて、
これは身体に悪そうだな、
と言う思いはありました。

1971年に「ゴジラ対ヘドラ」という映画があって、
封切りで見に行きました。
ヘドロから生まれた怪獣とゴジラが戦う、
かなり厭世的で暗い感じの映画でした。
同年にスペクトルマンというヒーロー物があって、
こちらはヘドロンとかネオヘドロンなどという、
公害怪獣が沢山登場しました。

公害ばかりを広めている人間なんて滅べば良いのに、
というのが当時の小学生の平均的な考えで、
そうした駄目な人間でも、
助けてくれる正義のヒーローや正義の怪獣が、
沢山いるのが高度成長期の日本でした。

当時の子どもは、
世界の終りや人間の消滅を話題にしていました。
日本という狭い世界のことは考えていなかったのです。
それは、日本がアメリカの力でガッチリと守られていた、
「平和」な時代の産物でもあったように思います。

話を元に戻します。

1980年代くらいには、
色々な対策の効果もあって、
日本でもかなり大気汚染は改善しました。

ロサンゼルスにおいても、
大気汚染は改善しつつあったのですが、
1990年代になって注目されるようになったのが、
pm2.5と呼ばれるような、
非常に大きさの小さな粉塵の影響です。

pmというのは粒子状物質の意味で、
そのうち大きさが10マイクロメートル未満のものが、
pm10で、
2.5マイクロメートル未満という非常に小さなものが、
pm2.5です。

大気汚染への対策というのは、
要するに産業の抑制策でもありますから、
産業界としては、
もう大分空気は綺麗になったのだから、
これくらいでいいじゃないか、という意見が当然出るのですが、
それに対して、
いやいや、pm2.5のような微粒子の影響は、
人体にはより大きな可能性があるので、
もっとその低下を目標とすることが必要だ、
という意見が出るのです。

ただ、このpm2.5のような微粒子の影響については、
必ずしも明瞭な人体への悪影響が、
確認されている訳ではありません。
疫学データはありますが、
特に軽度の汚染状態においては、
それほどクリアな結果とは言えないものが殆どです。

今回のデータはそうした「軽度の」大気汚染の影響を、
小児の肺機能の発達、という観点から検証したものです。

大気汚染のメッカであるロサンゼルスにおいて、
小児健康調査の一環として、
1994年から1998年、1997年から2001年、2007年から2011年の、
3つの期間に、
4年の経過観察で行われた3つのコホート研究から、
小児の呼吸機能のデータを解析し、
それを大気汚染の程度と比較検証しています。

小児の例数は合計2120名で、
11歳の時点でエントリーし、4年後の15歳まで、
毎年1回肺機能検査を行ないます。

肺機能の指標は肺活量と、
1秒間に肺に貯めた空気の、
どれだけを吐くことが出来たかという、
1秒量の数値です。

成長期ですから、
この年数の間に肺活量も1秒量も増加しますが、
その4年間の増加量を、
3つの時期の違うコホートで比較します。

大気汚染の指標は、
大気中の二酸化窒素濃度、
pm2.5濃度、そしてpm10濃度が使用されています。

その結果…

大気汚染濃度の数値は、
いずれも期間が新しいほど低下しています。
つまり、空気は綺麗になっています。

3つの時期のおける肺活量と1秒量の増加量は、
二酸化窒素濃度、pm2.5濃度、pm10濃度のいずれとも、
有意に負の相関を示していました。
つまり、大気の有害物質の濃度が低くなるほど、
成長期の肺機能はより大きく成長しています。

この関連は男女を問わず、
また喘息と非喘息の違いを問わず成立していました。

15歳の時点での1秒量が、
予測値の80%未満であった比率は、
1998年には7.9%であったのが、
2001年には6.3%に、
そして2011年には3.6%に有意に低下していました。

つまり、
1990年代以降の軽度の大気汚染の状態においても、
成長期のお子さんでは、
その程度に応じて肺機能の発達は鈍化し、
呼吸機能が病的に低下したお子さんの比率も増加します。

従って、この結果が事実とすれば、
現状の基準で良しとするのではなく、
より清浄な大気を目指すことが、
お子さんの肺の健康を守るためには重要だと考えられるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(26)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 26

コメント 2

ちょんまげ侍金四郎

>光化学スモッグ
懐かしいですね。
一度だけ、目が痛くなったことがありました。
by ちょんまげ侍金四郎 (2015-04-07 12:02) 

fujiki

ちょんまげ侍金四郎さんへ
コメントありがとうございます。
そうですね。何か今になると懐かしい感じがします。
by fujiki (2015-04-08 08:44) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0