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パロキセチンによる心機能改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
パキシルの心筋再生効果.jpg
今月のScience Translational Medicine誌にウェブ掲載された、
抗うつ剤であるパロキセチンにより、
心筋梗塞後の心臓の機能が改善したとする、
ネズミの実験ではありますが、
かなりインパクトのある内容の論文です。

心筋梗塞を起こした後に、
数週間から数か月という短期間の間に、
心臓の内径が大きくなって、
心臓の機能が低下する現象が起こることがあり、
心筋梗塞の患者さんの予後に影響を与えます。

これを心臓リモデリングと呼んでいます。

心筋梗塞というのは、
心臓の筋肉が部分的に壊死することですから、
壊死した心筋はその後線維化して固くなり、
それを代償しようと周囲の心筋は肥大します。
これは通常の代償機転で意義のあるものですが、
何故か心筋梗塞を起こしていない心筋でも、
広く心筋細胞の肥大や間質の線維化が進行するので、
心臓は全体に固くなり、
その機能は低下します。

これが心不全の進行する、
1つのメカニズムだと考えられています。

心臓のリモデリングには、
複数の誘因があると考えられます。

そのうちの1つが、
心筋に対する交感神経の緊張状態が持続することです。

心筋梗塞が起これば、
心臓の働きが一時的に低下しますから、
それを代償しようとして、
交感神経の緊張は高まり、
脈拍は増加して、心臓の収縮力も高まります。
これも正常の代償機転として意義のあるものですが、
急性期を過ぎてもこの緊張状態が持続することが、
心臓リモデリングの要因の1つと考えられています。

それでは、
何故交感神経の緊張は持続するのでしょうか?

最近注目されているのが、
GRK2(G蛋白共有受容体キナーゼ2)という酵素の関与です。

心機能が低下して、
心臓リモデリングが進行した状態においては、
心筋におけるこの酵素の活性が亢進していて、
それが交感神経のβ受容体を刺激し、
心臓における交感神経の過緊張の持続を、
作り出していると想定されています。

そして、
この酵素の活性を阻害することにより、
心臓における交感神経の緊張が抑えられ、
心臓のリモデリングが抑制されて、
心機能の低下が予防されることが、
ネズミの実験では確認されています。

交感神経の緊張を抑える目的では、
β遮断剤という薬剤が使用されていますが、
使い方を誤れば、
心臓の働きを致命的に弱めてしまうリスクがあり、
また全身的な副作用も多いことから、
その使用は常に予後の改善に結び付く訳ではありません。

もっと直接的に原因であるGRK2を抑えることが出来れば、
より有用で安全な治療となる可能性があります。

しかし、現状では臨床して使用出来るような、
GRK2の阻害剤は存在してはいないのです。

上記文献の著者らは、
これまでの研究において、
SSRIというタイプの抗うつ剤として使用されている、
パロキセチン(商品名パキシルなど)に、
明瞭なGRK2阻害作用があることを確認しました。

抗うつ作用とは別箇に、
構造上GRK2との結合部位があり、
その活性を阻害する、ということのようです。

そして今回、ネズミを使った動物実験において、
急性心筋梗塞後の心臓(左室)リモデリングが、
パロキセチンの投与により、
予防可能かどうかを検証しています。

人為的に急性心筋梗塞を起こしたネズミにおいて、
心筋梗塞後2週間の時点で、
パロキセチンを使用した場合と、
同じSSRIのフルオキセチンを使用した場合、
そして何も使用しないコントロールに分けて、
薬剤は4週間継続的に服用させ、
その後の心機能の経過を比較しています。

フルオキセチンにはGRK2阻害作用はないことを確認しています。
また、使用されたパロキセチンの用量は、
血液濃度においては、
人間で抗うつ剤としての使用時にも、
到達し得る範囲で設定されています。

その結果はかなり驚くべきもので、
梗塞後2週間の時点では、
全てのネズミにおいて左室は拡張し、
心機能の低下がび漫性に認められましたが、
パロキセチンを投与したネズミにおいては、
4週間後に心機能は著明に改善し、
左室の拡張も投与前より改善が認められました。

実際に心筋の細胞を取ってみても、
パロキセチンの使用により、
心筋の線維化は抑制されていました。
そうした効果は、
同じSSRIのフルオキセチンでは認められませんでした。

更に交感神経の抑制に現行は用いている、
β遮断剤との比較において、
パロキセチンはβ遮断剤に遜色のない効果を示しました。

提示されている心臓の超音波所見などは、
明瞭なパロキセチンの効果を示していて、
現状心臓のリモデリングに対する特効的な薬剤のない現状では、
かなりこの結果は魅力的です。

ネズミの実験ではありますが、
かなり臨床に近い条件が設定され、
単なる血液濃度での比較ですが、
実際の人間への抗うつ剤としての使用量で、
効果が得られている点も魅力です。

今後実際に臨床での試験が、
是非施行されるべきだと思いますし、
それと同時により純粋なGRK2阻害剤の、
開発にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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