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新出生前診断とその精度について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
新出生前診断のマジック.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌の巻頭に掲載された、
解説記事です。

これは日本でも先日話題になった、
胎児の出生前診断についての記事です。

お子さんにダウン症などの異常がないかどうか、
出生前早期に診断する方法には、
これまで簡易的な血液検査と、
羊水検査や絨毛検査とがありましたが、
簡易の血液検査は直截的に遺伝子の異常を見ているものではないので、
それほど正確なものではなく、
羊水検査や絨毛検査は羊水腔に針を刺して採取するものなので、
流産などのリスクを伴うという問題がありました。

勿論こうした検査自体、
生命の選別に繋がる、というような批判もありますが、
それは今回は触れないことにします。

2011年以降、特に2012年になってから、
通常の血液検査において、
お母さんの血液中に微量に混合する、
胎児の遺伝子の断片を集めて解析する、
という遺伝子診断の手法が開発、商品化され、
これまでの血液検査とは比べ物にならない精度で、
ダウン症など幾つかの染色体異常と、
お子さんの性別の診断が、
妊娠週数9週という、
非常に早期の時点で可能になりました。

現在アメリカにおいては、
4種類の検査キットが発売されていますが、
その感度、すなわち染色体異常のあるお子さんで、
検査が陽性になる確率は98%を越え、
特異度、すなわち遺伝子異常のないお子さんで、
検査が陰性になる確率は99.5%を超えています。

2012年の12月に発売されたPanoramaという名称の検査は、
該当する3種類の遺伝子異常のいずれにおいても、
感度、特異度共に100%という結果になっています。

感度も特異度も100%に近い数値であるなら、
その検査は完璧なものであると、
皆さんはお考えになるかも知れません。

しかし、実際には必ずしもそうではありません。

感度や特異度という指標は、
あくまで最初から遺伝子異常のあるなしが分かっている血液で、
検査を行った場合の話だからです。

あくまで限定した検査の範囲での話ですし、
実際にはその検査を行なう集団の性質によっても、
その検査の正確性は異なります。

ここに陽性的中率(Positive Predictive Value; PPV)という指標と、
陰性的中率(Negative Predictive Value; NPV)という指標が、
新たに存在します。

これは遺伝子異常のあるお子さんとそうでないお子さんとが、
混ざっている通常の集団において、
検査が陽性であった人のうち、
実際に遺伝子異常のあるお子さんが、
どれだけいたかの確率と、
検査が陰性であった人のうち、
実際に遺伝子異常のないお子さんが、
どれだけいたかの確率です。

ここで上記の記事に書かれている、
計算の実例をご紹介します。

仮に非常にハイリスクな集団に、
この検査を行なうとします。
その集団では8人に1人がダウン症になっています。

検査の感度が99.7%で特異度が99.9%であるとすると、
PPVは97.94%でNPVは99.99%です。

つまり、
こうした集団であれば、
感度と特異度のデータとほぼ同じ結果が、
集団に検査を行なっても成立します。

ところが…

ここで200人に1人の確率で、
ダウン症が生じる集団を考えます。

これは35歳の妊娠されている女性の、
第2四半期のダウン症の確率にほぼ一致する数値です。

この集団で同じ検査を行なうと、
計算上PPVは62.59%に低下するのです。

出生前診断の検査を販売しているメーカーは、
感度と特異度のデータは発表していますが、
本当はより重要なPPVやNPVの数値に関しては、
殆ど発表していません。

また、この検査を利用した臨床研究においても、
概ね8人に1人の確率で染色体異常が見られるような、
非常にリスクの高い集団でしか、
この検査の精度を検証はしていません。

それはこうしたリスクの高い集団であれば、
メーカーの発表した感度や特異度の数値と、
実際のPPVやNPVの数値とが、
それほど乖離しないことが分かっているからです。

しかし、実際にはこの検査は個々の医療機関において、
様々な集団に行なわれることになるので、
その場合にこの検査にどのような信頼性があるのか、
という点については、
実際にはまだ明確ではない、
という点に注意が必要なのです。

アメリカにおいては当該の学会等において、
ある程度の出生前診断のガイドラインが設けられ、
あくまで一般のお母さんに行なうのではなく、
非常に染色体異常のリスクの高いお母さんに限って、
検査を行なうこととされていますが、
その基準は必ずしも明確にはされていません。
また、この検査のみでは染色体異常の診断にはならず、
あくまで羊水検査や絨毛検査により確認すること、
とされています。

しかし、
この検査の利点は染色体異常の有無を、
より安全な方法で知ることが出来る、
という点にあるのに、
結局は羊水検査を行なうのだとすれば、
あまり意味がないのではないか、
という見解もあるようです。

日本においては、
シーケノム社のキットが採用されて、
現在22の施設がこの検査の施行施設として認定され、
一定の施行基準も設けられつつありますが、
実際にはこれは一種の紳士協定で、
高齢出産や染色体異常の遺伝的なリスク、
などの施行基準も、必ずしも明確なものではない上、
お母さんが強く希望されてお金も払う、ということであれば、
基準通りに検査が行われる、という保証もなく、
こうした検査が実際には広い範囲で行われることは、
日本においてもアメリカにおいても、
不可避であるように僕には思えます。

新しい検査の価値や実際の精度というものは、
矢張りある程度一般に検査が普及してみないと、
分からない性質のものなので、
一般の方も新しい検査に過度の期待は持たないで頂きたいと思いますし、
より慎重にその施行については、
お考え頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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