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ピロリ菌の2段階除菌法のメタ解析について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ピロリ菌除菌治療のメタアナリシス.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
ピロリ菌の比較的新しい除菌法の効果を、
他の治療法と比較した、
これまでの文献をまとめて解析した、
メタ解析の論文です。

胃の中にはヘリコバクター・ピロリ菌という、
細菌の一種が持続的に感染することがあり、
それが胃癌や胃潰瘍、
萎縮性胃炎などの原因や誘因になっていることは、
皆さんもよくご存知の通りです。

そのため、
ピロリ菌の感染が確認されれば、
多くの場合にその除菌治療が検討されます。

胃癌や胃潰瘍、慢性萎縮性胃炎など、
現時点ではその病名には制限がありますが、
健康保険によるピロリ菌の除菌治療も、
認められています。

しかし、
1つの大きな問題は、
その除菌治療のやり方です。

現在日本においては、
2種類の抗生物質とプロトンポンプ阻害剤という胃薬とを、
一緒に1週間継続して飲む、
という治療が採用され、
その抗生物質の種類により、
2つの方法が認められています。

そのうちの第一は、
アモキシシリンというペニシリン系の抗生物質と、
クラリスロマイシンという抗生物質を、
プロトンポンプ阻害剤と共に使用する方法で、
その用量は、
アモキシシリンが1日1500mg、
クラリスロマイシンが1日400~800mgと決められています。

そして、第二の方法は、
クラリスロマイシンの代わりに、
メトロニダゾールという抗菌薬を、
1日500mgで使用する、
というものです。

日本の場合やや特殊なのは、
まず第一の方法を行ない、
それで失敗した場合に、
第二の方法を用いる、
というように決められていることで、
理由なく最初から第二の方法を、
用いることは原則として認められていません。

問題は関連学会等の見解としても、
数%はどちらの治療法でも除菌が失敗する患者さんがいることで、
この場合は必要性が高ければ、
別個に自費診療の形で、
他の方法による除菌治療を試みることになります。

これを日本では3次除菌と呼んでいます。

僕の知識の範囲では、
日本においての3次除菌治療のトレンドは、
プロトンポンプ阻害剤とペニシリンに加えて、
レボフロキサシン(商品名クラビットなど)や、
シタフロキサシン(商品名グレースビット)という、
ニューキノロン系の抗菌剤を併用する方法です。
これを7日~14日連続して内服します。

ただ、
この方法でも除菌率は100%にはなりません。

健康保険で認められている除菌治療の問題点は、
日本ではクラリスロマイシンの耐性菌が多いのにも関わらず
(2010年に37%というデータがありますが、
実際の頻度はもっと多いのでは、
と個人的には思います)、
それを含む方法が第一選択になっていることと、
薬剤の使用量や使用期間が、
海外の方法よりも、
少なく設定されていることです。

これは除菌治療のみならず、
健康保険で採用されている治療全てに言えることですが、
決定時には医療経済的な側面が優先されるので、
薬の使用量や使用期間は、
海外より少なく短く設定されることが多く、
かつ採用後に定期的にその効果が検証される、
というようなことがないので、
より良い治療が開発され、
医療費的にもそれほど差がないのに、
それがすぐには健康保険では採用されない、
という欠点があります。

日本は皆保険の国なのですから、
最も重点的に研究されるべきなのは、
実際に保険で採用されている方法による、
治療成績の筈です。

しかし、
実際には一流の医学誌に載るような研究が、
その分野で定期的になされる、
ということはあまりなく、
専門分野の偉い先生はいつも、
「こんな良い治療があるのに日本では出来ない」
というような愚痴を、
常に呟いているような気がします。
そんな愚痴を呟く暇があるくらいなら、
勿論医療経済的な側面は勘案しながらも、
常にその分野で最善と思える治療が、
健康保険で可能なように、
そうした治療のアップデートが簡単に出来るようなシステムと、
その検証が可能なような研究環境を、
整えることに精力を傾けるべきではないか、
と思いますが、
どうもそうした方向に、
物事が進む気配はなさそうです。

ご存知のように、
ピロリ菌の感染はアジアに多いので、
ピロリ菌の除菌の研究も、
あまり欧米では熱心に行なわれていません。

上記の文献は広くピロリ菌の除菌法を論じていて、
これまでの多くの知見をまとめていますが、
その中に日本の論文は1編も採用はされておらず、
その一方、中国、台湾、韓国の文献は複数採用されています。

おそらく世界一除菌治療を行なっている日本において、
この業績の少なさは、
他の領域にも通じる、
日本の医療の問題点を、
あぶりだすもののように、
僕には思えます。

さて、
海外においても、
通常推奨されている治療法における、
除菌の失敗の事例の多さが問題となっています。

アメリカのガイドラインにおいて推奨されている治療は、
プロトンポンプ阻害剤と、
アモキシシリン及びクラリスロマイシンの併用ですから、
日本の一次除菌と組み合わせは同じですが、
使用期間は7日で、
クラリスロマイシンの使用量は1日1000mg、
アモキシシリンは1日2000mgです。
場合によってアモキシシリンの代わりに、
ペニシリン中毒の患者さんなどでは、
メトロニダゾールが使用されます。

しかし、
この除菌法の有効率は、上記の文献によれば、
アメリカで71%、ヨーロッパでは60%に留まっています。

本来理想的な除菌治療は、
90%以上の患者さんで、
除菌が成功する、というものですから、
これでは不充分なものと言わざるを得ません。

そのため多くの別個の除菌法が開発され、
臨床研究が行なわれています。

その中で有望とされている方法の1つが、
以前もご紹介したことのある、
2段階除菌法(sequential therapy)です。
(連続治療と訳されることがありますが、
僕はそれでは分かり難いので、
こうした表記にしています)

これは最初から最後まで同じ薬の組み合わせをするのではなく、
前半と後半とでその組み合わせを変える、というもので、
今回の文献の雛型とされている方法では、
まず前半の5日間が、
プロトンポンプ阻害剤にアモキシシリンを1日2000mg、
後半の5日間がプロトンポンプ阻害剤に、
クラリスロマイシンを1日1000mgと、
メトロニダゾールという組み合わせです。
メトロニダゾールは概ね1日1000mgですが、
同系統の別の薬剤が使用されることもあります。

この治療はイタリアを主体に多くの論文がありますが、
その多くは症例数が少ないものなので、
今回の文献においては、
この2段階除菌法とそれ以外の除菌法とを、
比較したこれまでの主要な文献をまとめて解析し、
その効果を比較しています。

前述のように、
2段階除菌法を扱った日本の文献はあまりなく、
今回採用されたものはありません。

その結果…

2段階除菌法は、
現行の日本の一次除菌として採用されている、
3種類の薬剤の組み合わせによる1週間の除菌法と比較すると、
明確に優れている、という結果でした。
2段階除菌によるトータルな除菌の成功率は84.3%で、
従来の方法では71.5%でした。

従来の方法で治療期間を10日にすると、
2段階除菌はやや優れている、
というレベルになり、
14日の治療期間と比較すると、
その優越性は明確ではなくなります。

他に最近注目されている除菌法として、
ビスマス製剤を併用した4剤併用の処方がありますが、
こうした除菌法との比較では、
2段階除菌法の優越性は示されませんでした。

要するに2段階除菌法は、
現行の日本で保険適応されている除菌法と比較すれば、
明確に優越性がありますが、
除菌の期間を2週間に延長すれば、
その差は殆どなくなり、
9割以上の除菌成功率が必須、
という考えからすると、
明確に他の除菌法より推奨される、
というレベルには至っていません。

日本では別個の治療法を用いて、
単独の医療機関のレベルでは、
100%の除菌成功率、
というように主張されている先生も、
複数いらっしゃいますが、
一流の医学誌で論文として評価されている
(勿論捏造ではなく)
ようなケースは皆無で、
これでは矢張り不味いのではないかと思いますし、
ピロリ菌を冠した学会まであるのですから、
是非その英知を結集して、
理想的な除菌治療を、
世界に発信して頂くことを期待したいと思いますし、
そうでなければいけないのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

テツ

こんにちわ。

僕は、胃の具合も悪いので(逆流性食道炎・機能性ディスペプシア)、とても参考になりました。
幸いにもピロリ菌には感染してないです。

先日、主治医の先生にアコファイドという新薬が出たから変えてみないか?という提案がありました。
アコファイドにすれば、ムコスタ・ガスモチン・ガストロームを飲まないでいいよ、ガスターのみでいいよ、と言われました。
石川先生のところでは、アコファイドを使用されてますか?
もし、使用されてるならば患者さんの感想はどうですか?
アコファイドを夕飯前に服用すると効果は翌朝まで持ちますか?
もし、よろしければ教えていただければ幸いです。
by テツ (2013-08-24 14:34) 

テツ

石川・・と間違えて表記しました。
申し訳ございません。
by テツ (2013-08-24 14:36) 

fujiki

テツさんへ
私は新薬には慎重な立場なので、
現時点であまりアコファイドは使用していません。
この薬はアセチルコリンエステラーゼの阻害剤なので、
アセチルコリンが高くなることのリスクが、
現時点でどの程度有り得るか、
明確ではないように思うからです。
ただ、この薬が効果のある可能性もあると思うので、
1回お試し頂いても、
良いのではないかと思います。
by fujiki (2013-08-27 08:33) 

テツ

先生、お返事ありがとうございました。
私も新薬は慎重に考えています。
実際、治験では得られなかった副作用や効果がどう現れるか?と考えると、もう少し時間を置いて、服用した患者さんの効果が分かってきてからのほうがいいかも?って思ってしまいます。
主治医と相談の上、1回飲んでみるか考えたいと思います。
ありがとうございました。
by テツ (2013-08-27 09:00) 

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