ブドウ糖と果糖の脳に与える影響の違いについて [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJAMA誌に掲載された、
ブドウ糖と果糖の、
脳に与える影響についての論文です。
糖尿病の患者さんでは、
秋に血糖値が上昇したり、
体重の増加が生じることがあり、
お聞きしてみると、
「果物の食べ過ぎ」ということが、
しばしばあります。
このように果実に含まれる果糖の過剰摂取が、
肥満や糖尿病の悪化、
インスリン抵抗性などとの関連性が高いことは、
疫学的には良く知られた事実です。
しかし、
何故果物で糖尿病が悪化するのでしょうか?
果物に多く含まれる糖質である果糖は、
その代謝にブドウ糖ほど、
インスリンを必要とはしません。
その証拠に、
果糖を摂取してから、
その後のインスリンや血糖値を測っても、
その数値は僅かにしか上昇はしないのです。
これはつまり、
果物を食べても、
直接的には血糖はあまり上がらない、
ということです。
それでは何故、
果物で糖尿病は悪化するのでしょうか?
一時的に血糖値は上昇しなくても、
過剰にカロリーを摂れば、
それはまわりまわって脂肪の蓄積に繋がり、
そのためにインスリンの効きが悪くなって、
糖尿病が悪化します。
要するに果物の問題は、
その食べ過ぎにあるのです。
「果物は何となく沢山食べてしまう」
というのは、
秋に太る方が決まって言われることです。
この「やめられない止まらない」現象は、
何故起こるのでしょうか?
今回の文献においては、
果糖の摂取時には、
脳内において、
ブドウ糖の摂取時とは別個の変化が起こるのでは、
という仮説に基き、
機能性MRIという検査を用いて、
20人の糖尿病のない被験者に、
ブドウ糖と果糖の両方を飲んでもらい、
その後の脳の変化を分析しています。
何となく、
わざわざそんなことをしなくてもな、
という気もしますが、
研究者というのは、
こうしたことを面白がるような気質があるようです。
その結果…
ブドウ糖を摂取すると、
血液の血糖値は上昇し、
それに伴って血液のインスリンも上昇します。
この時インクレチンと呼ばれるホルモンの1つである、
GLP-1が上昇し、
食欲の増進作用のあるホルモンである、
グレリンは低下します。
GLP-1は満腹感を誘導するホルモンなので、
この両者の働きにより、
満腹を感じ、
それ以上の摂食を、
欲しない状態となるのです。
この時、
脳内においては、
食欲の中枢である視床下部の血流が低下し、
そこに連結した、
脳内の報酬系と呼ばれる部位である、
視床と線状体に刺激が伝達されます。
この一連の流れにより、
食欲が抑制されると考えられるのです。
一方で果糖の摂取時には、
血糖値もインスリン値も、
僅かにしか上昇はせず、
GLP-1の上昇も僅かに留まります。
この時、
脳内においては、
ブドウ糖摂取時ほど視床下部の血流低下は起こらず、
このため線状体への刺激の伝達も起こりません。
そして、
この視床下部の血流の低下は、
血液のインスリンの濃度と、
最も明確な相関関係を有しています。
これが何を意味するかと言えば、
果糖をカロリー的にブドウ糖と同量摂取しても、
ブドウ糖より少ない満腹感しか、
脳は感じることがない、
ということになります。
つまり、
果物はこうしたメカニズムにより、
満腹に成り難く、
より多く摂取してしまいがちになりのです。
「○○は別腹」というのも、
同様の原理で生じる現象と思われます。
ポイントは少なくとも糖尿病のない状態においては、
適度にブドウ糖を摂取することにより、
インスリンが上昇し、
それが脳に働いて、
満腹を誘導することにより、
過剰なカロリーの摂取を防いでいる、
というメカニズムです。
この意味で昨日の話とも関連しますが、
適度にブドウ糖を摂取することは、
人間の食行動にとって、
かなり本質的で合目的な部分を持っているのです。
極端なダイエットは、
そのバランスを崩すことになり、
予期せぬ悪影響に繋がる可能性が、
あるのではないでしょうか?
今日は果糖とブドウ糖の摂取が、
脳に与える影響についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJAMA誌に掲載された、
ブドウ糖と果糖の、
脳に与える影響についての論文です。
糖尿病の患者さんでは、
秋に血糖値が上昇したり、
体重の増加が生じることがあり、
お聞きしてみると、
「果物の食べ過ぎ」ということが、
しばしばあります。
このように果実に含まれる果糖の過剰摂取が、
肥満や糖尿病の悪化、
インスリン抵抗性などとの関連性が高いことは、
疫学的には良く知られた事実です。
しかし、
何故果物で糖尿病が悪化するのでしょうか?
果物に多く含まれる糖質である果糖は、
その代謝にブドウ糖ほど、
インスリンを必要とはしません。
その証拠に、
果糖を摂取してから、
その後のインスリンや血糖値を測っても、
その数値は僅かにしか上昇はしないのです。
これはつまり、
果物を食べても、
直接的には血糖はあまり上がらない、
ということです。
それでは何故、
果物で糖尿病は悪化するのでしょうか?
一時的に血糖値は上昇しなくても、
過剰にカロリーを摂れば、
それはまわりまわって脂肪の蓄積に繋がり、
そのためにインスリンの効きが悪くなって、
糖尿病が悪化します。
要するに果物の問題は、
その食べ過ぎにあるのです。
「果物は何となく沢山食べてしまう」
というのは、
秋に太る方が決まって言われることです。
この「やめられない止まらない」現象は、
何故起こるのでしょうか?
今回の文献においては、
果糖の摂取時には、
脳内において、
ブドウ糖の摂取時とは別個の変化が起こるのでは、
という仮説に基き、
機能性MRIという検査を用いて、
20人の糖尿病のない被験者に、
ブドウ糖と果糖の両方を飲んでもらい、
その後の脳の変化を分析しています。
何となく、
わざわざそんなことをしなくてもな、
という気もしますが、
研究者というのは、
こうしたことを面白がるような気質があるようです。
その結果…
ブドウ糖を摂取すると、
血液の血糖値は上昇し、
それに伴って血液のインスリンも上昇します。
この時インクレチンと呼ばれるホルモンの1つである、
GLP-1が上昇し、
食欲の増進作用のあるホルモンである、
グレリンは低下します。
GLP-1は満腹感を誘導するホルモンなので、
この両者の働きにより、
満腹を感じ、
それ以上の摂食を、
欲しない状態となるのです。
この時、
脳内においては、
食欲の中枢である視床下部の血流が低下し、
そこに連結した、
脳内の報酬系と呼ばれる部位である、
視床と線状体に刺激が伝達されます。
この一連の流れにより、
食欲が抑制されると考えられるのです。
一方で果糖の摂取時には、
血糖値もインスリン値も、
僅かにしか上昇はせず、
GLP-1の上昇も僅かに留まります。
この時、
脳内においては、
ブドウ糖摂取時ほど視床下部の血流低下は起こらず、
このため線状体への刺激の伝達も起こりません。
そして、
この視床下部の血流の低下は、
血液のインスリンの濃度と、
最も明確な相関関係を有しています。
これが何を意味するかと言えば、
果糖をカロリー的にブドウ糖と同量摂取しても、
ブドウ糖より少ない満腹感しか、
脳は感じることがない、
ということになります。
つまり、
果物はこうしたメカニズムにより、
満腹に成り難く、
より多く摂取してしまいがちになりのです。
「○○は別腹」というのも、
同様の原理で生じる現象と思われます。
ポイントは少なくとも糖尿病のない状態においては、
適度にブドウ糖を摂取することにより、
インスリンが上昇し、
それが脳に働いて、
満腹を誘導することにより、
過剰なカロリーの摂取を防いでいる、
というメカニズムです。
この意味で昨日の話とも関連しますが、
適度にブドウ糖を摂取することは、
人間の食行動にとって、
かなり本質的で合目的な部分を持っているのです。
極端なダイエットは、
そのバランスを崩すことになり、
予期せぬ悪影響に繋がる可能性が、
あるのではないでしょうか?
今日は果糖とブドウ糖の摂取が、
脳に与える影響についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-01-08 08:09
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内容と直接関係は無いのですが、文中に別腹の事があったので質問させて下さい。
数日前、テレビのバラエティー番組で、別腹が本当にあるのかというテーマで放送していました。
その番組によると、胃袋が満タン状態でも、甘い物をみると脳からの指令で胃の繊毛の活動が活性化して、胃に食べ物が入る隙間を作るのだそうで、それが別腹の正体だと言っていました。
上まで食べ物が詰まった胃袋に隙間が出来る様子がレントゲンで紹介されていて、出演者たちも驚いていましたが、実際にそういう事が起きるのでしょうか?
また、それを別腹と呼んでも良いものでしょうか?
なんだか眉唾っぽい感じがするのですが。
by まれすけ (2013-01-09 18:55)
まれすけさんへ
何か面白い見解ですが、
ちょっと何処から持って来たものなのか、
良く分かりません。
調べられる範囲で調べてみたいと思います。
by fujiki (2013-01-10 08:18)