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高蛋白食のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は近隣で介護についてのお話を頼まれたので、
そちらへ出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。

先日、
低炭水化物ダイエットと関わりのある、
非常に印象的な事例を経験しました。

Aさんは40代の男性で、
健康診断でメタボと境界型の糖尿病を指摘され、
体重を絞るようにとの、
保健指導を受けます。

この時点で、
血糖値はやや上昇していましたが、
腎機能や肝機能の数値は正常でした。
コレステロールは基準値の上限くらいで、
中性脂肪は基準値の倍くらいに上昇していました。
尿酸値も正常範囲です。

ここでAさんは一念発起して、
体重を減らし健康に痩せようと行動に移します。

やや他力本願ですが、
スポーツジムに入会し、
筋肉を付けながら健康的に痩せようと考えたのです。

担当したトレーナーは、
それなら低炭水化物高蛋白食にして、
トレーニングで筋肉を付けるのがいいですよ、
と指導をしました。

その方法は食事から、
一切の主食とアルコールやお菓子、果物を禁止し、
その代わりに蛋白質を増やして、
体重を減らして筋肉を付けようと言うのです。

商売っ気のあるトレーナーは、
プロテインの飲み物を買うように勧め、
Aさんはそれを買うと、
プロテインをジャンジャン飲み、
主食を止めてトレーニングに励みました。

Aさんに異変が生じたのは、
それから2カ月ほどしてからのことです。

体重は順調に減り始めました。

ただ、身体は酷くだるくなり、
疲れ易くなったように感じます。
トレーニングを続けているのに、
あまり筋肉が付くこともないのです。

これはどうも身体に何か良からぬことが起こっているように、
Aさんは感じて診療所を訪れました。

採血と尿の検査をしてみると、
血液の腎機能の数値である、
尿素窒素とクレアチニンの値が、
いずれも健診時より上昇しており、
特に尿素窒素は正常上限の1.5倍まで上がっていました。

血液の尿酸の数値も正常の上限を超え、
肝機能の異常を示す、
ASTやALTと呼ばれる数値も軒並み異常値を示していました。

尿ではケトン体と言って、
飢餓状態の時に出る物質が検出されました。

山のように蛋白質を摂り、
カロリーは充分過ぎるほどなのに、
何故このようなことが起こるのでしょうか?

ポイントは、
Aさんが極端な低炭水化物高蛋白食を、
続けたことにありました。

蛋白質と炭水化物でカロリーを摂ることには、
大きな違いがあります。

身体は栄養素を吸収し、
それをエネルギーなどとして使用しますが、
そのこと自体でもエネルギーを消費します。
食事自体が一種の運動であり、
身体が食事により温まるのも、
そうした食事によるエネルギー消費があるからです。

炭水化物においては、
栄養として処理するのにそのカロリーの6~9%程度を使用しますが、
それが蛋白質では20~40%になります。
この効率には個体差や人種差があり、
日本人では概ね、
蛋白質の処理にはより大きなエネルギーが必要になる、
と考えられています。

つまり、
同じカロリーを炭水化物ではなく蛋白質で摂れば、
それだけカロリーのロスが多いので、
実際にはより少ないカロリーを摂っているのと、
同じことになるのです。

これが、
低炭水化物高蛋白ダイエットで体重が減少する、
1つの理由でもあります。

更には窒素平衡という考え方があります。

炭水化物が過剰に摂取されれば、
それはグリコーゲンという貯留形となって、
肝臓や筋肉の中に蓄えられます。

脂肪も過剰に摂取されれば、
脂肪組織に一時的には蓄えられます。

しかし、
窒素を含む蛋白質は、
そのままの形では蓄えることが出来ず、
過剰な蛋白質が身体に入ると、
それは分解されてその窒素成分は、
尿へ尿素という形で排泄されることになります。

この上限が概ね平均的な体格の日本人で100グラム程度で、
それを越える量の蛋白質は、
身体では使用されません。
それが窒素平衡です。

Aさんはかなり極端な高蛋白食を摂り、
バランス的にカロリーの大部分を蛋白質から取ることになったのですが、
人間の身体はあるレベル以上の蛋白質を、
保持することが出来ないので、
それを越える分の蛋白質は、
分解されて窒素酸化物となって大量に尿に排泄されます。

これが腎臓に負担を掛けるので、
腎機能は悪化し、
排泄出来ない窒素酸化物が、
血液中に溜まって尿素窒素として測定されます。
同時に尿酸も増加します。

身体はその一方で糖質が不足し、
飢餓状態の代謝となり、
ケトン体が産生され、
体重が減少します。

飢餓の持続が肝臓の細胞を不安定にするので、
これにより肝臓の細胞が壊れ、
肝機能を示す数値も上昇したのです。

蛋白質を増やしてトレーニングをすれば、
筋肉量が増えて身体の組成が改善するように思いがちですが、
実際には筋肉のエネルギーになるのは糖質なので、
糖質が同時に補充されなければ、
運動の効果もないのです。

運動に糖質が不可欠であるのは当たり前のことで、
スポーツをされている方なら、
炭水化物をゼロにして運動をして痩せよう、
などとは決して考えないのですが、
普段運動をされていないような方が、
健康のために運動を始めるような場合、
低炭水化物ダイエットが良いよ、
というような話を聞いていると、
こうした落とし穴に墜ちることがあるようです。

スポーツジムのトレーナーが、
こうした指導をするとは、
にわかに信じられませんが、
少なくともそれに近い指導をしたことは、
間違いがありません。

おそらくそのトレーナーも、
炭水化物をゼロにしろ、
とは言わなかったと思うのですが、
Aさんは減らして効果のあるものなら、
より減らせばそれだけ効果が増す筈だ、
と考えてしまったようです。

Aさんは僕の指示により、
プロテインの摂取を止め、
極端な低炭水化物ダイエットも取りやめて、
摂取カロリーの4割は炭水化物に戻しました。
勿論運動量をより増やすのであれば、
それだけ糖質も更に増やす必要があります。

その結果、
1カ月後に採血すると、
腎機能や肝機能、尿酸値と、
全ての数値は正常範囲に復していました。

明確な事実として、
高蛋白食のリスクを実感した事例でした。

低炭水化物食が決して間違いとは思いません。

ただ、
ある程度以上炭水化物を制限して持続する場合には、
脂質や蛋白質の組成や全体のカロリー、
運動量などを含めて、
かなり厳密な管理が不可欠で、
それなしでのAさんのような極端なダイエットと運動の併用は、
短期間でも臓器障害のリスクがあるということを、
より慎重に考えるべきではないかと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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egechan

始めてのコメントです。現在初期の糖尿病で、ドクター江部氏のブログによって糖質制限食を行い始めたところです。当然ながら、脂質、タンパク質が多くなります。私の場合は胃腸も弱いので、高脂質は避けて高タンパク食主体にしています。ただ、高タンパク質だと腎機能が低下しないのか不安/疑問に思っていました。ドクター江部氏は2007年6月18日に(http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-date-200706.html
”高タンパク食で腎機能が悪化するというデータはありませんので、安心してください。現在医学的には、既に腎機能障害が確定している人に高タンパク食は良くないということです。バ-ンスタイン医師は、40年近く糖質制限食を実践しておられ腎機能も正常です。”
と記載しています。江部氏の説は先生の説とは異なると思っています。どうお考えでしょうか?
(私は現在腎機能は正常です)
by egechan (2015-09-01 11:43) 

ANYU

私は、プロテイン摂取のしすぎで、尿素窒素が28.8になってしまいました。炭水化物は一切とっていませんでした。おそらく、同じ症状だと思います。今後は炭水化物を積極的にとろうと思っています。
by ANYU (2015-12-04 16:12) 

あきちゃんまん

尿素窒素で検索していましたら偶然見つけて読ませていただきました。先日、かかりつけの病院から電話がありました。「先日の血液検査で尿素窒素が33.0でした。3ヶ月前の倍になってますよ。何したんですか・・・?」と。実は年明けからダイエットで糖質制限を実行しています。読んだ本に「肉も魚も野菜も好きなだけ食べても良いんです・・・。」と書かれていたので元々肉好きだった私はひと月以上肉三昧でした。ただ体重は確実に減っています。今思っているのはもう少し糖質を取り入れようかな・・・。と。
by あきちゃんまん (2016-03-26 18:07) 

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