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ピロリ菌除菌療法の薬剤選択を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ピロリ菌除菌法研究.jpg
ピロリ菌の除菌方法についての、
英国の医学誌Lancet誌の論文です。

ピロリ菌は胃に生育する細菌で、
胃癌や胃潰瘍の原因となることは、
皆さんもよくご存知のことかと思います。

ピロリ菌が見付かると、
その時の胃の状態にもよりますが、
ピロリ菌を胃から退治する、
「除菌治療」が考慮されます。

除菌治療には色々な方法がこれまで試されて来ましたが、
日本ではランソプラゾールなどの、
プロトンポンプ阻害剤と総称される胃薬と、
クラリスロマイシンとアモキシシリンという抗生物質とを、
一緒に1週間使用し、
それで除菌に失敗した場合には、
今度はクラリスロマイシンの代わりに、
メトロニダゾールという薬を用いた3種類の薬剤を、
矢張り1週間使用する、
という方法のみが、
健康保険で認められているため、
もっぱら使用されています。

ただ、本当にこの方法がべストのものであるのか、
と言う点については、
異論もあり、
必ずしも海外でも同じ方法が、
使用されている、
という訳でもありません。

今回の論文は、
アジアと共にピロリ菌の感染が多いことが知られている、
ラテンアメリカにおいて、
一番ポピュラーな除菌方法と、
それ以外の方法との間で、
その効果に違いがあるのかどうかを、
検討したものです。

世界的に最もポピュラーな除菌方法は、
日本で現在行なわれているのと同じ、
プロトンポンプ阻害剤と、
抗生物質のクラリスロマイシンとアモキシシリンの組み合わせです。
ただ、その薬剤の量と内服期間はちょっと違います。

この論文で紹介されている方法は、
ランソプラゾールが1日60mg、
クラリスロマイシンが1日1000mgで、
アモキシシリンが1日2000mg。
それを2週間継続します。

一方で現在の日本で行なわれている方法は、
ランソプラゾールの量は同じですが、
クラリスロマイシンは1日400~800mgで、
アモキシシリンは1日1500mg。
その持続期間は1週間です。

この除菌方法は一定の効果があったのですが、
次第に耐性菌の増加のために、
その除菌率は低下傾向が指摘されています。

その主な理由はクラリスロマイシンの耐性化です。

そのために、
耐性菌の多いクラリスロマイシンの代わりに、
メトロニダゾールを使用する方法が注目されていて、
これにも幾つかの方法があります。

上記の論文で採用されているのは、
通常量のランソプラゾールとクラリスロマシン、
アモキシシリンに加えて、
メトロニダゾールを1日1000mgで併用するものです。
つまり4剤の併用になりますが、
その使用期間は5日間です。
更にもう1つの方法として、
通常量のランソプラゾールとアモキシシリンを、
5日間継続した後に、
通常量のランソプラゾールとクラリスロマイシンと、
1日1000mgのメトロニダゾールを5日間継続する、
という方法が採用されています。

日本のメトロニダゾールを使う方法は、
通常の3剤併用の方法から、
クラリスロマイシンを抜いて、
代わりに1日500mgのメトロニダゾールを、
1週間使用する、というものです。

欧米ではメトロニダゾールを使用した方法の方が、
より除菌率が高い、というデータが、
複数報告されていますが、
今回のラテンアメリカの研究では、
一般的な3種類の薬剤の2週間の使用の方が、
メトロニダゾールを用いた2つの方法よりも、
除菌率は高かった、
という結果でした。

これは欧米のデータとは相反するものですが、
論文の著者の見解としては、
ピロリ菌の除菌法の効果には地域差や人種差の、
存在する可能性があり、
その地域毎にどのような方法が、
最も有効であるかを検討する必要があるのではないか、
というものでした。

皆さんは日本で行なわれている除菌治療の方法を、
どうお考えになるでしょうか?

スタンダードな方法に関しては、
海外で行なわれているものに比較して、
抗生物質の用量が少なく、
日数も14日ではなく7日と半分になっています。

データを見る限りは除菌の成功率は7割は超えているので、
これは欧米の同様のデータと、
ほぼ同じ水準です。

しかし、日本人の体格も、
欧米人と遜色なくなっている現在、
用量や期間が少ないために、
除菌に失敗するケースも、
実際には少なからずあるのではないか、
と思います。

メトロニダゾールを用いる方法では、
海外とは異なりクラリスロマイシンのみを変更する形式が取られ、
その用量も海外の半分量となっています。

診療所で行なった事例でも、
スタンダードな方法で7割程度、
メトロニダゾールを用いた方法で、
9割弱くらいの除菌率ですから、
まずまずのレベルではあるのですが、
僕はスタンダードな方法では、
使用期間を1~2週間で選択出来るようにし、
メトロニダゾールの使用量は、
海外と同じ1日1000mgにするべきだと思います。

それはこの方法が保険適応される前に、
自費でメトロニダゾールを1日1000mgで1週間、
という方法で除菌を行なっていた時期があり、
除菌率は例数は40例程度と少ないのですが、
成功率は100%で目立った副作用もなかったからです。

それでは今日のまとめです。

ピロリ菌の除菌治療には、
多くの方法があり、
未だどの治療法が最善である、
との一定の見解が存在しません。
また、人種差があるという意見もあります。
日本で現在行われている治療法は、
用量や期間が欧米と比べて非常に少ない、
やや特殊なもので、
勿論それで効果のある方には問題はないのですが、
失敗の事例ではより多くの選択肢を、
用意するのが適切だと思いますし、
あまり明確な根拠なく欧米の一般的な治療と、
異なる方法を取るのは、
その効果の比較の意味でも問題があり、
是正が必要なのではないかと考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(追記)
元記事にはマクロライド少量療法についての、
不適切な表現がありましたので、
ご指摘を受けその部分を削除しました。
(2012年8月23日午後0時)
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コメント 11

hiro

はじめまして、耳鼻咽喉科開業医です。
他科の疾患についても勉強したいと思い、こちらのブログをいつも拝読させていただいています。ただ、今日は少し残念でした。
慢性副鼻腔炎におけるマクロライド療法は日本発ですが、最近では海外でもエビデンスのある治療として認められています。
また、耐性化の誘導についても少量長期投与では耐性菌の増加は見られなかったとの報告があります。(こちらはあまり自信ありませんが。。)
すくなくとも、根拠のない、奇怪な治療ではないことを承知いただきたいと思います。
by hiro (2011-08-23 10:38) 

まみしゃん

ピロリ菌除去治療をしますよ・・・と言われている自分にとっては、とても参考になる記事でした。
治療が終わりましたら、結果をご報告させていただきます。
by まみしゃん (2011-08-23 10:39) 

fujiki

hiro先生
ご指摘ありがとうございます。
ちょっと表現が過激でご不快に思われたことをお詫びします。
当該部分は削除させて頂きました。

数年前に文献を検索した時には、
確かに海外文献もあるのですが、
その根拠となるデータは、
圧倒的に日本発のものだったと思います。

通常抗生物質は充分な量で叩くのが原則で、
不充分な少量をそれも長期間使用すれば、
耐性誘導を起こす大きな要因になる、
というのが一般的な考えだと思います。

それでは、何故マクロライドの少量持続療法のみが、
耐性は誘導せずに、
慢性の炎症を改善に導くのか、
という点については、
一応免疫調整作用による、
という説明だったと思いますが、
どうも僕は納得のゆく説明に、
接したことがありません。

仮にマクロライドには抗菌作用と共に、
免疫の調整作用があるのだとすれば、
むしろ抗菌作用は邪魔だ、
という理屈になりますから、
抗菌作用をもっと弱めたマクロライドのような薬剤が、
開発されるべきであり、
それが開発されれば世界的なヒット商品になる筈だ、
と考えますが、
こうした治療の発見から数十年が過ぎても、
そうした薬が開発された、
という話は聞きません。

マクロライドの長期少量療法では、
耐性は誘導されない、
という日本のデータは僕も読みましたが、
それはあまりに都合の良いもののように、
僕には思えます。
何故そんなことが起こるのでしょうか?

マクロライドには耐性菌は誘導されない、
ということなら分かりますが、
実際には世界的にマクロライド耐性のマイコプラズマが増えていることは、
大きな問題となっており、
最近はアジスロマイシンの無効例も増加しています。
その原因はマクロライドの乱用にあることは、
全ての方が認めるところだと思いますが、
その乱用には「マクロライド少量療法」は含まれないのだとすると、
その理由は何なのでしょうか?

僕にはどうもそのあたりのことが納得がゆかないのですが、
僕の勉強不足もあると思います。
また最近の文献も検索してみたいと思います。

せっかくいつもお読み頂いているのに、
申し訳ありませんでした。
他科の先生のご治療に対する、
配慮も足りなかったと思います。

出来ればまたお読み頂き、
不勉強で至らない記事も多いかとは思いますが、
適宜ご指摘頂ければ幸いです。

これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-08-23 12:27) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
またご経過を教えて下さい。
天候が不順ですので、
お身体ご自愛ください。
by fujiki (2011-08-23 13:12) 

hiro

耳鼻咽喉科医のhiroです。記事の記載内容についてご配慮いただきましてありがとうございます。こちらこそ生意気なことを書きまして申し訳ございませんでした。
私も一開業医ですので、最新の話題には疎いのですが、抗菌作用を持たないマクロライドについてはエリスロマイシンの誘導体であるEM900についての研究がなされていると思います。
マクロライドによる耐性化につきましては、無効な症例に対して漫然と投与されている例が少なからずあると思われ、耐性菌の増加を助長している可能性は否定できません。われわれ耳鼻咽喉科医も大いに反省すべきと思います。
by hiro (2011-08-23 13:26) 

ワンダー

僕も石原先生が仰る耳鼻科とかでやってるマクロライド少量投与の被害者です。

約半年通ってお金ばかり使って全く改善されず・・・
結局、かかりつけの内科の先生に相談したところ
「そんなの効くか?」と一刀両断。

クラリス等のマクロライドが全く効かない体になってしまい、クラビットと言う抗生物質を処方してもらいました。

あれだけ苦労したのに2日で綺麗に改善しました。

僕は医師でもなければ医療従事者では無いので分かりませんが「マクロナイド少量投与」は効く人には効くのかも知れませんが、効かない人には全くダメなような気がします。

もう余程酷い症状が出ない(耳鼻科でしか診療出来ない)限り耳鼻科には行かないでしょう。
通うだけでも時間も掛かるし、お金もバカになりませんからね。

素人のたわごとでした。
by ワンダー (2011-08-23 19:37) 

fujiki

ワンダーさんへ
貴重なご意見ありがとうございます。
言われるようにこの治療の1つの問題点は、
効く方と効かない方がいて、
長期の治療という側面から、
その判断が難しいという点にあるような気がします。

ただ、多くの方に効果のある治療であり、
それで蓄膿の改善された方も、
多くいらっしゃることも事実ですので、
その点もご理解頂ければと思います。
by fujiki (2011-08-23 20:59) 

minK

私も一回目の処方がクラリスロマイシンとアモキシシリン
だったのですがその時は全く効き目がありませんでしたね。

by minK (2011-08-25 01:39) 

fujiki

mink さんへ
コメントありがとうございます。
矢張りクラリスロマイシンの耐性は、
日本ではかなり多いのが現状だと思います。
by fujiki (2011-08-25 08:44) 

manami

きょうからPREVPACでピロリ除菌を始めました。
米国での治療のため、上記にあるように分量の多い、Lansoprazole, amoxiciliin Charithromycmを朝と昼2週間のみ続けます。日本のサイトには1週間と書いてあるので、どうして2週間なのか探している間にこちらのサイトを発見しました。
そして安心しました。私は日本人女性にしては体重も身長もある方なのでこのDOSEでも大丈夫だと思います。

ありがとうございました。

by manami (2012-11-18 06:53) 

fujiki

nanamiさんへ
コメントありがとうございます。
保険適応前は、
日本でも2週間の除菌がむしろスタンダードでした。
1週間との比較試験で、
左程の差がなかったことから、
保険適応時に決められたので、
多分に医療コスト面からの判断で、
効果や安全性に重点の置かれた決定ではないと思います。
by fujiki (2012-11-19 08:16) 

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