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電気を使わない藝術を! [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療所は今日は休診です。
朝から駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。
今日はちょっとマニアックなジャンルの主張なので、
興味のある方だけお読み下さい。

停電による電力の不安定さの中で、
演劇人の対応は分かれています。

野田秀樹の率いるNODAMAP は、
池袋の東京芸術劇場で、
「南へ」という新作を上演中で、
3月11日から13日まで休演したものの、
14日からは上演を再開しています。

演劇集団キャラメルボックスも、
銀座での公演を継続中です。

パルコ劇場で上演中の三谷幸喜の新作も、
公演が再開されました。

演劇の公演は、
先週木曜日の停電危機で、
一層の節電が叫ばれた、
一種の緊急事態においても、
情報を見る限りそのまま上演が決行されたようです。

演劇の公演は多くの電気を消費します。
勿論今は最小限の電力消費に留められてはいるのでしょうが、
それでも舞台には数えきれない量のライトが灯り、
その声はマイクによって電気的に拡声され、
舞台のセリは電力によって上下し、
スライディングステージも、
電力によって移動します。

この非常時に、
こうした電力消費をすることに対して、
それは如何なものか、
と非難する意見があることは当然想定されます。

野田秀樹はそれに対して、
サイト上にコメントを発表し、
所謂歌舞音曲を非常時に無駄なものとして否定する行為が、
藝術を衰退させ、
結果として人間を不幸にする、
という趣旨のことを表明しています。
劇場の明かりを消してはいけない、
と多くの演劇人はそうした趣旨の発言をしています。

この見解自体は、
僕は非常に良く分かります。

しかし、「南へ」という作品は、
地震の前に僕も見ましたが、
作中の設定は火山の噴火ですが、
原発事故なども想定したようなカタストロフの予兆と、
それを知りながら見て見ぬふりをする、
多くの「日本人」の物語です。

そこには基本的に傍観者の視線が感じられ、
実際に大災害が起こり、
現実のカタストロフが目の前にある現在、
その中途半端な予言めいた作品を、
節電の中多くの電力を消費して、
首都圏の中では、
どちらかと言えば恵まれた立場にある観客しか、
集められないような客席に対して、
上演する意味のあるような芝居とは思えません。

酷なようですが、
この芝居なら上演しないのが、
最善の決断だと僕は思います。

僕は野田秀樹氏にはこう言いたいのです。

今この瞬間に上演する価値のある藝術は、
間違いなく存在する筈です。

もし公演を続けるのなら、
全くの新作を書いて下さい。

そして、電気を一切使わない形式で、
それを上演するのです。

たとえば大空間に蝋燭の明かりを1本だけ灯し、
妻夫木聡と蒼井優が2脚の椅子に腰を下ろして、
「ラブレター」みたいな朗読劇を、
一切マイクは使うことなく、
東京芸術劇場中ホールの大空間で、
上演するのはどうでしょうか?

本当は蝋燭を大量に灯して、
所謂江戸時代の蝋燭芝居を復活させたいのですが、
火事の危険のある現在では、
困難でしょうからあきらめます。

最近の演劇人の作品はどういうものかと言えば、
日本人が過去と向き合わない姿勢を、
大所高所から偉そうに非難したり、
将来に対する危機意識を持たないことを、
「今にトンデモないことが起こるぞ」
と脅したりするような作品が殆どです。

本当にトンデモないことが起こった現在に、
そうした傍観者的な作品を上演することが、
娯楽としても藝術としても、
何かの意味があるでしょうか?

「戦争が起こるぞ!」というテーマの作品は、
実際に戦争が起これば、
その使命を失うのです。

あなたはあなたの作品の、
そうした小ささを自覚するべきだ。
あなたが常に非難する天皇陛下のビデオメッセージに、
あなたの上演している作品は、
足元にも及ばない。
そのことを真摯に受け止めるべきだ。
たかが電気を止められたくらいで、
上演出来なくなるあなたの作品を、
あなたは恥に思うべきなのだ。
そして、この最悪の時代に、
それだからこそ光り輝く藝術を、
苦悩の中から生み出して下さい。

野田秀樹さん、
あなたにならそうしたことが出来る。

三谷幸喜さん。
あなたも新作を即坐に書くべきだ。
ナチスの時代の藝術家の苦悩も結構だけれど、
それはまた別の機会に上演すれば良い。

今上演すべきは今の作品だ。
優れたキャストの皆さんが上演するべきなのは、
この悲劇の前に書かれて、
役者が暗記した台詞などではなく、
もっと生の言葉であるべきだ。

あなたにはそれが出来る筈だ。

この地震によって、
あなたの今上演している作品の持つ意味は、
遥か時間の彼方に去った。

あなたがするべきことは、
即坐に新作を書き、
それを電気を使わずに上演することだ。
上演は偉そうな劇場ではなく、
そこらの公園で充分なのだ。
マイクも要らない。
セットも要らない。
ライトも要らない。
昔の演劇がそうであったように、
人間の肉体と肉声さえあれば、
そこは最高の劇場になり、
人はその演技に笑い泣き、
束の間現実の悲惨を忘れ、
明日への活力を取り戻すのだ。

あなたになら、そうしたことが出来る。

昨日食事をしながら見ず知らずの人と、
こんな話をした。
コンビニなんて、昔はなかったもんね、
夜は別に店なんて開いてなくていいんだよね、
それが普通のことなんだから、
夜の街は暗くていいんだよね、
今までが明る過ぎただけなんだ。

皆がそうした意識を持って生活を見直している。
電気を大量に使う生活の愚かしさに、
少しずつ思いを寄せている。
結局電気を求める貪欲な人々の思いが、
原子力発電という怪物を、
飼い慣らそうとする人間の過ぎた思いの源泉なのだ。

それなのに、
多くの演劇人の皆さんが、
そのことに気付いていないのは、
非常に不幸なことだ。

電気を使わない藝術、
マイクや照明が不要な藝術こそ、
皆さんが目指すべきものなのに、
そのことに気付かず電力を今まで通りに、
使い捲る行為を正当化しようとしている。

劇場で義捐金を集めている劇団の皆さん、
あなたがするべきことは色紙を売って、
義捐金を被災地に送ることだけではない。
それも勿論必要なことかも知れないけれど、
もっと必要なことは、
電気を大量に使う演劇が、
果たしてまっとうなものなのかどうか、
この機会にもう一度見直すことだ。

「劇場の灯を消してはいけない」
とあなた達は言う。
しかし、その灯というのは、
電気の灯りのことではない。
人間の心に灯る何かのことだ。
その当たり前のことに、
早く僕は気が付いて欲しいと思う。

唐先生が若く元気な頃だったら、
すぐにテントを張って芝居をするだろう。

寺山修司が生きていたら、
今でしか不可能な野外劇を上演し、
完全に電気の消えた巨大空間で、
彼独自の魔術的な芝居を上演するだろう。

土方巽が生きていたら、
無理矢理に被災地に侵入し、
廃墟の中で飲まず食わずで踊り続けるだろう。

ポピュラー歌手の皆さんは、
ミュージックステーションのスタジオで、
災害から守られ、
電力を使いまくってマイクで歌うのではなく、
街に出て肉声で声を届けるべきだ。

オペラ歌手の皆さんは、
その肉声を街のそこかしこで響かせるべきだ。

電気のない街を祝祭にしよう。

それが本当に意味で藝術家が今するべきことだと、
僕は思う。

それでは今日はこのくらいで。

事態がどうか好転しますように。

石原がお送りしました。
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コメント 14

stargazer

こんにちは。
そういえば、某女性歌手は地震翌日に路上ライブをやっていましたね。
各人ができることから考える、これが第一歩かもしれません。
後世、この災害を機に日本が、日本が変わったというエポックメイキン
グになったらいいなと思います。
ところで、福島の双葉病院の対応は理解しがたい行為だと思うのです
が、同業者からご覧になっていかがでしょうか。
by stargazer (2011-03-20 10:44) 

末尾ルコ(アルベール)

素晴らしいご意見ですね。
読み入ってしまいました。

                RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2011-03-20 11:33) 

midori

殆ど報道されませんが、被災地にギリギリ引っ掛かっている地域に実家があります。
地震から10日経ちますが、私が声をあげて泣いてしまったのは唯一、香川照之のビデオメッセージを観てでした。
by midori (2011-03-20 11:37) 

fujiki

stargazer さんへ
コメントありがとうございます。
双葉病院の話は、
正確な情報とは限らない気がしますし、
色々なバイアスが掛かっているので、
ちょっと微妙です。
昔ながらの精神病院であったのかな、
とも思うのですが、
もう少し時間が経ち、
冷静で正確な情報が集まらないと、
コメントはし難い事例です。
避難時に置き去りにされた、
という事項と、
患者さんの入院中のケアがどうであったのか、
という事項とは、
分けて考える必要があると思います。
by fujiki (2011-03-20 11:40) 

fujiki

RUKOさんへ
コメントありがとうございます。
こうした時こそ、
愛する藝術の素晴らしさを、
アーティストの皆さんには、
是非再認識させて欲しいと思うのです。
by fujiki (2011-03-20 12:39) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
早く色々なことが、
好転することを本当に祈りたいと思います。
by fujiki (2011-03-20 12:40) 

stargazer

コメントありがとうございます。
双葉病院の件、ご指摘の通りですが、やはり昨日の院長の会見を見る限り、承服しがたいものがありますね。「搬送に長時間かけたためで、国や県の責任。自分に責任はない」と主張していますが、付き添いできなかったことはやむを得ないとしても、患者の病歴・PS等が確認できない状態で搬出させたことの責任は全く免れられるものではないと思われます。ただ、亡くなられた方には申し訳ありませんが、起きてしまったことは仕方ありませんので、これを教訓に災害時の対応について今一度不備のある医療機関・医療関係施設が見直していただければと願うばかりです。
by stargazer (2011-03-20 13:21) 

fujiki

stargazer さんへ
昨日の会見は僕は未見です。
この事例は最初のニュースが出た時点で、
一部の医療関係者の方が、
「そんなことを問題視するな!」と、
ブログなどで騒ぎ立てていて、
読みながら非常な違和感を持ちました。

つくづく思いますが、
知的で立場もある筈の多くの人が、
「つぶやき」程度の分量の、
一部のフレーズに過剰に反応し、
全体像を理解しようという意識がありません。
医療のミスをあげつらう人は、
そうしたアラ探しレーダーだけが発達していて、
それに引っ掛かるフレーズがあれば、
ただちに反応して騒ぎ立てますし、
それに反発する医療者の側は、
またちょっとでもミスをあげつらう文面があると、
その真偽を確認することもなく、
「医療を責めるな!」と逆に騒ぎ立てます。

今回の事例は、
少しずつ情報が出て来てみると、
相当に酷かったからこそ、
問題視されたのではないか、
と今はそう思えます。

今回の事例がそうなのかどうかは、
今の時点で言えませんが、
ブラックな医療機関というのは、
実際には存在し、
そうしたところでしか、
診療を受けざるを得ない患者さんが、
多くいることも事実です。

この問題は災害対応の問題ではなく、
ブラックな医療機関の問題なのでは、
と僕は現時点ではそう思います。
by fujiki (2011-03-20 14:17) 

日下

はじめまして。
ここ数日思い悩んでいた、この件に関するもやもやが少し晴れました。
私も「南へ」を震災前に観劇しました。
野田秀樹のコメントを読んだ直後は、とても心に響き私も舞台芸術に携わるものとして、いっときでも上演はとりやめたほうがいいと思ったことを恥ました。
しかし時が過ぎるにつれ、ほんとうにそうなのだろうかと疑問に思ってきました。
身内が仙台で被災し、県の職員として日々奮闘している兄弟をもつものとして、落ち着いたら野田秀樹のコメントを読んでもらい意見を聞いてみるつもりです。
by 日下 (2011-03-20 17:21) 

しげさん

私も先生の意見に同感です。
戦前の思想弾圧と今の状況をあたかも同じようにして語るのは違和感があります。
灯を消さないためにやるべきことへの思慮を止めてしまってはいないか。
その事が、自らの首をしめることがないよう願います。

後れ馳せながら、3/15にもコメントさせて頂きました。
by しげさん (2011-03-20 17:56) 

HWK

小劇場の売れない役者たちから、芝居の案内(DM)が来ます。
公演を中止するか迷ったけれども、
お客様を満足させ、その明るいエネルギーを仙台へ元気を届けたい
と書いてあります。
3月末に公演を控えた小劇場。

by HWK (2011-03-20 23:43) 

fujiki

日下さんへ
コメントありがとうございます。
僕も演劇は大好きなのですが、
野田秀樹さんのような人に、
「藝術」を振りかざして必要性を強調されると、
正直少し抵抗があるのです。
「俺達は必要な人間なんだから、
優先的に電気を使わせろ」
と端的に言えばそうした意味に聞こえるからです。
藝術家の必要性とは、
娯楽の必要性とは、
もっと別のところにあるのではないでしょうか?
たとえばこれが江戸時代でしたら、
歌舞伎作者はただちに新作を書いて、
上演をしたと思うのです。
こんな災害があって、
その後に停電の危機があって、
その中で以前からの予定通りに公演を続ける、
というのは、
何か違うのじゃないか、
劇場の明かりを消すな、
と言う意味は、
もっと別のことなのではないか、
と僕には思えてなりません。

電気を使うな、
というのは僕の以前からの趣味で主張なので、
それを強要するようなつもりはありません。
by fujiki (2011-03-21 09:54) 

fujiki

しげさんへ
コメントありがとうございます。
切り返しも非常に参考になりました。
演劇の重鎮達の対応は、
端的に言えば自分達の権利だけを主張しているように聞こえるのが、
僕には納得がいかないのです。
それを「皆さんの心の元気のため」
と言うのが嫌らしいでしょ。
本当は経済的な面が大きいのでしょうから、
それなら正直に、
「自分達も生活が掛かっているので早く再開させて下さい」
と正直に言えばいいのです。
by fujiki (2011-03-21 09:58) 

fujiki

HWK さんへ
良いと思います。
芝居はね、僕も大学時代にのめりこんでいたので分かるのですが、
とても楽しいのです。
ちょっと言いたいこともないではないのですが、
でも良いです。
頑張って余計な配慮なく、
上演するのが一番だと思います。
by fujiki (2011-03-21 10:02) 

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