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プロトンポンプ阻害剤と低マグネシウム血症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプトのチェックをして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は胃薬と低マグネシウム血症との関連についての話です。

アメリカのFDAが今月の2日に、
1年以上の長期間のプロトンポンプ阻害剤の使用により、
低マグネシウム血症という副作用が生じる可能性がある、
という注意喚起を行ないました。

これは実は2006年頃から、
その可能性が指摘されている事項です。
2006年に2例の症例報告が、
New England Journal of Medicine 誌に掲載され、
その後も散発的に同様の報告が寄せられています。
それについての幾つかの総説も書かれていますが、
日本ではあまり重要視されていません。

プロトンポンプ阻害剤は、
現在最も広く使用されている、
胃酸を抑える効果の胃薬です。
商品名ではオメプラゾン、タケプロン、パリエットなどが、
その代表的な薬剤で、
その多くはジェネリックも発売されています。

その使用は発売当初は8週間以内に制限されていましたが、
逆流性食道炎などでは、
長期間胃酸を抑えることが必要となるため、
1年以上に渡る長期間の使用が稀ではなく、
また最近ではアスピリンなどの抗血栓剤を使用する際、
その副作用の胃腸出血の予防目的で、
長期間使用するケースもあり、
その適応も一部の薬で取得されています。

僕も特に高齢の患者さんでは、
アスピリンやワーファリンの使用されているケースで、
プロトンポンプ阻害剤を併用することが多いのですが、
これは一種の保険の意味合いがあります。

本来、定期的に胃カメラをしているような患者さんでは、
その所見によって薬の調整が可能なのですが、
特に老人ホームに入所されているような患者さんでは、
実際には胃カメラを定期的に行なうことは困難なので、
どうしても長期こうした薬剤を、
使用するケースは多くなるのです。

それでは、今回問題になっている、
低マグネシウム血症とは何でしょうか?

マグネシウムは人間の細胞の中にある、
主要な陽イオンで、
カルシウムと良く似た性質を持っています。
血液のマグネシウムが正常域に保たれていることは、
神経が正常に活動するために必要不可欠で、
その低下がある程度以上起こると、
全身の神経筋機能の異常を来たします。

具体的には筋肉の痙攣や脱力、
精神錯乱などの精神症状が、
その代表的な症状です。

マグネシウムが欠乏すると、
カルシウムを上げるホルモンである、
副甲状腺ホルモンが抑えられ、
またビタミンDの活性化も抑えられます。
その結果として血液のカルシウムが下がるので、
低マグネシウム血症は、
その多くが低カルシウム血症を伴います。
低カルシウム血症も筋肉の痙攣や意識障害を来たしますから、
相乗効果のように、
病状を悪化させるのです。

典型的な事例を、
2006年のNew England…の論文から、
ご紹介します。

患者さんは51歳の女性で、
オメプラゾールというプロトンポンプ阻害剤を、
1日40mg1年以上使用していました。
すると、全身の筋肉の痙攣が起こり、
検査をすると高度の低マグネシウム血症が見付かったのです。
その低マグネシウム血症は、
オメプラゾールを中止すると速やかに改善し、
H2 ブロッカーという他の胃薬では何の問題もありませんでしたが、
再びプロトンポンプ阻害剤を使用したところ、
再度低マグネシウム血症が出現しました。

これだけ条件が揃っていれば、
この低マグネシウム血症が、
プロトンポンプ阻害剤で起こったことは、
ほぼ間違いがありません。

それでは何故、
プロトンポンプ阻害剤で、
低マグネシウム血症が起こるのでしょうか?

マグネシウムの調節は、
小腸からのマグネシウムの吸収と、
腎臓からのマグネシウムの排泄とで、
その出入りがコントロールされています。

幾つかの研究の結果から、
腎臓からのマグネシウムの排泄には、
プロトンポンプ阻害剤は、
あまり影響は与えないことが分かっています。

すると、どうやら影響を与えるのは、
マグネシウムの吸収のようです。

長期間の低酸状態が続くことで、
マグネシウムの吸収が阻害され、
マグネシウムの欠乏が生じる可能性が示唆されています。

ただ、これは全ての人に起こることではなく、
おそらくは体質的にマグネシウムの吸収がし難い体質の方に、
限定した現象ではないかと考えられます。

しかし、実際には現時点でその体質を見分ける方法はなく、
従ってプロトンポンプ阻害剤を、
特に1年以上の長期間使用している場合には、
定期的な血液のマグネシウムのチェックが、
不可欠ではないかと思われるのです。

併用薬としては、
利尿剤はそれ自体に、
マグネシウムの排泄を促進する作用があるので、
利尿剤とプロトンポンプ阻害剤を一緒に使っているようなケースでは、
よし慎重な経過観察が必要です。

プロトンポンプ阻害剤を、
長期間飲まれている方は、
一度は主治医にマグネシウムの欠乏の有無について、
お聞きになってみて頂くことをお勧めします。
検査は簡単で、
その精度には問題のある場合もありますが、
お金もそれほどは掛かりません。

今日は胃薬と低マグネシウム血症との、
関連性についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

akanenosora

こんばんは。
私もパリエット錠を数年服用し続けておりますので
今日のお話は気になりました。
マグネシウム検査はした事がありませんので
掛かり付けの先生に伺ってみようと考えました。

by akanenosora (2011-03-07 22:11) 

fujiki

akanenosora さんへ
コメントありがとうございます。
日本ではあまり報告はなく、
稀なものだと思いますが、
念のため検査はお勧めします。
主治医の先生にお聞きになってみて下さい。
by fujiki (2011-03-08 08:09) 

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