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新規アルツハイマー型認知症治療薬「メマンチン」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は今年の1月に承認され、
近日中に発売予定の、
新しいメカニズムの認知症の新薬の話です。

薬の一般名はメマンチン、
商品名はメマリーです。

このメマンチンは、
NMDA受容体拮抗薬です。

NMDAとは一体何でしょうか?

アルツハイマー型認知症の病態の仮説として、
「コリン仮説」と「グルタミン酸仮説」というものがあります。

「コリン仮説」というのは、
アセチルコリンという神経伝達物質が関わる神経の働きが、
様々な理由で低下することが、
アルツハイマー型認知症の発症に関わっているのでは、
という考え方で、
そのアセチルコリンの低下を改善するために、
アセチルコリンの分解を阻害する薬を使えば、
アルツハイマー型認知症の進行が、
防げるのではないかしら、
という期待の元に、
開発され使用されている薬が、
皆さんお馴染みのアリセプトです。

一方で「グルタミン酸仮説」というものがあります。
グルタミン酸は興奮系の刺激伝達物質です。
このグルタミン酸の受容体には幾つかの種類があり、
そのうちの1つが、
NMDA(N-methyl-D-aspartate )受容体です。
この受容体は海馬に多く分布し、
記憶の増強に重要な働きをしている、
と考えられていて、
その受容体の減少が、
アルツハイマー型認知症の記憶障害の、
1つの要因ではないかと推測されます。

それでは、グルタミン酸を増やすような薬が、
アルツハイマー型認知症に効果がありそうですが、
メマンチンは逆にその受容体をブロックする薬です。

これでは却って逆効果なのではないでしょうか?

この辺が認知症のメカニズムのややこしいところで、
アルツハイマー型認知症が進行すると、
その減少したグルタミン酸の受容体が、
異常蛋白によって刺激され、
それが神経細胞に対する毒性を持つのではないか、
と考えられているのです。

そこでこのメマンチンは、
正常な一過性のグルタミン酸刺激は、
ブロックしない代わりに、
異常は持続性のグルタミン酸刺激は、
ブロックする、という作用があると考えられています。

受容体をブロックはするけれど、
その結合は緩い、というのが、
このメマンチンの特徴とされているのです。

実はこの薬は、
アマンタジン(商品名シンメトレルなど)と、
同一の骨格を持つ薬です。
アマンタジンはパーキンソン病の治療薬であると共に、
認知症の意欲低下の改善作用があり、
またA型インフルエンザに対する抗ウイルス作用も持つ、
という非常に面白い薬です。

つまり、アマンタジンをパワーアップした、
というのがほぼメマンチンの実体です。

メマンチンの適応は、
「中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です。

何故軽症の認知症には適応にならないかと言うと、
基本的にこの薬は、
アリセプトより効果は劣り、
アリセプトより副作用は強いからです。

そんな薬ならいらないじゃないか、
と思われるかも知れませんが、
実際にはアリセプトが無効であったり、
副作用で使えなかったり、
当初はアリセプトが有効であっても、
次第にその効果が乏しくなる事例が、
多く存在します。

その場合のセカンドラインとして、
このメマンチンは位置しているのです。

昨年のNew England Journal of Medicine誌の総説では、
メマンチンの位置付けは、
「通常他のコリンエステラーゼ阻害剤
(日本ではアリセプトだけですが、
海外では他に2種類が使用されています)
に追加する形で使用され、
初期の単剤治療には適さない」
と書かれています。

つまり、この薬は原則として、
アリセプトに上乗せする形での使用が、
想定されているのです。
その場合、両者の薬剤はメカニズムが違うので、
その相乗効果が期待出来るのです。

製薬会社の臨床試験によると、
単剤で概ねアリセプトと同等の、
認知機能の改善効果や、
問題行動の減少が認められています。
勿論アリセプトと同様に、
その効果は飲んでいる間の進行抑制に過ぎず、
原則は一生のみ続ける必要がある訳です。

それでは、メマンチンの副作用はどうなのでしょうか?

日本での臨床試験で、
最も多く認められているのはめまいです。

その比率は4.7%ですからかなり多く、
しかも当該の薬剤を中止後も、
1年以上症状が持続した事例が複数あり、
めまいにより転倒し、
大腿骨頚部骨折に至った事例が2例、
転落した事例が1例、
入院に至った事例も報告されています。
発現の時期は数日以内のものもあれば、
何ヶ月も使用後の事例もあり、
必ずしも一定していません。

精神症状の副作用も報告されていて、
これはメマンチンにより神経が刺激されたためと思われますが、
報告された80代の女性の事例では、
投与後半年以上してから興奮や暴力行為が現われ、
抗精神病薬を使用しても改善せずに精神科に入院し、
鎮静まで1ヶ月以上を要したと書かれています。

この薬に精神の興奮作用があることは、
間違いがありません。
しかし、それがうまく効いてくれれば、
認知症の症状が改善するけれど、
効き過ぎれば興奮や暴力性が高まり、
その効果は薬剤中止後も、
場合によっては数ヶ月持続するのです。

メマンチンの用量設定は、
海外と全く同一です。

最近の薬剤はほぼそうですが、
どうもその慎重さの欠如には、
僕は賛同出来ないものを感じます。

おそらくまたメディアでは、
画期的な新薬といった表現が乱れ飛ぶのでしょうが、
その真価を慎重に見極めたいと思います。

今日は認知症の新薬についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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midori

先生こんにちわ。
ブログ記事とは関係ないのですが、ちょっとご相談を。
(本当は診療所に伺うべきなのですが、いま仕事が忙しく身動きが取れないので、申し訳ありません)

先週はありがとうございました。
土曜日から、例の除菌を始めましたが、胃痛や腹痛に常時悩まされています。結構痛みが強くて(体をかがめて歩くくらい)、まだ3日目ですがくたびれかけています。
できるだけ我慢して続けようとは思っていますが、お話でうかがった副作用ではないので、少し心配です。
(ただし、クラリシッドの副作用として腹痛、パリエットの副作用としてHP除菌時に消化器症状、というのは調べました。うかがっていた下痢はありません)

さて、どんなものでしょう?
(考えてみたら、内視鏡の後に食事をしてから、もうずっと痛んでいますね。薬とは関係ないでしょうか)
by midori (2011-01-31 13:42) 

fujiki

midori さんへ
軽い痛みなら様子を見てもいいですが、
強い痛みでしたら、
無理はせず今回は中止した方が良いと思います。
抗生剤は抜いて、
パリエットのみの内服として、
様子を見ても良いと思います。
便通や便の性状には変化はないですか?
by fujiki (2011-01-31 13:55) 

midori

先生、早速ありがとうこざいます。

すみません、少し記憶違いがありました。
木曜の内視鏡の後、食事をしてから強めの腹部全体の痛みが、寝るまで続きました。
金曜は全く症状はありませんでした。
土曜の朝から除菌を始めました。薬を飲んでしばらくしたら、胃が変な感じになり、3時間ほど続きました。痛みというほどではなかったです。夜も同じです。
日曜朝服用してからはずっと痛んでいます。
どちらかというと便秘気味です。ちょっと胸のムカつきもあります。

うーん中止ですか。痛むのは菌をやっつけてる証拠だろうから頑張って耐えてみようかなんて思っていたのですが。。。
今夜飲む時間まで変わらず痛ければ中止のほうがいいですね。

お忙しいところありがとうございました。
by midori (2011-01-31 14:12) 

アダム

唐突ですが、助言を頂きたくコメントさせてもらいました。息子(9歳半)の事ですが、23日から熱が出始め、1週間
ずっと38度を超えています。一時期39度3分までいきました。アセトアミノフェンを服用していますが、あまり効果がないので、クリニックへ連れて行きました。しかし、私たちはカナダに在住しており、こちらでは、余程の事がない限りインフルエンザの検査をしてくれませんし、抗ウイルス剤も抗菌剤もなかなか出してくれないのが現状です。インフルエンザの抗ウイルス剤は48時間以内に服用するほうが良いと聞きましたが、服用機会を逃がすことになります。夫も周りの人もインフルエンザ検査は一般的ではないと言うので、非常にここの医療が不安になりメールさせてもらいました。

結局、処方されたのは市販で購入できるタイレノールのみ、すごく咳き込んでいるにも関わらず、咳止めもなし。スポーツ飲料を飲ませ、102F以上の熱がでたら、暖かいお風呂に入れなさいと言われました。私は子供の頃、熱があったらお風呂に入ったらいけないと祖母に言われていたので、腑に落ちなかったのです。今朝も38度4分あり食欲もありません。やはり、もう一度行って、抗ウイルス剤か抗菌剤をせがむ方が良いでしょうか。先生、ご助言よろしくお願いします。
by アダム (2011-02-01 06:38) 

fujiki

アダムさんへ
コメントありがとうございます。
息子さんご心配なことと思います。

1週間以上の発熱とせき込みで、
改善傾向がないとすれば、
通常は肺炎を疑います。
日本では初回から抗生物質を使用し、
インフルエンザの検査も行なうことが多いのですが、
それが必ずしも正しいとは言えませんし、
過剰検査、過剰投薬のきらいはあると思います。

お子さんの状態がご心配であれば、
もう一度受診はされた方が良いと思いますが、
肺炎など重症の感染症の疑いがないかどうか、
全身状態に問題はないかどうかのチェックの方が、
より重要で、
検査や診断なしに、
今の時点で抗ウイルス剤や抗生物質を使用するのは、
あまりお勧めは出来ません。

ただ、咳はお風邪が治りかけに強くなることもありますので、
呼吸の状態が良く、
熱のピークが下がっているようであれば、
そのままご様子を見ても問題はない可能性が高いと思います。

逆に胸の中央がへこむような、
苦しそうな呼吸をしていたり、
お元気がなく熱のピークも下がらなければ、
悪化している可能性があります。

お風呂については、
どちらが正解、ということはないと思います。
お子さんの消耗がそれほどでなく、
水分がしっかり取れる状態であれば、
入っても問題はないと思いますし、
あまり水分が取れないような状態であれば、
お風呂に入ることで身体の消耗が悪化する可能性があり、
入浴は控えた方が良いと思います。

以上は息子さんのような病状の患者さんが、
診療所にお見えになった時に、
僕が注意している事項なので、
必ずしもカナダの状況に、
合致したものとは言えないことを、
ご注意の上お読み頂ければ幸いです。
by fujiki (2011-02-01 08:32) 

ヤッチ

こんばんは。

ときどき記事を拝見し、勉強させてもらっています。

今日から私の父がメマリー錠5mgを服用することになりました。

アルツハイマーが以前に比べて進行しているとの主治医の判断から処方に至りました。

まだ飲み始めたばかりですが、朝にアリセプト、夕にメマリーを飲むことに少々素人の私は不安を感じています。

先生の記事を勝手とは思いましたがリンクをはらせていただきました。

まずはご挨拶まで。

またお邪魔させていただきます。
by ヤッチ (2011-07-06 23:44) 

fujiki

ヤッチさんへ
コメントありがとうございます。
リンク了解しました。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-07-07 08:24) 

jiro

基本的な質問ですいません
とてもわかりやすい説明で、よくわかったのですが
「グルタミン酸は興奮系の刺激伝達物質です」
であれば、メマリーはブロックする方向ですから
副作用で興奮は合わない気がするのですが、、、
グルタミン酸が下がるとドーパミンが亢進しやすくなるからでしょうか?

by jiro (2012-02-24 12:59) 

fujiki

jiro さんへ
コメントありがとうございます。
端的に言えば、
メカニズムは明確には分かっていないと思います。
ただ、たとえばベンゾジアゼピン系の安定剤でも、
落ち着く方ばかりではなく、
却って興奮したりイライラを来すような方もいます。
セロトニン系を賦活させる作用の抗鬱剤は、
気分の安定化作用がある一方で、
人によってはイライラが増幅することもあります。
脳の機能が全体に低下したようなケースでは、
バランスの問題になるので、
ある部分の働きを落とす作用の薬が、
却って他の脳の部分のバランスを乱して、
結果として見かけ上反対の効果を示すような、
そうした事例は実際には多いと思います。
ご指摘のドーパミンの相対的な過剰状態も、
その1つの説明ではあると思います。
by fujiki (2012-02-25 08:23) 

jiro

NMDA受容体で考えると効果や副作用が理解しにくいですが
NMDAのことは忘れてアマンタジンの亜流と考えれば、ドパミン作動薬のような?副作用と考えれば、理解できると思いました。ご回答ありがとうございました。
by jiro (2012-02-28 08:51) 

Oka

メマンチンのことについて調べていて先生のブログを見つけました。
母が(76歳)認知症ではと普段の症状を書いて病院へ行ったところ、アリセプト3mg、1週間で5mgに増え、今2週間目です。表情が明るくなり、積極的になり、副作用もなくよかったと思っています。(まだ3週間ですが)お医者さんもよく診察してくださり、信頼していますが、認知症は数種類あり、治療が違うというので、混合型にしてもはっきりと病名をお聞きしたほうがよいのでしょうか?アルツハイマーとレビー小体型では治療法も違うと聞きますので、家庭での生活において注意することが違うなら知りたいです。
また、アリセプト5mgが落ち着いたら、メマンチンも併用するようなことをちらっとおっしゃったので、色々考えてしまいました。脳のお薬なので、二種類も飲んで大丈夫なのかと心配ですが、今回のブログを拝見して、少し安心できたところと、不安が増したところがあります。今少し認知症のためか穏やかなのですが、元が気性が激しい人なので、薬の副作用で元の性格プラス、薬の副作用では本人血圧低いので急に上がったりとか、心臓の不整脈もあるので、あまり興奮すると心配です。普段から薬嫌いで飲まないので、今回アリセプトは即効性があるのかと思うほどよく効いているような気がしますが、お薬を併用したときの副作用もすぐに現れるのでしょうか?(だと嬉しいですが)
by Oka (2012-05-20 23:17) 

fujiki

Oka さんへ
メマンチンを併用することを勧められた場合には、
そのメリットとデメリットについて、
主治医の先生とよくご相談の上、
決めて頂くのが良いと思います。
個人的にはアリセプトの単剤で、
効果があるようなので、
単剤で様子を見るのが良いように思いますが、
これはもう色々な考えがあり、
一概にどちらが…とは言えません。
認知症の診断は、
なかなかクリアにはならないことも多いと思いますが、
現時点での主治医の先生の、
診断に対するお考えは、
お聞きして頂いた方が良いのではないかと思います。
ただ、レビー小体型認知症にも、
アリセプト単剤で有用性があった、
という最近の報告もあります。
by fujiki (2012-05-21 08:28) 

そら

突然のコメントで失礼します。9月に63歳の主人が脳神経心理検査(15点/30点中)MRI(海馬の大きさ1.87)と脳シンチ検査の結果、アルツハイマー症と診断されました。当初シンメトレルが処方され一ヶ月の間1日3回服用しており、本人は体調的にも気持ち的にも調子が良さそうでした。そのあと家族としては、アルツハイマーに効果がある薬を希望して医師に相談したところ、まず「レミニール」を、次が「アリセプト」を処方してくださったのですが、どちらも吐き気、めまいの副作用がひどく却って日常生活に支障が出てしまい中断せざる得ない状況となりました。こちらのサイトでメマリーとシンメトレルが同一骨格にあると知り、それならば素人考えですが、主人は初期ですし、何より副作用があまりなくて服用を続けられるなら、メマリーは適用外でもシンメトレルに戻してもらったら良いのではと考えている次第です。シンメトレルのみでは、確かに進行抑制に不安があります。何か他に良案があればぜひご意見をお聞かせください。長文になってしまい申し訳ありません。よろしくお願いします
by そら (2013-11-03 20:44) 

fujiki

そらさんへ
ご返事が遅れまして申し訳ありません。
アリセプトが副作用で継続困難であれば、
メマリーを試してみるのは、
悪くないように思います。
発売時はかなり縛りがあったのですが、
現在では単独の初期からの使用でも、
効果があり副作用がなければ、
慎重に使用するのは問題はないように思います。
勿論シンメトレルに戻して様子を見るのも、
次善の策としては悪くないと思います。
by fujiki (2013-11-11 08:39) 

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コメントしました、そらです。
ご意見ありがとうございます。
本人にあまりに負担をかけたくない反面、少しでも早い段階から効果がある薬を飲んで欲しいと、焦りがあったかもしれません。薬に対するご意見はもちろんですが、私の気持ちのケアもしていただいたようで、感謝いたします。ありがとうございました。
by お名前(必須) (2013-11-12 09:56) 

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