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糖尿病治療難民とロキソニンのことなど [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はちょっと頭に浮かんだことを、
雑記的に書きます。

昨日、他院でのロキソニンの処方で、
急性腎不全になり、
入院された患者さんが回復後に受診されました。
まだ大学生です。

こうしたことはすぐに忘れてしまうので、
今日書いておきます。

勿論大多数のロキソニンを飲まれる患者さんには、
そうしたことは起こらないのです。
ただ、こうした事例が実際にあることは確かです。

先日建設業に従事している50代の男性の方が、
雇い入れ時の健診のために、
診療所を受診されました。

検査をしてみると、
血糖値は食前で312mg/dl と上昇し、
HbA1c は11を超えていました。
おしっこには糖以外に蛋白も検出されています。
眼底の写真(これは区の健診のオプションです)では、
糖尿病性の変化である、
眼底出血と白斑とが認められました。
レントゲンや心電図には異常はなく、
クレアチニンの上昇はありませんでした。

お聞きしてみると、
ご家族の殆どには糖尿病があり、
心筋梗塞や腎不全で、
亡くなられている方も多いことが分かりました。

話は後で聞くから診断書が欲しい、
とのお話だったので、
取り敢えず診断書をお渡しすると、
数時間で再び診療所にお出でになり、
これでは現場には入れねえな、
と悲しそうな声で言われます。

健康診断書に治療の必要な病気があれば、
その病気で仕事が可能であるかの、
医療機関の診断書の提出を、
会社からは再度求められます。

しかし、建設業は今不況のどん底で、
その人にも最近は仕事は殆どありません。
医療機関を受診して、
すぐに就業可能の診断書の出る訳もなく、
その医療費を払えるような余裕は、
その人にはないのです。

僕はその人に、
現在の糖尿病の現状をお話しました。

その人は以前から糖尿病が自分にあることは、
重々承知はしていたのですが、
仕事があった時期には面倒で時間もなかったために、
仕事がなくなってからは、
金銭的な余裕がないために、
医療機関の継続的に掛かることはありませんでした。

このままであれば、
いずれこの人は糖尿病で命を落とすでしょう。

しかし、どうすれば良いのでしょうか?

この人の状態を考えれば、
一旦は入院して高次の医療機関で精査と治療を行なうべきです。
しかし、僕が紹介状を書いてお渡ししても、
この人は病院には行かないでしょうし、
行っても一度きりで終わってしまうでしょう。
一度受診しただけでも非常な労力が掛かり、
金銭的にも負担が掛かります。
そして、その意味は、
それがその後の継続的な治療に結び付くものでなければ、
全くの無駄になってしまうでしょう。

それでは診療所で治療をして、
血糖値がある程度改善した段階で、
仕事に就き、少し余裕が出来た時点で、
高次の病院に紹介する、
という選択肢はどうでしょうか?

以前は僕も主にはそうした方針を取っていました。
しかし、医療費の問題は重く圧し掛かります。

基本的にはこの方にはインスリン治療が必要です。

しかし、インスリン治療にはお金が掛かります。

診療費としては在宅自己注射指導管理料が掛かり、
これは月に8200円、3割負担で2460円です。
検査をせずにこうした薬を使用することは出来ませんから、
検査の費用も上乗せされます。
自己測定もして頂きたい、ということになれば、
それもまた費用として加算されます。
更にはインスリン自体の値段も、
決して安いものではありません。

世の中には、
インスリン治療が必要であるのに、
飲み薬の治療をダラダラと行なっている糖尿病の患者さんが、
実際には多くいらっしゃいます。

その中には、
勿論僕のような末端の医者が、
無知なためにインスリンを使用していない、
というケースも存在するでしょうが、
それと同じくらい、
医療費の問題でインスリンを使用しない患者さんもいるのです。

そのことは、
あまり表だって議論されることはありません。

それでは安いジェネリックの糖尿病薬を、
飲み薬で使用して、
様子を見る、という選択肢はどうでしょう。

インスリンより医療費はぐっと減ります。
たとえば3ヶ月の処方をして、
検査もほとんどしないとすれば、
患者さんの負担は最小限に抑えらえます。

しかし、こうした杜撰な治療を行なうことで、
その患者さんの予後は、
果たして未治療な状態と比べて、
いくらかでも改善するでしょうか?

むしろ、予期せぬ薬剤の副作用で、
却ってその経過を悪くしてしまう可能性の方が、
高いのではないでしょうか?

今のような医療費の削減が至上命題とされる、
おそらく歴史上も最悪に近い医療行政の元にある現在では、
本来はこうした臨床研究こそ最も必要です。

つまり、医療費のランクごとに、
どのレベルの治療を行なえば、
行なわないのと比較して、
患者さんにメリットがあるのか、
という検証です。

しかし、そんな検証は現実的には不可能で、
今後も行われることはないでしょう。

生活に困る状況でお仕事が見つからないのであれば、
生活保護の申請をお勧めするのが、
公言するのははばかられますが、
もう1つの選択肢です。

一旦生活保護が認められれば、
インスリンを使用しても、
その医療費は基本的にはすべて無料になるからです。
いや、無料というのは適切ではありません。
本来その患者さんが負担するべき医療費を、
行政が代わりに負担することになるのです。

しかし、医者の立場でそんなことを、
軽率に患者さんにお話するべきではありません。

僕は結局、患者さんに病状を詳細にお話し、
病院を受診する意思があるかどうかをお聞きしました。
その人は現状は無理だと言われました。
それで、生活改善の上で、
少しでも血糖を良くするために、
やるべきことをお話しました。
俺も死ぬのはいやだからやってみる、
とその人は言われたので、
まずは生活改善の上、
2週間後に受診して頂くことにしました。
この人の状況では、
いつ何が起こるか分かりません。
それで、心筋梗塞や脳卒中、ケトアシドーシスなどの、
重症な事態の特徴的な症状についてお話し、
仮にそうしたことがあれば、
迷わず救急車を呼ぶようにお話しました。
(救急隊の皆さん、不適切であればお詫びします)

こうした多くの建設業の方は、
保険もなく現場に入れなければ、
その時点で収入は途切れてしまいます。
勿論無理をすれば医療費を、
ひねり出せない訳ではありませんが、
それを言うのは酷だと僕は思います。

今日、たとえば喘息の患者さんでは、
東京都は医療費が原則無料になりますし、
精神疾患の方では申請を出して認められれば、
医療費は減免される制度があります。

しかし、たとえば糖尿病では、
そうしたことはありません。

糖尿病は継続的な管理が必要な病気であり、
放置すれば病状によっては死の危険もある病気です。
しかし、現実には状態は悪いのに、
経済的な理由で治療を拒否している方や、
3ヶ月に一度飲み薬をもらうだけの、
本当にメリットがあるかどうかも分からない治療を、
漫然と続けている多くの患者さんがいるのです。

個々の病気に対するもっと具体的な方策が、
必要なのではないでしょうか?
医療と言うのは、
それを受ける患者さんにとって、
メリットのあるものでなくてはなりません。
それは個々の患者さんの、
経済的な状況を踏まえたものでなくてはなりません。
それがない医療であれば、
医者と製薬会社と医療機器メーカーの、
儲けのためにやっていると言われても、
申し開きは出来ないように思うのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

38

もの凄く悲しい世の中ですね。

父も長年、糖尿病を患っていました。
インシュリン一日四回打ってました。
僕にも遺伝しています。
現在、精神科で就労を止められ、2年間無職です。
いつ、医療費が払えなくなるか。。。
生活保護は受けられません。
精神障害者年金の申請も、医師が診断書を書いてくれません。
by 38 (2011-01-29 11:38) 

iyashi

弱者に不利な現在のねじれ曲がった医療制度を早急に改革せねばですね。
そこには大きなメスを入れて膿を出し切らなければならないでしょうが、出来る人間がいるのかと思うと残念な気持ちになってしまいます。。。
by iyashi (2011-01-30 09:48) 

先生の患者

ロキソニンの副作用で入院した学生さんですが
PMDAの救済制度は利用されたでしょうか?
by 先生の患者 (2011-01-30 14:22) 

fujiki

38さんへ
コメントありがとうございます。
病気になると、
本当に生き辛い世の中ですが、
その時点で最善を、
考えてゆくしかないのかも知れません。
by fujiki (2011-01-30 19:28) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
少しでも良い方向に向かってゆくことを、
信じたいと思います。
by fujiki (2011-01-30 19:29) 

fujiki

先生の患者 さんへ
それはうっかりしていました。
今度受診された時に聞いてみます。
by fujiki (2011-01-30 19:30) 

パキラ

テスト
by パキラ (2012-04-09 16:17) 

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