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細胞培養日本脳炎ワクチンを考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は日本脳炎とそのワクチンの話です。

以前も記事にしたことはありますが、
まず日本脳炎という病気のことについて、
その概略をまとめます。

日本脳炎は、日本脳炎ウイルスによる感染症です。

この病気は日本と、
韓国、中国、ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピン、
インド、パキスタン、オーストラリアの一部、
などに患者が確認されています。
現在では東南アジアから中国南部が、
その発生の最も多い地域です。

日本脳炎ウイルスは、
フラビウイルスというウイルスの仲間で、
この中にはデング熱という出血熱のウイルスや、
ウェストナイル熱という脳炎のウイルスが含まれ、
また構造の良く似たウイルスに、
C型肝炎ウイルスがあります。

日本脳炎ウイルスは、
コガタアカイエカという種類のウイルスを持っている蚊に、
人間が刺されることによって、
感染する、とされています。

蚊の唾液腺には大量のウイルスが含まれていて、
その蚊が動物を吸血すると、
その刺された動物の体内で、
ウイルスは増殖し、1週間程度すると、
その血液の中に出現します。
その動物を刺した蚊の体内に、
更にウイルスが入る、という循環が成立する訳です。

この場合のウイルス増殖動物として、
一番重要と考えられているのが、
ブタです。

ブタは日本脳炎ウイルスに感染して、
ウイルスが血液の中で増殖しても、
脳炎を起こすことはありません。
ただ、流産の原因になることが知られています。
無症状のブタの血を吸った蚊が、
人間の血を吸うことで、
人間がウイルスに感染するのです。
人間以外には馬もこのウイルスの感染により、
脳炎になることが知られています。

ウイルスに感染した蚊に血を吸われて、
人間の血液の中にウイルスが入っても、
すぐに脳炎になるという訳ではありません。
まず刺された場所の近くのリンパ腺でウイルスが増え、
一定の量に達してから血液に入り、
その一部が脳に侵入して、
再度脳の中で増殖します。
従って感染してから脳炎を起こすまでには、
通常1~2週間程度の時間が掛かります。

ウイルスが人間の身体に侵入しても、
脳炎を起こす確率は多くはありません。
つまり殆どは不顕性感染に終わります。
脳炎を起こす確率の数字にはかなりばらつきがあり、
ハリソン内科学では200人~300人に1人、
厚生労働省のQ&Aでは100~1000人に1人、
手元の文献では300人から3000人に1人というものと、
25人~1000人に1人、というものがありました。
要するに大して明確な統計がある訳ではなく、
あまり当てにはなりませんが、
少なくとも大多数の人が、
ウイルスを持った蚊に刺されても、
脳炎にならないことだけは分かります。

この日本脳炎という病気は、
明治時代には流行していることが確認されていて、
ブタの飼育が広まると共に、
流行が拡大したのだと考えられています。

1948年には4757名の感染者が確認されていて、
その後1966年の2301名の感染者確認以降、
急激に減少し、
1980年代からはほぼ50人以下の発生となり、
この10年間は年間確認患者数は10人以下となっています。

日本脳炎ワクチンが最初に登場したのは、
1954年のことです。
1966年に大流行が起こったため、
1967年から特別対策として接種が拡大され、
1976年からは小児の集団接種が行なわれています。

つまりワクチン推進派の人達の考え方からすると、
これはワクチンの接種によって、
劇的に日本脳炎の発生が減ったのであり、
ワクチンの著効した実例だ、ということになります。

ただ、日本脳炎ワクチンの感染防御効果は、
日本人で実証的なデータとしての、
確認はされていません。

ワクチンを打つと、中和抗体価が上昇することは事実です。
しかし、それではどの程度の中和抗体価が存在すれば、
その感染が阻止出来るのか、と言う点については、
人間でしっかりと検討されたデータは存在しません。
確認されているのは、ネズミでの実験だけです。

この点が他の感染症、たとえば麻疹のようなもののワクチンとは、
基本的に考え方の異なるところです。

日本脳炎の減少に、
ワクチンの効果があったこと自体は事実でしょう。
しかし、同時期から蚊の駆除や、
日本人の衛生状態の改善、
生活の都市化や蚊を防御する、という発想、
ブタを飼育する環境の改善と、
ブタの飼育場所の近くで、
人間が生活する状況の減少など、
多くの変化があったこともまた事実です。

そうした多くの変化とワクチン接種の、
どちらがどれだけ病気の減少に寄与したのかは、
しっかりとしたデータが日本に存在しない以上、
検証は現時点では不可能なのです。

たとえば、麻疹はウイルスが感染すれば高率に発症し、
不顕性感染は殆どなく、人から人に高率に感染が拡大します。
その発生はワクチンの接種により、
確実に減少し、
日本の事例のように、ワクチン接種が中断すれば、
確実に増加します。

つまり、こうした病気ではワクチンの効果は確実です。

しかし、日本脳炎は、人から人に感染することはなく、
感染しても100人に1人より少ない確率でしか、
その発病はありません。

こうした病気が本当にワクチンの効果で減少したのかどうか、
それを検証することは非常に困難であることが、
何となくお分かり頂けるかと思います。

さて、1957年に開発された日本脳炎ワクチンは、
ネズミを日本脳炎に感染させ、
その脳を取り出して、すり潰し、
それをホルマリン処理した、
という原始的な手法によるワクチンです。
その後何度か改良が行なわれましたが、
基本的な性質は同じです。

動物の脳の成分を注射する、
ということの弊害は、
特にアメリカでは問題視され、
このワクチンはアナフィラキシーが高率に起こるため、
そのリスクを考えた上で、
接種する必要がある、
という警告の上で接種が行なわれています。

しかし、こうした問題点がありながら、
日本脳炎ワクチンの定期接種は続けられ、
平成17年になって、ワクチン接種後の重篤な神経障碍の発症が、
ワクチンと無関係とは言い切れない、
と言う判断の下に、積極的な勧奨が、
見送られるようになったのです。

そして、数年の試行錯誤の後、
昨年の4月から、今度は細胞培養という方法による、
新しい日本脳炎ワクチンが承認され、
1期の接種に限って、その定期接種が再開されたのです。
「積極的な勧奨はしないまま」という非常に特異な再開です。

それではこの新しい日本脳炎のワクチンは、
これまでのワクチンとどういう点が違い、
その有効性と安全性はどの程度のものなのでしょうか?
また、ワクチンの接種が激減して以降も、
毎年数名に留まっているという流行状況の中、
このワクチンを積極的に打つ意味は、
どの程度に存在するのでしょうか?

長くなりましたので、
その点は明日に続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

あきこ

数年前、関西で日本脳炎が少し流行りだした、とニュースで
何回か聞いて、幼稚園のママたちととても不安になり、
すかさず第一回目を打ってしまいました。

近所の小児科の先生は、「まもなく新しい日本脳炎のワクチンが
できるけれど、この既存のワクチンのタイプを第二回目も受ける
ことができるように、あなたの来年の分は確保しておきますね。」
と言われました。

いま考えると不思議な対応です・・・。結局、その翌年、
追加接種はやめました。

そのとき、きちんと情報を整理して、自分の頭で考えるのが大切
なんだなあ、と思いました。
その約一年後に熱性痙攣をおこしました。あのとき打たなくて
よかったです。

続きを楽しみにしています。
by あきこ (2010-03-17 10:17) 

fujiki

あきこさんへ
コメントありがとうございます。

日本脳炎のような病気に関しては、
地域の状況によりその接種を選択する方針の方が、
望ましいのではないか、という気がします。
by fujiki (2010-03-17 17:55) 

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