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続・細胞培養日本脳炎ワクチンを考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

今日は昨日の日本脳炎ワクチンの話の続きです。

日本脳炎のワクチンは、
1950年代から使われた古いワクチンで、
日本脳炎ウイルスに感染したネズミの脳をすり潰し、
精製してホルマリン処理したワクチンです。

このワクチンの問題点は、
ネズミの脳組織を人間に接種する、
という行為に問題はないのか、ということと、
その効果が必ずしも臨床的には証明されていない、
ということです。
アメリカでは、アナフィラキシーの副反応の、
起こる確率の高いワクチン、という判断がされています。

平成17年に急性散在性脳脊髄炎による重篤な神経障碍が、
日本脳炎ワクチンの副反応ではないのか、
という報道がきっかけとなり、
事実上日本脳炎ワクチンの接種は中止されました。

急性散在性脳脊髄炎は、
皆さんもご存知のように、
ワクチン全般で、絶対に皆無とは言えない、
副反応の1つです。
新型インフルエンザの国産ワクチンでも、
既に疑い事例は報告されています。

たとえば、インフルエンザワクチンと比較して、
日本脳炎ワクチンの方が、この副反応が明らかに多い、
という根拠はありませんが、
それでいて接種が事実上中止されたのは、
報道の効果もさることながら、
矢張り動物の脳組織を含むワクチン、
と言うものに対して、
「これはまずいのではないか…」という思いが、
関係者の間にあったためではないか、と思われます。

ネズミの脳組織を使用しないワクチンの開発が、
急ピッチで進められ、
そしてようやく昨年(平成21年)の6月から、
使用が開始されたのが、
Vero 細胞という培養細胞で、
ウイルスを増殖させホルマリンで不活化した、
「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」です。

販売名は「ジェービックV」と言い、
ちょっと不安を感じる、
阪大微研というワクチン会社のワクチンです。

このワクチンの効果と安全性については、
まだ未知数の部分があります。

まず、その効果についてですが、
現時点で分かっているのは、
123名のお子さんを対象とした治験で、
その抗体が10倍以上に上昇した率が、
3回接種後では100%であった、ということだけです。

つまり、以前のワクチンと同等の効果のあることは、
ほぼ間違いがありません。

ただ、この10倍の抗体価というのは、
マウスの実験で感染が阻止される、
という基準に過ぎず、人間においての、
同様のデータは存在しません。

それがこのワクチンの臨床効果を考える面での、
1つの問題点です。

昨日の繰り返しになりますが、
日本脳炎という病気は、
不顕性感染が99%以上という、特殊性があり、
また人から人には感染することがなく、
ウイルスを保有する蚊の吸血、
という媒介でしか感染することがないので、
集団感染を起こすような病気のように、
簡単にそのワクチンの予防効果を、
検証することは出来ないのです。

つまり「効くと信じて」打つしかない訳です。

それではこのワクチンの安全性はどうでしょうか?

細胞培養のワクチンというのは、
実際にはまだ使用経験が少なく、
自己免疫疾患や癌の発生を増やすのでは、
と危惧する意見もあります。
培養細胞というのは、
異常に増殖の早い細胞であり、
癌細胞の仲間のようなものだからです。

厚生労働省の資料によると、
この新ワクチンの承認から今年の1月5日までの間に、
髄膜炎が1例、神経系の障碍が7例、
副反応として報告されており、
その神経障碍の中には、
もう既に、1例の急性散在性脳脊髄炎が含まれています。
この間の接種回数は50万回程度です。

つまり、いつまでもネズミの脳組織由来のワクチンを、
使っていることは望ましいこととは思えず、
今回新ワクチンへ移行したこと自体は、
あるべき方向であったと思いますが、
こと副反応という点に着目すれば、
新旧のワクチンで、神経障碍の出現に、
さほどの差があるとは思えません。

つまり、リスクは同じ、と考えて受けて頂くのが、
適切ではないか、と僕は思います。

さて、養豚場のブタが全て日本脳炎ワクチンを接種すれば、
人間様が打つよりも、
理屈の上ではずっと効果があり、
日本脳炎自体の発生も減る筈です。
養豚場におけるワクチン接種の現状については、
僕は全く知識がありませんが、
流産のリスクのあるブタ以外への、ワクチンの接種は、
おそらくそれほど積極的には行なわれていないようです。
また、定期的にブタの抗体価がチェックされ、
それが日本脳炎の感染リスクの指標とされている、
という現状から見て、
一般のブタへのワクチンの接種は限定的なようです。
(仮に全てのブタがワクチンを打っていれば、
その抗体価が上がっているのは当たり前で、
こんな調査は全く意味のないものになってしまうからです)

日本脳炎は例外的に茨城県での発生がある以外は、
関東以北では最近の発生はなく、
特に九州での発生の多い病気です。

つまりこの病気のリスクは、
顕著な地域性があり、
また環境要因に左右されるため、
全ての日本人が、
洩れなく打つべき、というような考え方は成り立ちません。

あくまでその地域毎にリスクを判断し、
その接種の必要性を元に、
接種を決めるのが適切な考えではないかと思います。

たとえばアメリカでは、
初回と1週間後に2回目の接種、1ヶ月後に3回目の接種、
という形で、東南アジアへの駐在員などに限って、
接種が行なわれています。

診療所のある渋谷区在住の方で、
日本脳炎ワクチンを接種する必要性、
という面を考えると、
感染のリスクは極めて低く、
あまり積極的にお勧めする気にはなりません。

ただ、関西以南の方であれば、
接種の意義はもう少し高いものになります。

また、東南アジアに長期滞在されるような方は、
是非接種するべきだ、
という言い方が可能ではないかと思います。

以上をまとめるとこうなります。

日本脳炎の新ワクチンは、
感染症やアナフィラキシーのリスクは、
旧ワクチンより低いと考えられますが、
神経障碍などの副反応のリスクは、
旧ワクチンと同等と考えられます。
その効果は臨床的に確立されたものではなく、
日本脳炎という病気の特殊性から考えて、
その生活地域の感染のリスクを良く考えた上で、
接種を決めるのが妥当と考えられます。

以上日本脳炎ワクチンの総説でした。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

くうさん

 今回、こちらにたどり着いたのは、
娘の日本脳炎接種をどうしようかと悩んでいたからです。
 四歳なのですが、1回目の接種で発熱して、2回目が怖くて打てずにいます。 奈良県で、養豚場は家の近くにはないのですが県内にはあります。学校の旅行等で将来、豚の多いところに行くことになるかも…、でも、また熱がでたりとんでもない副反応がでたら…。と考えるともうそろそろ一回目から一年経過することもあり、余計に悩みます。
 このような場合は、先生の場合、どのようにアドバイスされますか? お聞かせいただければありがたいのですが。



by くうさん (2011-01-15 11:12) 

fujiki

くうさんへ
コメントありがとうございます。
発熱はその出方によっても、
判断は異なると思います。
接種後あまり経たない時点での高熱で、
他の風邪症状などを伴わないものは、
ワクチン反応の可能性が高いと思いますが、
湿疹や咳、咽喉の腫れなど、
風邪症状を伴うものは、
たまたまウイルス感染の潜伏期に重なった、
と考えて方が良いと思います。
アレルギーや呼吸困難のような急性の症状があった場合には、
2回目の接種は行なわない方が良いと思いますが、
それ以外の場合には、
同じワクチンであっても、
個々の接種の副反応の危険性は、
常に同じと考えた方が良いと思います。

従って、風邪類似の発熱で、
短期間で改善したものであれば、
2回目の接種は行なっても良いのではないか、
と思います。
ただ、2度目の接種で他の重篤な副反応の起こる可能性も、
勿論ゼロではありません。

感染のリスクについては、
色々な考え方がありますが、
短期間の国内の旅行で、
感染する可能性は現状では、
極めて低いと思います。
従って、流行が懸念されるような事態が、
将来的に生じれば、
その時点で接種を検討しても、
僕はこのワクチンに関しては、
誤りではないのではないか、
と言う気がします。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2011-01-16 21:15) 

くうさん

 さっそくのお返事、ありがとうございました。
 娘の熱は、接種した夜にでて、次の日には下がると
いうようなものでしたので、副反応ではと思います。
 いろいろ検索してみると、新日本脳炎ワクチンは、結構
発熱している人が多いみたいです。
 MRワクチンでも、熱はなかったですが身体に発疹がでました。 子どものワクチン接種は悩み多いです。
 ご意見、参考にさせていただきます。

by くうさん (2011-01-17 21:56) 

ふく

はじめまして。
私も子供の日本脳炎ワクチン接種について悩んでおります。

現在九州に住んでおり、春から幼稚園の年少に通う予定の子供がいます。

入園後は、子供同士で色々な病気をもらうだろうから、予防接種のタイミングを失うのではと思い、入園前にしっかり体調管理した上で1期初回の2回接種を受けるつもりでいましたが、不安が多く、いまだ決断できずにいます。

いろいろと検索している中で、現在使用されている「ジェービックV」の重大な副反応について、先月改定されている事を知りました。
急性血小板減少性紫斑病が追加されていました。

発生頻度は非常にまれな確立なのかもしれませんが、自分の子がそうなるかもしれない、という事でいえば、なるかならないかの2分の1だと思っています。

去年、子供におたふく風邪のワクチンをしてちょうど3週間後に、突然の嘔吐、発熱、頭痛がおこりました。
無菌性髄膜炎です。
4日ほどで回復しましたが、その時は本当に怖かったです。
どんなに低い確率でも、起きるときは起きるんだ、と思いました。

また、化血研の「エンセバック」がアステラス製薬より発売準備中という情報もあるようですね。
こちらも、まだ実績がないものなので何ともいえませんが
阪大微研よりも安心なイメージがあります。(私の勝手なイメージです)

いつ、どこのどんなワクチンを打つとしても、重大な副反応への不安はつきまといますが…

入園前に接種してしまうか、もう少しワクチンについての情報がまとまるのを待つか、とても悩みます。

九州に住んでいるのだし、ジェービックVを信じて、
早めに接種する方が良いと思われますか?
よろしければ、先生のご意見をお聞かせ願えますでしょうか。






by ふく (2011-02-06 22:20) 

fujiki

ふくさんへ
コメントありがとうございます。
九州ということを考えると、
接種はしておいた方が良いかも知れません。
微研より化血研の方が良い、ということは、
おそらくないのではないかと思います。
両社とも、色々とあった会社です。
基本的には製法は同一ですし、
手続き上の遅れが主要因のようです。
ただ、ADEMのような副反応に関して言えば、
もう報告はありますし、
旧ワクチンと同等の発症率、と考えて打って頂いた方が良いと思います。
血小板減少性紫斑病は、
どのワクチンでもあり得る副反応と思いますので、
現時点では、
それほど重要視はされないで良いと思います。

ただ、日本脳炎のワクチンは、
補償の問題や行政の対応の問題を除けば、
人から人に感染する病気ではないので、
打つタイミングは遅らせても、
格別な支障はないものと思います。
by fujiki (2011-02-07 08:35) 

ふく

お返事ありがとうございます。

近年、日本脳炎になったお子さんもいらっしゃるし
このワクチンでADEMになった方もいらっしゃる。
…北海道に移住したい気持ちでいっぱいです。

子供にワクチン接種をする日が来るたびに
不安で狂いそうになる自分がいやです。
怖いけど、大丈夫だと信じて打つしかないのでしょうね。

先生にお返事いただけて少し気持ちが落ち着きました。
ありがとうございました。


by ふく (2011-02-07 21:52) 

けんけんママ

はじめまして、ネットで日本脳炎について色々調べていたら、こちらの先生のHPにたどりつきました。今まで色んな情報を読みましたが先生の内容が一番わかりやすかったです。

今、日本脳炎を接種すべきかどうか毎日悩んでおりまして、先生に質問させていただいてもよろしいでしょうか?

私の主人がアメリカ人でして、私ともうすぐ一歳になる子供と、四月の頭にアメリカに引っ越しをしなければなりません。
一度行くと中々日本に帰ってこれないので、いまのうちに打っておくべきかどうか悩んでおります。

ワクチンが新しくなったと言っても、先生の記事を読ませていただいた所、旧ワクチンと危険性はあまり変わらないとの事だったので、非所に悩んでおります。
今打ったとしたら二回目を今から一カ月後に打ち、渡米が四月の頭なのでぎりぎり間に合います。
そして一年後位に帰国しようかと思っております。(丁度その頃、一年10カ月検診があり、タイミング的には丁度良いかと思いました)

でも、タイミングが良いからと言って接種をし、ADEMになってしまったら一生後悔しても後悔しきれないので、どうしたもんかと思っています。

ちなみに、小児科に相談したんですが、行き先はアメリカ(ハワイ)だし、日本脳炎より優先すべき予防接種があるので、今は必要はないんじゃないか、と言われました。
そう言われたら、そうですか、、と答えるしかなく、本当に大丈夫かなと毎日不安に思っております。

先生の意見を詳しくお聞かせ願えれば嬉しいです。
お忙しい所申し訳ありません。
宜しくお願い致します。
by けんけんママ (2012-02-27 00:16) 

fujiki

けんけんママさんへ
メールの方にご返事します。
少々お待ち下さい。
by fujiki (2012-02-27 08:14) 

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