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司馬遼太郎「坂の上の雲」 [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は診療所は休診で、
1日家にいるつもりです。

司馬遼太郎は僕はあまり良い読者ではなくて、
今まで読んだのは、
「国盗り物語」と「竜馬がゆく」だけです。
今回1月下旬くらいから、
ちびちびと「坂の上の雲」を読み続けて、
先週の金曜日に読了しました。

NHKのテレビドラマはまだ見ていません。

この作品は物凄く持ち上げる方がいるのですが、
どうなんでしょうか?

長編小説としての構成は、
明らかに変ですね。

一応書き出しでは同年代の3人の若者、
秋山好古と秋山真之の兄弟と、
正岡子規の3人が主人公のドラマであるかのような説明です。

しかし、文庫本8巻のうち、
子規は3巻の初めで亡くなってしまい、
それから日露戦争の開戦になるので、
その後ラストまで延々と日露戦争の描写が続き、
最初の構成のイメージは、
全くなくなってしまいます。

秋山兄弟にしても、主人公である割には、
「小説上」では大した活躍がなく、
2人とも相当な変わり者であることだけは分かりますが、
海軍の真之は実際海戦が始まれば、
悶々としてるだけですし、
陸軍の好古も、
実戦中も酒を飲みながら、
敵の攻撃を必死で耐えているだけ、
という印象が残るだけです。

本来日露戦争前後の日本の状況を、
国内と戦争の現場とを対比しつつ描くことが、
この作品のコンセプトだったと思うのですが、
実際には日露戦争開戦と共に、
戦争の描写一色になってしまうので、
前半と後半とのバランスは、
はなはだ悪いと言わざるを得ません。

この作品の魅力はただ、
日露戦争のほぼ全体像を、
今日的視点で再構成した、
という点にあるのではないか、
と僕は思います。

もしこの作品が存在しなかったとしたら、
日露戦争の歴史など、
一部のマニア以外には、
殆ど知られることのない状態に、
なっていただろうからです。

僕が司馬遼太郎の作品に、
あまり興味が湧かないのは、
その作品がノンフィクションと小説との、
間を揺れ動くような位置にあって、
ノンフィクションと言う割には、
作者の主観による強引な「作られた」展開や解釈が多く、
小説と言う割には、
都合の悪い部分は、
「この時の発言は記録がなく不明である」
のようにポイントを逃げてしまったり、
小説としての人物の掴み方が弱いのではないか、
と言う気がするからです。

この作品でも、僕は最も魅力的に描かれている人物は、
参謀本部次長の児玉源太郎だと思いますが、
天才的な作戦家で旅順要塞を落とすのにも、
その決め手となる後押しをしたにも拘らず、
黒溝台の会戦では、
油断のために味方の大きな犠牲の要因となっています。
これは作者は「疲れていてうっかりした」というニュアンスの説明で、
何となく逃げているのですが、
小説というのは本来、
人物の一貫性を想像力で造り上げることに、
その1つの本質がある筈です。
非常に魅力的な多くの登場人物が、
この作者の作品中では、
何となく場面ごとに別の人格に見えてしまう辺りが、
僕はこの作者の欠点のように思えます。

ただ、あまり時間もない中で、
仕事の合間などに、何となく読むには適した本ですね。
前半を忘れてもそんなに困らないし、
読み難くはないし、
何となくお勉強をしたような気分になるのも、
悪くはありません。

一方で、政治家や財界人で、
人生の一冊が司馬遼太郎、と公言されるような方は、
僕は何となく危うい気がします。
まあ、ある意味では「大衆に迎合するよ」
という表現の1つなのかも知れませんが、
真面目にそこに「歴史の真実がある」などと思っているとしたら、
そんな方に社会の舵取りなど出来ないと思うからです。
司馬遼太郎をお好きな方も多いと思いますし、
あまりそうした方を敵にまわすつもりはないのですが、
この作者の作品はあくまで娯楽小説であって、
そう格調の高いものではないですよね。
一昔前の歴史小説と称する講談みたいなものを、
現代人にも読めるように再構成した、
というのが実際のところで、
それ以上でも以下でもなく、
別に歴史の真実とか日本人の本質とかと言ったものが、
そこに描かれている訳ではないと思います。

すいません。
3冊読んだくらいでこんなことを言うのは、
失礼ですね。
忘れて下さい。
次は「翔ぶが如く」を読もうかな、
と思っています。
相変わらず、あまりしっかりとした本を、
読む時間がありません。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 6

midori

私は,読んでも読んでも戦闘シーン,というのに飽きて挫折しました.
(途中で,今が日清戦争なのか日露戦争なのかわからなくなっちゃったし)
マンガの「日露戦争物語」も同じ理由で挫折です.
昨年のNHKのドラマは観ました.戦闘シーンは迫力ありました.
(火薬多すぎでは? と心配になりました)
でもでも秋山好古は私の中ではヒーローです.
by midori (2010-03-14 13:49) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。

そうですね。
特に後半はちょっと長過ぎると思います。
却ってごちゃごちゃとして、
前後関係が分からなくなります。
by fujiki (2010-03-14 16:13) 

シロクマ

私もシバリョーには魅力を感じませんね。表現が細やか?日本的?な割に、なんだかイマジネーションが湧かないんです。
by シロクマ (2010-03-14 22:35) 

fujiki

シロクマさんへ
コメントありがとうございます。

描写が基本的に出来ない作家だと僕は思います。
だから、イメージが湧かないのではないでしょうか。
ただ、昔の歴史小説というのは、
描写なしでも成立するんですよね。
by fujiki (2010-03-14 22:45) 

A・ラファエル

私が読んだ中で一番面白かったのは「燃えよ剣」です。
この作品発表以降土方歳三という人物が
悪役で書かれることがなくなったという、
世の新撰組ファンにはターニングポイントになっています。
by A・ラファエル (2010-03-15 00:02) 

fujiki

A・ラファエルさんへ
「燃えよ剣」はたまたま家にありますが、
まだ読んでいません。
これから読んでみます。
確かに目の付け所の見事さは、
この作者の力量なのだな、という気がします。
by fujiki (2010-03-15 08:22) 

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