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チトクロームP-450 の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はチトクロームP450 の話です。

最近チトクロームP450 とか、
それを略してCYP、 という言葉を良く聞きます。

チトクロームP450 とは一体何のことでしょうか?

生体の反応の中では、
有機物質の中に、酸素を、
そのまま取り込ませるような反応が存在します。

そうした反応を起こす酵素を、
オキシゲナーゼ(oxygenase )と呼びます。

チトクローム(cytochrome )というのは、
中央に鉄を持つ蛋白質の一種です。
チトクロームP450 というのは、
一連のチトクロームのうち、
450nm という波長で、
一酸化炭素を吸収する、
という特徴から名付けられた名称です。

その後に、このチトクロームP450 が、
1個の酸素原子を結合させる、
オキシゲナーゼであることが分かったのです。

この酵素には多くの種類があります。

ステロイドホルモンの合成や、
ビタミンDの活性化にも働きますが、
主に今話題となっているのは、
小腸や肝臓での、薬を分解するという働きです。

つまり、チトクロームP450(CYP) は、
小腸や肝臓で薬を分解する酵素です。

皆さんが薬を飲みますね。

その薬は概ね小腸から吸収され、血液の中に入ります。
その血管は門脈という血管に束ねられ、
必ず一度肝臓を通過します。
この時、まず小腸の壁にCYPがあって、
それが吸収される薬の一部を分解します。
更に門脈を経て肝臓に入った薬は、
肝臓の中のCYPで分解されます。

ここまでを、薬剤の「初回通過効果」と呼びます。

つまり、皆さんが飲む薬は、
こうした分解を免れた一部分だけが、
実際に効果を現わす訳です。

薬の中には、そうした反応を見越して、
CYPで分解されると活性化する、というタイプのものもあります。
これを、「プロドラック」と呼んでいます。

さて、薬を分解するCYPにも、
実際には多くの種類があります。

現在知られているだけで20種類以上があり、
そのうち6種類が重要で、
その6種類のCYPで、
CYPで分解される薬の95%が説明出来る、
とされています。

その6種類のCYPには、それぞれ、
CYP3A4、CYP2D6、CYP2C9、CYP2C19、CYP1A2、CYP2E1
という名前が付いています。

ちょっと幾つか、具体的な話をしましょう。

血圧の薬を飲んでいる人は、
グレープフルーツを食べてはいけない、
という話がありますね。

ある種の血圧の薬は、
グレープフルーツを食べると、
その効きが普通より強くなるのです。

それは何故でしょうか?

これは、グレープフルーツに、
小腸のCYP3A4 の働きを妨害する作用があるからです。

たとえば、朝グレープフルーツを食べてから、
食後に血圧の薬を飲んだ、としましょう。

その血圧の薬が、CYP3A4 で分解される場合、
小腸でその働きが鈍くなるため、
それだけ通常より多くの量が、
分解されずに血液の中に入ります。

そのことによって、薬の血液中の濃度が上がり、
血圧の薬が通常より強く効く、
ということになるのです。

もう1つの例をご紹介します。

水虫の飲み薬であるイトラコナゾールと、
睡眠剤のハルシオンを、
一緒に飲んではいけない、
と言われます。

これはどうしてでしょうか?

イトラコナゾールには、イミダゾール環という、
ちょっと特殊な構造があり、
それがCYPにくっついて、
CYPの作用を邪魔するのです。

理屈から言えば、
CYPで分解される全ての薬に影響を与えそうですが、
実際にはCYP2D6とCYP3A4に、
強い影響を与え、それ以外は無視出来る程度の効果です。
ハルシオンはCYP3A4で主に分解される薬なので、
直接その影響を受けます。

従って、イトラコナゾールとハルシオンを同時に飲むと、
ハルシオンが分解されずに、
通常より強く効いてしまう、
ということになる訳です。

よろしいでしょうか?

僕の手元に「チトクロムP-450 」という本があります。
これは1990年の刊行で、
僕が大学院にいた時に買ったものです。

この本には薬の代謝にこの酵素が重要だ、
とは書いてありますが、
その詳細は不明だとされていて、
その細かい分類はまだ書かれてはいません。
要するにまだよく分からなかったのです。

同じ頃、グレープフルーツと血圧の薬のことが話題になり、
ようやくそれが分解酵素のためらしい、
という話を製薬会社の担当の方から聞きました。

まだ、非常に牧歌的な時代だったと言えるかも知れません。

複数の薬を飲む場合、
それが互いに影響し合い、
患者さんに予想外の副作用を起こすことなど、
非常に稀な話だと思っていました。

しかし、実際にはそうではなく、
複数の薬を飲めば、
必ず何らかの相互作用が存在します。

それは無視出来る場合もありますが、
そうではない場合もあります。
そして、処方する医者は、
常にそうした相互作用にも気を配る必要があるのです。

明日はこの点について、
もう少し突っ込んだ話をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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MDISATOH

始めてコメント致します。グレープフルーツは私の今飲んでいる
降圧剤コニール(ベニジピン塩酸塩)は主にCYP3A4で代謝される
為に、グレープフルーツが干渉し、肝臓に於ける本剤の解毒代謝を阻害し、本剤の血中濃度が上昇して、過度の血圧低下を招く恐れが有るので食べられません。

by MDISATOH (2010-02-25 09:43) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。

CYP3A4 で主に代謝され、
少量で効果のある薬は、
色々な意味で注意が必要なようです。
by fujiki (2010-02-26 08:37) 

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