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「ミルタザピン」論争 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から事務仕事をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

新規抗うつ剤の1つである、
「ミルタザピン」については、
以前記事にしました。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-07-14

この時のソースは、幾つかの文献と、
製薬会社の担当者の説明でした。

まあ、いつものことですが、
日本での治験の取り纏めに関わった先生が、
非常に熱心にあちこちにレビューを書かれていて、
その内容なほぼ手放しの賛辞に近いものです。

その一方で、発売が近付いて来ると、
今度は競合する他社のMRの方が来訪され、
「ネガティブキャンペーン」とまで言うと言葉が強いですが、
「実はそんなに大した薬ではないんですよ。
うちの出している今までの抗うつ剤の方が、
ずっと実績も安全性も高いんですよ」
という説明にお見えになります。

今日はそのちょっと悪い評判の方を、
まずご紹介します。

ミルタザピンという薬は実は、
ある古い薬の構造を、僅かに変えただけの薬剤です。

その薬の名前は塩酸ミアンセリン、
商品名はテトラミドです。
このテトラミドは、
「四環系抗うつ剤」というタイプの薬剤です。

「四環系抗うつ剤」というのは、
世界最初の抗うつ剤である、
「三環系抗うつ剤」を改良した薬で、
これも発売当初は画期的新薬として注目されました。

しかし、いざ使用してみると、
効果は三環系抗うつ剤よりは明らかに弱く、
それでいて眠気の副作用はかなり強いのです。
睡眠剤より眠い、という評判です。
それでこの薬は結局は、
あまり抗うつ剤として単独で使用されることはなく、
睡眠剤の補助剤として使われるのが現在ではもっぱらです。

このテトラミドとミルタザピンの構造は、
確かに殆ど違いません。
ここで、要するにミルタザピンというのは、
ちょっと改良されて効きの良くなったテトラミドに過ぎないのではないか、
という推測が可能になります。

勿論ちょっとした構造の変化で、
全く別の作用を持つような薬はいくらもあります。
従って、それだけでミルタザピンとテトラミドを同一視するのは、
まだ早過ぎます。

ただ、ミルタザピンの作用機序のうち、
自己受容体をブロックして、ノルアドレナリンを増やす、
というのはテトラミドと全く同じメカニズムです。
ヒスタミンを妨害する作用が強く、
眠気を生じ易い点も同じです。
後で製薬会社の方に確認したところ、
眠気の副作用はテトラミドと同等のようです。

となると、問題はこれも自己受容体を介するという、
セロトニンに対する作用が、
どの程度の強さのものなのか、
という点に掛かって来ます。
何となく引っ掛かるのは、
直接セロトニンを増やす訳でもなく、
再取り込みの阻害もなく、
それで本当に人間で確証を持って、
セロトニンを増やすと言えるのだろうか、
ということです。
それも、SSRIの衝動性の副作用の一因と考えられる、
2Aは刺激せずむしろブロックする、
という非常に虫のいい理屈なのです。
そうした作用はあっても、
それほど強いものではないのではないか、
という疑問が、何となく強くなって来ます。

ミルタザピンは体重増加の副作用が、
強いことが報告されています。
短期間で2キロ近く増加しているので、
治験のデータとしては、
これも結構強い作用です。
おそらく患者さんによっては、
2キロでは済まないだろうな、
ということは容易に推測が出来ます。

「ネガティブクキャンペーン」を、
全て信用する訳ではありませんが、
ここに挙げた事項は、
概ね事実と考えられます。

その目で、ミルタザピンの総説を多く執筆されている、
某大学教授の方の文献を読み直すと、
テトラミドとの比較は全く触れられず、
如何にも今までに類のない、
画期的新薬のような文言が並んでいるのに、
何となく騙されたような気分になります。

新薬の情報というのは、
常にこうした形で、それを実際に使う、
末端の医師の下には送られて来ます。

錚々たる専門医の先生が、
美辞麗句を飾り立てて、論文を書き、
対談をし、パンフレットにも如何にその薬が、
画期的で素晴らしいかを、熱っぽく語ります。
その情報だけを受け取っている限り、
欠点は1つもなく、今までの薬の全ては、
ゴミのように思えます。
しかし、そのゴミの1つ1つも、
元は画期的新薬であり、
その発売の前には、
まさに同じその専門医の先生が、
同じような美辞麗句を連ねていたのです。

その一方で競合する他社は、
社外秘のパンフレットを持って現われ、
そこには全く正反対のことが書かれています。
これだけかけ離れた考え方が存在するのなら、
公の場でしっかり議論をして、
その上で情報を1つにまとめ、
こちらに提示して欲しいものですが、
間違ってもそんなことはありません。

実際使用する医者の立場としては、
多くのソースからの情報を集めることを心がけ、
「画期的新薬」にもすぐに飛び付かないように、
慎重に考え行動するしか、
自分を守り、患者さんを守る方法はないのかも知れません。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

カプラん

一言コメントになってしまいますが、

同感です;
by カプラん (2009-08-21 01:07) 

fujiki

カプラんさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2009-08-21 08:26) 

或るケミスト

こんばんは
有益な情報に感謝し、いつも興味深く拝見させていただいております。ミルタザピンは新規作用機序の薬ということもあり、作用だけを見ると確かにすごいけどなんか胡散臭いなあと医療現場は様子を伺っているというところでしょうか。
初老の母親は3年半前に腹部の不快感→身体症状(寝汗、便秘、味覚異常、しびれ、腹部不快感)を経て、貧困妄想など強いうつ状態になりました。心療内科を受診しパキシル単剤で開始し、パキシル20mgで尿閉、オムツ状態に至りつつもなんとかSSRIのMAX投与+強化(パキシル40mg+トフラニール50mg)で1年近く治療し、減薬を経て投薬終了までトータル3年掛かって身体症状(寝汗、便秘、味覚異常、しびれ、腹部不快感)、強度のうつ状態は一応治まったが、意欲がわかないのは結局治らずじまいでも投薬終了となりましたが、2週間も経たずして腹部の不快感が発生し、不眠、寝汗、便秘、しびれ、のどの痞えと激しく身体症状を訴え、やけどを数回するなど家事も困難になるなど再び大うつ状態になりました。尿閉を処置できない心療内科はもうコリゴリということで今度は導尿処置が可能で小児から老人まで見れる精神科も対応可という別の内科医に受診させることにしました。
小生のほうから経過を説明してミルタザピンを提案しました。するとSSRIで治療するのんは難しいな。ミルタザピンで行こかということでリフレックスにて治療を開始しました。服用1日目はクアゼパム15mg併用しても36hr一睡もできず泣き出したのでアルプラゾラム0.4mgを追加するとウソのようにバタンキューで7hr眠りました。
受診時は能面のように無表情で認知症のような様相を呈し食事が困難でしたが、3日後には食欲が亢進し表情が少し出せるようになり、7日後には表情がかなり出て身の回りのことがだいぶできるようになるなど即効性には驚いております。パキシルのときは40mgのmaxにまで増やしても数ヶ月たっても改善の兆しが全くなく、アルツ状態がマシになるまで数ヶ月かかり介護が大変でえらい目にあいました。また、パキシルは口の異常なまでの渇き、尿閉、激しい便秘、寝汗や酷い傾眠で寝たきり老人状態でしたが、ミルタザピンは眠くならないしパキシルのような激しい副作用は全くでないし、酷い寝汗は服用初日でぴたりと収まるなど効果の発現も非常に速く小生も驚いております。実際医師も「今までの抗うつ剤じゃこないにスグ症状の改善ちゅうんはありえへんで、順調やな」と驚いておりました。
ボケ老人状態から身の回りのことが早急にできるようになるだけでも大変ありがたいことです。5-HT2A、5-HT2C、5-HT3以外のセロトニンレセプターのみをブロックするという虫のいい効果のおかげでパキシルのときにでた激しい副作用が出なかったのではないかと推測しております。たぶんうちのおかんの場合はSSRIは眠気が酷いなど体にあわんかったのでしょう。ミルタザピンは全く眠気が起こらないという体質なのでちょうど良かったのかもしれません。
テトラミドとの違いは2つあるベンゼン環のうち一つがピリジン環になっただけなのに・・・おそるべしNaSSA。
by 或るケミスト (2009-10-11 01:52) 

或るケミスト

あれ間違いました。
>>5-HT2A、5-HT2C、5-HT3以外のセロトニンレセプターのみをブロックするという

5-HT2A、5-HT2C、5-HT3をブロックし、抑うつ、抗不安作用の5HT1はブロックしないの間違いですね。
すみません。

by 或るケミスト (2009-10-11 01:59) 

fujiki

或るケミストさんへ
貴重な情報をありがとうございます。
ミルタザピンについては、
僕はまだ手探りの感じです。

by fujiki (2009-10-12 22:53) 

不安が和らぎます

はじめまして。
たまたま、Googleから飛んできた、30代の一応「医師」です。
自分としては、典型的な「遷延性」のうつ病だと思っています。

2ヶ月ほど前でしたでしょうか、私も、ミルタザピンが処方されるようになりました。
「どづせ、これまで飲んできた、他の抗うつ薬と同じだろう。
 ちょっと怖くなる副作用がかかれているけど…」
くらいの、懐疑的な気持ちから飲み始めました。

ところが、飲み始めてしばらくしたある日。
それまで、常に胸の中にいたモヤモヤと気持ち悪い感覚が、
ふと…軽くなっていることに気づきました。
これまで、抗不安薬を、たくさん試してきていた私ですが、
そんなのとは比較にならないほど、気持ちが安定するようになっていました。

残念ながら、「意欲」に対する効果はイマイチなのですが、そそれでも、
ただそこにいるだけで、クラクラしていた不快感と自律神経症状が出ていた、ごく近所のスーパーに、自分一人でも、行けるようになりました!!!

眠気に関しては、かなりバラつきがあるようです。
でも、朝、「起きた瞬間」に感じていた不快感が、以前に比べたら、はるかに「さわやか」になったように思っています。

抗うつ薬としてではなく、眠剤として使われることも、合理性があると思います。

ただ……太りました(T_T)
by 不安が和らぎます (2010-03-29 17:16) 

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