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帯状疱疹は本当にワクチンで予防出来るのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、診療は午前中で終わり、
午後は先月の診療報酬の書類のチェックをする予定です。

それでは、今日の話題です。

先週のテレビの「ためしてガッテン」で、
帯状疱疹に水ぼうそうのワクチンを使うと、
予防が可能だ、
という話をしていて、
それ以前にもその話題を取り上げた番組があったようで、
患者さんからの問い合わせが幾つかありました。

間違った情報ではないんですが、
内容には幾つか異論があります。

最近の「医学バラエティ番組」は、
単独の監修者として、
その分野の専門の先生を1人配して、
その先生の意見を主に発信するような傾向のものが、
多いようです。
「ためしてガッテン」も「本当は怖い家庭の医学」もそうですね。

これは一種のテレビ局と制作会社の、
責任逃れですよね。
偉い先生の意見を発信しているだけなのだから、
「内容に何か文句を言われても、
俺たちの責任じゃないぜ」、
という思惑が見え隠れしています。

ただ、専門の先生でも、
結構偏った考えの方もいらっしゃる訳です。
その考えが、一種の洗脳のように公共の電波に乗って、
垂れ流されるのは、
如何なものかな、と思わなくもありません。

前述の「ためしてガッテン」の場合、
僕は実際の番組ではなく、
ネットの記事と見た方の話を元にしているので、
正確を欠く部分があるかも知れませんが、
水ぼうそうのワクチンの開発に、
日本で関わった先生が、
全体の監修をされているようでした。

番組の中でも触れられていたように、
現在世界で使われている水ぼうそうのワクチンは、
元々は日本で開発されたものなんですね。
1970年代に開発され、
1980年代に世界で認可された製品です。
モルモットの胎児の細胞で培養されたもので、
その原液を世界に提供して、
それぞれの国で製品としている訳です。

監修された先生は開発で苦労された当事者なので、
当然そのワクチンに対して、
愛着があるのです。

その先生のグループで書かれた論文や解説を、
僕は幾つか読みましたが、
徹頭徹尾開発されたワクチンの素晴らしさを賛美し、
究極的には、
日本人全員が水ぼうそうのワクチンを打つことが望ましい、
という文脈になっています。

ワクチンの副作用のことなど、
それこそ微塵も記載はありません。
確かに、現時点で副作用の少ないワクチンであることは、
事実なんです。
以前ご紹介した「急性散在性脳脊髄炎」の発生も、
今のところ報告はないようです。

でも、100パーセント安全なワクチンなど、
原理的に有り得ないのですから、
そう言わんばかりの論調には、
ちょっと違和感を覚えます。

そんな先生の監修なのですから、
番組の発するメッセージも、
ちょっと割り引いて、
慎重に聞く必要がありそうです。

それでは、番組とは別個に、
帯状疱疹とその予防についての、
僕が正しいと思う範囲での説明をしたいと思います。

「帯状疱疹の予防に水ぼうそうのワクチンは有効なのか」、
その答えは皆さんでお考え下さい。

それでは今日は、そのイントロダクションです。

水ぼうそうと帯状疱疹とは、
同じウイルスによる病気です。
ですから、この病気を起こすウイルスを、
「水痘・帯状疱疹ウイルス」、と呼んでいます。

このウイルスが身体に侵入すると、
初回は通常水ぼうそうになります。
ウイルスが全身に廻り、
水を含んだぶつぶつが、
全身に出来ます。
顔や頭に出来るのが、特徴ですね。

身体には免疫という仕組みがあって、
1回水ぼうそうに罹ると、
身体の中にウイルスから身を守る、
抗体というタンパク質が出来て、
2度は症状を出さないようになります。
従って、通常水ぼうそうに2回は罹りません。

ところが…

このウイルスの特徴は、
同じウイルスが「帯状疱疹」という、
別の病気を起こすことです。
水ぼうそうのように全身ではなく、
身体の一部に、帯のように湿疹が出て、
神経痛としての痛みを伴います。
帯状に出るので、「帯状疱疹」と言うのですね。

何故こんなことが起こるのかと言うと、
水ぼうそうのウイルスの一部が、
人間の神経の中の、
神経節という部分に潜んでいて、
それが、身体が弱ったような時に、
活発になって、
神経を伝い、身体の表面に病気を起こすのだ、
と一応、説明されています。

「一応」と書いたのは、
必ずしも説明がクリアではないからです。

他のウイルスの病気、
たとえば麻疹や風疹は、
絶対に1度罹ったら、2度は罹りません。
体内にウイルスが残ることもありません。
身体の免疫の力は一緒の筈なのに、
何故水ぼうそうだけ神経の中に身を潜めることが出来て、
どうして、その神経の部分だけに別の病気を起こすのでしょうか。

どんな本を読んでも、
この辺の説明はあまり説得力がありません。
そもそも本当に神経節の中にウイルスが潜んでるのでしょうか。

実はこのことも、
明確に人間で証明されている事実ではありません。

はっきりしないことは他にもあります。

「帯状疱疹」は、通常一生に1回しか起こらない、
とされています。
日本の教科書にも、アメリカのハリソン内科学にも、
確かにそう書いてあります。

でも、それは事実ではないですよね。

皆さんの中にも、
多分帯状疱疹に2度罹った方が、
いらっしゃると思いますし、
僕が今まで経験した中でも、
多分10人以上はそうした方がいらっしゃいました。

帯状疱疹は間違いなく繰り返すんです。

でも、免疫そのものの大きな異常がなければ、
水ぼうそう自体は繰り返しません。

何故でしょうか。

改めて聞かれると、
ちょっと不思議でしょ。
これも今のところ明確には分かっていないんです。

1つの仮説としては、
身体の免疫のレベルの問題が考えられます。

免疫のレベルは、
通常簡単な検査としては、
血液の中の抗体の量で判断する訳ですが、
これがあるレベル以上であれば、
ウイルスが外から入って来ても、
病気になる以前に身体が排除してしまいます。
このレベルがやや低下していると、
ウイルスが病気を起こすことまでは防げないが、
重症にはならずに軽く済む、
ということになります。

要するに帯状疱疹を、水ぼうそうの軽症のタイプ、
と考えると、
抗体の量が多ければ、
水ぼうそうにも帯状疱疹にも罹らないけれど、
その量がやや少ないと、
水ぼうそうには罹らないけれど、
帯状疱疹には罹るのではないか、
という仮説です。

抗体を測ったデータが、
果たしてその通りになっているでしょうか?

随分と長くなりましたので、
この続きは明日にしますね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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marone115

こんにちは。初めてメールを差し上げます。
50代前半の女性です。
先日友人で私よりも10歳年上の女性が帯状疱疹にかかり、
そろそろ1ヶ月。まだ治らないようで苦しんでいます。
幸いまだ私はかかっていないのですが、
「今のうちにワクチンを打っておけば?」
とアドバイスをもらいました。
ワクチンと言っても、身体に入れるものなので
素人の意見をそのまま受け入れるわけにも行かず...
それで、ネットで調べていたところ、
こちらのブログに行き着きました。
お話を伺っていると、必ずしもワクチンも受けることがいい
とは限らないようですね。
わたしとしては、もう少し慎重に考えたいと思いました。
by marone115 (2011-11-08 11:41) 

fujiki

marone115 さんへ
たとえば、海外に比較的長期の出張をするので、
その間に帯状疱疹になるのは困る、
ということであれば、
出張の1か月前に水痘ワクチンを接種することには意味があると思います。
ただ、長期の効果については未知数だと思います。
by fujiki (2011-11-09 08:27) 

のり

帯状疱疹のはなしではないのですが…。
水疱瘡ワクチンについて、お尋ねしたいです。

もうすぐ3歳になる子供がいます。
1歳になった時から保育園に通い始め、
体調不良などにより、水疱瘡の予防接種を受けたのは、
2歳になってからです(2歳3ヶ月)

先日、小児科学会のホームページをみていて、
水疱瘡は2回接種した方がよいと見ました。
因みに、かかりつけの医師には、1歳になった時に
MRの次は、おたふく、水疱瘡を受けた方がよいとは言われましたが、実際、2歳になってから受けた時に、
追加が必要だとかは全く言われていません。

小児科学会によると、1歳代で1回目を受け、1回目の3ヶ月後から2歳になるまでの間に2回目をと書かれています。

うちの子供の場合、接種が2歳なのですが、どうしたらいいでしょうか?
現時点で、接種してから5ヶ月経過していますので、
今すぐにでも2回目を受けた方がいいのか、
保育園に通っていて、最近は熱などはありませんが、
ずっと鼻水が続いている状態です。
これからインフルエンザなどの流行も考えられますので、
それらが落ち着くであろう春までまっても問題はないのでしょうか?

それから、水疱瘡の予防接種を受けたことにより、
その子から家族などに水疱瘡が移るという事はないですか?
私は免疫がありますが、下に0歳児がいるので、下の子にうつるのではないかと心配もあります。
by のり (2012-12-07 10:01) 

fujiki

のりさんへ
水ぼうそうのワクチンが、
現行日本で使用されているものに関しては、
1回の接種ではその感染予防効果が、
充分ではないことは事実だと思います。
接種者が多い状態でも、
保育園や小学校では集団感染が起こります。
ただ、概ねその症状は軽症になります。

そのため、
小児科学会等では、
2回の接種により、
感染防御効果を上げるべきだという考えから、
2回接種を推奨しています。
しかし、厚労省は予算の問題もありますから、
現時点では1回接種で基本的には問題なし、
との立場です。
ですから、掛かりつけの先生のお話しが、
誤りではないと思います。

ただ、2回接種をすれば、
それで確実に予防が可能なのか、
という点に関しては、
まだデータは不充分なもののように、
僕の知識の範囲では思います。

要するに、
2回の接種を行なうとして、
その間隔の設定には、
あまりしっかりとした根拠はないと思います。

アメリカやドイツでは、
2回接種が一般的ですが、
ワクチン自体の抗原の量も違うので、
単純に比較することは出来ません。

従って、
別に春まで待っても大きな問題はないように、
個人的には思います。

水ぼうそうは生ワクチンですが、
ご家族にワクチン由来で感染の起こることは、
健康な方であればないと思います。

水ぼうそうのワクチンの2回接種についての、
僕の個人的な見解は、
確かに保育園や小学校での集団感染を予防するという、
集団予防という観点からは、
有用性があると思いますが、
お子さんの個々の健康面から考えると、
1回接種でも多くのお子さんは軽く済むのですから、
それほどの支障はない、
というように思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2012-12-08 08:54) 

のり

お礼が遅くなり申し訳ありません。
とても参考になりました。
とりあえず、今は体調も万全ではありませんし、
今すぐに受けるというのは止めようと思います。
気候的にも体調的にもよくなるであろう春に、
かかりつけの小児科の先生と相談してみます。
ありがとうございました。
by のり (2012-12-09 17:29) 

なこ

帯状ヘルペスウイルスが高いと帯状ほうしんにかからないですか?igGがいくら以上だったら。
by なこ (2013-09-13 22:28) 

fujiki

なこさんへ
水痘帯状疱疹ウイルスのIgG抗体価は、
水痘の再感染が起こらないことの推測には使用出来ますが、
帯状疱疹の発症時の抗体価はまちまちなので、
その推測には現状は使えないと思います。
by fujiki (2013-09-14 08:13) 

tamaco

帯状疱疹について、医師の方からのご意見がいただけてよかったです。
実は私が先日帯状疱疹にかかり、大変苦しみました。それで、高齢の母にこんな思いをさせたくないため、予防接種を受けてもらおうかと思っております。
母は89歳です。この年齢でも予防接種は問題ありませんか?

私自身の話ですが、
最初の急性期は洗顔もできないくらい苦しい日がありました。
その後はそこまでの痛みなどは収まったものの、診察、治療(注射)、投薬を続けながら2か月近くたっても、痛みが相当程度残り、夜も十分に眠れない日が続くので、セカンドオピニオンを求めた皮膚科で、初期対応と急性期後の治療法が間違っていた、と指摘されました。現在も投薬中で、ちらの医師にかかってからは痛みやかゆみがずっと軽くなり、現時点では罹患前と比べてできないことは、スポーツだけとなりました。

母は89歳、肺塞栓と慢性心不全をもっており、リクシアナをはじめ、浮腫を回避する薬などを飲んでいます。在宅酸素の導入もしており、身体障障がい者の認定も受けておりますが、介護の必要もなく、自分の身の回りのことはすべて自分で行っており、掃除だけヘルパーさんにお願いしている状態です。

母のかかりつけの先生は、こうした母の状況を十分把握しておられます。その先生が予防接種を受けてよい、とおっしゃるのでおそらく問題はないのだと思います。

ただ、この先生は私自身もかかりつけていた信頼できる先生であるのですが、今回の私自身の帯状疱疹の処置について、ちょっと信頼を失った状況ですので、「同じ帯状疱疹について、予防接種もこの先生の
判断で高齢の母に行ってよいものだろうか?」という思いがあります。

ご意見いただけましたら幸いです。


by tamaco (2016-04-22 11:33) 

fujiki

tamaco様
最近この帯状疱疹予防ワクチンについて、
まとめて記事にしましたので、
こちらをお読み頂ければと思います。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2016-04-14
要するに、安全性の面では問題はないと思いますが、
お母様のご年齢を考えると、
その効果はかなり限定的だと思います。
by fujiki (2016-04-22 22:21) 

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