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睡眠不足と糖尿病リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
短時間睡眠の糖尿病リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年3月5日付で掲載された、
睡眠時間の糖尿病発症に与える影響を検証した論文です。

充分な睡眠を安定して取ることが、
健康のために重要であることは、
これまでの多くの臨床データで実証された事実です。

多くの病気のリスクと睡眠不足との間には関連があり、
2型糖尿病もその1つです。

睡眠時間には個人差が大きく、
明確な線引きは難しいのですが、
概ね1日7時間は眠らないと、
病気のリスクが高まるとする報告が多くなっています。

たとえば2015年に発表されたメタ解析の論文では、
睡眠時間が7時間の人と比較して、
1時間睡眠時間が短くなる毎に、
9%2型糖尿病になるリスクが増加した、
と報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25715415/

ただ、そうは言っても、
仕事や家事など様々な理由により、
そんな長い睡眠時間は取れない、
という人も多いのが実際だと思います。

それでは、食事など他の生活習慣を健康的なものにすることにより、
そのリスクは低減出来るものなのでしょうか?

今回の研究はイギリスの有名な大規模医療データである、
UKバイオバンクのデータを解析することにより、
その問題の検証を行っています。

平均年齢55.9歳の247867名の睡眠時間と生活習慣を登録し、
中間値で12.5年の経過観察を施行したところ、
そのうちの3.2%が観察期間中に2型糖尿病を発症していました。
そこで睡眠時間と糖尿病リスクとの関連を解析すると、
1日7から8時間の睡眠時間の人と比較して、
睡眠時間が6時間を下回ると糖尿病リスクは有意に増加し、
1日5時間の睡眠では16%(95%CI:1.05から1.28)、
1日3から4時間の睡眠では41%(95%CI:1.19から1.68)、
それぞれ有意に増加していました。

健康的な食事パターンは、
糖尿病の発症リスクを25%(95%CI:0.63から0.88)、
有意に低下させましたが、
健康的な食事をしている人でも、
睡眠時間が短いことで糖尿病リスクが増加する傾向には、
違いはありませんでした。

このように、
睡眠時間が短いことは、
糖尿病の独立したリスクである可能性が高く、
最低でも7時間の睡眠を維持することが、
その予防のためには重要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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気管支拡張症の予後と痰の性状との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
痰の色と予後.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2024年4月付で掲載された、
痰の色などの性状と、
肺の病気の予後との関連についての論文です。

気管支拡張症というのは、
気道の炎症などを繰り返すことによって、
気管支の一部が進展性を失って拡張した状態になることです。

拡張した部分には、
主に細菌性の慢性の炎症が起こることが多く、
それが悪化すると、
重症の肺炎を来したり、
呼吸機能が低下したりして、
命に関わることも稀ではありません。

気道の炎症の状態を知ることは、
気管支拡張症などの炎症性の肺の病気の予後を知る上で、
重要なことは間違いがありません。
ただ、臨床的に簡単に確認出来るような方法で、
その炎症の程度を知ることは難しいのが実際です。

気管支に細菌性の炎症が起こった場合、
それは咳と共に痰となって喀出されます。
つまり、痰の状態を見れば、
細菌性の炎症の程度が分かる、
ということになる訳です。

勿論細菌培養の検査などをすることにより、
どのような細菌が増殖しているのかを、
確認することは出来ますが、
結果が判明するまでには結構時間が掛かりますし、
培養の結果が必ずしも病状や予後と直結するとは限りません。

もっと簡単で病状を把握出来るような方法はないのでしょうか?

そこで1つ注目されているのが、
痰の色などの肉眼的な所見から、
その重症度を推測しようという方法です。

こちらをご覧下さい。
痰の色の表.jpg
これは2009年にMurrayらにより提唱された、
痰の性状の分類法です。

一番上の図が炎症の要素に乏しい粘液性の痰で、
上から2番目の画像はやや黄色の粘液膿性痰です。
これは軽い細菌感染の所見を示しています。
細菌感染の炎症により、
顆粒球という白血球からMPOという成分が放出されると、
痰は緑色に変化します。
上から3番目の画像はその膿性痰によるもので、
一番下の画像は、
より重症化した膿性痰のものです。

それでは、この痰の性状の分類から、
どの程度の臨床的な情報が得られるのでしょうか?

今回の研究では世界31か国で施行された、
気管支拡張症の疫学調査のデータを活用することで、
気管支拡張症の予後と、痰の性状との関連を比較検証しています。
対象は気管支拡張症の患者、トータル13484名です。

その結果、
炎症所見に乏しい粘性痰の患者と比較して、
粘性膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.29倍(95%CI:1.22から1.38)、
膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.55倍(95%CI:1.44から1.67)、
重症の膿性痰の患者の重症化リスクは、
1.91倍(95%CI:1.52から2.39)、
それぞれ有意に増加していました。

つまり、痰の性状で膿性痰が見られると、
その後の重症化のリスクも、入院のリスクも、
生命予後もいずれも悪化していた、という結果です。

こうしたデータは専門的な検査を行ったようなものとは違って、
シンプルで原始的なものですが、
それだけに臨床的には大きな意義があり、
日々の臨床にすぐに活かせると言う意味で、
私のような市囲の医療者には、
非常に参考になるものなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸癌の予後に対する超加工食品の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
超加工食品と大腸癌の予後.jpg
Lancet系のウェブ誌である eClinical Medicine誌に、
2024年3月28日付で掲載された、
超加工食品の大腸癌の予後への影響を検証した論文です。

超加工食品(ultra-processed foods)というのは、
2016年に国連の関連する食品についての会議で提唱されたもので、
食品をその加工の度合いによって、
4種類に分類するNOVA分類がその元になっています。

このNOVA分類では、
食品をその加工度によって、
第1群;加工されていないか、最小限しか加工されていない食品
第2群;加工された調味料
第3群;加工食品
第4群;超加工食品
の4つに分類しています。

第1群は果物や野菜や肉、豆は牛乳など、
その由来が見て分かるような食品のことです。
第2群は砂糖や塩などの加工された調味料です。
第3群は一定の加工をされた食品のことで、
たとえば缶詰の桃や自然の製法で作ったパンやチーズ、
ミックスナッツやミックスベジタブルなどがそれに当たります。

そして、第4群の超加工食品は、
通常5種類以上の食品が組み合わされ、
そこに複数の調味料などが加えられたものを意味しています。
こうした食品は他の群の食品では、
使用されないような添加物や化学物質が添加されることが通常です。

これは要するに、
僕達がお店などで手に入れることの出来る、
食事の材料となる食品の分類なのです。

たとえばラーメンを食べようと思った時に、
その材料として、
自然の岩塩などを調味料に使い、
自然の小麦や豚肉、野菜などを調達して、
それを組み合わせて調理すれば、
第1群のみを使用したことになりますし、
塩や砂糖などの調味料は市販の物を使うと、
第2群も使用したことになります。
袋詰めの麺を買い、
スーパーの焼き豚などを買って、
それを組み合わせてラーメンを作ると、
第3群も使用したことになり、
最初からカップ麺やインスタントラーメンを買って、
それを使用すると第4群を使ったことになるのです。

健康のためには、
極力超加工食品を減らそう、
というのがこの国連の会議の、
基本的な考え方です。
超加工食品は料理の手間を減らしてくれますから、
確かに便利ですが、
最初からパッケージ化されているので、
その成分を確認することは出来ませんし、
栄養バランスの調節も難しくなります。

添加物を全て危険視するような考え方にも問題はありますが、
人間の手間を省くために、
本来は必要のない物質を、
多く使用してそれを食べるということ自体が、
人間本来のあり方ではないことも、
また事実だと思います。

それでは実際に超加工食品を多く食べることで、
健康上の悪影響はどの程度あるのでしょうか?

これまでに心血管疾患や糖尿病のリスクと、
超加工食品との間に一定の関連が示唆されるデータが報告されています。

また以前ご紹介したことのある、
2022年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの大規模な医療従事者の疫学データの解析で、
男性のみ大腸癌のリスクの増加が認められました。
https://www.bmj.com/content/378/bmj-2021-068921

今回のデータは同じ疫学データを元にして、
大腸癌と診断された患者さんにおけるその予後と、
超加工食品の摂取量との関連を検証しているものです。

対象となっているのは大腸癌に罹患した2498名で、
診断時の年齢の平均は68.5歳です。
中央値で11.0年の観察期間中に、
そのうちの1661名が死亡しています。

ここで診断後の食事内容と癌の予後との関連を検証したところ、
超加工食品の摂取量を5分割して比較すると、
最も少ない群と比較して最も多い群では、
心血管疾患で死亡するリスクが、
1.65倍(95%CI:1.13から2.40)有意に増加していました。

更に個別の超加工食品毎に解析してみると、
アイスクリームやシャーベットの摂取量が最も多い群は、
少ない群と比較して、
大腸癌により死亡するリスクが、
1.86倍(95%CI:1.33から2.61)有意に増加していました。

今回の結果で、
大腸癌の予後と超加工食品との間に明確な関係がある、
とまでは言い切れませんが、
改めて今回心血管疾患による死亡のリスクとの関連は確認されていて、
これまでにも多くの病気との関連が指摘されていることを考えれば、
仮に癌になった場合にも、
なるべくその使用を控えることは、
健康のために有益であると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「異人たち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
異人たち.jpg
山田太一さんの「異人たちとの夏」を原作とした映画が、
イギリス版として今公開されています。

これは1988年に市川森一さんが脚本、
大林宜彦監督の日本版があって、
封切りの時に映画館で観ています。

これは多くの方が言っているように、
すき焼き屋さんの別れの場面など、
大林監督のフィルモグラフィの中でも、
屈指の名場面がありながら、
ラストがゴーストバスターズみたいになって、
安っぽいSFXシーンが繰り広げられるので、
とてもとてもガッカリしたことを、
今でも鮮明に覚えています。
30年前なのにこれだけリアルに再現出来る記憶もあまりなく、
その意味では強烈な映画体験の1つでした。

でもまあ、それこそ大林監督らしい、
と言えなくもありません。
物凄く愛していて、物凄く感動させられて、
それでいて無意味に間抜けで、
何度も裏切られるというのが、
大林映画の唯一無二の魅力であり、
欠点でもあるからです。
「ここまでこんなに頑張ったのに、
何で肝心のところでこんなに滅茶苦茶にしちゃうの」
という映画が沢山あります。

ただ、この映画に関してはちょっと気の毒な部分があるのは、
原作自体も最後のオカルトパートは、
そのまま忠実に映画化したとしても、
少しお間抜けな印象はあるのです。

今回のイギリス版は、
映画ということではなく、
山田太一さんの小説の映画化で、
大林映画のような急なラストの転調はないのですが、
最後はちょっとビックリする感じになっていて、
これは言ってしまっても良いと思うのですが、
懐メロが大音響で流れる中、
主人公が星になるんですね。
真面目に空の星になるのです。

このラストに感動された方もいらっしゃると思うので、
これはもう個人の感性と好みの問題なのですが、
個人的には相当脱力しました。
ある意味大林版とおなじくらいビックリです。

これ、70年代のロックオペラみたいな終わり方ですよね。
それまでとても抑制的なタッチで展開していて、
いいな、いいなと思っていたのに、
これはどうなのかしら。
もっと静かな終わりで良かったのではないかと、
個人的には思いました。

これ、原作をゲイの話にしているんですね。
まあ、今映画化するとすれば、
こうした感じになりますよね。
ロンドンの人気のない集合住宅に、
酒とドラッグとセックスの退廃的な日々というのは、
「トレインスポッティング」みたいな感じもありますね。
まあそれがイギリスで映画化する意味、
ということなのかも知れません。

この物語の「異人」というのは、
足もあるし鏡にも映るし、昼間も平気だし、
全く普通なんですね。
異常なのは、両親と息子が同じ年まわり、
ということで、
その異常さだけで異界を成立させてしまう、
というのがこのお話の一番のオリジナリティである、
という気がします。
結局生きている人間の方が狂わざるを得なくなるんですね。
それがこの話の不気味さの本質だと思います。

イギリス的な濃密さに満ちた佳品で、
まずまずの見応えがありますが、
かなり特異な感性で成立している映画なので、
好き嫌いは分かれると思います。
鈴木亮平さんの「エゴイスト」に近い感じもありますね。
孤独故の熱情を、偏執狂的に描いた映画です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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M&Oplaysプロデュース「帰れない男~慰留と斡旋の攻防~」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
帰れない男.jpg
M&Oplaysプロデュースとして、
倉持裕さんの新作が今上演されています。

これは「お勢登場」と「お勢、断行」という、
以前上演された明治・大正辺りの時代設定にして、
謎めいた女性を巡る、
乱歩や谷崎的な怪異譚を、
倉持さん流にアレンジしたシリーズの、
第三弾と言った雰囲気の作品です。

今回は内田百閒がモチーフとなっているそうですが、
前2作よりも焦点がかなり絞り込まれた作劇になっていて、
シリーズ(個人的感想で実際にシリーズ化されている訳ではありません)として、
より円熟し、この系列として本腰が入って来たな、
という印象を持ちました。

セットはある程度前作の使いまわしかな、
という印象を持ちましたが、
奥の客間の周りにグルリと廊下を巡らして、
客間の向こうには中庭を挟んで別の座敷があり、
その襖には影絵の人物を映して、
シンプルで基本的に変化のないセットでありながら、
迷路のような広大な旧家を幻視させるに充分な、
計算された鮮やかなセットでした。

特に廊下を通る経路で、
人物が何度か消える、
という工夫が大変巧みに効いていました。

こうした近世日本を舞台にした文学的幻想譚は、
ケラさんも書きますし、岩松了さんも、
また北村想さんも得意としているところですが、
その中では倉持さんの書くものが、
台詞の結晶度では一番で、
以前も思ったのですが、
三島由紀夫さんの戯曲に、
現行の劇作家の中では、
最も近い位置にあるように個人的には思いました。

キャストは皆好演でしたが、
ヒロインの藤間爽子さんは、
非常に魅力的な女優さんで、
舞踊家でもあるので所作が美しく、
着物の着こなしも素敵ではあったのですが、
ファムファタール的なこの作品のヒロインとしては、
少し弱いな、ということを感じました。
ただ、それは藤間さんの責任ではなくて、
藤間さんがキャスティングされるのであれば、
ヒロインの描き方は、
もっと違ったものがあって良かったのではないか、
というように感じました。

いずれにしても今の小劇場では珍しい、
台詞の輝きを楽しむタイプの幻想譚で、
しばし夢幻的な世界に酔うことが出来ました。
これからも是非倉持さんには、
こうしたお芝居も書いて欲しいと思いますし、
よりその世界を研ぎ澄ませて、
本家の三島戯曲を、
乗り越えて欲しいと切に願っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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