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宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
成瀬は天下を取りにいく.jpg
本屋大賞を受賞した宮島未奈さんの小説を読みました。
連作短編集で続編と一緒に読んだのですが、
明らかに1作目の方が面白くて、
2作目は正直蛇足という印象を持ちました。

これは確かに面白い、というか、
とても楽しい小説集で、
殆どの人は一気読みをされたのではないかと思います。

この小説は予備知識があると面白さが半減するので、
是非是非情報を極力入れずにお読み下さい。

ミステリーではなく、
意外な展開もないのですが、
読む前に普通の人が作品に感じている先入観を、
見事に裏切るという感じがあるので、
それを是非味わって頂きたいのです。

僕がこの本について希望することは、
絶対に映像化やアニメ化はしないで欲しい、
ということです。

何だろう、絶対今売れっ子の10代の女優さんに、
成瀬を演じさせるつもりでしょ。
でも、それは絶対駄目なんですよ。
読者の1人1人にとって、
成瀬のイメージは違う筈なんですね。
皆の思い出の中にそれぞれの成瀬がいて、
それが読んでいると脳の中に忽然を現れる感じなんですね。
映像化してしまうと絶対そのイメージが壊れてしまうので、
特に実写化はしないで欲しいのです。

でも、絶対実写化されますよね。
それを考えると、とてもブルーになります。

この作品は6本の短編から構成されていて、
最初の「ありがとう西武大津店」と「膳所から来ました」は、
ほぼ同じ流れで同じ構成を取っているのですが、
「階段は走らない」からは、
構成も視点も変化しているんですね。
普通最初の構成のままに、
グイグイと進めた方が面白いと思うところですが、
そうしていない点がとてもクレヴァーだと思います。
最後の「ときめき江州音頭」でちょっと切ない感じを出して、
見事に大仰にならずに着地している点も素晴らしいと思います。
2作目の「成瀬は信じた道をいく」も工夫はされているのですが、
矢張りどうしても二番煎じの感はあって、
構成上どんどんスケールアップしてゆく、
という感じにはなりにくいので、
結果としては1作目の興奮はありませんでした。

コロンブスの卵的発想で、
どうしても小説はドラマティックな話を書こうとするので、
こうした何でもない話を何でもなく書く、
それが面白い、かけがえがないものだと信じて書く、
ということは意外に盲点だったのかも知れません。
今後こうした作品が多分矢鱈と出版されることになるのでしょうが、
この作品のようなフレッシュな感動は、
多分そうした物真似作品にはないように予想します。

まだ未読の方は情報の入らないうちに是非。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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別役実「カラカラ天気と五人の紳士」(2024年加藤拓也演出版)(ネタバレ注意) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カラカラ天気と五人の紳士.jpg
別役実さんの旧作が、
気鋭の加藤拓也さんの演出で、
堤真一さんを初めとする、
超豪華なキャストで上演されました。

これは1992年に俳優座劇場で初演されたもので、
1971年に「ポンコツ車と五人の紳士」という作品があって、
それをアレンジした続編が1991年に発表され、
その更に続編的な体裁のものです。

以下内容に踏み込んだ記載になりますので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

よろしいでしょうか?

それでは進めます。

俳優座劇場で5人くらいの男が出て来るお芝居というのは、
概ね学生運動のお話なんですね。
別役さんは本当に幅の広い作品を書かれているのですが、
そのうちの1つの山が、
閉鎖空間で学生運動の闘争している同士達が、
不条理な対立から自滅するようなドラマで、
それを執拗に変奏曲のように書き続けています。

それを今回の作品では、
5人の男が最初から棺桶を1つ持って登場して、
そこに誰かを入れなきゃいけないのだけれど、
それは誰でどう死ねば良いのだろう、
という不毛な議論を始めるという設定で描いているのです。

こういうお話も別役さんには沢山あるのですが、
今回の作品の特徴は途中で2人のパラソルの女性が現れて、
そそくさと先に死んでしまうのですね。
それも踏切で勇敢に列車と対決する、
という活動家の鑑のような死に方をするのですが、
それでも残された五人の男達は、
「分別」のために死にきれず、
正々堂々と死を待っているのだ、
という言い訳をしながら、
その場から動くことが出来ないのです。

まあ、今の時代ではあまりピンと来ない感じのお話なんですね。

何故わざわざこんな戯曲を、
加藤さんが発掘したのかな、と思うのですが、
カラカラ天気で水が1滴もなく、
皆死んでしまうことが明らかな状況であるのに、
それでも「誰が先にどう死ぬべきか」みたいな無駄なやり取りをしながら、
本質的な危機には向き合おうとしない、
という登場人物達の姿に、
おそらく現代の日本を投影させているからなんですね。

これ、舞台セットが斬新なんですね。
地下鉄の構内のホームの部分が、
架空の駅なのですが実にリアルかつ緻密に造り込まれていて、
客席が線路になっているんですね。
つまり、客席にダイブすることがすなわち「死」になっているのです。

上手く考えていますよね。
原作の電信柱を、
地下駅にありそうな金属の柱にしている点も、
なるほどと思う改変です。

ただ、こんな風に現代化することが、
果たしてどうなのか、という点はちょっと疑問です。

もともと現代日本の終末論を描いた作品ではない訳ですし、
踏切も電信柱もよれよれのフロックコートを着た紳士というのも、
その表象こそが別役実さんの戯曲そのものでもある訳で、
それをこのように変えてしまうことは、
少なくとも別役戯曲の上演では、
なかったような気もするのです。

加藤さんの演出は、
安部公房さんの「友達」の時も思いましたが、
最初の異化効果は斬新で強烈であるものの、
それが作品の中では、
あまり活かされているという気がしないので、
戯曲の本質を伝える、
という性質のものではないような気がしました。

キャストは豪華過ぎるほど豪華で、
何もここまで豪華にする必要があったのか、
という気はするのですが、
決して無駄に豪華ではなくて、
豪華なキャストならではのクオリティに、
仕上がっていたという気がします。
中心的役割を果たしていたのは小手伸也さんで、
彼が口にする別役台詞には、
何かこれまでにない新鮮さがありました。
堤真一さんは座組の中では役柄も小さく、
さすがに勿体ないとは感じました。

別役さんの舞台は、
アマチュアの役者さんがやっても、
新劇の円熟した役者さんのアンサンブルで上演されても、
今回のような変則的な企画公演で、
通常はないような豪華キャストで上演されても、
その上演の核の部分の印象には差がない、
という点でかなり特殊なお芝居である、
と言う言い方は出来そうです。

総じて今回の作品は別役さんの膨大な戯曲の中では、
それほど傑出したものではなく、
アドリブ的に書きなぐった小品、
という印象のものなので、
もっと上演に値する作品があったのではないかしら、
という気はするのですが、
僕はともかく別役戯曲が上演されるのを観るのが大好きなので、
今回も楽しく鑑賞することが出来ました。

ただ、上演時間は1時間10分程度
(これは俳優座劇場上演の作品では標準的です)で、
盛り上がるような要素もあまりないので、
座組の魅力だけで楽しみに来た、
という観客の方は、
落胆されたかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ケトジェニックダイエットの精神疾患に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
小学校の健診や老人ホームの診療などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ケトジェニック食の精神疾患への有効性.jpg
Psychiatry Research誌に、
2024年3月20日ウェブ掲載された、
ケトジェニックダイエットの精神疾患に対しての有効性を検証した論文です。

ケトジェニックダイエット(ケトジェニック食)というのは、
かなり特殊な食事療法の1種で、
糖質を極端に制限し、
蛋白質と脂質主体の食事を摂ることにより、
脂肪を燃焼させてケトン体を産生させ、
それを糖質の代わりにエネルギー源として使用する、
という食事パターンのことです。

通常の食事は身体が簡単に利用可能な、
ブドウ糖を主なエネルギー源としていて、
絶食時のみ尿中にケトン体が検出され、
それは飢餓時の代謝で脂肪酸が分解されたことによる、
と説明されていました。

つまり、ケトン体が検出されるということは、
身体にとっては異常事態を示すものであり、
それは良くないこととされていた訳です。
特に脳はブドウ糖しかエネルギー源としては使用出来ない、
という考え方があったため、
ケトン体が出現することは、
脳にとっては悪影響しかないと考えられていたのです。

私は大学の医局に勤務していた頃は、
糖尿病の研究と診療とに当たっていたので、
その頃の常識が染みついているようなところがまだあるのですが、
当時(25年以上前)の常識としては、
尿や血液でケトンが検出されるのは、
飢餓状態の兆候であって、
人間の身体は定常状態ではブドウ糖を活用して、
それをエネルギーとして動くように出来ている、
というものでした。

ところが…

ケトジェニックダイエットを継続することにより、
肥満が改善し、
糖尿病や脂質異常症、脂肪肝炎などが改善するという報告が、
近年多く寄せられるようになりました。
https://www.mdpi.com/2072-6643/9/5/517

今回の研究はメタボを併発した精神疾患の患者さんに対して、
少人数の試験的な研究ではありますが、
ケトジェニックダイエットを4か月間継続して、
その有効性を見たものです。

対象は肥満やインスリン抵抗性などを伴う、
統合失調症もしくは双極性障害の患者さんトータル21名で、
ケトジェニックダイエットを継続施行し、
それを適時血液中のケトン体の測定で確認し、
4か月間の有効性を検証しているものです。

その結果、ケトジェニックダイエットを適切に継続することにより、
体重や血圧の減少が認められると共に、
臨床指標による精神疾患の症状も、
明確な改善が確認されました。

つまり、身体疾患のみならず、
精神疾患に対しても、
ケトジェニックダイエットの有効性が確認された、
という結果です。

ただ、これはまだ少人数での試験的な研究結果に過ぎない、
という点には注意が必要です。

飢餓状態や絶食が、
メタボなどの多くの病態の進行をリセットし、
それを改善するという知見は以前よりあり、
ブドウ糖の代わりにケトン体をエネルギー源として使用する、
というケトジェニックダイエットの考え方は、
その現象の1つの理論的裏付けと考えることが出来ます。

ただ、脂質や蛋白質のバランスによっては、
ケトジェニックダイエットで肝障害などが悪化した、
というような報告もあり、
その安全な施行には、
血液中のケトン体を経時的に測定するなど、
慎重な管理が必要です。

また、本当に糖質を摂らず、ケトン体をエネルギー源とする生活が、
人間にとってトータルに適切なものなのか、
というような点はまだ解明はされていません。

いずれにしても多くの代謝性疾患や精神疾患に対して、
ケトジェニックダイエットに、
少なくとも短期的な有効性のあることは、
ほぼ間違いのない事実となりつつあり、
今後の研究の進捗を慎重に見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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運動と食事制限の食欲に対する影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
運動と食事の関連.jpg
Official Journal of the American College of Sports Medicine誌に、
2016年に掲載された、
食事制限と運動が食欲に与える影響についての論文です。

少し古いものですが、
このテーマにおいて興味深い知見なので、
ご紹介をさせて頂きます。

ダイエットのために食事制限と運動を行ったら、
運動の後で無性に食欲が亢進して、
ドカ食いをしてしまって失敗した、
というような体験談が良く聞かれます。

運動はカロリーを消費することですから、
運動の後には食欲が増すのはおかしなことではありません。
その一方で激しい運動の後は、
精神は高揚していて心地良い疲労感がありますが、
そうした時にはあまり食欲が沸かないものだと思います。

一般論で言って、運動をしっかり習慣としている人は、
食事制限を意図的にしなくても、
太ることはあまりないと思います。
この事実は、運動すること自体が、
食欲を適度に調整して、
過不足のない身体の状態を維持している、
という可能性を想像させます。

実際にそれは事実であるのでしょうか?

今回の論文はそのテーマを、
主に女性を対象として検証しているものです。
その理由はこうした研究はこれまで、
専ら男性の被験者で施行されることが多かったからだ、
と説明されています。
また、女性は食欲が亢進しやすいとの、
あまり根拠のない言説が多いことも指摘されています。

研究ではまず、
12 人の女性に9時間自由に生活した場合と、
90分のランニングをした場合、
食事を1食240キロカロリー程度に制限した場合の、
3種類のパターンを1週間の間隔で繰り返してもらい、
時間内には自由に間食も摂ってもらって、
運動と食事制限が、
その後の食欲と摂食に与える影響を検証しています。
更に2つ目の研究としては、
10人の男性と10人の女性を対象として、
運動の食欲と摂食に与える影響を、
同様に検証しています。

その結果、
食事制限を行うと、
食欲増進のホルモンであるグレリンの血液濃度は上昇し、
被験者は空腹感を感じて食欲が亢進、
結果として間食の量が増加します。

その一方で運動により、
食事制限と同等のエネルギー消費があっても、
グレリンの濃度の上昇はあまり認められず、
食事制限に見られたような、
食欲の亢進や過食の傾向も認められませんでした。

第二の実験で男女に分けて同様の検証を行っても、
運動の食欲抑制効果には、
明確な性差は認められませんでした。

要するに運動(この場合最大酸素摂取量の70%程度)を施行して、
エネルギーが消費されても、
食欲の増進は起こらない一方で、
同じカロリーを食事制限で抑制すると、
強い空腹感と食欲が生じて、
結果としてカロリー過多の状態になり易い、
という結果です。

ここで最初の疑問に戻りますが、
ダイエットで運動をするとその後にドカ食いをし易いのは、
元々過度な食事制限を施行している状態なので、
運動後の食欲亢進が起こり易く、
問題は運動ではなく食事制限の方にある、
と考えるのが妥当であるようです。

体重のコントロールには、
確かに運動と食事制限が両輪ですが、
食事制限は確実に食欲の亢進をもたらすので、
それをどうコントロールするかがポイントで、
食事制限でフラフラの状態で運動することは、
食欲の亢進に輪をかける可能性が高い、
という点はしっかり押させておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性心筋梗塞後のβブロッカーの有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心筋梗塞後のβブロッカー使用の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年4月7日付でウェブ掲載された、
心不全治療薬を急性心筋梗塞後に使用することの、
有効性についての論文です。

βブロッカーというのは、
交感神経作用の1つであるβ受容体を介した働きを、
抑制する作用のある薬です。
商品名ではインデラル、ミケラン、テノーミン、メインテートなどが、
その代表的薬剤です。

交感神経のβ作用を抑制することにより、
脈拍は低下し、血圧も低下して、心臓への負荷が軽減されます。
このため、βブロッカーは労作性狭心症や心不全、高血圧の治療薬として、
その有効性が確認されています。
その一方でβ作用により気管支は拡張するので、
βブロッカーの使用により、
喘息は悪化するリスクがあるのです。

心臓を栄養する血管が閉塞する、
急性心筋梗塞の際には、
βブロッカーを使用することで、
その後の死亡リスクを20%以上低下させる、
というデータがあり、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7038157/
急性心筋梗塞後にβブロッカーを使用することが、
ガイドラインにおいても推奨されて来ました。

ただ、これは心臓のカテーテル治療などが進歩する前のデータで、
現在でも当て嵌まるとは限りません。
特に心不全や心機能の低下が顕著ではないケースでは、
βブロッカーの必要性は高くないのではないか、
という意見も見られるようになって来ています。

今回の研究はスウェーデン、エストニア、ニュージーランドの複数施設において、
急性心筋梗塞でカテーテル治療を施行した患者さんのうち、
心機能の指標である駆出率が50%以上と、
明確な心不全のない5020名の患者を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はβブロッカーを使用し、
もう一方は未使用として、
中間値で3.5年の経過観察を施行しています。
偽薬などは用いない試験デザインとなっています。

その結果、
患者の死亡や心筋梗塞の再発などのリスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、心不全のない急性心筋梗塞の患者さんでは、
βブロッカーの使用はあまり有効性はない、
ということを示唆する結果です。

ただ、同様の目的を持った別個の臨床試験も現在進行中で、
この問題はまだ一致した結論に至った、
とは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤の心不全患者のQOLへの有効性(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の臨床症状改善作用.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年4月4日付で掲載された、
心不全治療薬の臨床的な有効性についての論文です。

SGLT2阻害剤は、
尿へのブドウ糖の排泄を増加させることを主作用とする薬剤で、
2型糖尿病の治療薬として開発され、
糖尿病の血糖コントロールを改善する効果のみならず、
心血管疾患のリスクを低下させ、
生命予後にも良い影響を与えることが確認されたことから、
糖尿病の予後をトータルに改善する薬として、
大きな注目を集めました。

その臨床データの解析では、
特に心不全による入院などのリスクを、
低下させる作用が高いことが注目され、
その後糖尿病のない心不全の患者さんに対しても、
心不全の治療薬としてその適応が拡大されました。

現時点で心不全の患者さんに対して、
その入院のリスクと総死亡のリスクを低下させる効果については、
ほぼ実証されていると言って良いのですが、
実際のQOLの改善効果については、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
これまでの主だった精度の高い臨床試験のデータをまとめて解析することで、
SGLT2阻害剤の心不全患者のQOL改善効果を検証しています。

これまでの17の臨床研究に含まれる、
トータルで23523名の患者データをまとめて解析したところ、
SGLT2阻害剤の使用により、
運動耐用能が改善し、
心不全患者のQOLに良い影響を与える効果が確認されました。

SGLT2阻害剤は、
現行日本では通常の心不全治療をまず施行した上で、
考慮すべき治療としての位置づけですが、
このように近年肯定的なデータが蓄積されることで、
今後その位置づけは、
より高いものとなることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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3種類の運動の健康効果比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
3種類の運動の健康効果比較.jpg
BMC public health誌に、
2023年6月14日付で掲載された、
3種類の運動毎の生命予後への効果を比較した論文です。

運動には大きく分けて、
有酸素運動と筋力トレーニング(無酸素運動)、
そしてストレッチの3種類があると言われています。

ジョギングなどをある程度の時間継続的に行うと、
身体は酸素を使って脂肪を燃焼させてエネルギーにします。
これが有酸素運動です。
一方で筋肉に強い負荷を掛けて緊張させる、
所謂「筋トレ」を行うと、
身体は筋肉に蓄えられた糖質を無酸素的に利用して、
エネルギー源にします。
これが無酸素運動です。
ストレッチングはエネルギーの消費よりも、
筋肉の曲げ伸ばしを行うことで、
身体の柔軟性を保つ目的で行われる運動で、
他の運動の前後に行うことが一般的です。

運動は健康に良いと言われていて、
それは科学的にも実証されている事実ですが、
その場合の運動というのは、
主に脂肪を燃焼させる有酸素運動のことで、
場合により、
有酸素運動に筋トレを組み合わせた運動プログラムのことです。

ただ、近年筋トレの単独の健康効果についても、
研究が進められています。

一方であまり触れられることがないのが、
ストレッチングの健康効果です。

今回の研究は韓国において、
大規模な健康調査のデータを活用することで、
この3種類の運動の生命予後に与える影響を比較検証しているものです。

その結果、
ストレッチングを全くしない場合と比較して、
週に5日以上行っていると、
総死亡のリスクは20%(95%CI:0.70から0.92)、
心血管疾患による死亡のリスクは25%(95%CI:0.70から0.95)、
それぞれ有意に低下していました。
週に50エクササイズ(メッツ・時)の有酸素運動を行うと、
全く行わない場合と比較して、
総死亡のリスクが18%(95%CI:0.70から0.95)、
心血管疾患による死亡のリスクが45%(95%CI:0.37から0.80)、
こちらもそれぞれ有意に低下していました。
筋力トレーニングのみを週に5日以上行っていると、
全く行わない場合と比較して、
総死亡のリスクは17%(95%CI:0.68から1.02)、
低下する傾向は示したものの有意ではなく、
心血管疾患による死亡のリスクの低下は、
認められませんでした。

このように、
生命予後に関してみると、
運動の効果は有酸素運動が最も優れていて、
意外にもそれに次い死亡のリスクを低下させていたのは、
筋トレではなくストレッチングでした。
ただ、勿論筋トレには筋トレの良さがあることも、
他の多くの臨床データで示されていて、
3種類の運動を適時組み合わせて行うことが、
現時点では最も賢い運動療法であると、
そう言って大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オフィスリバープロデュース「お目出たい人」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
お目出たい人.jpg
これは少し前ですが、
下北沢のスズナリで、
如何にも小劇場という感じの舞台に足を運びました。

新作だと思って観に行ったのですが、
これは水谷龍二さんが1995年くらいに、
椿組に書き下ろした作品で、
その初演もスズナリだったようです。

仕事も生い立ちも共通点のない、
それぞれ初対面の6人の男女が、
共通の知り合いであった孤独な男の通夜に集まる、
というお話で、
1時間30分弱くらいの小品ですが、
役者さんはいずれも歴戦の勇者的な小劇場の手練れなので、
その共演を心ゆくまで味わうことが出来る、
というような作品です。
途中でカラオケなど芸合戦、
という感じの趣向もあり、
小劇場ファンには至福の時間を過ごすことが出来ます。

内容的には拳銃を売って借金の足しにする、
というビックリするような設定があり、
それがそのままスルーされてしまうのですが、
これは1995年でも勿論NGだと思いますし、
どう捉えるべきなのか、
正直ちょっと悩んでしまいました。

渋川清彦さんが大好きなので足を運んだのですが、
どちらかと言えば目立たない役回りでした。
それを淡々とこなす渋川さんも勿論良いのですが、
正直もう少し無理難題を押し付けられて、
無茶ブリに悩むような姿も、
見て見たかったな、というようには感じました。

渡辺哲さんのお芝居を、
最近あまり観る機会がなかったのですが、
とてもお元気で驚きましたし、
そのいぶし銀の迫力に惚れ惚れしました。

そんな訳で如何にも小劇場的な役者を楽しむお芝居で、
とても楽しいひと時を過ごすことが出来ました。

ありがとうございます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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三浦大輔「ハザカイキ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ハザカイキ.jpg
元ポツドールの三浦大輔さんの3年ぶりの舞台新作が、
今歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaで上演されています。

ポツドールの「愛の渦」の初演は、
大人計画の「愛の罰」の初演と並んで、
個人的にはかつてないくらいの衝撃を受けた舞台で、
その後しばらくは大人計画とポツドールと共に生きている、
という感じすらあるほどでした。

ただ、それはもう当たり前ではあるのですが、
僕と同じように、大人計画の松尾スズキさんも、
ポツドールの三浦大輔さんも年を取り、
あのギラギラした小劇場のるつぼのような世界からは、
かなり遠くに来てしまいました。

三浦大輔さんは、
松坂桃李さんに舞台上で全裸の性行為を延々と演じさせた、
「娼年」という怪作がありましたが、
その後は映像に軸足を移した感じで、
舞台の仕事は企画公演がたまにあるだけ、
という感じになっています。

ただ、今回の作品は、
これまでの作品とは少し傾向が変わっていて、
今のキャンセルカルチャーや文春砲、性加害などのテーマに、
真向から取り組んでいると共に、
どうしようもないダメ男を主役に据える点は、
これまでと違いはないのですが、
今回は恒松祐里さん演じるアイドルの少女に、
かなり力点が置かれていて、
長大な長台詞を一気にまくしたてさせながら、
涙を流さないといけないという無茶ブリをしていて、
それに応えた恒松さんの芝居が素晴らしく、
久しぶりに「凄いお芝居を観た」
という気分にさせられました。

クドカンの「不適切にもほどがある」に、
近いスタンスで作られた作品だと思うのですが、
今の基準で考えれば、
相当不適切で際どい作品を連発してきた三浦さんなので、
今の社会の捉え方は、
クドカンとはまた少し違っているんですね。
リアルなパワハラと性加害を舞台上で演じて来た劇作家なので、
それを含めて今をどう考えているのか、
という点に興味を持つのです。
リアルで攻撃的な感情が、
突き刺さるような表現も多く、
その生々しさは三浦さん特有のものですが、
それでいて物語的にはかなり予定調和的で穏当な感じもあり、
過去には想像も出来なかったような、
ハッピーエンドに近い終わり方になります。
登場する俳優たちは、
その役柄毎にニュアンスを変えながら、
何か執拗に「謝罪」を繰り返すのですが、
これは攻撃をされたら謝罪をするしかない、
という今の最適解を、
三浦さんなりに咀嚼した結果のようにも思いますし、
三浦さん自身が、
過去の何かに向けたメッセージのようにも、
捉えられなくはありません。

スタイル的には、
今回はつかこうへい戯曲のタッチに、
長台詞などかなり近い感じになっていました。
ヒロインの無茶ブリ長台詞など、
その典型的な感じですし、
主人公の丸山隆平さんと勝地涼さんの絡みは、
「いつも心に太陽を」と彷彿とさせました。
風間杜夫さんを出しているのも、
そうした意図の表れのように感じました。

総じて過去の過激さはないものの、
如何にも三浦さんらしく現在と格闘した力作で、
今年これまでに観た演劇作品の中では、
個人的には最も感銘を受けた1本です。
これは多分映像化も考えていますよね。

ご興味のある方がいれば是非!

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者の高血圧治療の認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢者の降圧治療の認知症予防効果.jpg
Journal of the American College of Cardiology誌に、
2024年4月2日付で掲載された、
高血圧の治療と認知症との関連についての論文です。

中年期以降の高血圧が、
その後の認知症のリスクを高めることは、
多くの信頼のおける疫学データで実証されている事実です。

ただ、降圧剤による高血圧の治療が、
認知症のリスクに与える影響については、
最近までそれほど明確な知見がありませんでした。

最近になって、
収縮期血圧を130mmHg未満にすることで、
脳の白質病変と呼ばれる認知症と関連のある変化が、
抑制されたとする報告や、
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31607143/
65 歳を超える年齢では、
収縮期血圧を10mmHg下げることにより、
認知症のリスクが13%低下したとする、
メタ解析の報告などが発表されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36282295/

ただ、一般住民を対象として長期間観察したような単独の研究は、
これまであまりありませんでした。

今回の研究はイタリアにおいて、
65歳以上で降圧剤による治療を開始した、
215547名の患者を対象として、
降圧剤の累積の治療期間と、
認知症のリスクとの関連を検証しているものです。

その結果降圧剤の治療期間が長いほど、
その後の認知症のリスクは低い傾向があり、
実際に観察期間の4分の1以下しか、
治療が行われていなかった場合と比較して、
4分の3以上の期間降圧剤の治療が継続されている患者では、
他の認知症のリスクに関わる因子を補正した結果として、
認知症の発症リスクが24%(95%CI:19から28)有意に低下していました。
85歳以上の年齢に限定しても、
余命が1年未満と想定される患者に限定しても、
同様の傾向が確認されました。

つまり、高血圧の治療を継続しているほど、
認知症のリスクが抑制された、
ということを示唆する結果です。

ただ、お分かりのようにこのデータは、
降圧剤の処方歴を確認して比較しているだけなので、
本当に血圧値の低下自体が、
認知症のリスクの低下の原因であるとは断定出来ません。

ただ、一般住民を対象とした大規模なデータである点には意義があり、
今後血圧コントロールと認知症との関連については、
検証が重ねられ、
より精度の高い結果が確認されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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