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高齢者に有効性の高い糖尿病治療薬は何か?(3種の薬剤の比較データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談や保育園の健診で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
エンパグリフロジンの高齢者への有効性.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年10月20日ウェブ掲載された、
65歳以上の年齢における、
糖尿病治療薬の心血管疾患予防についての有効性を比較した論文です。

糖尿病の治療は血糖を下げることは勿論ですが、
その全身的な合併症、
特に動脈硬化の進行に伴う、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防に、
近年では力点が置かれています。

糖尿病の患者さんの予後を最も左右しているのは、
心血管疾患であるからです。

10年ほど前までは、
血糖を低下させる薬は多くあっても、
心血管疾患を明確に予防することが実証されているような治療は、
実際には殆ど存在していませんでした。

それが2015年に、
ブドウ糖を尿に排泄する作用のある、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(ジャディアンス)を使用することにより、
心血管疾患のリスクを低下し患者の予後を改善したとするデータが、
New England…誌に発表されて注目を集めました。
その翌年の2016年には、
GLP-1アナログの注射薬であるリラグルチド(ビクトーザ)で、
同様のデータが同じNew England…誌に発表されて、
再び大きな注目を集めました。

現状このSGLT2阻害剤とGLP-1アナログの2種類の薬剤が、
心血管疾患を予防し、その予後を改善するデータを、
明確に有している薬剤です。

ただ、そのどちらがより有効性が高いのか、
というような点については、
まだあまり明確なことが分かっていません。

特に高齢者は心血管疾患のリスクが高まりますから、
治療の必要性は高くなる一方で、
副作用や有害事象も多くなるという特殊性があります。

今回の研究はアメリカの公的医療保険であるメディケアのデータを活用して、
65歳以上の年齢層における、
3種類の糖尿病治療薬の、
心血管疾患リスクに対する有効性を比較検証しているものです。

対象となっている薬剤は、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジンと、
GLP-1アナログのリラグルチド、
そしてDPP4阻害剤のシタグリプチン(ジャヌビアなど)です。
シタグリプチンは、
これまでに明確な心血管疾患の予防効果は、
確認されていない薬剤で、
使用頻度が高いため比較対象となっています。

データは2つに分かれていて、
まず年齢などをマッチングさせた、
エンパグリフロジン使用者22894名を、
同数のリラグルチド使用者と比較し、
次にエンパグリフロジン使用者22812名を、
同じくマッチングさせたシタグリプチン使用者と比較しています。

その結果、
心筋梗塞と脳卒中、および総死亡を併せたリスクは、
リラグルチド群とエンパグリフロジン群で、
有意な差は認められませんでした。
一方で心不全による入院のリスクについては、
エンパグリフロジンはリラグルチドと比較して、
34%(95%CI:0.52から0.82)有意にリスクを低下させていました。

シタグリプチンとの比較では、
エンパグリフロジンは、
心筋梗塞、脳卒中、総死亡を併せたリスクを、
シタグリプチンと比較して、
32%(95%CI:0.60から0.77)有意に低下させ、
心不全による入院のリスクも、
55%(95%CI:0.36から0.56)有意に低下させていました。

このように今回の検証においては、
エンパグリフロジンとリラグルチドは、
心血管疾患や心不全のリスクにおいて、
シタグリプチンより明確に優れた予防効果を示していました。
リラグルチドとエンパグリフロジンとの比較では、
心血管疾患の予防効果については明確な差はなく、
心不全による入院のリスクについては、
エンパグリフロジンが上回っているという結果になっています。

これはこれまでの個々の臨床データから、
ほぼ推定される結果ですが、
実際の臨床データで確認された意義は大きく、
今後の診療に活かせるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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学校でのマスク着用義務中止が新型コロナの感染に与える影響(アメリカの公立学校データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
学校におけるマスクの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年11月9日ウェブ掲載された、
学校でマスクを義務化することの感染予防効果を検証した、
アメリカでの公立学校のデータです。

屋内でマスクを着用することが、
新型コロナウイルスの感染予防のために有効であることは、
ほぼ実証された事実ですが、
その有効性がどの程度であるかについては、
議論のあるところです。

特に欧米ではマスク着用に抵抗感が大きいので、
その使用は日本より早期に、
解除に向かっていることは皆さんもご存じの通りです。

アメリカ、マサチューセッツ州では、
新型コロナの感染拡大後、
2022年1月までは屋内でのマスク着用が、
公立学校の生徒と職員に義務化されていましたが、
2022年2月に解除されました。
ただ、ボストン周辺の一部の学校では、
2022年6月までマスクの義務化が継続されていました。

その事実を利用して今回の研究では、
マスクの義務化が撤廃された以降の感染状況を、
その後5か月マスクの義務化が維持されていた学校と比較して、
マスクの感染予防効果を比較検証しています。

対象はマサチューセッツ州の72の学区における、
294084名の公立学校の学生と46530名の職員です。

その結果、
マスク着用の義務化を中止して15週間において、
マスク義務化中止に起因すると想定される感染者は、
学生及びスタッフ1000人当たり、
44.9件(95%CI:32.6から57.1)に上っていました。
この患者数の増加はマスク義務化中止後、
12週から15週において顕著に認められました。
これは推計で11901件の増加に匹敵し、
その地域全体の学校関連の感染者の29.4%に達していました。

このように公立学校においてマスク着用を義務化することにより、
学校における感染者はかなりのレベルまで抑制され、
それが周辺の地域全体の、
感染者の抑制にも繋がっていることが、
今回のデータからは明確に示されました。

全ての集団でこうしたことが成り立つ訳ではありませんが、
地域住民が集団生活するような状況においては、
マスク着用を義務化することで、
感染を抑止する効果のあることは、
間違いがないと言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新海誠「すずめの戸締まり」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
すずめの戸締まり.jpg
「君の名は。」、「天気の子」に続く新海誠監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

「君の名は。」も「天気の子」も初日に観たのですが、
「君の名は。」の初日は客席は満員で、
物凄い熱気であったことが印象的でした。
「天気の子」はそこそこの入りという感じ、
今回の「すずめの戸締まり」は、
勿論時間帯や劇場が同じということではないのですが、
客席はまばらで若者は誰もいませんでした。
そんな感じになっているのかも知れません。

今回の新作は、
特に前半はあまり人物描写や段取りに時間を割かず、
一気に事件になだれ込む辺りは秀逸だったと思います。
映像のクオリティはいつもながら見事なものです。
「もののけ姫」に似ているな、と思ったのですが、
その後もジブリ作品というか、宮崎駿作品のトリビュートが、
全編を埋め尽くしている、という感じの映画になっています。
「千と千尋の神隠し」、「魔女の宅急便」、「崖の上のポニョ」は、
間違いなく反映されています。
キャラもほぼジブリ作品をなぞる、
という感じになっていて、
ここまで来ると偶然とはとても思えないレベルです。

それから「君の名は。」でも「天気の子」でも、
その創作のベースになっていたと思われる過去の大災害が、
今回は実際にその「出来事」として登場します。
これはかなり議論になりそうなところで、
作者が今回真正面からその災害をテーマとして取り組みたい、
という意思の表れと捉えることは出来ますが、
一方でこの映画ではその災害が、
特定の超自然現象のせいだとされているので、
そのことは悲惨な災害を矮小化するもののように、
思えなくもありません。

フィクションのあり方として難しいところです。

個人的には、
せっかくのフィクションの枠組みが揺らいでしまうので、
現実の時点をそのまま入れ込むのは、
止めて欲しっかったと感じました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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松田正隆「真夏の砂の上」(2022年栗山民也演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夏の砂の上.jpg
松田正隆さんが1998年に初演し、
その後多くの劇団や演出家に取り上げられている「真夏の砂の上」が、
栗山民也さんの演出で、
世田谷パブリックシアターで上演されています。

これは所謂「静かな演劇」の代表作の1つで、
長崎を舞台に、息子を水の事故で失い、
職場も倒産して妻にも三行半を突き付けられてしまった男の、
焼けつくように暑い、
表面的には何も起こらない夏の日を描いた作品です。

今回の上演では主人公を田中圭さんが、
その妻を西田尚美さんが、
そして主人公と同居することになる姪を、
山田杏奈さんが演じています。

これはちょっと栗山さんの悪いところが出たな、
という感じがしました。

舞台は主人公の小さな家の中だけで展開されていて、
もともと小劇場の小空間が意識されている作品なんですね。

それを中劇場クラスのパブリックシアターで上演するのに、
栗山さんの演出は、
抽象的で能舞台のような壁のない空間を用意して、
かなり様式的な舞台にしてしまったのです。

これじゃ、作品の繊細なニュアンスがとても伝わりませんし、
役者はベースはリアルな芝居をしているのに、
それが中途半端に様式的で、
あまり意味もなくポジションを変えたり、
正面を向いたりするので、
どうもヘンテコリンな感じになってしまっていました。

役者さんは皆頑張っていたと思いますし、
日常の風景の中に、
灼熱の暑さと渇きを梃子にして、
時空を超えた超越的な何かの影が漂うような、
作品世界は非常に特異で魅力的なのですが、
今回はやや大味な上演となってしまったことは非常に残念でした。

演劇は難しいですね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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運動する時間帯とメタボへの有効性との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
運動する時間とその効果.jpg
Diabetologia誌に2022年11月1日ウェブ掲載された、
運動する時間とそのメタボに対する有効性を、
比較検証した論文です。

現代人は内臓脂肪が増加するいわゆるメタボが多く、
その原因の1つはデスクワークのため、
座っている時間が多く運動不足になるため、
というように説明されています。

実際これまでの臨床研究や観察研究において、
1日のうち座っているだけの時間が長いと、
糖尿病などの生活習慣病が増加し、
時々立って活動するような時間を取ると、
その予防になることを示唆するデータが報告されています。
身体に中等度以上の負荷を掛ける運動習慣が、
肝臓に蓄積された脂肪を減らし、
インスリン感受性(インスリンの効き易さ)を改善する、
という報告もあります。

ただ、運動する時間によって、
その有効性に差があるかどうか、という点については、
これまであまり明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究ではオランダにおいて、
年齢が45から65歳で体格の指標であるBMIが、
27以上という、海外の地域によっては過体重以上、
日本においては軽度の肥満以上に相当する、
775名を対象として、
身体活動や座位時間を測定可能な機器を4日間装着し、
中等度以上の身体活動(運動)を、
どのような時間帯に行ったかと、
肝臓の脂肪量とインスリン抵抗性との関連を検証しています。

その結果、
運動する時間が1日の中で平均している場合と比較して、
運動を12時から18時の間に集中して行うと、
インスリン抵抗性は18%(95%CI: -33から-2%)改善し、
運動を18時以降に集中して行うと、
インスリン抵抗性は25%(95%CI: -49から-4%)有意に改善していました。
一方で座位をずっと続けていても、
時々姿勢を変えたりのインターバルを作っても、
インスリン抵抗性や肝臓の脂肪量に、
明確な違いは認められませんでした。

これは長期間経過をみたようなデータではないので、
その時点での評価に過ぎないという難点はありますが、
朝より夜に運動する方がメタボの改善に結び付く、
というちょっと意外な結果が得られたことは興味深く、
今後のより踏み込んだ検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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閉経後のホルモン補充療法とうつ病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ホルモン療法とうつ病リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年11月1日ウェブ掲載された、
閉経後の女性ホルモン補充療法とうつ病との関連についての論文です。

閉経による女性ホルモンの低下に伴って、
更年期症候群と呼ばれる一連の症状が起こり、
そこにはかなりの個人差があって、
症状の重い方は日常生活の維持も、
困難となることもあります。

そのため症状の強いような方では、
女性ホルモンの補充療法が検討されます。
女性ホルモンのエストロゲンのみを使用することもあり、
有害事象の軽減を意図して、
黄体ホルモンのプロゲステロンを併用することもあります。
飲み薬での使用以外に皮膚の貼り薬を使用することもあります。
これはいずれも血液のホルモン濃度を上昇させるので、
全身的な投与と言える方法です。
それ以外に、外陰部のみに塗り薬を使用することもあります。
これは局所療法と言うことが出来ます。

女性ホルモン補充療法は、
更年期症候群の症状の緩和のためには、
非常に有効性の高い治療法ですが、
血栓症や乳癌のリスク増加などの有害事象があり、
そのため定期的な検査をするなど、
そうした有害事象の可能性に留意しつつ、
治療を継続する必要があります。

更年期症候群では気分の変調や抑うつ状態など、
精神的な不調がしばしば合併しています。

これを更年期症候群の症状の1つとして考えると、
女性ホルモン補充療法が精神症状の改善にも、
有効ではないかと想定されます。

しかし、ホルモン補充療法に精神疾患の予防効果があったとする、
臨床試験データがある一方で、
そうした有効性はないというデータも複数存在しています。

今回の研究は国民総背番号制を取っているデンマークで、
1995年から2017年に45歳であった女性、
トータル825238名を対象とした大規模なもので、
子宮や卵巣の手術後や乳癌や子宮癌の既往のある患者さんは除外されています。

45歳時から平均で56歳まで経過観察を行ったところ、
23%に当たる189821名が何らかの女性ホルモン補充療法を施行し、
一方で1.6%に当たる13069名がうつ病を発症していました。

50歳未満で女性ホルモンの全身投与を施行した女性は、
施行しなかった女性と比較して、
その後にうつ病と診断されるリスクが、
1.50倍(95%CI:1.24から1.81)有意に増加していました。

そのリスクは治療開始翌年に最も高く、
女性ホルモンのエストロゲン単独で2.03倍(95%CI:1.21から3.41)、
プロゲステロンとの併用療法で2.01倍(95%CI:1.26から3.21)と、
なっていました。

外用剤による局所治療は、
開始時の年齢に関わらず、
うつ病リスクの増加とは関連が認められませんでした。

このように今回の大規模な検証では、
閉経後初期の全身的な女性ホルモン補充療法は、
その後のうつ病リスクの増加と、
関連している可能性が示唆されました。

更年期症候群に対するホルモン補充療法は、
その症状改善のために非常に有効な治療法ですが、
治療開始後数年はうつ病のリスクを増加させる可能性があり、
その点に留意して治療を行う必要があるとともに、
今後局所の補充療法については、
その有効性と有害事象の軽減の可能性について、
検証を深める必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心筋梗塞後の心不全進行のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
出血による心不全悪化のメカニズム.jpg
Nature Communications誌に、
2022年10月27日ウェブ掲載された、
心筋梗塞後の心機能低下のメカニズムについての論文です。

急性心筋梗塞は、
動脈硬化により狭くなった心臓を栄養する冠動脈が、
プラークの出血などにより閉塞して、
心臓の筋肉の血流が途絶えてしまう病気です。

病変が冠動脈の主要な部位で起こり、
血流が途絶した状態が持続すれば、
命に関わるリスクもあります。

最近では冠動脈にカテーテルを挿入して、
バルーンによって閉塞した血管を拡張させたり、
狭窄した部位にステントという金属の管を入れて血流を再開するような、
カテーテル治療が長足の進歩を遂げ、
心筋梗塞が起こっても迅速に治療を行うような態勢も整備されているので、
急性期に深刻な事態に陥ることは、
皆無とは言えませんが非常に少なくなりました。

しかし、それで急性心筋梗塞が怖くない病気になった、
とは言えません。

実は急性期の症状が治療により改善し、
途絶した血流が再開しても、
およそ半数の患者さんではその後心機能は低下し、
徐々に慢性心不全と言われる状態に移行すると報告されています。

何故同じように心筋梗塞を起こして回復した患者さんの中で、
心機能が低下する患者さんと、
そうではない患者さんがいるのでしょうか?

今回の研究では大型犬を使用した動物実験で、
実験的に心筋梗塞の状態を作り、
その後の心筋の治癒過程を観察することにより、
この問題の検証を行っています。

その結果、
心筋梗塞による心筋の血流の途絶時に、
心臓の中に出血が起こると、
それが障害された心筋の治癒を遅らせ、
心筋の死亡変性をもたらせて、
その後の心機能の低下の原因となることが分かりました。
一方で心筋への血流は一時的に途絶しても、
心筋内の出血が起こっていない場合には、
治癒機転は正常に働いて、
その後の心機能の低下は見られていません。

この出血による心筋治癒悪化の、
主な原因となっているのは血液中に含まれる鉄分で、
鉄がマクロファージという免疫細胞を活性化することで、
正常な治癒機転が妨害されることも確認されました。

以上を図示したものがこちらになります。
出血による心不全悪化の図.jpg
これが人間においても当て嵌まる事実であるとすると、
急性期に心筋内に出血が生じたような時には、
それを速やか除去するような治療が、
その予後の改善のためには非常に重要である、
ということになります。

これまで急性心筋梗塞の治療は、
閉塞した血管を拡張して、
その血流を改善することに重点が置かれていましたが、
今後はそれに加えて、
障害された心筋内の出血への対応も、
同じように迅速に行うことが必要となることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」(2022年劇団☆新感線42周年秋興行) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
クリニックで終日レセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
薔薇とサムライ.jpg
アニメのワンピース的な17世紀の海賊の世界を舞台に、
古田新太さん演じる石川五右衛門と、
天海祐希さん演じる女海賊アンナが、
ヨーロッパ貴族の領土争いの陰謀に巻き込まれながら、
冒険活劇を繰り広げるというお話です。

これは12年ぶりの続編で、
勿論前作も観ていますが、
今回の方が間違いなく良かったと思います。

前作は古田さんと天海さんが半々くらいのウェイトでしたが、
今回は天海祐希さんが間違いのない堂々たる主役で、
歌も踊りも勿論ありますし、
オーラ全開でかつての宝塚のパロディのような役柄も、
名場面集のように再現して観客を熱狂に誘います。
七変化に八面六臂の大活躍は、
これはもう陶然として観ているしかありませんでした。

今回はもう天海祐希さんワンマンショーです。

お話も今回は天海さんに全て奉仕するように出来ていて、
いつものメンバーの助演も楽しく、
ヨーロッパの勢力争いと併合などのディテールに、
今のきな臭い状況とシンクロする、
作り手の戸惑いをやや見るような気もしますが、
今回はそうしたところに、
あまり関わることはせずに、
希代のスターである天海祐希さんの、
ワンマンショーを盛り上げることに徹している、
という感があります。

新橋演舞場での新感線の公演が開始された当初は、
作品ももっと歌舞伎を意識したものでしたし、
借りて来た猫のような感じもあったのですが、
今はもう堂々と演舞場の華になっているという感じで、
その作品世界も1つの完成をみているという思いがありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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SPAC「夢と錯乱」(2022年東京芸術祭上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夢と錯乱.jpg
少し前になりますが、
静岡を拠点に活動しているSPACが、
東京芸術祭の一貫として、
美加理さんの1人パフォーマンス「夢と錯乱」を上演しました。

これはオーストリアの詩人トラークルの同題の詩を、
パフォーマンスとして構成したもので、
上演時間は1時間ほど。
多くの場面は濃厚な闇の中で展開され、
成熟して荒廃したヨーロッパの死の匂いが、
時空を超えて池袋に再現されます。

美加理さんはかつての月食歌劇団の頃を彷彿とさせる、
作者を模した美少年の装いで、
取り巻く死者や精霊を同時に闇の中に召喚します。

舞踏的な舞台で、
演出の宮城聰さんも以前は、
こうした創作ダンスを得意にしていましたから、
原点回帰という感じもあります。

ただ、舞踏はよくこうした詩を題材にしますが、
今どの場面を演じているのか、
というような詳細を示すことは普通はありません。
一方で今回の舞台では、
美加理さんは自ら詞章を語り、
同時にその場面を再現してゆきますから、
舞踏と比べれば素人にも親切な、
予備知識なく楽しめる作品になっています。
途中で美加理さんの比較的長いソロがあるのですが、
その場面では美加理さんは同時に詞章を語れないので、
ホリゾントに詞章そのものが
字幕として提示される、
という念の入りようです。

気になって鑑賞後にトラークル全集を購入しましたが、
翻訳は今回使用されたものと同一でした。
非常に明晰で分かり易い訳文で、
そのため聞くのは全く初めての言葉でしたが、
比較的すんなりと耳に馴染みました。

トータルには宮城聰さんの他の演出作品と同じような感じ、
設定は如何にもかつての小劇場藝術という雰囲気で、
とてもワクワクするのですが、
比較的小さくまとまってしまう、という感じがあって、
僕は以前はこうした世界に耽溺していたので、
「ええっ、ここまでやるならもっとやって欲しいな。
こちらの予想を超えて欲しいな」というように思ってしまって、
ラストはやや小さく落胆するような気分になるのです。

ただ、それは僕がどうしても、
こうした作品に別個の物を求めてしまうので、
それが宮城さんの表現する世界のゴールとは、
異質のものであるというだけのことかも知れません。

SPACは一度静岡まで遠征したことはあって、
もうその元気はないのですが、
東京で公演の機会があれば、
また出掛けたいとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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膵嚢胞性腫瘍の遺伝子診断 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
すいのう胞腫瘍の遺伝子診断.jpg
Gastroenterology誌に2022年10月6日掲載された、
膵臓の嚢胞性腫瘍の遺伝子診断についての論文です。

膵臓の嚢胞性腫瘍は、
超音波検査などの普及により、
膵臓の疾患としては比較的多く認められる疾患です。

膵臓の嚢胞性腫瘍のほぼ半数は、
癌になり得る可能性を持つ粘液性嚢胞で、
残りはほぼ良性とされる漿液性嚢胞です。

粘液性嚢胞の中には、
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)があり、
IPMNは年に1%程度が癌化するとされています。
MCNは癌のリスクが高く手術が推奨されています。

トータルに見るとその一生の中で膵臓癌と診断されることは、
嚢胞性腫瘍と診断された人の中でごくわずかです。
しかし、一旦粘液性嚢胞の診断がなされてしまうと、
定期的な画像診断などの継続が必要となります。

画像診断において嚢胞の増大などの変化があると、
口から十二指腸まで胃カメラのような管を入れて、
そこから嚢胞を穿刺して嚢胞液などを採取し、
その細胞の検査などを施行することが検討されます。

ただ、検査は侵襲的で苦痛を伴い、
膵臓の炎症などの合併症のリスクもあります。
またストレスに耐えて検査を施行しても、
明確な診断に至らないことも多いのが実際です。
細胞の形態や従来のマーカーのみの検査で、
良性と悪性とを明確に分離することは、
それほど簡単なことではないからです。

検査を行えば確実に診断に至るような、
そうした精度の高い方法はないのでしょうか?

上記論文の著者らは、
採取された嚢胞液の遺伝子検査を行い、
独自に22種類の遺伝子変異をまとめて解析することにより、
精度の高い診断の検証を行っています。
今回アメリカの31施設で採取された膵嚢胞の嚢胞液、
トータル1832名の検体を解析し、
そのうち66%に当たる1216名については、
2年間の経過観察を施行しています。

こちらをご覧下さい。
すいのう胞の検査法の図.jpg
今回施行された検査法を図示したものです。
内視鏡を膵管の開口部まで挿入してその部位を観察。
特殊な超音波検査で膵臓の嚢胞を同定し、
その部位を穿刺して嚢胞液と組織を採取。
通常の組織や細胞の形態の検査や、
腫瘍マーカーなどの測定に加えて、
複数の遺伝子変異の有無を検証しています。

遺伝子検査の詳細はこちらをご覧下さい。
すいのう胞の診断の図.jpg
各種の遺伝子変異を検出することにより、
膵嚢胞の良性と悪性を含めた性質が、
かなりの精度で診断可能であることを示しています。

複数の癌関連の遺伝子変異を解析することにより、
粘液性嚢胞のうち、
経過から癌に進展した嚢胞のうち88%を、
検査の時点で陽性と診断(感度88%)、
癌ではなかった病変のうち98%を陰性と診断しました(特異度98%)。

今後こうした結果を集積することにより、
現状確定診断が困難な膵嚢胞性腫瘍の、
より正確な診断がなされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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