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心筋梗塞後の心不全進行のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
出血による心不全悪化のメカニズム.jpg
Nature Communications誌に、
2022年10月27日ウェブ掲載された、
心筋梗塞後の心機能低下のメカニズムについての論文です。

急性心筋梗塞は、
動脈硬化により狭くなった心臓を栄養する冠動脈が、
プラークの出血などにより閉塞して、
心臓の筋肉の血流が途絶えてしまう病気です。

病変が冠動脈の主要な部位で起こり、
血流が途絶した状態が持続すれば、
命に関わるリスクもあります。

最近では冠動脈にカテーテルを挿入して、
バルーンによって閉塞した血管を拡張させたり、
狭窄した部位にステントという金属の管を入れて血流を再開するような、
カテーテル治療が長足の進歩を遂げ、
心筋梗塞が起こっても迅速に治療を行うような態勢も整備されているので、
急性期に深刻な事態に陥ることは、
皆無とは言えませんが非常に少なくなりました。

しかし、それで急性心筋梗塞が怖くない病気になった、
とは言えません。

実は急性期の症状が治療により改善し、
途絶した血流が再開しても、
およそ半数の患者さんではその後心機能は低下し、
徐々に慢性心不全と言われる状態に移行すると報告されています。

何故同じように心筋梗塞を起こして回復した患者さんの中で、
心機能が低下する患者さんと、
そうではない患者さんがいるのでしょうか?

今回の研究では大型犬を使用した動物実験で、
実験的に心筋梗塞の状態を作り、
その後の心筋の治癒過程を観察することにより、
この問題の検証を行っています。

その結果、
心筋梗塞による心筋の血流の途絶時に、
心臓の中に出血が起こると、
それが障害された心筋の治癒を遅らせ、
心筋の死亡変性をもたらせて、
その後の心機能の低下の原因となることが分かりました。
一方で心筋への血流は一時的に途絶しても、
心筋内の出血が起こっていない場合には、
治癒機転は正常に働いて、
その後の心機能の低下は見られていません。

この出血による心筋治癒悪化の、
主な原因となっているのは血液中に含まれる鉄分で、
鉄がマクロファージという免疫細胞を活性化することで、
正常な治癒機転が妨害されることも確認されました。

以上を図示したものがこちらになります。
出血による心不全悪化の図.jpg
これが人間においても当て嵌まる事実であるとすると、
急性期に心筋内に出血が生じたような時には、
それを速やか除去するような治療が、
その予後の改善のためには非常に重要である、
ということになります。

これまで急性心筋梗塞の治療は、
閉塞した血管を拡張して、
その血流を改善することに重点が置かれていましたが、
今後はそれに加えて、
障害された心筋内の出血への対応も、
同じように迅速に行うことが必要となることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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