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膵嚢胞性腫瘍の遺伝子診断 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
すいのう胞腫瘍の遺伝子診断.jpg
Gastroenterology誌に2022年10月6日掲載された、
膵臓の嚢胞性腫瘍の遺伝子診断についての論文です。

膵臓の嚢胞性腫瘍は、
超音波検査などの普及により、
膵臓の疾患としては比較的多く認められる疾患です。

膵臓の嚢胞性腫瘍のほぼ半数は、
癌になり得る可能性を持つ粘液性嚢胞で、
残りはほぼ良性とされる漿液性嚢胞です。

粘液性嚢胞の中には、
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)があり、
IPMNは年に1%程度が癌化するとされています。
MCNは癌のリスクが高く手術が推奨されています。

トータルに見るとその一生の中で膵臓癌と診断されることは、
嚢胞性腫瘍と診断された人の中でごくわずかです。
しかし、一旦粘液性嚢胞の診断がなされてしまうと、
定期的な画像診断などの継続が必要となります。

画像診断において嚢胞の増大などの変化があると、
口から十二指腸まで胃カメラのような管を入れて、
そこから嚢胞を穿刺して嚢胞液などを採取し、
その細胞の検査などを施行することが検討されます。

ただ、検査は侵襲的で苦痛を伴い、
膵臓の炎症などの合併症のリスクもあります。
またストレスに耐えて検査を施行しても、
明確な診断に至らないことも多いのが実際です。
細胞の形態や従来のマーカーのみの検査で、
良性と悪性とを明確に分離することは、
それほど簡単なことではないからです。

検査を行えば確実に診断に至るような、
そうした精度の高い方法はないのでしょうか?

上記論文の著者らは、
採取された嚢胞液の遺伝子検査を行い、
独自に22種類の遺伝子変異をまとめて解析することにより、
精度の高い診断の検証を行っています。
今回アメリカの31施設で採取された膵嚢胞の嚢胞液、
トータル1832名の検体を解析し、
そのうち66%に当たる1216名については、
2年間の経過観察を施行しています。

こちらをご覧下さい。
すいのう胞の検査法の図.jpg
今回施行された検査法を図示したものです。
内視鏡を膵管の開口部まで挿入してその部位を観察。
特殊な超音波検査で膵臓の嚢胞を同定し、
その部位を穿刺して嚢胞液と組織を採取。
通常の組織や細胞の形態の検査や、
腫瘍マーカーなどの測定に加えて、
複数の遺伝子変異の有無を検証しています。

遺伝子検査の詳細はこちらをご覧下さい。
すいのう胞の診断の図.jpg
各種の遺伝子変異を検出することにより、
膵嚢胞の良性と悪性を含めた性質が、
かなりの精度で診断可能であることを示しています。

複数の癌関連の遺伝子変異を解析することにより、
粘液性嚢胞のうち、
経過から癌に進展した嚢胞のうち88%を、
検査の時点で陽性と診断(感度88%)、
癌ではなかった病変のうち98%を陰性と診断しました(特異度98%)。

今後こうした結果を集積することにより、
現状確定診断が困難な膵嚢胞性腫瘍の、
より正確な診断がなされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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