高齢者に有効性の高い糖尿病治療薬は何か?(3種の薬剤の比較データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談や保育園の健診で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2022年10月20日ウェブ掲載された、
65歳以上の年齢における、
糖尿病治療薬の心血管疾患予防についての有効性を比較した論文です。
糖尿病の治療は血糖を下げることは勿論ですが、
その全身的な合併症、
特に動脈硬化の進行に伴う、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防に、
近年では力点が置かれています。
糖尿病の患者さんの予後を最も左右しているのは、
心血管疾患であるからです。
10年ほど前までは、
血糖を低下させる薬は多くあっても、
心血管疾患を明確に予防することが実証されているような治療は、
実際には殆ど存在していませんでした。
それが2015年に、
ブドウ糖を尿に排泄する作用のある、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(ジャディアンス)を使用することにより、
心血管疾患のリスクを低下し患者の予後を改善したとするデータが、
New England…誌に発表されて注目を集めました。
その翌年の2016年には、
GLP-1アナログの注射薬であるリラグルチド(ビクトーザ)で、
同様のデータが同じNew England…誌に発表されて、
再び大きな注目を集めました。
現状このSGLT2阻害剤とGLP-1アナログの2種類の薬剤が、
心血管疾患を予防し、その予後を改善するデータを、
明確に有している薬剤です。
ただ、そのどちらがより有効性が高いのか、
というような点については、
まだあまり明確なことが分かっていません。
特に高齢者は心血管疾患のリスクが高まりますから、
治療の必要性は高くなる一方で、
副作用や有害事象も多くなるという特殊性があります。
今回の研究はアメリカの公的医療保険であるメディケアのデータを活用して、
65歳以上の年齢層における、
3種類の糖尿病治療薬の、
心血管疾患リスクに対する有効性を比較検証しているものです。
対象となっている薬剤は、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジンと、
GLP-1アナログのリラグルチド、
そしてDPP4阻害剤のシタグリプチン(ジャヌビアなど)です。
シタグリプチンは、
これまでに明確な心血管疾患の予防効果は、
確認されていない薬剤で、
使用頻度が高いため比較対象となっています。
データは2つに分かれていて、
まず年齢などをマッチングさせた、
エンパグリフロジン使用者22894名を、
同数のリラグルチド使用者と比較し、
次にエンパグリフロジン使用者22812名を、
同じくマッチングさせたシタグリプチン使用者と比較しています。
その結果、
心筋梗塞と脳卒中、および総死亡を併せたリスクは、
リラグルチド群とエンパグリフロジン群で、
有意な差は認められませんでした。
一方で心不全による入院のリスクについては、
エンパグリフロジンはリラグルチドと比較して、
34%(95%CI:0.52から0.82)有意にリスクを低下させていました。
シタグリプチンとの比較では、
エンパグリフロジンは、
心筋梗塞、脳卒中、総死亡を併せたリスクを、
シタグリプチンと比較して、
32%(95%CI:0.60から0.77)有意に低下させ、
心不全による入院のリスクも、
55%(95%CI:0.36から0.56)有意に低下させていました。
このように今回の検証においては、
エンパグリフロジンとリラグルチドは、
心血管疾患や心不全のリスクにおいて、
シタグリプチンより明確に優れた予防効果を示していました。
リラグルチドとエンパグリフロジンとの比較では、
心血管疾患の予防効果については明確な差はなく、
心不全による入院のリスクについては、
エンパグリフロジンが上回っているという結果になっています。
これはこれまでの個々の臨床データから、
ほぼ推定される結果ですが、
実際の臨床データで確認された意義は大きく、
今後の診療に活かせるものだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談や保育園の健診で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2022年10月20日ウェブ掲載された、
65歳以上の年齢における、
糖尿病治療薬の心血管疾患予防についての有効性を比較した論文です。
糖尿病の治療は血糖を下げることは勿論ですが、
その全身的な合併症、
特に動脈硬化の進行に伴う、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防に、
近年では力点が置かれています。
糖尿病の患者さんの予後を最も左右しているのは、
心血管疾患であるからです。
10年ほど前までは、
血糖を低下させる薬は多くあっても、
心血管疾患を明確に予防することが実証されているような治療は、
実際には殆ど存在していませんでした。
それが2015年に、
ブドウ糖を尿に排泄する作用のある、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(ジャディアンス)を使用することにより、
心血管疾患のリスクを低下し患者の予後を改善したとするデータが、
New England…誌に発表されて注目を集めました。
その翌年の2016年には、
GLP-1アナログの注射薬であるリラグルチド(ビクトーザ)で、
同様のデータが同じNew England…誌に発表されて、
再び大きな注目を集めました。
現状このSGLT2阻害剤とGLP-1アナログの2種類の薬剤が、
心血管疾患を予防し、その予後を改善するデータを、
明確に有している薬剤です。
ただ、そのどちらがより有効性が高いのか、
というような点については、
まだあまり明確なことが分かっていません。
特に高齢者は心血管疾患のリスクが高まりますから、
治療の必要性は高くなる一方で、
副作用や有害事象も多くなるという特殊性があります。
今回の研究はアメリカの公的医療保険であるメディケアのデータを活用して、
65歳以上の年齢層における、
3種類の糖尿病治療薬の、
心血管疾患リスクに対する有効性を比較検証しているものです。
対象となっている薬剤は、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジンと、
GLP-1アナログのリラグルチド、
そしてDPP4阻害剤のシタグリプチン(ジャヌビアなど)です。
シタグリプチンは、
これまでに明確な心血管疾患の予防効果は、
確認されていない薬剤で、
使用頻度が高いため比較対象となっています。
データは2つに分かれていて、
まず年齢などをマッチングさせた、
エンパグリフロジン使用者22894名を、
同数のリラグルチド使用者と比較し、
次にエンパグリフロジン使用者22812名を、
同じくマッチングさせたシタグリプチン使用者と比較しています。
その結果、
心筋梗塞と脳卒中、および総死亡を併せたリスクは、
リラグルチド群とエンパグリフロジン群で、
有意な差は認められませんでした。
一方で心不全による入院のリスクについては、
エンパグリフロジンはリラグルチドと比較して、
34%(95%CI:0.52から0.82)有意にリスクを低下させていました。
シタグリプチンとの比較では、
エンパグリフロジンは、
心筋梗塞、脳卒中、総死亡を併せたリスクを、
シタグリプチンと比較して、
32%(95%CI:0.60から0.77)有意に低下させ、
心不全による入院のリスクも、
55%(95%CI:0.36から0.56)有意に低下させていました。
このように今回の検証においては、
エンパグリフロジンとリラグルチドは、
心血管疾患や心不全のリスクにおいて、
シタグリプチンより明確に優れた予防効果を示していました。
リラグルチドとエンパグリフロジンとの比較では、
心血管疾患の予防効果については明確な差はなく、
心不全による入院のリスクについては、
エンパグリフロジンが上回っているという結果になっています。
これはこれまでの個々の臨床データから、
ほぼ推定される結果ですが、
実際の臨床データで確認された意義は大きく、
今後の診療に活かせるものだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2022-11-16 08:18
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