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アスピリンによる肺気腫の進展予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肺気腫とアスピリン.jpg
昨年のChest誌に掲載された、
アスピリンによる肺気腫の進行予防効果をみた論文です。

肺気腫というのは、
末梢の気道に繋がる肺胞の壁が破壊され、
肺の機能が失われてしまう病気で、
一旦気腫性の変化の起こった肺胞は、
原則として再生することはありません。

現状では主に喫煙の影響として発症する、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態の1つとして理解されています。

初期の肺気腫はレントゲンは肺機能の検査でも判断は難しく、
通常高解像度のCT検査における、
「肺気腫様変化」でその有無が判断されます。

この肺気腫の原因は、
必ずしも全て分かっている訳ではありませんが、
肺胞に分布する毛細血管の血流障害と、
その部位の炎症性の変化が関連していると想定されています。

こうした臓器を栄養する血管の損傷と炎症は、
心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患とも共通する部分があり、
血小板の機能の亢進が、
その進行に結び付くと考えられています。

そこで1つの可能性として考えられることは、
血小板の機能を抑制して、
脳梗塞や心筋梗塞の再発予防に使用されている、
低用量のアスピリンが、
肺気腫の進行抑制にも有効なのではないか、ということです。

今回の研究はMESA研究という、
動脈硬化性疾患についてのアメリカの大規模な疫学研究のデータを、
一部別個に解析したもので、
登録の時点で45から84歳の心血管疾患のない4257名の、
胸部CTを撮影して軽度の肺気腫様変化を計測し、
その中央値で9.3年の観察期間中に、
複数回の検査を行って肺気腫の進行を評価しています。

その結果、
アスピリンを週3日以上継続的に使用している人は、
未使用の人と比較して、
CTにおける肺気腫様変化の進行が、
有意に抑制されていました。
肺機能に異常のある患者さんではその効果はより明確で、
喫煙者でも非喫煙者でも、
その効果には変わりはありませんでした。

このデータは肺気腫で治療中の患者さんを対象としたものではないので、
本当にアスピリンの使用が肺気腫の進行を抑制する、
というようにはまだ言えませんが、
多くの病気の進行や再発予防効果が確認されているアスピリンに、
また新たな知見が加わった、
というようには言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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原発性アルドステロン症を飲み薬で治療することのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日も色々あって遅い更新となりました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
セララで心血管疾患が増える?.jpg
今年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の治療についての、
ちょっとショッキングな報告です。

原発性アルドステロン症は、
副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌され、
通常アルドステロンを調節しているレニン活性が、
抑制されたままの状態となって、
血圧が上昇して血液のカリウム濃度が低下する病気です。

上記文献の記載によれば、
高血圧の患者さんの4から19%は実はこの病気で、
血圧が正常の人でも、
レニン活性が1μg/L/hr未満に抑制されているケースでは、
この病気である可能性が高い、
という報告もあります。

このように実際には非常に多い病気である原発性アルドステロン症ですが、
その治療方針は必ずしも確立されている訳ではありません。

病気の原因は、
副腎の腺腫か過形成というしこりですから、
その部分を手術で切除することが、
最も確実性のある治療です。

ただ、術後に血圧が正常化する比率は、
現状はそれほど高いものではなく、
施設間での差も大きいという欠点があります。
腺腫か過形成であるかの診断も、
静脈サンプリングなどの侵襲的な検査が必要となります。

従って、現状の国内外のガイドラインにおいても、
全例に確定診断や手術が求められているという訳ではなく、
血圧やカリウムの数値が、
飲み薬などの治療で安定するようであれば、
経過をみることも選択肢として認められています。

仮に高血圧の患者さんの15%以上がこの病気であるとすれば、
全ての患者さんに確定診断のための検査をして、
確定した全ての患者さんに手術をするというのは、
医療経済的な側面から考えても、
実現は不可能ではないかと思います。

そこで原発性アルドステロン症が疑われる患者さんにおいて、
現在広く使用されているのが、
アルドステロンの受容体の拮抗薬という飲み薬です。

通常使用されているのは、
スピロノラクトン(商品名アルダクトンAなど)と、
より選択性の高いエプレレノン(商品名セララ)です。

こうしたタイプの薬はアルドステロンの作用をブロックするので、
原発性アルドステロン症の病態が、
過剰なアルドステロンの作用により生じるのであるとすれば、
理に適った治療であると言えます。

ただ、実際にはアルドステロン自体は減少はさせず、
レニン活性を上昇させるという訳でもないので、
手術でアルドステロンの過剰な分泌を抑えるような治療と、
結果として生じる状態は同じであるとは言えません。

しかし、実際にはアルドステロン拮抗薬による治療が、
本当に患者さんの長期予後に良い影響を与えるという根拠は、
推測以上のものがこれまでには存在していませんでした。

今回の研究はアメリカにおいて、
2つの専門病院を中心として、
アルドステロン拮抗薬による治療を行っている、
原発性アルドステロン症の患者さん602名の記録を、
年齢をマッチした本態性高血圧症の患者さん41853名と比較して、
心血管疾患の発症リスクと生命予後を比較検証しています。

その結果、
心血管疾患の発症リスクは、
本態性高血圧の患者さんと比較して、
アルドステロン拮抗薬による治療を行っている、
原発性アルドステロン症の患者さんでは、
1.91倍(95%CI: 1.63から2.25)有意に増加していました。

また、総死亡のリスクも1.34倍(95%CI; 1.06 から1.71)、
糖尿病のリスクが1.26倍(95%CI: 1.01から1.57)、
心房細動のリスクが1.93倍(95%CI: 1.54から2.42)、
それぞれ有意に増加していました。

ただ、この心血管疾患と総死亡のリスクの増加は、
原発性アルドステロン症でも、
そのレニン活性が1μg/L/hr以上であると、
有意にではなくなっていました。

つまり、
原発性アルドステロン症をアルドステロン拮抗薬で治療していても、
レニン活性が1未満と抑制された状態が持続していると、
心血管疾患のリスクも高く、
生命予後にも悪影響を与える状態は続いている、
という結論になっています。

ただ、これは患者さんを最初から登録して経過をみたような研究ではなく、
後から患者さんをマッチングしたものなので、
血圧には違いはないことになっていますが、
他の条件が同じであることの保証はないように思います。
またアルドステロン拮抗薬は、
その83%でスピロノラクトンが使用されていて、
68%の患者さんではACE阻害剤やARBも併用されていますから、
そうした薬剤の影響も少なからず結果には影響していると思われます。

そんな訳で今回の結果をもってすぐに、
原発性アルドステロン症のアルドステロン拮抗薬による治療は問題がある、
とも言い切れないのですが、
レニン活性を含めて、
どのような指標を参考とすることが、
原発性アルドステロン症の患者さんの予後の改善に結び付くのか、
そうした観点からの再検証が必要であるように思います、

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。



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PL顆粒の発売を考える [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

レセプトなどでちょっとバタバタしていて、
今日はかろうじて今日に間に合った、
という感じの更新になりました。

今日は論文の紹介ではなく、
「風邪薬」の話です。

毎日風邪薬のコマーシャルが流れない日はありません。
最近では医療用の風邪薬の代表でもあった、
PL顆粒が一般向けに発売されると、
仰々しい宣伝が連日行われています。

その一方で風邪に効く薬はない、
という言説も今では広く聞かれるようになりました。

風邪薬を処方する医者は確実に減っていると思いますが、
その一方でほぼ同じ風邪薬や、
PL顆粒のように全く同じ風邪薬が、
大量に商品として宣伝され、
多くの皆さんが使用されていることも事実です。

これは本当に正しいことなのでしょうか?

何か健康保険さえ使用しなければ、
役に立たないものや、
時には有害なものでも、
国民にはじゃんじゃん飲んでもらいたい、
というような利益優先の意図が透けて見えて、
あまり良い気分にはならないことも事実です。

そもそも風邪薬とはどんなものなのでしょうか?

風邪をライノウイルスなどによる急性の感染症と考えると、
それに効く薬はありませんから、
風邪薬と言われるものは、別に治療薬ではなく、
あくまで熱や鼻水、咳、咽喉などの痛みといった、
風邪に伴う症状を緩和する薬です。

風邪自体は自然に治る病気ですが、
症状が強ければつらいですから、
つらい症状を一時的に緩和する薬が、
あっても勿論悪くはありません。

ただ、現状の風邪薬の問題点は、
多くの成分が混合されていて、
その中には不要と思えるものも有害と思えるものもあり、
その評価がしっかりされていない、
と言う点にあります。

そこで、
医療用の総合感冒薬の代表とも言える、
PL顆粒の話になります。

医療用の総合感冒薬として、
最も広く知られているのはPL顆粒と呼ばれるもので、
その成分はアセトアミノフェン、サリチル酸アミド、
無水カフェイン、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩の4種類です。

PL顆粒の発売は1962年で、
その開発の時点で同種の配合剤が既に発売をされていますから、
風邪薬の歴史は非常に古い、
ということが分かります。

処方としては2種類の痛み止め(消炎鎮痛剤)を組み合わせ、
興奮剤のカフェインと、
抗ヒスタミン剤という鼻水や炎症を止める薬をミックスしたものです。
熱と鼻水と咽喉に効く、
という言い方が出来なくはありません。

ただ、わざわざ2種類の消炎鎮痛剤を組み合わせる必要があるのか、
という疑問と、
カフェインのような興奮剤を鎮痛作用の増強を期待して配合する、
という発想は、
今の目から見るとあまり科学的とは言えません。

おそらくこの発想は、
漢方薬から来ているのではないかと、個人的には思います。
個々に別個の効果のある薬を組み合わせて処方して、
より大きな総合的な作用を期待しよう、
という考え方です。

しかし、西洋医学の製剤は漢方の生薬とは違いますから、
この発症はちょっと筋が違うように思います。

PL顆粒を風邪で処方する医師は、
最近は減少していると思います。
特に小児用は問題が大きいと思いますが、
不思議なことに2014年の厚労省の再審査では、
特に問題視をされていません。

それどころか前述のように、
健康保険さえ使用しなければ、
国民にはドシドシこうした薬を使って欲しい、
というのが国やメーカーの方針でもあるようです。

市販の風邪薬は巨大なマーケットを形成していて、
売れっ子のタレントを起用したコマーシャルが、
毎日大々的にテレビでも流されています。

その中身はどのようなものなのでしょうか?

1つのサンプルとして第一三共の「ルル」を見てみましょう。
(この選択はたまたまで他意はありません。
他のメーカーの他の同種の薬でも、
全く同じことが言えるのです)

「かぜの全ての症状に効く」と銘打たれたこの薬には、
実に9種類の成分が配合されています。

痰がらみを取るブロムヘキシン塩酸塩、
神経刺激作用のあるメチルエフェドリン塩酸塩、
咽喉の腫れを抑えるトラネキサム酸、
解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン、
副交感神経を抑えて鼻水を止めるベラドンナアルカロイド、
咳止めで依存性のあるジヒドロコデインリン酸、
興奮剤のカフェイン、
抗ヒスタミン剤のクレマチンフマル酸塩、
そしてビタミンB1の誘導体です。

皆さんは風邪症状でお医者さんに行って、
いきなり9種類の薬を出されたらどう思いますか?
さすがに多すぎると感じるのではないでしょうか?

しかし、実際には同じことをしているのが市販の総合感冒薬なのです。

こうした薬は7歳以上では服用可能となっていますが、
現在小児科を担当する医師の多くは、
この年齢の患者さんの風邪に対して、
依存性や興奮性のあるジヒドロコデインリン酸やカフェイン、
痙攣のリスクなどもある古いタイプの抗ヒスタミン剤などは、
ほぼ間違いなく処方しないと思います。

それが平気で含まれていて特に規制もされていないというのが、
風邪薬の大きな問題だと思います。

それでは、
現状の総合感冒薬とどのように付き合うべきでしょうか?

以下は私見です。

総合感冒薬と言われる薬は、使用しないのが賢明です。

カロナールなどの商品名の解熱鎮痛剤は、
成分がアセトアミノフェンだけであれば、
発熱や痛みに対して使って良いと思います。

咳止めの連用はお勧め出来ません。

鼻水止めには風邪薬ではなく、
アレグラなどの花粉症の薬の方が、
副作用が少なく使いやすいと思います。

漢方薬は体に合ったものが分かっていれば、
使用して悪くないと思います。
3日使って充分な効果のない時には、
それ以上服用しないことがお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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鉄剤の効果的な飲み方は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鉄の吸収とサプリメント.jpg
2017年のLancet Haematology誌に掲載された、
鉄欠乏性貧血の患者さんの、
最も効果的な鉄剤の飲み方は何かを検証した論文です。

若い女性に多いのが鉄欠乏性貧血で、
女性は生理の出血により定期的に鉄分が不足しやすくなる一方、
ダイエットを気にして食事制限をすることも多いので、
二重の意味で貧血が増えるのです。

そこで貯蔵鉄が不足して貧血を生じやすいような女性では、
鉄剤の薬やサプリメントを、
補充することが推奨されます。

ただ、飲み薬の鉄剤というのは、
それほど効率の良いサプリメントではありません。

使用頻度の高い硫酸鉄の場合、
食事と一緒に飲んだ場合の吸収率は2から13%で、
食間での使用でも5から28%というデータがあります。

つまり、その吸収率は決して高いものではなく、
吸収される鉄よりも、
そのまま便から排泄される鉄の方が、
ずっと多いというのが実際です。

ここで問題となるのは、
吸収されない鉄分が多いことが、
便秘や吐き気などの不快な症状の原因となるので、
鉄剤の服用の持続が困難となることと、
鉄剤の血液濃度の一時的な上昇により、
血液中の鉄の吸収を調整するホルモンである、
ヘプシジンの濃度が高まり、
それが結果として鉄の吸収を更に抑制してしまう、
という悪循環があることです。

このためより効率的な鉄剤の服用法として、
間隔を空けて高用量を使用することが良いのでは、
という意見がある一方で、
少量を頻回に使用した方が良いのでは、
というような意見もあって、
その見解は必ずしも一致していません。

今回の研究はその点を検証したもので、
例数は少ないのですが、
放射能でラベルした鉄を使用して、
直接的に鉄の吸収率を測定して比較している点が特徴です。

スイスのチューリッヒにおいて、
18から40歳の鉄欠乏のある女性
(貯蔵鉄の指標であるフェリチンが25μg/L以下であることで評価)を登録し、
1つ目の試験では40名をくじ引きで2つに分け、
一方は毎朝60ミリグラムの硫酸鉄を朝8時に毎日内服し、
もう一方は1日おきに内服して、
毎日では14日間、
1日おきでは28日間の使用を継続します。
2つ目の試験では、
一方は1日120ミリグラムの硫酸鉄を3日間毎日1回で服用し、
もう一方は60ミリグラムを2回に分けて服用して、
2週間空けて両者を入れ替えてもう一度同じことを試みます。

その結果、
1日おきの服用では、
鉄の吸収率は21.8%(95%CI; 13.7から34.6)であったのに対して、
毎日の服用では、
16.3%(95%CI; 9.3から28.8)となっていて、
1日おきに服用した方が毎日服用するより、
吸収率は有意に高くなっていました。
そして、トータルな全日での合算でも、
身体に吸収された鉄分の量は、
毎日飲むより1日おきに飲む方が、
より多くなっていました。

1日に1回と2回の服用の比較では、
その鉄分の吸収率には有意な差はなく、
1回より2回の分けた方が、
血液中のヘプシジン濃度は有意に高くなっていました。

要するに、
鉄剤の吸収率を高く保つためには、
ヘプシジン濃度をなるべく上げないことが重要で、
そのためには服用の間隔を空けることにより、
血液中の鉄の濃度が高い時間をなるべく少なくすることが、
有用性が高いという結論になっています。

同量の鉄を補充するのであれば、
少し時間は掛かっても、
毎日ではなく1日おきに服用するのが、
効果的と考えて良いようです。

ただ、この試験は重症の鉄欠乏貧血の患者さんを、
対象としたものではないので、
そうした患者さんでは元々ヘプシジン濃度は抑制されており、
また別個の結果が出る可能性もある、
と言う点には注意が必要です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2017年のオペラと声楽を振り返る [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。

今日は昨年聴いたオペラと、
声楽のコンサートを振り返ります。

昨年聴いたオペラはこちら。
①新国立劇場「ルチア」(新制作)
②東京春音楽祭「神々の黄昏」(演奏会形式)
③新国立劇場「ジークフリード」
④パレルモ・マッシモ劇場「トスカ」(ゲオルギュー)
⑤パレルモ・マッシモ劇場「椿姫」(ランカトーレ)
⑥バイエルン国立歌劇場「タンホイザー」
⑦バイエルン国立歌劇場「魔笛」
⑧新国立劇場「神々の黄昏」(新制作)
⑨新国立劇場「椿姫」

2017年は東京春音楽祭と新国立劇場で、
ワーグナーの「神々の黄昏」が聴けるというのが、
個人的には一番の楽しみでした。
ただ、東京春音楽祭は直前でキャスト変更などがありましたし、
新国立劇場版は演出が首を傾げる感じのもので、
今ひとつ乗り切れませんでした。
でも、新国立へのマイヤーの初登場も良かったですし、
好きな曲を2回も生で聴けるのは幸せでした。

大物オペラの来日というと、
バイエルン国立歌劇場だけで2017年は寂しい感じはありました。
「タンホイザー」はかなり異様な演出で、
首を傾げるような感じがありましたし、
「魔笛」は骨董品のような演出を持って来ていて、
さすがに定番という面白さはあったのですが、
矢張りこの作品、僕はあまり好きにはなれません。

ゲオルギューはもう来日はしないかなと思っていたので、
トスカを歌ってくれたのは嬉しかったのですが、
風格は抜群で歌はヘロヘロでした。
ランカトーレのヴィオレッタは悪くなかったです。
新国立の若手のヴィオレッタもまずまずでしたが、
演出がひどいのであれはもうお蔵入りにして欲しいと思います。

新国立劇場では「ルチア」が、
グランギニョールを思わせるようなかなり特異な演出で、
狂乱の場では夫の生首を突き刺した槍を振り回して登場します。
個人的にはこれはありかな、と感じました。
もっと大仰に歌えるソプラノを招聘して、
この演出はもう一度やり切って欲しいと思いました。

それから昨年は以下のような、
声楽のコンサートに足を運びました。
①エヴァ・メイ ソプラノリサイタル
②エリーザベト・クールマン メゾソプラノリサイタル
③ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール デュオリサイタル
④タマール・イヴェーリ ソプラノリサイタル
⑤エレナ・モシュク ソプラノリサイタル
⑥アンナ・ネトレプコ スペシャル・コンサート
⑦ディアナ・ダムラウ&ニコレ・テステ オペラ・アリア・コンサート

2017年には前半にデセイ様の来日があり、
後半にはネトレプコとダムラウの来日があって、
その意味では楽しみでした。

デセイ様は前回の来日より声の調子が良く、
勿論最盛期には遠く及ばないのですが、
それでも唯一無二の歌声を堪能することが出来ました。
素晴らしかったです。
特に4月12日の東京文化会館が良かったですね。
19日は彼女の誕生日で、
そのサプライズもありました。

アンナ・ネトレプコは昨年より省エネで、
アンコールもないなど不満もあるのですが、
矢張り世界のプリマドンナの迫力を聴かせてくれました。
最初のマクベス夫人の迫力だけで、
元は取った気分になりました。圧巻です。
ダムラウは超絶のコロラトゥーラを期待したのですが、
高音をドカンと出すタイプではないので、
そうした意味ではやや期待外れでした。
ただ、全体としてスケールの大きな均整の取れた歌で、
存在感も圧倒的にあり、悪くはありませんでした。
2人とも、もう装飾歌唱という時期ではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ビジランテ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ビジランテ.jpg
入江悠監督の新作で、
桐谷健太さんの入魂の演技も気になる社会派のサスペンス、
謎めいた題名の「ビジランテ」を観て来ました。

入江悠監督は昨年の「22年目の告白 私が殺人犯です」が、
ひねりの効いたプロットと、
それを巧みに活かした演出で印象的だったので、
今回もどんな素材をどのように料理してくれるのだろうと、
興味津々で出かけました。

ただ、観終わった印象としては、
確かに監督やキャストの熱のようなものは、
伝わっては来るのですが、
ともかく救いようがなく陰々滅々とした暗い話で、
それが最後まで何の希望もなく、
何のひねりも意外性の欠片もなく、
叙情的な水分など何もないカラカラに乾いたままで、
終わってしまうので、
確信犯なのであればこれで良いのかも知れませんが、
個人的には何ともやりきれない思いで、
劇場を後にしました。

本当にこれが入江監督のやりたかったことだったのでしょうか?

兄弟3人の話の筈なのですが、
3人が少なくとも心情的にリンクすることは一度もなく、
微妙なすれ違いと決別とがあるだけです。
父親が残した遺言の謎とか、
兄弟がこだわる土地の問題とか、
父親を刺したのが誰だから結局どうなのか、とか、
大森南朋演じる長兄の心理が、
何1つ分からないままなのは、
彼をただのターミネーターや座頭市のように、
考えれば良いのか、
それとも単なる説明不足なのか、
ともかく未整理で説明のまるでないディテールが多く、
それが意図的なものともどうしても思えないので、
モヤモヤしてしまうのです。

通常の構成から考えれば、
土地の奪い合いという外因に思われたいさかいが、
後半になって兄弟の意外な心理のもつれや愛憎に、
落とし込まれるというのが常道だと思いますが、
そうした兄弟の心理の綾が、
何1つないままに物語が終わるというのは、
「現代の狂気のぎりぎりの境界線」を描く、
というテーマ性があるとしても、
何処かいびつで本筋を外れてしまったように、
個人的には思います。

それでいて物語がリアルかと言うと、
決してそんなことはなくて、
後半など2つのやくざ組織が1つの家で殺し合いをして、
結局主人公だけは生き残るなど、
ギャグのようにしか思えません。
錆び付いた小さなナイフをやくざの首に刺したら、
見事に急所に命中して即死、
というような場面など、
医学的にも抗議をしたいレベルのひどさです。

映像も暗く沈んだ場面ばかりが連続していて、
映画館で周りが暗いとかろうじて分かりますが、
これを家でテレビで観ても、
ただ暗い画面を眺めているだけになるのは、
火を見るより明らかです。

これで本当に良かったのでしょうか?

色々な意味で大いに疑問です。

肌触りとしては、
北野武監督の「3×4X10月」に近い感じかな、
というようには思うのです。
あの映画は身近にある暴力と、
その恐怖とそれによる人間のヒエラルキー、
そして最後にそれと対峙するやや危険な幻想を描いた、
とても画期的な名作だと思いますが、
「ビジランテ」にある暴力は、
そこまで肌触りがリアルではなく、
やくざの暴力など様式的な感じですし、
その受け止め方にも、
観客の胸に落ちるようなところが希薄だと思うのです。

この映画のテーマの1つは、
「暴力による支配」ということだと思いますが、
主人公の父親による暴力にしても、
やくざの営業上の暴力にしても、
弱い者を陵辱する大森南朋の暴力にしても、
そこに中途半端なモラルが見え隠れする上に、
リアリティが欠如していて、
「悪の美学」といったものも皆無なので、
そこに切実さも魅力も怖さも何も感じられないのです。

これでは矢張りまずいのではないでしょうか?

そんな訳で意欲作とは思うのですが、
個人的にはあまり面白いと思える部分はなく、
切実さを感じる部分もなくて、
モヤモヤと薄ら寒い感じのみが残る感想となってしまいました。

ただ、この作品を気に入った方も勿論いらっしゃると思いますので、
それはもう個人の感想ということで、
ご容赦を頂ければと思います。

僕は…駄目でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「バーフバリ 王の凱旋」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックはいつも通りの診療になります。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
バーフバリ.jpg
インドのスペクタクル大作、
「バーフバリ 王の凱旋」を観て来ました。

これは昨年末に短期間だけ公開された、
「バーフバリ 伝説誕生」の続編で完結編です。
僕も前編は見逃していますが、
最初に日本語のナレーションで結構長い前編ダイジェストが付いているので、
特に予備知識がなくても問題はありません。
正直後編を観ただけでもうお腹はいっぱいという感じで、
この後で前編を見たいという気分にはなりませんでした。

これは昔のハリウッドのスペクタクル史劇、
「十誡」や「ベン・ハー」に近いような世界で、
最も影響をされているのは「十誡」だと思います。
人望のある王の後継者が陰謀により追放されてしまったり、
王宮のセットのイメージや、
そこから戦車部隊が出撃する感じなども良く似ています。
戴冠式の元ネタは「クレオパトラ」ですね。

僕はこうした昔のスペクタクル史劇が大好きで、
今でも小学生の頃に渋谷パンテオンで観たシネラマの「ベン・ハー」や、
渋谷東急で観た70ミリの「十誡」は心に焼き付いているのですが、
最近はこうした映画はハリウッドも造らなくなりましたし、
同じような素材の映画を造っても、
かつてのような天真爛漫な脳天気な感じはなく、
PCに気を遣って、
違和感のある登場人物を出して来たり、
中途半端に現代的な苦悩をする主人公であったりして、
昔のような楽しい贅沢な気分に浸ることはありません。

その点今回のこの映画などは、
歌と踊りも唐突なインド・ミュージカルの要素も入れ、
活劇についてはハリウッドや中国活劇のパクリなども入れながらも、
遙かに今のハリウッドより天真爛漫に、
かつてのハリウッド史劇の世界を再現していて、
懐かしくも楽しい感じがあります。

ただ今の映画の常でVFXが多用されているので、
集団の合戦シーンなどは、
出来の悪い「指輪物語」という感じは否めません。
アメリカのこうしたタイプの映画と比べると、
群衆場面での実際の人数も多く、
セットも結構大きな物を使っているようなのですが、
動きのある場面は結局VFXに頼っているので、
あまり画面が重みのある印象にはならないのです。
その点は少し残念でした。
VFXの出来は「鎌倉ものがたり」の方が上です。

また、何となく神様や怪物なども登場しそうな雰囲気なのですが、
実際にはそうした超自然の生き物などはほぼ登場せず、
戦士の活躍はアニメ並みには人間離れしていますが、
そのレベルに留まっています。
その点ても、個人的には少し物足りなくは感じました。
この内容なら、怪獣の一匹くらいは、
出て来てもいいですよね。

いずれにしても2時間20分という上映時間は、
インド映画としては短い方で見やすく、
そうは言っても色々な意味で濃い作品なので、
正直後半は「もういいよ」という感じもあるのですが、
これでもかという見せ場の連続の超大作で、
お正月の気分にはぴったりの大活劇でした。

個人的には空を飛ぶ帆船でのミュージカル場面と、
卑怯者の首をいきなり刎ねて、
王宮と決別する場面の切れ味がツボでした。

期待をし過ぎるとちょっとガッカリするかも知れません。
でも、面白いし理屈抜きに楽しめるインド大活劇です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血液のカフェイン濃度とパーキンソン病 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは今日まで休診です。
長いお休みを申し訳ありません。
ただ、体調は最悪で休めたという感じは、
まるでなく終わってしまったのが実際です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カフェインとパーキンソン病.jpg
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のカフェイン濃度とパーキンソン病との関連についての論文です。

順天堂大学などの研究チームによるもので、
一般紙などにも記事になっていました。

パーキンソン病は代表的な神経難病の1つですが、
以前よりコーヒーを沢山飲む人にはこの病気が少ない、
という疫学データが、
男性とホルモン補充療法をしていない女性では、
得られています。

この男女差については、
女性ホルモンのエストロゲンとカフェインが、
同じ肝臓の酵素を共用していることに、
その一因があると考えられています。

動物実験のレベルでは、
カフェインはパーキンソン病による、
神経細胞の変成を予防するような働きがあると報告されています。
カフェインの代謝産物についても、
神経毒性を弱めるような作用があると報告されています。
ただ、これは敢くまで動物実験レベルの知見です。

臨床的にはカフェインの使用は、
アデノシン2A受容体の阻害作用により、
パーキンソン病の運動症状を改善するという複数の報告があります。

ただ、それがカフェインそのものの作用であるのか、
それとも、その代謝産物を介した作用であるのか、
といった点については、
まだ明らかにはなっていません。

今回の研究では、
パーキンソン病の患者さん108名と、
年齢をマッチさせたコントロール31名に、
血液中のカフェインとその11種類の代謝産物を測定し、
その比較を行っています。
また、カフェインの代謝酵素の活性や、
パーキンソン病の症状とカフェイン濃度との関連についても、
同時に検証を行っています。

症例は全て順天堂医院の患者さんで、
既に治療を受けています。
カフェインは小腸から吸収されると、
その95パーセントが、
肝臓の代謝酵素CYP1A2による代謝を受けます。
その代謝産物の1つが、
気管支拡張薬として使用されるテオフィリンです。
今回の研究では、
代謝酵素の活性に関わる、
SNPと呼ばれる遺伝子変異を解析することで、
その関連を調べているのです。

その結果、
カフェインとテオフィリンを含む9種類の代謝産物の血液濃度は、
パーキンソン病群において、
コントロールと比較して有意に低下していました。

血液のカフェイン濃度は、
当然コーヒーやお茶などの摂取量の、
影響を受ける訳ですが、
今回の研究では、摂取量の簡単な調査を行い、
有意差がないので関連はない、
という結論になっています。
この点についてはこれで良いのかやや疑問です。

カフェイン濃度に代謝産物の濃度を併せて指標とすると、
非常に高い感度と特異度で、
パーキンソン病の診断が可能であることが確認されました。
(ROC曲線のAUC0.98 )
これはカフェイン単独では(AUC0.78)とそれほどではない、
というところが1つのポイントです。

パーキンソン病の重症度や運動障害の有無、
代謝酵素の活性に関わる遺伝子変異の有無と、
カフェインやその代謝物濃度との間には、
有意な関連は認められませんでした。

つまり、例数はそれほど多くはなく、
単独施設で治療中の患者さんのみでの検討、
と言う点はデータとしては少し弱いのですが、
数値としてはかなり明確に差が出ていて、
パーキンソン病の患者さんにおいては、
血液のカフェインとその代謝物の濃度が、
低いという現象のあることはほぼ間違いがなさそうです。

ただ、その原因がたとえば特定の代謝酵素の活性と、
関連が明確にあって、
その遺伝子座とパーキンソン病の関連遺伝子との間にも、
関連がありそう、というようなことがあれば、
臨床にも直結するより重要な知見と言えるのですが、
今回の検証では代謝酵素の活性との関連も明らかではなく、
パーキンソン病の重症度などとも無関係で、
カフェインの摂取量との関連もないのですから、
この現象の原因も臨床的な意義も、
全く不明であるということになります。

論文の考察においては、
カフェインの小腸からの吸収に、
パーキンソン病により差があるのではないか、
という考え方が示されていますが、
仮にそうであるとすれば、
カフェインの摂取量を一定にしたり、
極端に一定期間すくなくしたり多くしたりして、
その変化を見るなど、
より吸収や代謝の差に踏み込んだ検証が、
不可欠であるように思います。

また、遺伝子の変異での差を見るには、
今回の例数は如何にも少ないので、
今後大規模な遺伝子解析のデータを活用するなどして、
そのメカニズムに踏み込んだ解析も必要であるように思います。

そんな訳でまだこの知見が、
今度どのように利用可能であるのかは未知数なのですが、
現象自体は非常に興味深く、
今後より掘り下げた検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アメリカ糖尿病学会の薬物治療ガイドライン(2018年版) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は終日レセプト作業をしていましたが、
体調は最悪で不安の大きな年の初めになりました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ADAの糖尿病治療ガイドライン.jpg
刊行自体は昨年ですが、
今年のDiabetes Care誌にアメリカ糖尿病学会(ADA)の、
新しい糖尿病のガイドラインが発表されました。

今日はその中から、
末端の臨床医としては一番直接的な関係の深い、
2型糖尿病の薬物治療のガイドラインを見てみます。

こちらをご覧下さい。
ADAガイドラインの図.jpg
これが2型糖尿病の薬物治療の基本的な考え方を図示したものです。

分かりにくいと思いますので説明します。

まずHbA1cが9%未満の場合には、
禁忌でない限りビグアナイトのメトホルミンが、
第一選択の治療薬となります。

この場合のメトホルミンの禁忌は、
推算糸球体濾過量が30mL/min/1.73 ㎡未満の腎機能低下がある場合と、
嘔吐や脱水などの消化器症状が強いような場合です。

最近の報告ではメトホルミンの長期使用により、
ビタミンB12の欠乏が生じやすいとされていて、
このため定期的にビタミンB12 の血液濃度を測定することが、
その使用においては推奨されています。

メトホルミンを上限量まで使用しても、
HbA1cが目標値(通常7%以下)に3ヶ月達しない場合には、
メトホルミンへの上乗せでもう1種類の薬剤の併用が考慮されます。
これが第2段階の2剤併用療法です。

また、HbA1cが治療開始前に9%以上10%未満の場合には、
最初から2剤併用療法が考慮されます。

今年のガイドラインの大きな変更点は、
メトホルミンに上乗せする併用薬の選択において、
心血管疾患の既往の有無を重要視していることです。

併用薬の選択肢としては、
SU剤、DPP4阻害剤、GLP-1アナログ、
SGLT2阻害剤、持続型インスリン、チアゾリジン系薬剤、
の6種類がリストアップされていて、
心血管疾患の既往がない場合には、
そのうちのどれを選択しても、
基本的には誤りではなく、
個々の患者さんにとってメリットの大きな薬剤を、
その中から選ぶということになります。

ただ、心血管疾患の既往がある場合には、
その再発が患者さんの予後に、
最も大きな影響を与えることになるので、
使用する薬剤にも、
心血管疾患の予後を改善することが、
これまでの精度の高いデータで、
確認されている薬を使用することが望ましい、
という方針が打ち出されているのです。

これまで心血管疾患の予後を改善したことが、
明確に証明されている薬剤は多くはなく、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(商品名ジャディエンス)と、
カナグリフロジン(商品名カナグル)、
そしてGLP-1アナログのリラグルチド(商品名ビクトーザ)の3種類だけです。
ただ、カナグリフロジンに対しては、
糖尿病性壊疽による下肢の切断のリスクが、
薬剤使用群で2倍近く増加していた、
という気になるデータがあります。

メトホルミンとチアゾリジン系のピオグリタゾン(商品名アクトスなど)は、
心血管疾患の予後を改善する可能性はある、
という位置づけになっています。
上記3剤に匹敵するような介入試験のデータはないためです。
ただし、ピオグリタゾンは心不全悪化のリスクがあるのは、
ほぼ確実なので心機能が低下しているようなケースには、
向いていません。

ここに挙げた以外の薬については、
心血管疾患の予後については、
基本的には良くも悪くもしないと、
現状はそう考えておくことが妥当です。
インスリンやSU剤は、
低血糖のリスクが高いことが大きな欠点です。

2剤の併用でも3ヶ月の治療で目標HbA1cに達しない場合は、
更に上記から3剤の併用を考慮し、
それでも目標に達しない場合と、
治療前のHbA1cが10%以上もしくは随時血糖が300mg/dL以上の場合には、
最初からメトホルミンと持続型のインスリン注射との併用が考慮されます。

心血管疾患の予後改善が確認されている薬剤は、
現状は高価な新薬のみなので、
医療経済的な見地からは問題もあるのですが、
血糖値だけを良くしても、
必ずしも患者さんの生命予後や健康寿命の延長には結び付かない、
というのが最近の知見の流れなので、
現状の臨床データから最善と思える方向性を考えると、
概ねこうした方針に落ち着くのではないかと思います。

現行の日本の糖尿病診療ガイドラインは、
もっと総花的なものですが、
これまでの経緯を考えると、
数年くらいでアメリカにすり寄るというのがパターンなので、
欧米のガイドラインを指針として、
診療の方針に役立てることが、
現状では一番妥当であるように考えています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「DESTINY 鎌倉ものがたり」 [映画]

明けましておめでとうございます。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はこちら。
DESTINY 鎌倉ものがたり.jpg
西岸良平さんの人気コミックを、
山崎貴監督が映画化したファンタジー映画が、
今ロードショー公開されています。

これは原作とは全くの別物と考えた方が良くて、
ジブリ映画の実写化に山崎監督がVFXで取り組んだ、
というような感じの映画です。

その意味でそう悪い出来ではなく、
後半の死後の世界の描写などは、
ほぼフルCGですが、
邦画としてはかなり頑張っていたと思います。

ただ、設定が一応現在となっているのが、
正直かなり無理があり違和感があるように思います。

今の鎌倉がとても魔物が住む異界とは思えませんし、
前時代的な小説家が、
今時原稿用紙にペンで小説を書いているというのも、
ほぼあり得ないような話ですから、
時代をもう少し前、
「三丁目の夕日」くらいに設定した方が、
無理がなかったような気がします。

凄いレトロな風景が登場する割には、
今の江ノ電やその駅が出て来たり、
死に神が今風の装いで登場したりするビジュアルに、
かなり無理があるのです。

もう少し何とかならなかったのでしょうか?

山崎監督の映画は自分で特撮もしているので、
CGと現実の風景とのバランスなどは、
とても良い感じなのですが、
ドラマ部分の質にはかなりムラがあって、
誰をターゲットにしているのか意味不明の、
焦点が絞れていないような映画も多いように思います。

今回の作品もビジュアルは結構子供向けという感じなのに、
伏線を引いて最後の冥界巡りに至る物語は、
そう子供に分かりやすいようなものではないので、
何となくターゲット不明になってしまったような感じがあるのです。

そんな訳で個人的にはあまり乗れなかったのですが、
堺雅人と高畑充希の夫婦というのも、
なかなか悪くないアンサンブルで脇のメンバーも良く、
それなりに楽しめる作品には仕上がっていたように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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