血液のカフェイン濃度とパーキンソン病 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは今日まで休診です。
長いお休みを申し訳ありません。
ただ、体調は最悪で休めたという感じは、
まるでなく終わってしまったのが実際です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のカフェイン濃度とパーキンソン病との関連についての論文です。
順天堂大学などの研究チームによるもので、
一般紙などにも記事になっていました。
パーキンソン病は代表的な神経難病の1つですが、
以前よりコーヒーを沢山飲む人にはこの病気が少ない、
という疫学データが、
男性とホルモン補充療法をしていない女性では、
得られています。
この男女差については、
女性ホルモンのエストロゲンとカフェインが、
同じ肝臓の酵素を共用していることに、
その一因があると考えられています。
動物実験のレベルでは、
カフェインはパーキンソン病による、
神経細胞の変成を予防するような働きがあると報告されています。
カフェインの代謝産物についても、
神経毒性を弱めるような作用があると報告されています。
ただ、これは敢くまで動物実験レベルの知見です。
臨床的にはカフェインの使用は、
アデノシン2A受容体の阻害作用により、
パーキンソン病の運動症状を改善するという複数の報告があります。
ただ、それがカフェインそのものの作用であるのか、
それとも、その代謝産物を介した作用であるのか、
といった点については、
まだ明らかにはなっていません。
今回の研究では、
パーキンソン病の患者さん108名と、
年齢をマッチさせたコントロール31名に、
血液中のカフェインとその11種類の代謝産物を測定し、
その比較を行っています。
また、カフェインの代謝酵素の活性や、
パーキンソン病の症状とカフェイン濃度との関連についても、
同時に検証を行っています。
症例は全て順天堂医院の患者さんで、
既に治療を受けています。
カフェインは小腸から吸収されると、
その95パーセントが、
肝臓の代謝酵素CYP1A2による代謝を受けます。
その代謝産物の1つが、
気管支拡張薬として使用されるテオフィリンです。
今回の研究では、
代謝酵素の活性に関わる、
SNPと呼ばれる遺伝子変異を解析することで、
その関連を調べているのです。
その結果、
カフェインとテオフィリンを含む9種類の代謝産物の血液濃度は、
パーキンソン病群において、
コントロールと比較して有意に低下していました。
血液のカフェイン濃度は、
当然コーヒーやお茶などの摂取量の、
影響を受ける訳ですが、
今回の研究では、摂取量の簡単な調査を行い、
有意差がないので関連はない、
という結論になっています。
この点についてはこれで良いのかやや疑問です。
カフェイン濃度に代謝産物の濃度を併せて指標とすると、
非常に高い感度と特異度で、
パーキンソン病の診断が可能であることが確認されました。
(ROC曲線のAUC0.98 )
これはカフェイン単独では(AUC0.78)とそれほどではない、
というところが1つのポイントです。
パーキンソン病の重症度や運動障害の有無、
代謝酵素の活性に関わる遺伝子変異の有無と、
カフェインやその代謝物濃度との間には、
有意な関連は認められませんでした。
つまり、例数はそれほど多くはなく、
単独施設で治療中の患者さんのみでの検討、
と言う点はデータとしては少し弱いのですが、
数値としてはかなり明確に差が出ていて、
パーキンソン病の患者さんにおいては、
血液のカフェインとその代謝物の濃度が、
低いという現象のあることはほぼ間違いがなさそうです。
ただ、その原因がたとえば特定の代謝酵素の活性と、
関連が明確にあって、
その遺伝子座とパーキンソン病の関連遺伝子との間にも、
関連がありそう、というようなことがあれば、
臨床にも直結するより重要な知見と言えるのですが、
今回の検証では代謝酵素の活性との関連も明らかではなく、
パーキンソン病の重症度などとも無関係で、
カフェインの摂取量との関連もないのですから、
この現象の原因も臨床的な意義も、
全く不明であるということになります。
論文の考察においては、
カフェインの小腸からの吸収に、
パーキンソン病により差があるのではないか、
という考え方が示されていますが、
仮にそうであるとすれば、
カフェインの摂取量を一定にしたり、
極端に一定期間すくなくしたり多くしたりして、
その変化を見るなど、
より吸収や代謝の差に踏み込んだ検証が、
不可欠であるように思います。
また、遺伝子の変異での差を見るには、
今回の例数は如何にも少ないので、
今後大規模な遺伝子解析のデータを活用するなどして、
そのメカニズムに踏み込んだ解析も必要であるように思います。
そんな訳でまだこの知見が、
今度どのように利用可能であるのかは未知数なのですが、
現象自体は非常に興味深く、
今後より掘り下げた検証を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックは今日まで休診です。
長いお休みを申し訳ありません。
ただ、体調は最悪で休めたという感じは、
まるでなく終わってしまったのが実際です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のカフェイン濃度とパーキンソン病との関連についての論文です。
順天堂大学などの研究チームによるもので、
一般紙などにも記事になっていました。
パーキンソン病は代表的な神経難病の1つですが、
以前よりコーヒーを沢山飲む人にはこの病気が少ない、
という疫学データが、
男性とホルモン補充療法をしていない女性では、
得られています。
この男女差については、
女性ホルモンのエストロゲンとカフェインが、
同じ肝臓の酵素を共用していることに、
その一因があると考えられています。
動物実験のレベルでは、
カフェインはパーキンソン病による、
神経細胞の変成を予防するような働きがあると報告されています。
カフェインの代謝産物についても、
神経毒性を弱めるような作用があると報告されています。
ただ、これは敢くまで動物実験レベルの知見です。
臨床的にはカフェインの使用は、
アデノシン2A受容体の阻害作用により、
パーキンソン病の運動症状を改善するという複数の報告があります。
ただ、それがカフェインそのものの作用であるのか、
それとも、その代謝産物を介した作用であるのか、
といった点については、
まだ明らかにはなっていません。
今回の研究では、
パーキンソン病の患者さん108名と、
年齢をマッチさせたコントロール31名に、
血液中のカフェインとその11種類の代謝産物を測定し、
その比較を行っています。
また、カフェインの代謝酵素の活性や、
パーキンソン病の症状とカフェイン濃度との関連についても、
同時に検証を行っています。
症例は全て順天堂医院の患者さんで、
既に治療を受けています。
カフェインは小腸から吸収されると、
その95パーセントが、
肝臓の代謝酵素CYP1A2による代謝を受けます。
その代謝産物の1つが、
気管支拡張薬として使用されるテオフィリンです。
今回の研究では、
代謝酵素の活性に関わる、
SNPと呼ばれる遺伝子変異を解析することで、
その関連を調べているのです。
その結果、
カフェインとテオフィリンを含む9種類の代謝産物の血液濃度は、
パーキンソン病群において、
コントロールと比較して有意に低下していました。
血液のカフェイン濃度は、
当然コーヒーやお茶などの摂取量の、
影響を受ける訳ですが、
今回の研究では、摂取量の簡単な調査を行い、
有意差がないので関連はない、
という結論になっています。
この点についてはこれで良いのかやや疑問です。
カフェイン濃度に代謝産物の濃度を併せて指標とすると、
非常に高い感度と特異度で、
パーキンソン病の診断が可能であることが確認されました。
(ROC曲線のAUC0.98 )
これはカフェイン単独では(AUC0.78)とそれほどではない、
というところが1つのポイントです。
パーキンソン病の重症度や運動障害の有無、
代謝酵素の活性に関わる遺伝子変異の有無と、
カフェインやその代謝物濃度との間には、
有意な関連は認められませんでした。
つまり、例数はそれほど多くはなく、
単独施設で治療中の患者さんのみでの検討、
と言う点はデータとしては少し弱いのですが、
数値としてはかなり明確に差が出ていて、
パーキンソン病の患者さんにおいては、
血液のカフェインとその代謝物の濃度が、
低いという現象のあることはほぼ間違いがなさそうです。
ただ、その原因がたとえば特定の代謝酵素の活性と、
関連が明確にあって、
その遺伝子座とパーキンソン病の関連遺伝子との間にも、
関連がありそう、というようなことがあれば、
臨床にも直結するより重要な知見と言えるのですが、
今回の検証では代謝酵素の活性との関連も明らかではなく、
パーキンソン病の重症度などとも無関係で、
カフェインの摂取量との関連もないのですから、
この現象の原因も臨床的な意義も、
全く不明であるということになります。
論文の考察においては、
カフェインの小腸からの吸収に、
パーキンソン病により差があるのではないか、
という考え方が示されていますが、
仮にそうであるとすれば、
カフェインの摂取量を一定にしたり、
極端に一定期間すくなくしたり多くしたりして、
その変化を見るなど、
より吸収や代謝の差に踏み込んだ検証が、
不可欠であるように思います。
また、遺伝子の変異での差を見るには、
今回の例数は如何にも少ないので、
今後大規模な遺伝子解析のデータを活用するなどして、
そのメカニズムに踏み込んだ解析も必要であるように思います。
そんな訳でまだこの知見が、
今度どのように利用可能であるのかは未知数なのですが、
現象自体は非常に興味深く、
今後より掘り下げた検証を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。