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単純ヘルペスウイルス感染症と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業など事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘルペスウイルスと認知症リスク.jpg
Journal of Alzheimer's Disease誌に2024年2月付で掲載された、
非常に一般的なウイルスによる感染と、
認知症リスクとの関連についての論文です。

認知症のメカニズムには不明の点も多く、
ウイルス感染がそのリスクになるという報告も複数あります。

その中で報告の多いものの1つが、
単純ヘルペスウイルスの感染です。

たとえば、2008年の論文では、
急性の感染を示す単純ヘルペスウイルスのIgM抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが2.55倍増加した、
とするデータが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18982063/

また、2015年の別の論文では、
今度はIgG抗体が陽性であると、
アルツハイマー病のリスクが1.636倍増加した、
とするデータ報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25304990/

ただ、2008年の論文ではIgG抗体との関連はなかった、
という結果になっていますから、
データが必ずしも一致しているという訳ではありません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
70歳で認知症の兆候のないトータル1002名の一般住民を、
15年間という長期に渡り観察したものですが、
単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスの血清抗体価と、
認知症の発症との関連を検証しているものです。

サイトメガロウイルスというのはヘルペスウイルスの一種で、
抗体の陽性率も高いため、一緒に検証されています。
抗体はIgM抗体とIgG抗体が測定されていますが、
感染の急性期のみに上昇するのがIgM抗体で、
IgG抗体は感染後しばらくして上昇すると、
長期に渡り陽性となるので、
その感染の既往を表しています。

その結果、
累積のアルツハイマー病の罹患率は4%で、
全ての認知症の罹患率は7%でした。
全体の82%の対象者は単純ヘルペスウイルスのIgG抗体陽性で、
この抗体の陽性者は陰性者と比較して、
観察期間中に認知症を発症するリスクが、
2.26倍(95%CI:1.08から4.72)有意に増加していました。
アルツハイマー病単独のリスクも、
2.24倍(95%CI:0.79から6.33)増加する傾向は示しましたが、
統計的に有意ではありませんでした。

一方で単純ヘルペスのIgM抗体とサイトメガロウイルスIgG抗体の陽性率、
単純ヘルペスウイルス感染症の治療の有無、
単純毛ヘルペスとサイトメガロウイルスの抗体価については、
認知症のリスクと明確な関連を示していませんでした。

このように、
今回の検証においては、
トータルな認知症リスクと、
単純ヘルペスの抗体陽性(その既往あり)との間には、
一定の関連が認められた一方で、
アルツハイマー病との間では、
有意な関連は認められませんでした。

この結果はかなり微妙なもので、
データを見るとその信頼区間は非常に大きく、
認知症とアルツハイマー病との間に、
それほどの差はないようにも思えます。

単純ヘルペス感染症の既往と、
その後の認知症の発症との間には、
一定の関連のあること自体は事実と言って良さそうですが、
その解釈やアルツハイマー病との関連などについては、
まだ今後の検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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