イキウメ「外の道」(前川知大新作) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日はは趣味の話題です。
今日はこちら。
独特の難解で哲学的な世界を得意とするイキウメの新作が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。
これはかなり重く終末観に満ちた作品で、
タルコフスキーの「サクリファイス」辺りに似た雰囲気です。
とても美しく、
ラストの描写なども、
あまりこれまでの演劇にない意欲的なものですが、
ちょっとしんどい観劇体験で、
体調のせいもあり、
少し集中の維持には苦労しました。
幼なじみの中年の男女が、
同じ町に暮していて出逢うのが発端で、
そのうちの1人は手品をきっかけとして、
世界の見え方が変わってしまい、
仕事も首になって妻とも別れてしまいますし、
もう1人は闇が世界を侵食するのが見えるようになり、
自分の家族はおろか、自分という存在すら、
見失うようになってしまいます。
ラストは照明と音響の効果によって、
舞台と客席が闇に覆われ、
2人の妄想だけにより世界が再生されることが暗示されて終わります。
舞台はカフェのような待合室のような病院のような謎の空間で、
そこにキャスト全員が集合し、
1時間55分程度の上演時間中、
キャストは一度も舞台を離れることはありません。
外からは獣のような咆哮が響いたりもして、
説明のされない不気味さが漂います。
これはまあ、前川さんのいつもの演出ではあるのですね。
スタイリッシュで抽象的な感じ。
台詞は回想が多いので、
舞台上の時制がどうなのか、
台詞と動きとがどのように連携しているのかが、
特に初見の人には分かりにくいと思います。
僕は正直こうした演出は苦手です。
勿論こうした演出が、
効果的なお芝居というのもあると思うのですね。
それは多分台詞による情景の喚起力が高いというか、
生活に密着したリアルな表現が取られている場合ですね。
たとえば、つかこうへいさんの昔の事務所時代のお芝居は、
殆ど素舞台で上演されるんですね。
それでも生々しい実感があるのは、
台詞に具体性が強くて、
人物だけで観客のイメージが喚起されるからなんですね。
野田秀樹さんのお芝居は、
キャストが全員舞台上に並んでいたり、
セットがただの紙だったりと、
一見抽象性が強いのですが、
台詞は具象的で昔の偉人やピーターパンなど、
登場人物も具体的で、
その衣装などにも遊びはないので、
矢張りセットの抽象性が邪魔にならないのばかりか、
むしろ観客の創造力を刺激する、
というメリットがある訳です。
前川さんのお芝居は、
地方都市などを舞台にして、
その日常の中に異界への扉が開き、
現実が異界に吞み込まれる、
というような設定が定番で、
それを活かすためには、
最初の現実の描写は、
もっとリアルで具象的であった方が、
異界の扉が開いた以降との落差を、
感じやすいように思うんですね。
それが今回のような演出では、
最初から様式的で、得体の知れない待合室のような、
カフェのような空間が出現するので、
「ここは何だろう?」とどうしても思ってしまうでしょ。
そうしたらね、
その場所が具体的に何であるか、
示されないといけないと思うんですね。
でも、結局示されないんですよ。
それはそこが具体的な何かではなくて、
象徴的な場所であるからですね。
でも、それじゃまずいのではないかなあ。
作品の現実感を、大きく削いてしまう結果になるからです。
演技プランとしてもね、
1人の人物の台詞を、
途中で別の人物が引き継いで話したりするんですよね。
このお話でそんなことしちゃ駄目だよね。
どうしてこんな風に、
自分で書いた作品の現実感を、
削ぐような演出をするのか理解が出来ません。
勿論前川さんは凡人及ばぬ天才だと思うので、
そこには天才の理屈があるのだとは推察するのですが、
この作品の活かし方という点で考えると、
今回は失敗であったように思いました。
内容的にもどうなのかしら。
2人の人物の現実感が、
別の形で喪失されてゆくのですが、
それが上手くリンクして、
現実の崩壊に繋がってゆくというロジックが、
上手く機能していないような感じがしました。
ただ、そこもおそらく天才の理屈があるのだと思うので、
現時点では僕には分からなかったのですが、
また再演などの機会に観直せば、
なるほど、と膝を打つような感じになるのかも知れません。
そんな訳で期待して行ったのですが、
ちょっとモヤモヤした感じで劇場を後にしました。
それでも分からないなりにイキウメと前川さんは好きなので、
今後もその舞台には足を運びたいと思います。
最後は規制退場でしたが、
カオスはありませんでした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日はは趣味の話題です。
今日はこちら。
独特の難解で哲学的な世界を得意とするイキウメの新作が、
今三軒茶屋のシアタートラムで上演されています。
これはかなり重く終末観に満ちた作品で、
タルコフスキーの「サクリファイス」辺りに似た雰囲気です。
とても美しく、
ラストの描写なども、
あまりこれまでの演劇にない意欲的なものですが、
ちょっとしんどい観劇体験で、
体調のせいもあり、
少し集中の維持には苦労しました。
幼なじみの中年の男女が、
同じ町に暮していて出逢うのが発端で、
そのうちの1人は手品をきっかけとして、
世界の見え方が変わってしまい、
仕事も首になって妻とも別れてしまいますし、
もう1人は闇が世界を侵食するのが見えるようになり、
自分の家族はおろか、自分という存在すら、
見失うようになってしまいます。
ラストは照明と音響の効果によって、
舞台と客席が闇に覆われ、
2人の妄想だけにより世界が再生されることが暗示されて終わります。
舞台はカフェのような待合室のような病院のような謎の空間で、
そこにキャスト全員が集合し、
1時間55分程度の上演時間中、
キャストは一度も舞台を離れることはありません。
外からは獣のような咆哮が響いたりもして、
説明のされない不気味さが漂います。
これはまあ、前川さんのいつもの演出ではあるのですね。
スタイリッシュで抽象的な感じ。
台詞は回想が多いので、
舞台上の時制がどうなのか、
台詞と動きとがどのように連携しているのかが、
特に初見の人には分かりにくいと思います。
僕は正直こうした演出は苦手です。
勿論こうした演出が、
効果的なお芝居というのもあると思うのですね。
それは多分台詞による情景の喚起力が高いというか、
生活に密着したリアルな表現が取られている場合ですね。
たとえば、つかこうへいさんの昔の事務所時代のお芝居は、
殆ど素舞台で上演されるんですね。
それでも生々しい実感があるのは、
台詞に具体性が強くて、
人物だけで観客のイメージが喚起されるからなんですね。
野田秀樹さんのお芝居は、
キャストが全員舞台上に並んでいたり、
セットがただの紙だったりと、
一見抽象性が強いのですが、
台詞は具象的で昔の偉人やピーターパンなど、
登場人物も具体的で、
その衣装などにも遊びはないので、
矢張りセットの抽象性が邪魔にならないのばかりか、
むしろ観客の創造力を刺激する、
というメリットがある訳です。
前川さんのお芝居は、
地方都市などを舞台にして、
その日常の中に異界への扉が開き、
現実が異界に吞み込まれる、
というような設定が定番で、
それを活かすためには、
最初の現実の描写は、
もっとリアルで具象的であった方が、
異界の扉が開いた以降との落差を、
感じやすいように思うんですね。
それが今回のような演出では、
最初から様式的で、得体の知れない待合室のような、
カフェのような空間が出現するので、
「ここは何だろう?」とどうしても思ってしまうでしょ。
そうしたらね、
その場所が具体的に何であるか、
示されないといけないと思うんですね。
でも、結局示されないんですよ。
それはそこが具体的な何かではなくて、
象徴的な場所であるからですね。
でも、それじゃまずいのではないかなあ。
作品の現実感を、大きく削いてしまう結果になるからです。
演技プランとしてもね、
1人の人物の台詞を、
途中で別の人物が引き継いで話したりするんですよね。
このお話でそんなことしちゃ駄目だよね。
どうしてこんな風に、
自分で書いた作品の現実感を、
削ぐような演出をするのか理解が出来ません。
勿論前川さんは凡人及ばぬ天才だと思うので、
そこには天才の理屈があるのだとは推察するのですが、
この作品の活かし方という点で考えると、
今回は失敗であったように思いました。
内容的にもどうなのかしら。
2人の人物の現実感が、
別の形で喪失されてゆくのですが、
それが上手くリンクして、
現実の崩壊に繋がってゆくというロジックが、
上手く機能していないような感じがしました。
ただ、そこもおそらく天才の理屈があるのだと思うので、
現時点では僕には分からなかったのですが、
また再演などの機会に観直せば、
なるほど、と膝を打つような感じになるのかも知れません。
そんな訳で期待して行ったのですが、
ちょっとモヤモヤした感じで劇場を後にしました。
それでも分からないなりにイキウメと前川さんは好きなので、
今後もその舞台には足を運びたいと思います。
最後は規制退場でしたが、
カオスはありませんでした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2021-06-19 06:09
nice!(3)
コメント(0)
コメント 0