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ため息とそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ため息のメカニズム.jpg
2016年のNature誌に掲載された、
ため息のメカニズムを解明した論文です。

ため息というのは特殊なパターンを持つ、
深くて大きな単発的呼吸のことですが、
自覚的には緊張の緩んだ時や退屈な時、
悲しみに心が乱れた時などに出るという特徴があります。

ただ、こうした時のみにため息は出ている訳ではなく、
哺乳動物では定期的に、
このタイプの呼吸が通常の呼吸の合間に、
出現していることが知られています。

その頻度は人間で1時間に12回(5分に1回)くらいで、
ネズミでは1時間に40回くらいです。

ため息は通常の呼吸と比較して、
どのような特徴があるのでしょうか?

実はため息をすることにより、
縮んだ肺胞が拡張し、
呼吸機能が改善することが確認されています。
通常の呼吸のみを継続していると、
徐々に肺胞が縮んで、
呼吸機能は低下してしまいます。
それをリセットして肺胞に空気を送り込むような働きが、
ため息タイプの呼吸にはあるのです。
このために哺乳動物は定期的に、
ため息を吐いているのです。

ため息はそのために、
低酸素状態で呼吸機能が低下すると、
それに伴って刺激されその数が増加します。

何故感情的に落ち込んだときや悲しい時、
緊張が取れてほっとした時などに、
このため息が起こるのかは明確には分かっていません。

一種のリラクゼーションの効果があるのでは、
というような推測は可能ですが、
それが習慣化したことの原因は、
自律神経のバランスが元に戻る、など、
もっともらしい説明はあるものの、
特に実証されたようなものではないようです。

上記論文はそれまで詳細が不明であった、
脳におけるため息の発生メカニズムを、
ネズミの実験で明らかにしたもので、
脳の髄質に存在している2種類の小さな神経細胞群が、
プレベツィンガー複合体と呼ばれている呼吸リズムの中枢と、
関連するネットワークを形成していて、
その2種類の細胞群から呼吸リズム中枢への信号が遮断されると、
1種類の遮断によりため息の回数が減少し、
2種類の遮断により完全にため息が消失する、
ということが実験的に確認されました。

ただ、この2つの神経細胞群からの信号が遮断されても、
通常の呼吸自体のリズムには、
特に変化は見られませんでした。

このように通常の呼吸リズムを作る中枢があり、
そこにため息を差し挟むためのボタンのような仕組みが存在していて、
おそらく感情の変化がその部位を刺激するために、
低酸素など本来の目的以外でも、
ため息のシステムが作動して、
ため息が起こるという可能性が示唆されました。

現時点で感情とため息との正確な関連は、
まだ明らかではありませんし、
これは敢くまで動物実験に留まるものですが、
ため息のメカニズムが明確になった意義は大きく、
今後の研究の進歩にも期待したいと思います。

今日はとても不思議な、
ため息のメカニズムについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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