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バセドウ病の新規再発マーカーについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バセドウ病の再発マーカー.jpg
今年のThyroid誌に掲載された、
バセドウ病の再発マーカーについての論文です。

隈病院と伊藤病院という日本を代表する甲状腺の専門病院と、
東京医科歯科大学と群馬大学という、
2つの大学病院との共同研究です。

バセドウ病は甲状腺機能亢進症を呈する、
代表的な自己免疫疾患ですが、
その治療についてはまだ確立されていないのが現状です。

治療法は抗甲状腺剤の内服と手術と放射線治療がありますが、
それぞれ一長一短があり、
患者さんにとってベスト、という方法がありません。

日本では海外と比べて抗甲状腺剤による内服の治療が、
選択されるケースが多く、
それも長期間漫然と継続されることが多いという特徴があります。
欧米のガイドラインにおいては、
1年半から2年程度の期間で内服を終了することが困難であれば、
手術もしくは放射線ヨードの治療にスイッチすることが推奨されていますが、
日本では場合によって10年以上抗甲状腺剤が継続されていたり、
一度は治療を終了しても、
再発を繰り返してその都度内服による治療が再開される、
というようなケースが、
実際には稀ではありません。

問題は再発をしやすい患者さんが、
明らかに存在しているのですが、
それを簡単に見分ける方法がないことと、
抗甲状腺剤による治療を終了する目安となる指標が、
あまり明確ではない点にあります。

一応極少量の抗甲状腺剤
(チアマゾールを隔日で5ミリが一応の目安)を、
半年間持続して甲状腺機能に動きがない場合に、
中止を考慮すると、
「バセドウ病治療ガイドライン2011」には記載をされていますが、
その根拠は1つの論文があるだけで、
それほど明確なものとは言えません。

今回の論文においては、
自己免疫疾患の重症度のマーカーとして注目をされている、
シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン1(SIGLEC1)遺伝子の発現量を、
バセドウ病の患者さんで測定し、
そのバセドウ病の再発のし易さとの関連を、
比較検証しています。

こちらをご覧ください。
SIGLEC1の再発マーカーとしての差.jpg
これはSIGLEC1遺伝子の発現量や血液濃度を、
バセドウ病の治療成功群と再発群とで比較したものですが、
治療後に再発した患者さんにおいては、
SIGLEC1遺伝子のリンパ球での発現量が、
治療成功群と比較して有意に増加していました。

ただ、この図でも分かるように、
数値にはかなりばらつきがあり、
明確に2つに分かれているようには見えません。

そこで統計的にどのくらいの数値を基準とするのが、
最も再発のしやすさのマーカーとなるかを計算したところ、
SIGLEC1遺伝子の発現量が258.9コピー以上を基準値として、
それ以上の場合をマーカー陽性とするのが、
最も再発のしやすさを予測出来る、
という結果が得られました。

こちらをご覧ください。
マーカーによる再発予測の図.jpg
右のグラフのTRAbというのは、
TSH受容体抗体と呼ばれる自己抗体で、
バセドウ病の重症度の指標として広く使用されているものです。

この数値が正常化することが、
これまで抗甲状腺剤による治療の終了の、
1つの重要な目安とされていましたが、
右のグラフでお分かりのように、
治療中止の時点でのTRAbが正常であっても異常であっても、
あまりその後の再発のし易さには、
影響をしていません。

一方で左のグラフは、
SIGLEC1遺伝子の発現量が、
258.9コピー以上であるか未満であるかで、
治療後の再発率を比較したものですが、
例数はトータルで55名ですからそれほど多くはないものの、
SIGLEC1遺伝子の発現量が少ないと、
明確にその後の再発が少ないことが分かります。

実際には再発した患者さんの9割はSIGLEC1の発現量が基準値以上で、
SIGLEC1はTRAbとは異なり、
治療経過の中であまり変動をしていないので、
治療開始の時点でこの遺伝子の発現量が多ければ、
再発のリスクは高そうだ、
ということは言えそうです。

ただ、治療後再発のない患者さんでも、
半数ではSIGLEC1遺伝子の発現量は基準値を超えていますから、
そうした患者さんでも抗甲状腺剤による治療が無効、
とまでは言い切れず、
実際にはこの指標だけで治療の中止を決定したり、
治療の選択に使用することは困難であるようにも思います。

このマーカーが本当にバセドウ病の治療において、
福音となるようなものであるのかはまだ分かりませんが、
バセドウ病の再発の基準となるような検査指標が、
殆どなかった現状を考えれば、
大きなトピックの1つであることは間違いがなく、
今後の研究の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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