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PFAPA症候群の話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
PFAPA症候群のまとめ.jpg
1999年のJournal of Pediatrics詩に掲載された、
PFAPA症候群という聞き慣れない病気の総説的なものです。

これは比較的最近経験しましたので、
それで調べてみたものです。

古い論文ですが,
これが一番まとまっていて、
その後も文献はあるのですが、
それほど新しい知見と言えるものは、
あまりないようです。

まず事例をお話します。

症例は5歳の男児で、
前日からの40度の高熱で受診をされました。

咳や鼻水などの症状はなく、
夕方までは元気でいて突然の高熱という経過です。
診察をすると扁桃腺炎の所見で、
唇の後ろには口内炎も出来ていました。

それで溶連菌の迅速試験をすると、
結果は陰性であったので、
抗生物質は使用せずに経過を見たのですが、
発熱は4日間持続してようやく下がりました。

通常のウイルス性の扁桃炎の経過と思われました。

ところが…

その1か月半くらい後で、
再びそのお子さんは高熱のため受診をされました。
矢張り40度を超える高熱で、
扁桃炎があり、
今回は口内炎はありませんでした。
頸部のリンパ腺は腫れていて痛みがあります。
溶連菌抗原を検査したところ今回は陽性であったので、
溶連菌感染症と考え抗生物質を使用しました。
発熱は3日ほどで改善しました。

その後しばらくその患者さんは受診をされなかったのですが、
半年後くらいにまた高熱で受診をされました。

矢張り同じように扁桃炎で、
他の症状はあまりありません。

お話をお聞きすると、
その間にも何度か同様の症状があり、
別のクリニックを受診されて、
抗生物質をその度に使用していた、
ということでした。

お薬手帳を見てその間隔を確認すると、
矢張りほぼ1か月半くらいの間隔になっています。

この周期的な発熱と扁桃炎の原因は何なのでしょうか?

これがPFAPA症候群です。

PFAPAというのは、
periodic fever(周期的発熱)、aphthous stomatitis(アフタ性口内炎)、
pharyngitis(咽頭炎)、cervical adenitis(頸部リンパ節炎)、
の略です。

扁桃炎や咽頭炎を繰り返すことは、
お子さんでは比較的よくあることなので、
何となく見過ごしがちですが、
その中で特徴的な症状を持つ一群を、
これは何か違う現象を見ているのではないか、
と考えてこうした概念が提唱されたのです。

最初の報告は1987年で、
3から6日持続する39度を超える発熱が、
3から8週間毎に繰り返し、
アフタ性口内炎と咽頭炎、
そして頸部リンパ節炎を伴った、
12人のお子さんの報告でした。
それが1989年に再度報告され、
そこで初めてPFAPA症候群という名称が使用されました。

上記論文においては、
1989年の論文を増補する形で、
94名のお子さんの症状を解析、
そのうちの83名は電話インタビューの形で長期の経過を観察し、
この症候群の自然経過をほぼ明らかにしています。
平均の観察期間は3.3年で、
1か月から9.4年の観察が行われています。

それによると、
特徴的な周期的発熱は、
平均年齢で2.8歳(95%CI; 2.4から3.3)から始まっています。
個々の発熱の持続期間は4.8日(95%CI; 4.5から5.1)、
発熱のピークはほぼ全例で40度を超えています。
38.3度を超える発熱の持続期間は3.8日(95%CI;3.5から4.1)、
一旦熱が治まってから次の発熱までの期間は、
28.2日(95%CI; 26.0から30.4)となっています。

経過観察を行なった83名中34名では1年以上発熱発作がなく、
寛解したものと思われました。
観察開始時の平均年齢は8.9歳で、
寛解した患者さんは平均で4.5年で発作がなくなっています。

このデータの範囲では、
全ての事例がいずれ良くなるとは言い切れないのですが、
最近書かれた資料には、
この症候群は5歳未満で発症し、
10歳までに症状は消失する、
というような記載になっています。

この症候群はおそらく免疫の何等かの異常をベースとして、
発症するものと思われますが、
サイトカインの増加などの報告はあるものの、
ある意味高熱が出ているのだから当たり前とも言えますし、
特徴的な免疫異常の詳細は明らかにはなっていません。
殆どの事例には遺伝性はないとされていますが、
一方で特定の遺伝子がある程度関与しているのでは、
というような報告も散見はされます。

治療は高熱時の対処療法としてはステロイドが著効し、
上記文献ではプレドニゾロンを体重1キロ当たり1から2ミリグラム、
日本語の解説では概ね0.5から1ミリグラム、
単回から数回使用します。
それ以外の対処療法として、
胃薬であるシメチジンを
上記文献の記載では1日300ミリグラムで半年間、
日本の文献では体重1キロ当たり20から40ミリグラム、
使用継続することで熱発作がなくなるケースがある、
という報告があります。

ステロイドは一時的に症状を抑えるだけで、
著効するものの、
再発を予防するような効果はなく、
むしろ再発の間隔は短くなることが多い、
と考えられていますが、
シメチジンが著効した事例では、
それをきっかけとして症状は消失しています。

ただ、おそらくヒスタミンの抑制による、
免疫の調整作用によるものと推測はされていますが、
その正確なメカニズムは不明です。
それにしてもシメチジンというのは、
花粉症や癌、肩関節の石灰化など、
多様な病態への効果が報告されている、
本当に不思議な薬です。

薬でコントロールが困難な場合に、
検討されるのが扁桃切除の手術です。
扁桃腺が腫大していて頻回に発熱があれば、
この病気を疑わなくても扁桃腺の手術が考慮されますから、
その区別は難しいところがあるように思いますが、
術後には症状は消失するケースが多いと報告されています。

それでは今日のまとめです。

5歳未満で発症し、
40度を超えるような発熱が、
数日の経過で周期的に繰り返される、
PFAPA症候群という病気があります。
咽頭炎やアフタ性口内炎、頸部リンパ節炎を伴うことが多く、
抗生物質は無効で、
ステロイドが著効するという特徴があります。
一種の免疫異常の可能性が高く、
そもままでも概ね10歳までには症状は消失します。
周期的な扁桃炎で原因不明のような場合には、
この病気のことを頭に浮かべる必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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