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妊娠と甲状腺についての話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日、診療所で甲状腺の検査をして、
「橋本病」と診断した方から電話があり、
「妊娠の可能性があるのですが、
何に気を付ければいいのでしょうか?」
というご質問でした。

一応お答えはしたのですが、
電話でのことでもあり、
ちょっと不充分な内容だったような気がします。

それで、今日はちょっとその辺の話をまとめます。

のどの中央に指を当て、
そのまま皮膚に触れつつ下に下ろすと、
咽喉仏の下の位置に、
少し柔らかい盛り上がりがあります。
これが甲状腺の上の端で、
その位置から左右に、
丁度一羽の蝶が羽を左右に伸ばしたような形状で、
広がる腺組織が、甲状腺です。

この甲状腺は、
甲状腺ホルモンというホルモンを出します。
このホルモンは成長を促し、
熱を産生し、血を造り、交感神経の働きや、
呼吸の働きを刺激します。
要するに、人間の成長には、
適正な量の甲状腺ホルモンが必要で、
大人になると、その「活発さ」の維持に、
このホルモンが必要です。

甲状腺のホルモンが異常になる、
代表的な病気と言えば、
「バセドウ病」と「橋本病」です。
この2つの病気は、
いずれも自己免疫と言って、
甲状腺に対する、異常な抗体が身体で出来るのが、
その原因だとされています。

一般的に「バセドウ病」では甲状腺のホルモンは、
出過ぎることが多く、
「橋本病」では逆に、
足りなくなることが多いのですが、
それには例外もあります。

では、妊娠の時にはホルモンはどうなるのでしょうか?

一般に言って、自己免疫の病気は、
妊娠中には改善することが殆どです。
妊娠というのは、身体がお子さんという「異物」を、
生み育てる、ということですから、
その「異物」を攻撃しないように、
身体はその免疫の働きを、
少し弱めるのです。
自己免疫というのは、言ってみれば異常な免疫反応ですから、
正常であれ異常であれ、
免疫が抑えられた状態では、
自己免疫の病気はその症状を弱めるのです。

従って、妊娠した当初のホルモンの数値が、
治療の如何に関わらず安定していれば、
それが妊娠中に悪化することは少ないので、
心配なく妊娠を継続して支障はないのです。
これは「バセドウ病」でも「橋本病」でも、
基本的に変わりはありません。

ご質問のあった方は、
甲状腺のホルモンの数値自体は正常範囲で、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が5程度に上昇していました。
TSHが上がっているのは、
甲状腺が刺激されているからで、
そのことは、甲状腺の働きが、
やや落ち気味であることを示しています。
ただ、状態は極軽度なので、
ホルモン剤を使用する必要は、
ないと考えました。

ただ、勿論少量のホルモン剤を使用する、
という考えもあり、特に妊娠中でも害はないので、
使用するという考えも間違いではないのです。

妊娠中は甲状腺ホルモンが、
普段より多く必要になる場合はあり、
その意味では、少量のホルモン剤を使用していた方が、
安全策かも知れません。

それでは、お子さんへの影響はどうでしょうか?

お母さんとお子さんとを結んでいるのは、
胎盤ですが、甲状腺ホルモン自体は、
この胎盤を殆ど通過しません。
また甲状腺を刺激する甲状腺刺激ホルモンは、
全く胎盤を通過しません。

従って、お母さんとお子さんの甲状腺機能は、
妊娠中には直接の関係はないのです。

ただ、胎盤を通過するものが幾つかあります。

それはバセドウ病の治療に使う抗甲状腺剤という薬と、
バセドウ病の原因である異常な抗体です。
従って、バセドウ病の場合には、
お子さんの甲状腺機能と、
お母さんの甲状腺機能は、
全く同じではないにしても、
ほぼ並行して動きます。

つまり、お母さんを治療して、甲状腺の働きを正常にすることで、
その身体の中のお子さんの甲状腺機能も、
同時に治療する意味合いがあるのです。

橋本病の場合には、
甲状腺ホルモンが不足さえしなければ、
お子さんに影響が出ることはありません。
高度の不足がある場合には、
流産が高率に起こるというデータがあります。

従って、ホルモン値が低い場合には、
ホルモンの補充が必要となるのです。

甲状腺の病気は、妊娠されるご年齢の女性に多いので、
ご妊娠の初期には、一度は甲状腺のホルモンを、
測っておかれることをお勧めします。

今日は甲状腺の病気と妊娠との関係についての話でした

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

midori

お疲れ様です.
本日も,わかりやすい解説を有難うございました.
私の母が「橋本」気味なので,私も年に1回程度検診を受けろと言われているのですが,調子が悪くなければ忙しさにかまけてなかなか...何年も検査していないから,そろそろ行かないと,とは思っていますが.
by midori (2010-01-29 09:37) 

tanico

私も、いつかそんな時がきたら、伺おうと思っていたことでした。
橋本病だと、流産の確立が高くなると書かれてあるのをよく見ますが、そういう理由だったのですね。
ほんとに、いつも明解にご説明してくださって、ありがたいです。
by tanico (2010-01-29 10:44) 

ichi

いつも参考になるお話をありがとうございます。
RSSさせて頂きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
by ichi (2010-01-29 12:14) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。

多分心配ないとは思いますが、
一応甲状腺機能は測っておくことを、
お勧めします。
by fujiki (2010-01-30 06:24) 

fujiki

tanico さんへ
コメントありがとうございます。

流産は機能低下によるもので、
橋本病そのものの影響ではないようです。
橋本病のある方で、
特にお子さんの甲状腺機能に、
異常はない、というデータもあります。
by fujiki (2010-01-30 06:26) 

fujiki

ichi さんへ
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-01-30 06:27) 

まみしゃん

私は20歳で橋本病と診断されました。

振り返ってみると、20年前・・・息子がお腹にいた期間が人生でいちばん体調がよかったように思います。

出産後、橋本病が悪化するかもと危惧されましたが思ったほどでもなく薬が少し増量になったのがその時だったように記憶しています。

私の母は、私が診断を受けたドクターに家族間遺伝(母と娘)の確率が高いから検査するようにいわれて、私のあとに橋本病と診断されました。

私の現在の主治医も、最初に診ていただいた時に母と娘では90%の確率で遺伝すると言われましたが、母の知り合いでは遺伝しなかったかたもいます。

現在では、違う見解が出されているのかもしれませんが・・・

更年期といわれる年頃になって、甲状腺疾患が発見され友人から相談を受けることも多くなってきました。

やはり、妊娠・出産と同じく女性ホルモンと関係があるのでしょうか?

長くなってしまい、申し訳ありません。
by まみしゃん (2010-01-30 14:13) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

ちょっと難しい質問ばかりで即答出来ません。
また少し調べます。
これからもよろしくお願いします。





by fujiki (2010-01-30 22:36) 

ともこころ

突然のご質問お許しください。

5年ほど前に健診で喉に2センチほどのしこりが見つかり、生検をしたところ良性で、TSH値も高いとのことで、橋本病と言われました。
そして、2年前に母の甲状腺癌が発覚し手術で除去しました。その病院は甲状腺で有名だというので、母に連れて行かれ診察を受けると、上記と同じことを言われたのですが、今年の夏に、良性であってもしこりが大きいので、手術して除去する方が良いとのことです。
確かに、喉に違和感はあり倦怠感も強く、声を出すのが辛いときがあります。鈍い痛みのような感覚もあり、手術で改善されるのであれば行おうかと考えています。
しかし一方で、医療の実態を知らない私は不安を感じております。

是非、先生のご意見お聞かせください。

PS. この喉の違和感に痛み止めを飲んでも差し支えはないでしょうか? 又、一度先生に診察して頂きたいのですが、1~2日の東京滞在でも大丈夫でしょうか?



by ともこころ (2010-02-11 03:45) 

fujiki

ともこころさんへ
一般論では2センチ程度のしこりで、
組織が良性であるなら、
経過を見ても大きな問題はないと思います。
TSHが上昇していると、
しこりに対しても刺激になることがあるので、
通常はTSHが感度以下になるように、
甲状腺ホルモンを飲んで様子を見るのが、
良いのではないかと思います。
それで、自然にしこりが小さくなるケースもあります。

倦怠感や痛みは、
しこり自体の症状ではない、と思います。
声が出し辛いのも、通常はしこりのせいではないと思います。

ただ、手術を勧められたのは、
どちらかと言えば、
しこりに気になる点があり、
今後癌化するリスクがある程度ある、
という判断からではないかと推察します。

主治医の先生には、
まず「もう少し様子を見てもいいか?」
と訊き、
「早い方がいい」というお返事でしたら、
その理由を良く聞いて頂いた方が良い、
と僕は思います。

手術で症状が良くなる、と考えて手術をするのは、
おそらく誤りで、手術をしても、
症状には変わりはないと思います。
問題は将来のリスクをどの程度に考えるかで、
説明に納得がいけば、
手術をされること自体には、
問題はないと思います。
甲状腺手術の経験の豊富な病院であれば、
手術自体のリスクは、
それほど高いものではないと思います。
逆に症例数の少ない病院で、
手術をするのは禁物です。

勿論診察とエコーで、
診させて頂くことは、
全然差し支えはありません。
1日で済みます。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-02-11 16:52) 

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