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結核菌の免疫の不思議 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

結核の診断の話を書こうと思っていたら、
丁度芸能人の結核感染の話が報道されました。

報道のアウトラインを見ると、
昨年の12月頃から咳などの症状があったのですが、
それほど重症ではなかったので、
医者には行かず様子を見ていたようです。
今月の初めになって、
体調不良のため医療機関を受診し、
肺結核と診断。
「排菌」もしている状態であったために、
入院治療の方針となったようです。

接触した方はかなりの人数に上ると思われるので、
結構深刻な事態ではあります。

結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による感染症です。

結核菌の感染には、他の感染症にあまり見られない、
幾つかの特殊性があります。

その1つ目は、人間の免疫に抵抗する、
菌の性質としての特殊性です。

通常人間の身体の中に、
人間にとって害のある病原体が侵入し、
活動しようとすると、
それを除去するための免疫のシステムが強力に始動。
その最前線で活躍するのが、
白血球の1種のマクロファージという細胞です。
人間の身体の防衛システムにとっては、
頼もしい戦闘隊長の役割です。
巨大な身体で病原体をガバッと丸呑みにし、
自分の身体の中で殺して溶かしてしまいます。
通常の病原体は、その強力な殺菌力に、
抵抗することは出来ません。

ところが…

結核菌はその例外で、
マクロファージに呑み込まれても、
その体内で生き続け、
その力は衰えはするものの、
死ぬことはありません。
そればかりか、マクロファージの中で、
増殖しようとします。

困ったマクロファージ戦闘隊長は、
自らの命と引き換えに、
結核菌を殺そうとします。
マクロファージ戦闘隊長は自殺するのです。
しかし、恐るべきことに、
その死体の中でも、
矢張り結核菌は力は失ったものの、
死んではいません。
人間の身体は、
インターフェロンγやTNFαといった、
強力な武器を使って、
この恐るべき敵に攻撃を加え続け、
マクロファージ隊長の死体を焼いて固めると、
その死体の中に、結核菌を封印します。
その死体の塊のことを、
肉芽腫と言います。

人間の攻撃部隊は、不死身のラスボスのような怪物、
結核菌大魔王を、肉芽腫という檻の中に封印したのです。

ファンタジーか特撮ドラマみたいな話ですよね。
と言うか、そうしたドラマはある程度、
こうした現実を参考に作られている訳です。

そして、10年以上の月日が流れます。

細胞君たちの世代も変わり、
もう直接結核菌大魔王と戦った世代は、
死に絶えています。
肉芽腫の城は、
肺の中に不気味に聳え立っていますが、
その中にあるものの正体を、
大半の細胞君は伝説としてしか知りません。

インターフェロンγ光線や、
TNFα光線は、
その城に今も降り注いではいますが、
「そんなことをしなくたって、
大丈夫なんじゃないの。
10年以上も何もなかったのに、
これから何か起こる訳がないじゃん。
防衛費の無駄遣いだよ」
という意見もあります。

ところが…

ある日突如として封印が破られ、
肉芽腫の城から、結核菌大魔王が復活します。

何故そんなことが起こったのでしょうか?

実は、この人間は他の病気で体力が落ち、
ステロイドという薬を使ったのです。

ステロイドは免疫を強力に抑える薬です。
この薬の影響により、
インターフェロンγやTNFαは低下し、
結核菌大魔王を封じ込めていた結界が破られてしまった、
という訳です。
ステロイド以外にも、
インターフェロンγやTNFαを低下させる全てのものが、
結核菌魔王の復活の原因となります。
エイズしかり、抗リウマチ薬しかりです。

すいません。
勢いでやや悪ふざけ的な書き方になりましたが、
結核というあなどれない病気を、
茶化すような意味合いは毛頭ありませんので、
どうかご容赦下さい。

以上をまとめて、
結核菌が人間の体内に侵入した後の経過を、
おさらいするとこうなります。

結核菌は空気に乗って、
のどから侵入します。
ただ、気道の繊毛上皮というのが、
結構な優れもので、結核菌をバリアーのように、
弾いてくれるので、
通常感染が成立するのは、
30パーセント程度に過ぎません。
(もっと少ないとする報告もあります)

その30パーセントのうち9割以上では、
上にあるような免疫反応が起こり、
通常は目に見えるような症状の出ることはありません。
リンパ腺がちょっと腫れて、
肉芽腫が作られ、菌が封印されて、
それでおしまいです。
(これを感染はしたけれど、発病はしていない、
という言い方をします)
初感染で結核の症状の出るのは、
全体の5パーセント程度です。
熱が出て、肺に水が溜まったりします。
これが、所謂一次結核です。
この一次結核は、通常は周りに感染はしません。

結核の2つ目の特殊性は、
二次結核のあることです。
免疫は作られるのですが、
その免疫というのは、
たとえば麻疹のように、
一度罹れば二度は罹らない、
というようなものとは違うのです。
人間の免疫の力では、
結核菌を全て殺すことは出来ず、
ただ封印するだけだからです。

免疫力の低下した状態になれば、
結核菌は再度増殖し、病変を拡大します。
その代表的な原因は、
上にも触れたように、
ステロイドその他の免疫抑制剤の使用であり、
エイズのような免疫の力を弱める病気の存在です。
しかし、単純に栄養状態が悪かったりしただけでも、
再燃は起こり得ます。

結核結節の中に空洞が出来るのは、
通常この二次結核の場合です。
巨大化した結節の内側が溶け、
それが呼吸で空気の通る通路と繋がってしまうのです。
結核菌の塊が、そこからドバッと外に出ます。
これが「排菌」です。
結核菌は空気があると、
一気にその増殖力が高まります。
従って、空洞の中でじゃんじゃん増えて、
咳と一緒に口からじゃんじゃんばら撒かれます。
通常二次結核の方が感染力が強いのは、
このためです。

ここで報道された芸能人の例を考えてみると、
おそらくは子供の頃に、
結核菌への接触があって、
症状は出ない形で治まり、
最近になって、過労や低栄養の影響で、
免疫力が低下し、
二次結核を発病した可能性が高いのでは、
と考えられます。
報道にはありませんが、
ひょっとしたら何か持病をお持ちで、
それが免疫力の低下に、
関わっていた可能性もあるのでは、
と推測されます。

最後はちょっと、
誰でも決まって言うような、
当たり前の話で恐縮ですが、
結核をなめてはいけませんし、
2週間以上続くような咳の症状では、
極力医療機関を受診するようにお勧めします。

今日は結核菌の免疫の、特殊な性質についての話でした。

明日はちょっと結核の診断の話をする予定です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

まめりん(^_^)

とてもタイムリー内容で有難いです。
結核の中で、腸結核や他の内臓などに付くものもあると聞きました。癌と間違い易い胸水や心嚢水を貯める事もあるのですか?
by まめりん(^_^) (2015-05-18 19:56) 

fujiki

まめりんさんへ
コメントありがとうございます。
胸水や心嚢水の原因になることは、
あると思います。
by fujiki (2015-05-18 22:21) 

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