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新型コロナウイルス感染症罹患後の認知機能低下(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19後の認知機能低下.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年2月29日付で掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
認知機能低下についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
様々な「後遺症」と呼ばれるような体調不良が、
遷延することが報告されています。

そのうちの1つが、
「頭がぼんやりして集中出来ない」、
「物忘れが強くなった」、
などの認知機能の低下です。

こうした現象のあること自体は間違いがありませんし、
私自身も集中力低下などの症状が持続して、
長期仕事を休まざるを得なくなった事例を経験しています。

ただ、実際の認知機能低下がどの程度のもので、
どのくらい持続しているのか、
というような点については、
客観的なデータが不足しています。

そこで今回の研究はイギリスにおいて、
141583名の一般住民にオンラインで認知機能の検査を施行。
検査を完遂した112964名の解析を施行しています。
その結果を新型コロナウイルス感染症の既往の有無で比較検証したところ、
新型コロナウイルス感染症に罹患して回復した人は、
感染の既往のない人と比較して、
0.2SD程度の軽度の認知機能の低下を認めました。
これはIQ検査での3点の低下と同等のものと試算されています。
新型コロナ感染の症状が12週を超えて持続していた人では、
感染の既往のない人と比較して、
より大きく0.4SD程度の低下を示していました。
また集中治療室に入室した重症の新型コロナ感染の罹患後では、
認知機能低下はより大きく0.63SDに達し、
これはIQ検査で9点の低下と同程度と試算されました。

このように、
程度はそれほど大きなものではありませんが、
新型コロナ感染後には認知機能の低下が持続的に認められ、
特に他の症状も長期持続していたり、
重症化したような事例において、
より大きな低下が認められる傾向があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵の脂肪肝に対する有効性(イタリアの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
卵と脂肪性肝疾患.jpg
Nutients誌に2024年1月31日付で掲載された、
卵の健康効果についての論文です。

卵と健康との関連については、
色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。

これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが

2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。

これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。

その後様々の研究データが発表されましたが、
概ね1日1個を超えない卵の摂取については、
大きな健康リスクはない、
というのがほぼ一致した考え方になっています。

以上は主に動脈硬化性疾患の予防に限った、
卵の摂取についての話です。

肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積して起こる、
脂肪肝などの脂肪性肝疾患は、
近年生活習慣病の1つとして注目されています。

コレステロールを多く含む卵は、
脂肪性肝疾患のリスクを高めることが想定される一方で、
卵にはコレステロール以外の、
多くの健康に必須な栄養素が含まれていて、
特に栄養失調となりやすい高齢者においては、
卵の摂取は健康に資するという可能性もあります。

しかし、これまで脂肪性肝疾患に対する卵の影響を、
検証したような研究はあまりありませんでした。

今回の研究はイタリアにおいて、
胆石症に対する疫学研究のデータを活用し、
60歳以上の908名の一般住民を対象として、
卵の摂取量と脂肪性肝疾患、
そして高血圧のリスクとの関連を比較検証しています。

その結果、脂肪性肝疾患と高血圧が共にない群では、
他の群と比較して、
卵の摂取量がより多くなっていました。

また卵を週に2個は食べていない人と比較して、
週に3個より多く食べている人は、
脂肪性肝疾患を合併しない高血圧症になるリスクが79%(95%CI:0.07から0.62)、
脂肪性肝疾患と高血圧症を合併するリスクが66%(95%CI:0.15から0.73)、
それぞれ有意に低下していました。

要するにそれほどクリアな結果とは言えませんが、
卵を週に3個より多く食べる方が、
脂肪性肝疾患や高血圧になり難いのでは、
ということを示唆する結果です。

上記論文の考察では、
卵に多く含まれる、
ビタミンB12や葉酸に脂肪肝炎改善作用があり、
それが影響しているのはないかと記載されています。

その真偽のほどはまだ定かではありませんが、
概ね1日1個を超えない範囲であれば、
卵の摂取には健康上の悪影響はないことは、
これまでのデータからほぼ間違いのないことなので、
特に食が細る高齢者においては、
卵は重要な栄養源として、
扱う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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KERA CROSS第五弾「骨と軽蔑」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
骨と軽蔑.jpg
ケラさんの新作がKERACROSSの第五弾として、
今シアタークリエで上演されています。

20世紀初頭くらいの設定で、
ヨーロッパ辺りの架空の内戦中の国が舞台となっています。
キャストはいずれも手練れの女性俳優陣7人のみで、
休憩を入れて前半と後半に分かれた、
3時間くらいのお芝居になっています。

ケラさんのお芝居はとても広いジャンルに渡り、
その独特の間合いやテンポ感、
非常に長い、という共通の特徴はありますが、
演劇そのものを俯瞰するかのような、
広大な領域で作品を残しています。

僕はナイロン100℃の旗揚げから観ていますが、
正直こんな風になるとは想像も出来ませんでした。
同世代のあこがれであり、
演劇界の巨人であることは間違いがありません。

今回の作品はケラさんとしては観易い部類で、
分かり難いところはあまりありません。

設定はベリズモオペラに近い感じで、
偽の手紙のやりとりや、
舞台には登場しない男性が、
敵と味方の国で寝返ることで、
女性の運命が一変する辺りなどは、
オペラの定番の設定と言って良い感じです。

作品の本質はかなり重く、
戦争の絶えない現代を意識していますし、
ラストはかなり踏み込んだものになっています。
伝えたいことをストレートに出した、
という感じがケラさんとしては珍しいと思います。
戦争に加担しているという側面がありながら、
戦争には無関心な主人公達の姿は、
「平和ボケ」と揶揄される私達の戯画と思われますが、
それを決して完全否定しているのではなく、
「平和ボケ」の良さも悪さと同時に描写している辺りに、
ケラさんらしさを感じました。

ケラさんの舞台に馴染みのない観客も多いことを意識して、
犬山イヌコさんに「日比谷の皆さん」と、
呼び掛ける場面を用意し、
観客の心理を解き解す趣向が巧みで、
後は次々と登場する手練れの女優さんの競演を、
心ゆくまで楽しむことが出来ました。

屋内と屋外を組み合わせた舞台セットや、
得意の音響やプロジェクションマッピングを組み合わせた演出など、
舞台効果のクオリティも非常に高く、
東京で現在望みうる、
最高水準の舞台に仕上がっていたと思います。

唯一物足りなかったのは小池栄子さんの扱いで、
充分主役を張れる大女優に成長しているのに、
最近の舞台では、
勿体ない役柄に甘んじていることが多く、
今回もそうであったことは少し残念でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)のメカニズム [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サンダーストームアズマ.jpg
JAMA誌に2024年2月19日付で掲載された解説記事ですが、
ゲリラ豪雨などの気象異常に伴って、
喘息発作が急激に増加する現象についての内容です。

これは最近時々一般の報道でも取り上げられていますね。

喘息発作は感染症やストレスなどをきっかけとして起こりますが、
特定の気象変化に伴って、
喘息発作が急増する現象が以前から報告されています。

それが非常に注目されたのは、
2016年の11月21日にオーストラリアのメルボルンで、
雷雨の後30時間以内に、
急性の呼吸困難で3365名の患者が救急受診した、
という事例が報告されたからです。

これを雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)と呼んでいます。

これは通常の救急受診率の672%という途方もない増加で、
このうちの476名はもともと喘息で治療中の患者の急性増悪で、
これも通常の救急受診率の992%という、
異常な増加でした。
35名の患者が集中治療室管理となり、
10名の患者が亡くなっています。

それでは、何故雷雨の後に喘息発作が急増したのでしょうか?

こうした現象のあること自体はそれ以前から知られていて、
それを2001年の段階で検証した論文がこちらです。
https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/56/6/468.full.pdf

主にブタクサなどのイネ科の花粉が、
飛散し易い状態になっている時期に、
ゲリラ豪雨のような雷雨が起こると、
その風雨によって飛散した花粉が空気中に巻き上げられ、
その急激な濃度上昇が、
喘息発作の原因になると想定されています。

花粉症がその日の飛散量によって症状が悪化し、
飛散量の多いシーズンでは、
普段は花粉症にならない人でも、
症状の出ることがしばしばありますが、
それと同様の現象と考えられるのです。

それ以外に雷の電荷の影響により、
花粉の粒子が破裂して発作を誘発する、
という仮説がそれ以前から提唱されていますが、
この2001年の論文ではその可能性には否定的です。

2023年には中国で同様の現象の報道があり、
日本ではまだ典型的な事例はないと思いますが、
天候変化にともなって、
喘息などの症状が悪化することは、
花粉症の時期には特に起こり易いことは事実と思われ、
今後その関連については、
臨床医の経験的印象のようなものではなく、
より科学的な検証が必要なように思います。

メルボルンの事例においては、
救急に多くの患者が押し寄せてパンク状態となり、
その対応が大きな課題として指摘されています。
ゲリラ豪雨のような現象の予測はなかなか困難で、
花粉の潜在的な飛散量との関連も、
現時点では推測の域を出ませんが、
新型コロナの流行期にも問題となったように、
救急患者が急増した時の短期的な対応をどうするべきかは、
より具体的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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