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痛み止めの大腸癌予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸癌とクリノリルの効果.jpg
昨年のGut誌に掲載された、
痛み止めの大腸癌予防効果を、
ネズミで検証した論文です。

発癌のメカニズムというのは、
非常に複雑ですが、
その一部には炎症の関与があり、
炎症を抑えることで、
発癌物質で実験的に誘発された大腸癌では、
その腫瘍の増殖が抑制されることが確認されています。

そこで、
消炎鎮痛剤、所謂痛み止めに、
臨床的にも発癌の抑制作用があるのでは、
という推測が生じ、
実際に今回の論文で扱われている、
スリンダク(商品名クリノリルなど)を始めとして、
数種類の消炎鎮痛剤で、
大腸癌の予防効果が報告されています。

しかし、消炎鎮痛剤には、
胃潰瘍の誘発や腎機能への悪影響など、
多くの副作用のあることも知られています。

特にそれは癌予防の目的のように、
長期間使用する場合には、
通常の使用時より、
より大きな問題となります。

COX2阻害剤というタイプの消炎鎮痛剤は、
そうした副作用の少ない薬として注目されていますが、
今度は心臓の病気を増やす可能性なども指摘され、
本当に癌予防にそうした薬を長期間使用することが、
患者さんのメリットになるのか、
という点については、
まだ結論が出ていません。

また、それが全ての大腸癌について、
同様の有効性を示すものかどうか、
と言う点も、
まだ未解決の事項です。

痛み止めは確かに炎症を抑えますが、
その一方で粘膜の障害にも結び付きます。
従って、そのバランスをどう考えるのかが、
非常に重要なポイントです。

考え方としては、
より大きな発癌予防効果の期待出来る患者さんには、
消炎鎮痛剤の長期使用が、
メリットのある可能性があり、
問題はそうした患者さんを、
どのように選択するべきか、
と言う点にありそうです。

そこで今回の文献では、
p53という癌抑制遺伝子を欠損させたネズミと、
Msh2という、
微小な遺伝子の変異を修復する仕組みに関わる、
遺伝子を欠損させたネズミに、
アゾキシメタンという発癌物質を注射して、
大腸癌を強力に誘発し、
その後25週間の発癌の影響を、
痛み止めのスリンダクを餌に混ぜた群と、
混ぜない群とで比較しています。

つまり、
実際に人間にもある、
P53やMsh2に関わる変異を持つ個体に、
発症し易い大腸癌に対して、
スリンダクが発癌予防効果を持つかどうかを、
検証したのです。

その結果…

大腸の遠位部、
つまり肛門に近い場所に出来る大腸癌については、
スリンダクの使用により、
かなり著明な発癌防止効果と、
癌の増殖予防効果が確認されました。
p53の欠損でもMsh2の欠損でも、
同様に効果は現われています。
遺伝子の欠損がないネズミでは、
当然発癌率は低くなるのですが、
それでも、
矢張りスリンダクを使用した方が、
発癌は抑制されています。

ところが、
大腸の近位部、
つまり口の方に近い場所では、
発癌はスリンダクを使用した方が、
有意に増加していました。
つまり、スリンダクにむしろ発癌誘発作用があったのです。

より詳細に組織所見を検証すると、
近位部では遠位部にはない炎症性の変化が生じ、
それが遺伝子の欠損のある個体においては、
18~25%の比率で腺癌に移行していました。

つまり、
p53やMsh2の欠損がある個体において、
スリンダクを使用すると、
近位の大腸では炎症が誘発され、
それが発癌に結び付くと考えられます。
一方で遠位の大腸においては、
それが強力な発癌の抑制に結び付くのです。

人間において、
消炎鎮痛剤が明確に近位大腸の癌を増やした、
というデータはないと思いますが、
こうした部位による癌抑制作用の差は、
人間においても想定され、
それが仮に別種の発癌を誘発するとすれば、
闇雲に消炎鎮痛剤を発癌予防に使用することは、
新たなリスクを生む、
という結果にも成りかねません。

人間においても同様の現象が存在するのかどうかの検証を含めて、
今後の研究が待たれるところだと思います。

今日は痛み止めの大腸癌予防効果について、
興味深い動物実験の結果をご紹介しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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